中四国の高専生がITの技術を用いて地域課題の解決に挑戦する探究プロジェクト「re-KOSEN※」の最終報告会が、2026年1月24日(土)に広島・叡啓大学で開催されました。
※re-KOSENは、経済産業省 令和6年度 未踏的な地方の若手人材発掘育成支援事業費補助金「AKATSUKIプロジェクト」採択事業です。
re-KOSENに採択されると、サポートメンバー(PM、メンター)による伴走支援や支援金(上限100万円)を受けることができます。2025年8月下旬に開催されたキックオフ合宿でブラッシュアップしたアイデアは、どのような形で結実したのか。10チームが参加した最終報告会の模様をレポートします。
参加者のアンケートから、最終報告会の特徴を探る
参加者によるre-KOSEN最終報告会のアンケート回答等で目立っていた主なコメントは、以下の2点でした。
プロダクトを完成させてきたチームが多くて素晴らしかった
どのような葛藤を経て今日を迎えたのかを共有できた
そこで本記事では、最終報告会の最後に行われた投票「発表が一番良かったと感じたチーム」で選ばれた上位3チームにフォーカスし、上記コメント2点が得られた理由を探っていきます。
<2位タイ:香川高専(詫間)「熱中症対策技術」>
2025年6月から改正労働安全衛生規則が施行されたことで、熱中症の重篤化を防ぐため、熱中症の早期発見・迅速かつ適切な対処が現場で確実に機能する仕組みづくりが、より一層求められるようになったのを背景としたプロジェクトです。
「熱中症対策技術」のチームが注目したのは、空調服と冷却服でした。改善に向けて協働メーカーにアンケートを取ったところ、「空調服を着用していても熱中症になる」「冷却服の上から空調服を重ね着している」といった回答があり、「改善」よりも「別解」が必要であると考えた熱中症対策技術チーム。本プロジェクトの目的を、熱中症の「軽減」と「検知」の2つに分けて定めることにしました。

熱中症の「軽減」に関しては、ペルチェ素子を用いた新規熱伝導素材を施した「ペルチェベスト」による解決、熱中症の「検知」に関しては、ペルチェベストに組み込んだセンサーによって呼吸と心拍を測ることによる解決を図りました。開発途中では、しゃがむ際にセンサーが邪魔になるといった課題も発生しましたが、部材を見直すことで改善を図ったそうです。
今後については特許の出願を検討しつつ、恒温室での実証実験のほか、センサーによる測定結果の共有方法を統一させることを展望に挙げていました。


▲とある工夫を施したことで、新規熱伝導素材をベスト全面に施すことに成功。既製品の冷却力よりも強くなったそうです。参加者も、ペルチェベストの装着感などを確認していました
本チームのPMを務めた蛭田慎也さん(チャリチャリ株式会社 VP of Engineering)は、チーム発表後のコメントで「AIの発展によってソフトウェアの実装は簡単にできるようになりましたが、今後は実際のモノとITを掛け合わしたプロダクト設計・開発力がかなり求められます。今回それをやり切ったのが、すごく良かったです」とコメントされていました。最終報告会という明確な期日に向けて、プロダクトをいったんつくり切った点が、2位タイの評価につながったのではないでしょうか。
また、外部資金(支援金)を用いてのプロダクト開発ということで、高い品質を保つことの重要性を身にしみて感じたというチームメンバーのコメントも印象的でした。
<2位タイ:広島商船高専「GORO」>
南海トラフ地震などの大きな災害が、広島商船高専のある大崎上島のような「橋のない離島」で起こった際、物資輸送は極めて困難になるほか、被害状況の把握も遅れる可能性が非常に高いです。そのため、医療品の輸送や救助の初動も遅れるリスクがかなり大きくなってしまいます。
これを解決するためには、最低限の物資を運びつつ、上空から被害状況を確認することもできるドローンが最適であると「GORO」は考えましたが、大きな課題がありました。それは、「ドローンの充電が足りず、充分に稼働できない」ことです。そこでGOROチームは「空のコンセント」、つまり「空中で充電(無線給電)できるポイント」をつくることを目指し、「送電システム」と「受電モジュール」の開発に取り掛かりました。

しかし、それらは決して容易なことではありませんでした。まず「送電システム」については、広く普及している周波数帯「5.7GHz帯」を活用し、2つのWi-Fiルーターから発する電波を干渉させることで強い給電ポイントをつくろうとしましたが、同一位相の電波が出ていなかったためか失敗。そこで反射板を用いることで、空のコンセントを形成できる可能性を実証しました。
そもそも、本来は業務用送信機を用いた実験局で実験を行いたかったそうですが、開局には総務省への申請が必要であり、re-KOSEN期間中の開局ができなかったそうです。現在は申請に向けた書類の準備中で、最終報告会が開催された1月中に総務省とのMTGを予定しているとのことでした。
一方「受電モジュール」については、電子レンジを使って初期検証を行いつつ、プリント基板(RF-DC変換基板)づくりにも挑戦したそうですが、かなり小さい基板であり、おそらく配線に問題が発生して失敗したとのこと。現在、失敗の原因を検証中だそうです。

このようにGOROチームはかなりの試行錯誤を繰り返してきたことが分かります。しかしアンケートでは、「離島の被害状況の把握と、適切な医療品輸送」というテーマの重要性、試行錯誤している中から垣間見える「システムのロマン」や「技術力の高さ」、そして「プロジェクトに対する熱量の高さ」が評価されていました。試行錯誤の跡を論理的かつ熱意をもって発表したからこそ、その将来性が期待されたと言えるでしょう。
GOROチームはこのほかにも、電圧の計算・計測システム「ごろごろシステム」も開発。今回の無線給電技術に最適化したシステムだそうです。実験結果をリアルタイムで見ることができる環境を整えたGOROチームの今後に期待です。
「プロダクトをつくる」というより、「運動」だった
<1位:香川高専(高松)「The Odd Ones」>
「The Odd Ones」は、規格外という理由で廃棄されている野菜に注目したプロジェクトで、2025年8月のキックオフ合宿開始時点では「農家と学生食堂とつなぐ会員制ECサイト」による解決を考えていました。しかし、キックオフ合宿期間にPMとブラッシュアップした結果、野菜をアスパラガスに絞り、それでエナジードリンクをつくるというアイデアに変更となりました。
「マジか」
The Odd Onesチームの宮武幸斗さん(電気情報工学科 2年)は、キックオフ合宿の会場から宿泊先に帰ってきたときの心境をそう話します。
確かに、規格外であっても、ドリンクにしてしまえば関係ありません。農業体験会に訪問した際、アスパラガス農家の方が「これ、全部売れんのや」と、参加している子供たちに規格外のアスパラガスを配る光景を目にしたそうです。聞いたところによると、3~4割のアスパラガスは規格外が原因で捨てられるとのこと。ドリンクをつくる動機としては充分でした。しかし、そのようなものは誰も見たことがありません。まさに、未踏です。

最終報告会で宮武さんは今回のプロジェクトを「僕たちの旅の話」と称し、いろいろなところで「フォロワー」を探したと話していました。11月にはさまざまな飲料メーカーに声をかけ、そのすべての方から「原料は繊維の入っていない、サラサラした状態でないといけない」と指摘されたそうです。そこで、香川県産業技術センターに赴き、繊維を取り除くための技術相談を行いました。
そして、某飲料メーカーの協力もあり、最終報告会の前日、まだ商品の形ではないですが、ドリンクとしていったんの形をつくることができました。約5カ月でここまでたどり着けたのは、飲料メーカーや産業技術センターの方、アスパラガス農家の方、パッケージのデザインをされた方、意見を出してくれた方々など、多くのフォロワーが自分なりの意義を持ちながら参加したことによる結果であると、宮武さんは発表していました。

PMの小賀浩通さん(株式会社デジタルキューブ 代表取締役)は、チーム発表後のコメントで「現代において答えを出すこと自体は容易になってきていますが、今後は課題そのものを見つける能力が問われる時代になると思います。あと、気持ちが落ち込んだとしても乗り越えていけるマインドセットも重要です。The Odd Onesのみなさんは今回のre-KOSENでそれらをインストールできたと思います」とコメントされていました。

「プロダクトを完成させること」「どのような葛藤を経て今日を迎えたのか」——この2点をThe Odd Onesは満たしていたと言えます。特に「どのような葛藤を経て今日を迎えたのか」に関しては、「物語」「フォロワー」といった言葉によって参加者の共感を呼んでいた、宮武さんの発表スタイルも支持されていました。
そもそも、宮武さんの発表スタイルは、キックオフ合宿でのそれとはまったく異なっていたことも特筆すべき点です。他のプロジェクトに関しても、参加されていた高専教員の方やPMの方から、re-KOSEN期間中に学生がどんどん成長し、自ら熱意を持って主体的にプロジェクトを進めていくようになったという声がありました。re-KOSENは目に見えるところ/見えないところに多くの変化をもたらしたと言えます。それは、自身の外面・内面においても、未踏の地に辿り着いたと言い換えることができます。
今回のre-KOSENは最終報告会をもって終了となりますが、これまで取り組んできたプロジェクトをどうしていくかは、チームのみなさんにかかっています。決して同じプロジェクトではなくとも、re-KOSENで得た知識や経験、意識が、今後のキャリアを推進させる原動力になることでしょう。
◇
○re-KOSEN ホームページ
https://re-kosen.com/
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