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すべてのキャリアは高専での経験が土台。授業やコンピュータ部での活動が強み&自信に!

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大島商船高専の情報工学科から九州工業大学大学院へ進学し、プログラミング技術を活用しながら画像処理やVR・ARを学んだ領家直哉さん。高専・大学院での経験や不動産情報サービスを展開するアットホーム株式会社に就職した経緯についてお話を伺いました。

2度目の「1年生」で実感した勉強の面白さ

—高専に進学したのはなぜですか?

高専出身者にはいろんな方がいらっしゃると思いますが、私が高専に進学した理由はかなり消極的なものでした。正直なところ、当時の私は勉強があまり好きではなくて……。学校案内のパンフレットをチェックした上で、高校・大学と過ごす7年間より在学年数が少ない高専を選びました。

しかし、勉強が嫌いなまま授業が進んでいき、1年生が終わる頃には十分な単位を満たせず留年してしまいます。「このままで大丈夫なのか?」と不安な気持ちのまま、もう一度「1年生」として過ごすことになりました。

しかし、同じ内容をもう一度学習していくなかで、なぜだか勉強が面白いと感じるようになったのです。最初は意味がわからず内容をなぞるだけだったのが、授業の全体像が見えたことで、学ぶ目的や応用の方法などが見えたからだと思います。今度はつまずくことなく2年生に進むことができました。

—高専に入学して良かった点は何でしたか?

コンピュータ部に入ったことです。私が最初に自信を持てたのもプログラミングでした。中学時代からゲーム好きで、特にプログラミングやVR、モノづくりには興味があり、2年次でコンピュータ部に所属しました。すぐさま夢中になり、没頭して遅くまでプログラムを書く日々が続きました。

部活動を通して高専プロコンなどの大会で開発したシステムを発表する機会に恵まれ、他の高専の学生や企業の方々と交流することもできました。大学院への進学を決めたのも、部活動で企業の方々と交流する機会があったからです。こうした経験を通じて人としての深みが少しずつ増していったと感じており、現在の自分につながっています。

▲高専本科3年次、高専プロコンに出場。VRを使ったパラグライディングシステムを開発し、特別賞を受賞しました

私の高専生活は、当初の予想とは違う道を歩むことになりましたが、その選択が人生に大きな価値をもたらしてくれました。結果的には専攻科や大学院に進んだので、7年以上の学生生活を送ることになりましたが、今となっては高専に進学して本当に良かったと思っています。

研究で得られたのは、人の役に立つ喜び

—高専での研究内容について教えてください。

入学前から興味のあった画像認識に関する研究です。機械学習のためのデータセットが一般公開されていない害獣を画像認識技術によって検出するために、3DCGモデルを使ってData Augmentation(※)を行いました。

※既存のデータセットを分割・変換などすることで、もともとよりもデータ量を多くすること。データ拡張。

近年の害獣による農作物被害は、農家にとって大きな問題です。その対策として電気柵が設置されていますが、次は感電事故や導入・運用コスト増などの問題に直面しています。そこで、私たちの研究グループでは画像認識を用いた害獣忌避システムの開発を実施していました。

本システムではCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を用いて画像認識を行いますが、これらの技術を用いて高精度な物体検出をするには大量の学習用画像が必要となります。そこで、3DCGモデルを用いてData Augmentationを行いました。害獣の3DCGモデルを作成し、背景画像に対して3DCGモデルを重畳することで学習用画像を生成します。本手法で生成した画像を用いてCNNの学習を行い、認識実験を進めるというものです。

その結果、モデルの精度は92%でした。加えて、高速で物体検知を行うAIモデルの一つ「MobileNetSSD」を用いて物体検出を行った結果、65%の精度を得ることができました。

▲専攻科2年次、当時の研究室メンバーとAIカメラを使ったシステム開発の大会に出場し、表彰された際の一枚

VRや画像処理の面白さは、目に見えて変化が分かるところだと思います。実際に私自身も研究に入りやすく、成果が見えることでモチベーションにもつながりました。「こんな感じで研究っておもしろくなるんだ!」と感じたのも高専での研究があったからです。また、自分がつくったシステムで誰かに喜んでもらえるやりがいも初めて体感することができました。

—大学院での研究内容について教えてください。

「産業ロボット協働シミュレータの開発とインタラクション応答評価」がテーマでした。ARデバイスを用いた密接距離のHuman Robot Collaboration(HRC)シミュレータの開発と、仮想空間と現実空間におけるロボットの動作の同期、HRCシステム内の人の応答の導入を目的とし、それらの考案と評価を行うものです。

また、大学院時代で特に印象に残っていることと言えば、学会の技術余興セッション(ナイトテクニカルセッション)で1位を獲得したことです。VRに関する研究内容を応用して「VRで猫になって人間に遊んでもらうシステム」を開発しました。仮想世界で人間アバターに遊んでもらったり、現実世界で先生に遊んでもらったり、見ている人を楽しませながらも技術的に妥協しなかったことが結果に結び付いたのだと思います。

▲大学院修士2年次、学会発表内での技術余興セッションでの一枚。VRと猫と感情分析を組み合わせたシステムを開発し、1位を受賞しました
 

コロナ禍の影響で学会や研究会が通常通り開かれないなど、コミュニケーションが思うように取れない時期もあったのですが、この学会の技術余興セッションでの出来事が私にとってひとつのゴールであり、区切りにもなりました。高専時代から大学院時代に得た知識や技術を存分に発揮できたと思えたからです。

また、国際学会では初めての海外渡航を経験し、ドイツの地で異なる国の方々とビールを片手に意見交換をする機会に恵まれました。普段、研究室では留学生に英語を教えてもらうことはありましたが、国外では英語でのコミュニケーションが当たり前。英語力の必要性を痛感できたことも、自分にとっては大きな収穫だったと感じています。

▲大学院修士2年次、初めての国際発表に臨む領家さん

—現在の仕事・会社を選んだ理由を教えてください。

こうした経験を踏まえて、「自分は研究がしたいのか、開発がしたいのか?」と考えた結果、進路選択の糧になったのは高専時代の経験でした。研究を進めるよりも、技術を使って困りごとや社会課題を解決したいと思い、就職エージェントを利用して就職活動を始めました。

「システムエンジニア職」と言えば、モニターに向かってひたすらプログラムを書くイメージがあるかもしれませんが、その印象を変えてくれたのが「アットホーム株式会社」でした。業界の中でもシステム開発に力を入れ、新しい技術を積極的に取り入れていることを知り、「ここで開発に携われるなら、おもしろそうだな」と思ったのです。

また、企業説明会で出会った方々の明るい雰囲気がとても魅力的だったのも覚えています。高専出身者ということで他にも内定をいただきましたが、最終的には多様なシステムを開発できる環境やワーク・ライフ・バランスを考慮して現在の職場を選択しました。

入社後、現在は新サービス提案のためのデータ分析などに携わっています。まちの住みやすさにつながる情報を扱うので、私たちの暮らしに直結する面白さがあります。

▲仕事中の領家さん

「大学院で研究すること」と「企業で開発に携わること」の違いは、セキュリティやコストを考えなければならないことが大きいと感じています。研究とは違った難しさがありますが、きちんとデータを使えて思い通りの結果が出るとうれしいし、モチベーションも上がります。何より、自分が希望した仕事に従事でき、充実した毎日を送っています。

また、現在配属されている部門では、生成AIをはじめとした新しい技術を取り入れています。このような環境で会社に貢献するために求められるのは、常に新しいトレンドをキャッチアップし、迅速に適応できること。そのため、新しい技術が登場した際にはまず実際に触れてみて、その後に深く考える姿勢を大切にしていきたいと考えています。

▲「PHPカンファレンス福岡2023」にて。
 PHPはプログラミング言語のことで、PHPの技術者たちが交流できるイベントとなっています

高専での経験が強みと自信に

—高専出身でよかったと思うことを教えてください。

プログラムを書く時、私は常に高専時代の経験が役立っていると感じています。コンピュータ部でプログラムに取り組んできた経験がまさに私のベースであり、現在に至るまでの自分の強みと自信の源になりました。これまでのキャリアはすべて高専での経験を土台として築かれていて、自分の人生を語る上では欠かせない存在だと言えます。

—最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

プログラミングの授業だけに限らず、高専で得た基礎知識は、将来どの道に進むとしても必ず役立つと思います。同級生には進学した人もいれば起業した人もいて、幅広いステージで活躍しているのが面白いところだと思います。

高専は非常に自由度の高い環境であるため、専門性を突き詰める人もいれば、勉強はほどほどにしてアルバイトや遊びに時間をかける人もいると思います。どのような高専生活であっても、それは今後の自分の土台となる大切な時間です。現在していることから何を得ているのかを意識しながら、これからの生活を送ってみてください。

高専への受験を考えている方は、自分の進路をどう決めていいか迷うこともあると思います。もし、中学校で学ぶ5教科があまり面白くないと感じているなら、もしかしたら高専で出会う専門的な分野が向いているのかもしれません。「文系・理系」とくくるより、学ぶ環境で決まることもあるので、自分のしたいことに正直になるのがいちばんだと思います。

領家 直哉
Naoya Ryoke

  • アットホーム株式会社
    Cメディア事業推進部 デジタルイノベーショングループ

領家 直哉氏の写真

2020年3月 大島商船高等専門学校 情報工学科 卒業
2022年3月 大島商船高等専門学校 専攻科 電子・情報システム工学専攻 修了
2024年3月 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 博士課程前期 修了
2024年4月 アットホーム株式会社 入社

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