中学時代、宇宙に魅了されたことをきっかけに、津山高専の情報工学科へ進学した北野敦司さん。しかし、高専生活では勉学に苦戦、その後もさらに闘病生活を経験するなど、そのキャリアは波乱に満ちたものでした。現在は中古車販売店の店長として活躍される中、高専出身者ならではの技術と知識、その強みについてお話を伺いました。
劣等生だった高専時代、卒業後も苦難の道のり
-高専に入学したきっかけについて教えてください。
中学2年生のときに担任だった理科の先生から宇宙や天体の話を聞いて、天文学に興味を持ちました。先生から科学雑誌『Newton』を毎月貸していただいて無我夢中で読んだり、同時に両親から天体望遠鏡を買ってもらって毎夜天体観測したりしていましたね。これが理系に目覚めたきっかけです。
高校への進学を考えるようになったとき、「これからはコンピューターの時代がやってくる!」と考え、「岡山県でコンピューターが学べる一番ハイレベルな高校はどこだろう?」と先生に相談したところ、津山高専の情報工学科を勧められ、そのまま受験しました。
高専での研究テーマはニューラルネットワークを用いた電位差法による欠陥同定です。研究室の先生から薦められたのがきっかけですが、AIの基礎となるニューラルネットワークを使った研究で、情報工学科でありながら材料工学など様々な分野を学べるのが大きな魅力でした。
ただ、中学まではまあまあ優等生だったのですが、津山高専には優秀な人たちが多く、自分なりに頑張ったものの、すっかり落ちこぼれて劣等生になってしまいました。結局、先輩から誘われたことがきっかけで水泳部に入り、勉強よりも部活に打ち込んだ高専時代でしたね。
―その後、大阪の専門学校へ進まれますが、かなりご苦労されたと聞きました。
卒業後、大学の編入試験を受けましたが、結果は芳しくなく、代わりに大阪の航空宇宙関連の専門学校に進学しました。高専時代は劣等生でしたが、それでも航空宇宙関連の勉強をしたかったんです。
専門学校への入学資金や授業料を工面するためにアルバイトを始め、入学後は大阪に移住し、学業とバイトを両立させながら生計を立てていました。しかし、アルバイトの掛け持ちで無理がたたり、ついには身体を壊してしまいます。
当時はほとんど寝たきりの生活で、入退院を繰り返していました。一時期は下半身の神経が壊れてしまって、手術しても痛みが取れない状態にまでなったんです。それでもなんとか専門学校に復学したいとリハビリを頑張りましたが、結局、20代前半の3年間は闘病生活を送ることになり、専門学校は休学期間を超過したことで中退、絶望感でいっぱいでした。
飲食業、WEBデザイナー、そして中古車業界へ
―闘病後はどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
病気の苦しい時期を乗り越えたものの、社会人経験がなく、就職は難しい状況でした。そこで、高専時代に飲食店でアルバイトをしていた経験を糸口に、まずは飲食店で働くことにしました。
飲食店では、高専で培った知識を生かして、会計処理のシステム化、売上のデータ化など、当時はまだアナログな作業が多かった飲食業界での業務改善に努めました。自分で言うのもなんですが、当時は結構頑張りましたね。ただ、給料はよかったのですが、激務かつ労働時間が長く、これをずっと続けていくのは難しいと考え、新たな方向に進むことを決意しました。
その後、コンピュータースキルを活かして、ホームページ制作の仕事を始めます。もちろんここでも高専での技術が役立ちました。さらに、当時はフリーランスだったのですが、あるとき顧客だった中古車販売会社のホームページ制作の仕事を請け負ううちに、なんと営業まで手伝うことになったんです。
私は当時、その中古車販売会社の一角を貸していただき、そこでホームページの制作を行っていたのですが、会社の売り上げが好調で、だんだん来店されるお客様が増えてきました。すると、私も接客経験がありましたから、人手が回らないところについフォローに入ってしまって。そういったことをしているうちに、「うちで正社員として働かないか」と誘っていただいたんです。
そうしたら、どうも営業に才能があったようで(笑)、その中古車販売会社から正式に社員として働くことになります。ただ、会社が急成長する中、当時の中古車販売業界の営業方針に疑問を感じ、結果的にコロナ禍での業績悪化によって退職することにしました。
―今の会社に入社された理由を教えてください。
現在の会社に入社したのは2年前です。転職活動を進める中、エージェントの方から紹介していただきました。
本当はもう二度と中古車販売業界に戻らないと心に決めていたのですが、「“地域の移動”を支える企業を目指し、お客様の車が安全・快適・経済的に走行できるような商品・知識・情報を提供していきたい」という社長の言葉に感銘を受け、入社を決意します。
現在の会社の社長との出会いは、会社の理想や将来の姿を考えるきっかけとなりました。私は今、2店舗の店長を兼務しているのですが、いずれはこの2店舗に別の役割を与えることで大きな1店舗とみなし、さらに当社で運営している県下に広がる22店舗のガソリンスタンドのネットワークを利用して、より利便性の高い中古車販売店を目指していきたいです。
高専で学んだことは必ず生きる
―これまでさまざまなキャリアを積まれる中、高専出身で良かったことはなんですか?
思い起こせば、大病後は飲食業界で働き、その後さらにホームページ制作のwebデザイナーとして働いていたところ、それがきっかけで中古車販売業界に足を踏み入れることになり、今の会社に出会うことができました。一見、一貫性のないキャリアですが、やはり高専で学んだ技術や思考が要所で有利に働いたと思います。
私が高専を卒業してからの社会人スタートは飲食業界でした。初対面の方にこれを言うとよく驚かれます(笑) ですが、今までカフェやファミレスの店長を歴任した経験から言うと、「PCが使える」「数字に強く分析力に長けている」「ロジカルな思考に強い」という高専卒のアドバンテージが会社で有利なポジションに導いてくれました。
私は高専時代、アルバイトに明け暮れ、単位を落としながらギリギリ卒業できた、いわゆる“劣等生”と呼ばれる種類の学生だったので、特段自慢できるようなことはないのですが、卒業後、高専卒とはほとんど無縁の飲食業界に飛び込んだとき、自分の強みが発揮できたと思います。
自分の周りは調理師学校を卒業された料理人ばかりでした。もちろん料理では彼らに勝てません。でも、料理を科学として取り組み、お客様の動きを数値化して分析、効率的な人員配置を行うことには長けていたと思います。今思えば、高専在学中に飲食店のアルバイトでコミュニケーション力が鍛えられた面もあったのかもしれません。
誰よりもコミュニケーション力と分析能力が高かったことが、飲食業界・中古車販売業界の様々な場面で役に立っています。現在の営業の仕事で、直接的に高専で学んだスキルを使う場面はありませんが、今日に至るまでのキャリアにおいて、津山高専で学んだことが非常に役立ったのは間違いありません。
―ご自身のこれまでのキャリアを踏まえて、高専生へメッセージをお願いします。
高専は技術を本格的に学べる学校です。ハイレベルな勉強を通じて、普通科高校と同等以上の学びが得られると思います。技術と一般的な勉強を両立させるカリキュラムは、将来の選択肢を増やしてくれるでしょう。また、高専の先生たちは社会経験が豊富で、生きた技術をダイレクトに教えてくれるので、おもしろい学びを体験できます。
一度しかない学生生活、楽しんでほしいと思います。ですが、何もせずに遊んでいることはいけません。私は当時劣等生でしたが、勉強も部活もまじめに取り組んでいました。勉強のやり方はうまくなかったかもしれませんが、興味のあることに熱心に取り組み、人とのつながりを大切にする、そういった経験は今も生きています。
もし、高専に入学して、「僕・私、劣等生かも?」と思っている方がいても、悲観することはありません。皆さんの特性と高専で培ったエッセンスをミックスすれば、社会で十分通用します。しかも圧倒的に、です。それぐらい高専の勉強はハイレベルです。高専生だった当時、ほぼ最下位だった私も、社会に出て実感しました。ですから、「高専の勉強が難しくてついていけない」と感じても、卒業まで頑張ってみてください。
北野 敦司氏
Atsushi Kitano
- 株式会社マティクスリテールサービス カーセブン岡山平島店/岡山青江店 店長
1997年 津山工業高等専門学校 情報工学科 卒業
1998年~2000年まで闘病生活を送る
2001年 飲食関連会社に入社。百貨店のカフェ、ファミリーレストランの店長を歴任
2007年 フリーランスのwebデザイナーとして活動開始
2009年 中古車販売店に入社。2019年中古車販売店店長に着任
2022年 株式会社マティクスリテールサービス 入社
2023年10月 カーセブン岡山平島店 店長
2023年12月 カーセブン岡山青江店 店長(兼務)
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