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溶接・接合の謎を1つでも解明したい。研究者として教育者として、日本のものづくりの品質を支える

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溶接・接合の謎を1つでも解明したい。研究者として教育者として、日本のものづくりの品質を支えるのサムネイル画像

大阪大学 接合科学研究所で講師を務めている古免久弥(こめん ひさや)先生は、高専の卒研で溶接・接合に魅入られ、現在に至るまでずっと研究を続けています。古免先生がそれほどまでに心を奪われる溶接・接合の魅力についてお伺いしました。

学生時代に出会った「宇宙空間での溶接」に魅せられて

―現在の研究内容を教えてください。

ものづくりの基盤技術である溶接・接合技術を研究していて、主な対象はアーク溶接です。アーク溶接とは、電力を用いて溶接物と電極の間にプラズマの一種であるアークを発生させ、その熱を利用して金属を接合する方法です。

現在は「溶接中の電極」「アーク」「溶融金属の挙動」の3つの現象解明に取り組んでいます。

―現在の研究に至ったきっかけは何だったのでしょうか。

高専の卒業研究で、宇宙空間でのアーク溶接について取り組んだことが挙げられます。国際宇宙ステーションに代表される宇宙構造物を宇宙空間で組み立てるには、なんといっても気密性が重要です。しかし、ボルトナットを用いる機械的接合では、どうしても対象に穴をあけなければならず、空気を漏らしてしまう恐れがあります。また接着剤では気密性を保てますが、強度の面で不安があります。

高専生のころ、所属研究室のみなさんと
▲高専生のころ、所属研究室のみなさんと

そこで、金属を溶かして接合する溶接技術を使えば、強度や気密性を担保できるんです。溶接・接合は、宇宙ステーションの補修技術として非常に優れていると言えます。宇宙に関する研究は数あれど、そのなかでも溶接・接合に焦点を当てて研究するというのが、当時の私には刺激的でした。そこから魅力に惹き込まれ、今に至ります。

グ溶接(アーク溶接の一種)中の溶融池(溶接の際の熱によって電極や母材が液体になって生成された金属のたまり)形成過程の粒子法シミュレーション
▲ミグ溶接(アーク溶接の一種)中の溶融池(溶接の際の熱によって電極や母材が液体になって生成された金属のたまり)形成過程の粒子法シミュレーション
※Komen Hisaya, Masaya Shigeta, and Manabu Tanaka. “Numerical simulation of molten metal droplet transfer and weld pool convection during gas metal arc welding using incompressible smoothed particle hydrodynamics method.” International Journal of Heat and Mass Transfer 121 (2018): 978-985.

―もともと研究をしたくて高専に進学したのでしょうか。

理系の勉強が好きだったので、進路を考える際に中学の先生に相談をしたところ、高専を勧められました。調べていくなかで高松高専(現・香川高専 高松キャンパス)の制御情報工学科はロボットをつくる授業があるとわかり、面白そうだと思って進学を決めた次第です。この頃は、明確にやりたいことはなかったと記憶しています。

入学後、最初のうちは座学ばかりでしたし、苦手な地理や国語などの一般科目の授業もたくさんあったので、正直に言うと退屈でした(笑) ただ、4年生で自律型ロボットを授業でつくった際に「今まで座学で積み上げてきた知識は、ここで生かされるんだ」とわかり、そのあたりから一気に勉強が楽しくなりました。

高専生の頃に作製した自律ロボット
▲高専生の頃に作製した自律ロボット

先達が解き明かせなかった謎を追求し続ける

―その後、大学院に進学されたのはなぜですか。

高専に入ってから研究の楽しさを知り、「長期的な研究を体験してみたい」と、本科卒業後は専攻科に進学したのですが、その後、さらに高度なアーク溶接の研究をしたいと思い、日本で最も溶接の研究が盛んな大阪大学への進学を決めました。

また、「研究をしながら教育に関われる大学の先生になりたい」という夢を高専3年次あたりから意識していたのも、理由の1つです。そのためには修士号と博士号を取る必要があったので、大学院への進学は必然的だったとも言えます。

大学院生のころ、ウィーンにて(2018年3月)
▲大学院生のころ、ウィーンにて(2018年3月)

―高専時代から今に至るまで同じ分野で研究を続けられるモチベーションは、どこにありますか。

溶接は、大から小までありとあらゆるものに使われる技術です。これがなければ、日本のものづくりは発展していません。表に出るような華やかな分野ではありませんが、溶接・接合の研究がものづくりのこれからを支えていることは間違いありません。

溶接・接合の歴史は長く、これまでに数多の研究者たちがメカニズムやプロセスを解明しようと取り組んできました。ところが、実際はまだまだ解明されていない謎が多いのです。私が所属する大阪大学の接合科学研究所は企業との共同研究も盛んで、「この鋼板を溶接したときに、なぜこんな現象が起きるのかを明らかにしてほしい」や「この溶接材料を使うと溶接の仕上がりが格段に良くなったが、なぜなのか」といった調査依頼をよく受けます。

アーク溶接中の溶滴移行(消耗電極である溶液棒などが溶けて、母材に移動する現象)の様子
▲アーク溶接中の溶滴移行(消耗電極である溶液棒などが溶けて、母材に移動する現象)の様子

そして、より良い方法やそのメカニズムを導き出してプロセスを研究していくことは、未来の溶接・接合業界に大きな影響を与えます。模範解答としては、「世の中の役に立つ技術を研究で開発したい」と言うべきかもしれませんが、私はシンプルに、「その謎を1つでも多く解明したい」——モチベーションは、それに尽きます。

―今後、研究を通してどのような取り組みを考えていますか。

溶接・接合だけではなく、金属を積層することであらゆる形をつくり出す加工技術「アディティブマニュファクチャリング(積層造形)」にも取り組んでいきたいと考えています。積層造形も溶接・接合の積み重ねですから、私たちの知見が生かせる分野です。

例えばドリルをつくろうと思ったときに、ただの丸くて太い棒からドリルの形状を加工するとなると、時間も労力もかかってしまいます。ところが、積層造形を用い、金属をはじめからドリルの形に加工できれば、大幅なロス削減になります。材料費も安く抑えられますし、複雑な形状のものも短時間でつくり上げることだって可能です。

現在もその研究の最中で、これまでの溶接・接合の研究では見られなかった現象が生まれています。今、まさにその謎の解明に取り組んでいるところです。

ブラチスラバ(スロバキア)の国際会議で受賞された古免先生(2019年7月)
▲ブラチスラバ(スロバキア)の国際会議で受賞された古免先生(2019年7月)

日本のものづくりを支えるために

―直近の取り組みを教えてください。

中国やベトナムといったアジア圏の国と盛んに交流し、国際共同研究に力を入れています。昨年は、溶接・接合に関する研究拠点が不在のASEAN地域に拠点を創設するため、ベトナムのハノイ工科大学とともに「接合科学研究所HUST-OU」をハノイに設立しました。

製造業の集積が進むベトナムは、溶接関連の人材育成が急務です。そこで、「接合科学研究所HUST-OU」を通し、溶接技術に関する研究や技術の開発、技術者の養成に関わる資格試験の実施などを進めています。これにより、日本企業の人材確保にもつながります。

また国内においては、一般の方向けに年に数回開いている「ステンドグラスの製作体験教室」も力を入れている活動の1つです。金属がある限り、溶接・接合はなくなりません。より良いものづくりのためにも、溶接・接合や接合科学研究所の存在を広く知っていただきたいと切に願っています。

―今後の目標を教えてください。

接合科学研究所は、国際溶接学会が認定した教育訓練機関でもあります。そのため、高度な溶接専門技術者や溶接管理技術者を育成することを目的に、工学研究科のマテリアル生産科学専攻と協力し、IWEディプロマ資格を取得できる「国際溶接技術者(IWE)コース」を開設しています。

接合科学研究所
▲接合科学研究所の外観

IWEディプロマ資格は製造現場で重宝され、特に海外で対等に仕事をするうえでは、取得は必須であると言っても過言ではありません。ところが、資格費用や勉強など、あらゆるハードルが邪魔をして取得に踏み切れない学生が多くいます。

そこで、現在は研究室所属の学生限定で費用の負担をする取り組みを始めるなど、支援制度を充実させて、より良い環境づくりに励んでいます。そして、国際的に通用する溶接技術者を輩出していくことが目標です。私自身も育てられているような最中ではありますが、未来を担う若手を育てることは、これからも続けていきたいと思っています。

また、個人的な目標としては、さまざまな分野と協力する研究体制をつくりたいと考えています。ある一定の集団の中で研究を続けていくのも、もちろん良さの1つ。しかし、現在のものづくりは複雑化を極めていますから、分野の垣根を超え、分野間を横断できる研究体制も必要になってくるのではないかと見ています。

―最後に、高専生へメッセージをお願いします。

大学などに進学してくる高専生は、高専での教育のおかげもあって、毎日こつこつと研究を積み重ねられる人が多いように見受けられます。現役の高専生の皆さんは、高専の特色の1つである「専攻科への進学」と、「大学院への進学」にぜひ積極的にチャレンジしてほしいです。

中学生のなかには、大学進学を見据えた普通科高校への進学と高専への進学、どちらにするか迷っている人もいるでしょう。もしも「理系で勉強していく」と意志が決まっているのであれば、1年生から専門教科を学べる高専のほうがおすすめです。入試は一般高校と傾向が違っているので勉強は大変ですが、どうか頑張ってください。

古免 久弥
Hisaya Komen

  • 大阪大学 接合科学研究所 講師

古免 久弥氏の写真

2012年3月 高松工業高等専門学校(現・香川高等専門学校 高松キャンパス) 制御情報工学科 卒業
2014年3月 香川高等専門学校 専攻科 創造工学専攻 機械電子コース 修了
2016年3月 大阪大学大学院 工学研究科 博士前期課程 マテリアル生産科学専攻 生産科学コース 修了
2017年4月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2019年3月 大阪大学大学院 工学研究科 博士後期課程 マテリアル生産科学専攻 生産科学コース 修了
2019年4月 熊本大学 先進マグネシウム国際研究センター 助教
2021年7月より現職

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