高校時代に数学教員を志した広島工業大学の石橋和葵(かずき)先生。大学院時代には恩師の勧めで中国に留学も行かれたそうです。前職は、広島商船高専で働かれていた石橋先生に、商船高専時代の思い出や、研究内容など、お話を伺いました。
大学から微分方程式の研究に取り組む
―石橋先生は、工業高校に進学されたんですね。
工業高校は就職に強いイメージだったので、進学先に選びました。実はそれまであまり数学が得意ではなかったのですが、高校の学力試験で100点が取れたんです。そこから「数学は面白い!」と思い、高校の数学教員になることが夢になりました。反面、手先が不器用だったので、電気の実験実習は苦手でしたね(笑)
数学を教えてくれていた先生の授業も面白くて、数式ばかりではなく、抽象的で内容の濃い話をたくさんしてくださいました。工業高校にいても、普通科のような抽象的な数学の理論が学べることが面白かったです。
-その後、岡山理科大学に進学されています。
4年生になってからは田中敏先生の研究室で、微分方程式の研究をしました。微分方程式の数理モデルを使えば、例えば人口の増減とか、感染症の流行など、ある程度予測することができるので、社会の役に立つと思ったんです。
実際には、微分方程式の解の「曲線の長さ」に注目して、符号変化する解(振動解)の長さが無限なのか有限なのかを判別する研究をしました。1つの式であっても、その「式の意味」を考えることが面白くもあり、難しさでもありましたね。
当時は地元の島根で高校の数学教員になるのが最終的なゴールだったので、田中先生の紹介もあり、大学院は島根大学を選びました。
恩師の提案で、半年間の中国留学へ
-大学院ではどのような研究をされたのですか。
杉江実郎先生の研究室で、微分方程式の中でも「振動論」の研究を行いました。振動現象で有名な現象は、「係数励振」です。係数励振を身近な例で言えば、遊具のブランコの立ち漕ぎが挙げられます。子供がブランコを漕ぐときに、屈伸運動を繰り返すことで、体の重心の移動が繰り返されて、振幅が徐々に大きくなっていきます。このように、振幅状態が徐々に増幅する現象を係数励振と言います。
係数励振を記述する微分方程式の解には、常に符号変化する解(振動解)と終局的に正または負となる解(非振動解)の2つに分類ができ、その解の分類を深く研究しました。
私が研究している係数励振を記述できる方程式は「マシュー方程式」と呼ばれているんですが、マシュー方程式がもっているいくつかのパラメータの値を変化させると、厳密な解が明確に分からなくなるんです。そんなマシュー方程式の解の性質を探る方法として、振動論を利用し、マシュー方程式の全ての解が振動すること、または振動しないことを保証するパラメータ条件を確立していました。
-杉江先生との思い出はありますか。
杉江先生は、親身になって学生の相談に乗ってくださる先生でした。また、杉江先生は「さくらサイエンスプログラム」の一環として、中国との交流を深めていらっしゃったので、中国の学生との交流は当時から多かったです。
杉江先生とは中国に行ったこともあります。現地の果物を食べたり、治安が悪いとされている地域を歩いてみたり、半分旅行感覚だったのですが、杉江先生からあるときに「中国に留学してみないか?」と提案いただき、本当に中国の東北師範大学に半年間留学しました(笑)
ただ、杉江先生は私の将来を考えて下さっていて、人生に花を添えるためにも留学をご提案していただきました。私としては「いろいろと若いうちに経験をしておこう」と思って、そんなに抵抗なく留学を決意しましたね。
学生との距離が近いことが、広島商船高専の良さ
―中国での留学の思い出を教えてください。
中国では、大学の寮で生活しました。だいたいは英語でコミュニケーションが取れるのかなと思っていたんですけど、英語で質問しても中国語で答えが返ってくるような環境でした(笑)
また、中国語の授業は、中国人の先生が中国語で教えてくれる授業をずっと聞くようなものでしたね(笑) 私は日本人だったので、漢字を見ればだいたいの意味は理解できたのですが、フランスやウクライナからきた友達は、そのあたりに苦労しているみたいでした。逆に「発音が聞き取りやすい」と海外の友達は言っていたのですが、私には全然分からなかったです(笑)
ただ、研究室には日本語が少し話せる中国人の先生がいらっしゃったので、その先生に協力していただいて、修士の学生の研究サポートや指導をしました。半年間いると、中国語の聞き取りもできるようになりましたね。
あと、よく図書館に行って勉強をしていたのですが、中国の大学生は人数が多いので、全員が図書館の椅子に座れるわけではないんです。1階から2階に上る階段に多くの学生が座って勉強している光景には驚きました。
―その後、広島商船高専に勤められたきっかけを教えてください。
博士課程3年生の12月ぐらいに、杉江先生から進路についての話があり、広島商船高専の公募のことを聞きました。当時は商船高専の存在を全く知らなかったのですが、振り返ってみるとご縁をいただいて良かったと思っています。
広島商船高専は離島にあるのでフェリーで通勤していました。すごく景色のいいところに学校があるんですよね。研究室もすぐにクラスが見えるような距離にあって、学生との距離感がすごく近く、いいところだと思いました。
ただ、数学に対しては苦手なイメージを持った学生が多かったと思います(笑) ですので、雑学も入れつつ、ちょっと深い数学を教えるようにしていました。ただ計算するだけで終わるのではなく、その途中の式ひとつひとつに意味があり、その意味を理解することで、次のステップに進める。そういったことを授業で教えていましたね。
数学は「ただ計算している科目」ではない
―現在はどのような研究をされているのですか。
現在も微分方程式の振動論を続けていますが、常微分方程式や差分方程式の解の性質についても研究しています。コンピュータで常微分方程式を扱うと離散化してしまうんです。常微分方程式を離散化したものが差分方程式になるので、2つの方程式の解の類似性や相違性を調べています。
やっぱり数学って「ただ計算している科目」だと見られがちで、実際論文を読んでも、ほぼ数式なんですよね。でも、その数式を見ていくと物理的な意味の数式があったり、論理的な意味の数式があったりして、2つの側面を持った科目なのかなと思うんです。そういったことが分かるようになると、数学も面白くなるのかなと思います。
今は広島工業大学に移って研究しています。比較的研究に時間が取れるようになった分、学生との距離は遠くなったと感じますね(笑) ただ、高専とのつながりは今でもあって、高専の微分方程式の研究メンバーに入っています。チームで毎年何かしらの研究発表をしようと、着々と準備を進めているところです。
今後は、海外とのつながりや、海外の大学の先生とのつながりをつくりたいですね。私の専門としている研究が、チェコやアメリカでは最先端と言われていて、日本では知られていない場合もたくさんあると思うので、日本だけでなく海外にも目を向けて、研究を続けていきたいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
「できない」と思ったことにも、ちょっと挑戦はしてほしいなと思っています。学生に学会発表を提案すると、すぐに「無理です」と言うのですが(笑)、私もサポートしながら一緒にやると、ちゃんと形になるんですよ。令和3年度の日本高専学会で、私の卒研生がポスター発表をして、優秀発表を受賞したときはとてもうれしかったです。
研究がすぐできるような環境が高専にはありますし、専門の先生もたくさんいらっしゃいます。学会発表に挑戦すれば、他の高専の学生や、研究者との交流など、コミュニケーション能力を培うこともできますよね。
ですので、「できない」と思うのではなく、まずは何事にも1度はチャレンジしてほしいです。タイムパフォーマンスを理由にできることしかしていないように感じるので、若いころから「できない」と決めつけるのではなく、挑戦してみてください。
石橋 和葵氏
Kazuki Ishibashi
- 広島工業大学 工学部 電気システム工学科 講師
2009年3月 島根県立松江工業高等学校 卒業
2013年3月 岡山理科大学 理学部 応用数学科 卒業
2015年3月 島根大学大学院 総合理工学研究科 総合理工学専攻 博士課程前期 数理科学コース 修了
2018年3月 島根大学大学院 総合理工学研究科 総合理工学専攻 博士課程後期 数理・物質創成科学コース 修了
2018年4月 広島商船高等専門学校 電子制御工学科 助教
2023年4月より現職
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