高専時代に熱中できる課外活動と研究テーマに出会い、現在は母校で教壇に立つ福井工業高等専門学校の芹川由布子先生。高専に進学した背景や教員の道を志したきっかけ、現在のご活躍について伺いました。
部活動に打ち込んだ高専時代
―高専へ進学を決めたきっかけを教えてください。
最初は兄の影響でした。3兄妹の末っ子で育った私には、高専に進学した兄と、進学校に進学した姉がいて、2人の進路が私の選択肢だったんです。結果的には校則に縛られておらず、自由に楽しそうな学生生活を送っている兄と同じ福井高専に進学を決めました。
理数系の科目も好きでしたし、白衣を着て試験管を振っているような博士に少し憧れを抱いていたので、第1志望は物質工学科でした。しかし試験結果が及ばず、環境都市工学科に進むことになります。
―高専での学生生活はいかがでしたか?
当時、1番力を入れていたのは勉強ではなく部活動でした。小学校から続けていた女子バレー部に入部し、顧問の先生や先輩後輩たちと楽しく、時には厳しく練習をしていました。同級生は1人もいなかったですが、大学リーグや高専大会に向けて、部員たちと活動する日々はとても充実していました。
部活がない日はアルバイトをしていたので、勉強はほとんど手に付かず……。特に1年生の頃の成績は、毎回テスト順位の後ろからトップ5に入っているレベルで、進級ギリギリでした(笑)
徐々に成績が上がってきたのは、地盤工学や構造力学など専門科目が増えてきた3年生の頃です。フランクでユニークな教科担当の先生にたくさん出会って、自分の学科をとても好きになりました。自然界の現象を数式で表したり、今学んでいることが社会でどう使われているかを知れたりしたのも新鮮だったと思います。
そして3年生の終わり、2011年3月11日に東日本大震災が起きました。これを機に地震防災や液状化現象について興味を持つようになり、高専の卒業研究では地震が起きた土地のモデルをつくって、液状化現象を対策する地盤や構造土木を考える実験的研究を実施したのです。
現地調査で見たリアルと、心境の変化
―その後、金沢大学へ進学されたのですね。
はい。4年生の終わりまでは就職をしようと思っていたのですが、当時の解析の先生に「高専の先生になってみない?」と言われたんです。考えてもみなかった将来でしたが、教員として、自分のように高専が好きと思える学生を育てたいと思いました。
高専教員になるには博士号が必要ということで、研究室の繋がりがあった金沢大学へ編入。大学では、高専時代の恩師の研究室でもある地震工学研究室に所属して、熊本地震や北海道胆振東部地震などの被災地に現地調査へ行くようになりました。
液状化した国内地域の調査では、目に見えた倒壊でなくても、家に住めなくなるケースが多く発生していたことに衝撃を受けましたね。液状化によって発生したわずかな傾斜で健康障害が起きていたり、家屋の立て直しが保険適用外だったりと、メディアでは放送されていない大変な現状があったのです。
インドネシアに行くとさらに驚かされました。国内の液状化現象は地盤が隆起する程度で、直接的に人の生死に関わらないと聞いていたのですが、インドネシアでは柔らかくなった地盤に街ごと引き込まれて、2,000人以上の方が命を落とされていたのです。
日本は地震大国と言われているので、建物の耐震基準が世界レベルで見てもとても高く、震度7の地震が来ても倒れない建物がほとんどです。しかしながら、発展途上国は建物の構造、地盤調査、補強の程度が全く異なるので、地震に対する体力が格段に違います。そういった意味では、日本の防災に対する意識の高さを改めて知った経験にもなりました。
―卒業後は松江高専の教員になられたのですね。
はい。「赴任先は母校・福井高専がいい!」と思っていたのですが、ちょうど公募が出ていないタイミングでしたので、たまたま公募が出ていた松江高専に応募しました。
同じ高専でも松江高専は福井高専と全く違いましたね。3年生までは普通科高校のような校則があり、部活もとても活発でした。松江高専のバレー部は強豪校で有名だったのですが、現場を見ると学生たちの練習量だけでなく、指導者の熱の入れ方も違いましたね。土日などもほぼ毎週練習試合で驚きました。
松江高専のバレー部顧問になり、女子バレー部を創り上げてこられた門脇先生や、男子バレー部を春高に導いた村上先生と出会い、指導の楽しさや難しさを実感することができました。先生方や部活動に一生懸命に打ち込む部員と過ごした1年3カ月は、私にとって今でも生きる財産となっています。
高専教員になったのが、最良の選択と言えるように
―そして、念願の母校へ。当時の心境をお聞かせください。
実は福井高専に空きが出た時には松江高専が楽しくなっていて……。エントリーをぎりぎりまで悩みましたね。結果的には、出願締切日の直前に書類を揃えて速達で送りました。
母校に帰ってみると、かつて私が所属していたバレー部はコロナ禍でうまく活動ができていない状況でした。ですが、当時のキャプテンの学生が「部活をやりたいんです!」と言いに来てくれたので、人数を集め、練習を再開し、今は在学時に果たすことのできなかった高専大会での全国大会出場を目標に、男女バレーボール部員たちと切磋琢磨しています。
―現在、研究活動についてはどのようなことに取り組まれているのでしょうか。
大学院時代からの研究テーマから派生して、現在は「液状化による家屋の傾斜被害が、住人の健康障害に及ぼす影響」を研究しています。これまでは現地調査や室内実験などから液状化現象を対策する地盤や構造土木を考える土木視点の研究が主軸でしたが、高専に入職した際に体育科の先生と出会い、一緒に液状化による被験者実験を実施しているところです。
大学だと他分野の専門家と共同研究を進めることはなかなかできません。しかし、距離の近い高専で分野横断型の研究を進めることで、これまでとは違った視点から問題解決ができるのではないかと期待しています。自身の研究活動を通じて、学生たちの研究指導にも力をいれていきたいですね。
―今後の展望についてお聞かせください。
勉強、実験実習、学生会活動、課外活動(部活動・インターンシップ・短期留学・アルバイト……)全てにおいて楽しかった高専が好きで私は教員になりました。学生主体で好きなように、たくさんの失敗をさせてくれた。そのバックには必ず先生たちがいて、フォローをいただいていたことを今、教員の立場になり実感しています。
高専教員の魅力は、学生と一緒に成長できることです。在学中にたくさんの経験の場をいただいたように、今の学生にも多くのことに挑戦できる環境をつくっていきたいと思っています。
―最後に学生たちへメッセージをお願いいたします。
効率だけを重視するのではなく、まずはどんなことでも経験してみてください。勉強だけに限らず何でも知って、体験して、いろんな人に出会って、失敗をしてチャレンジしてほしい。
今はうまくいかないことでも、長い目でみて頑張ってみてはと思います。私自身、教員3年目でまだまだうまくいかないことの方が多い日々ではありますが、その時に試行錯誤した経験が後に活きてくると信じて頑張っています。これからも教員としての高専生活を楽しみながら、学生と一緒に成長していきます。
芹川 由布子氏
Yuko Serikawa
- 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 助教
2013年3月 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 卒業
2015年3月 金沢大学 理工学域 環境デザイン学類 卒業
2017年3月 金沢大学大学院 自然科学研究科 環境デザイン学専攻 博士前期課程 修了
2018年4月〜2019年9月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2019年9月 金沢大学大学院 自然科学研究科 環境デザイン学専攻 博士後期課程 修了
2019年10月〜2019年12月 日本学術振興会 特別研究員(PD)
2019年10月〜2019年12月 金沢大学 理工研究域 研究協力員
2020年1月〜2021年3月 松江工業高等専門学校 環境・建設工学科 助教
2021年4月より現職
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