国際高専のロバート・ソンガー先生は、エンジニアを目指す学生たちをサポートするWebアプリケーションの開発・研究に励まれています。学生の「自己管理学習」を支援する研究についてや、アメリカご出身の先生が来日した経緯など、お話を伺いました。
接点はアニメから。日本語と工学に夢中の学生時代
―日本語の勉強は、いつ頃からされたのでしょうか?
ニューヨーク州ロチェスター工科大学(以下:RIT)に在学中、日本のアニメ、特にエヴァンゲリオンやFLCL(フリクリ)が好きで、日本語と日本文化に興味を持ちはじめました。大学2年生だったので、19歳のときですね。
日本語と英語って、言語的には結構違いますよね。日本語の言葉や発音は、割と短い(笑) アニメを見るときは日本語で聞きつつ、英語字幕を参照していたのですが、「あれっ、言葉の分量が全然違う」というのが面白くて。
RITでの日本語の授業は、国際高専のようにレベルが高かったです。授業ではいつも日本語を使って、スピーキングとライティングの課題をこなしていました。
―RITへ進学された経緯と、学生時代の研究内容について教えてください。
高校生の頃、コンピューターに興味を持ちました。大学に進学したらプログラミングを学びたいなと思っていて、工科系の総合大学として有名だったニューヨーク州にあるRITに決めましたね。
私はミシガン州の生まれなので、地元のミシガン大学も候補だったのですが、あまりに実家から近くて(笑) 地元を離れて遠くに行ってみたいという気持ちもあって、ニューヨーク州を選びました。
「ソフトウェア工学」を専攻したのは、より「実践的」なプロジェクトに参画できると思ったからです。RITでは、卒業するまでに1年以上のインターンシップ経験が求められますが、その点も魅力に感じました。
コースは「工学」を選択しました。実は「コンピューター科学」も興味があったのですが、どちらかと言うと「理論」「アカデミック」な勉強というイメージが強かったからです。
―インターンシップはどちらに参加されたのですか?
合計3社経験したのですが、まずはRITのラボで4ヵ月間、仕事をさせてもらいました。先生の研究プロジェクトに参画して、ソフトウェア開発を行っていましたね。
次の4カ月間は、Language Intelligence社という言語サービスを手掛ける企業で、商品仕様書のローカライズサービスの業務経験を積みました。そして、最後に参加したのは、Microsoft社のインターンシップです。4ヵ月間、社内のゲームスタジオで、ゲーム開発ツールのテストを担当しました。
RIT卒業後、インターンシップ先だったLanguage Intelligence社に一度就職することになりますが、来日の話も絡んでくるので詳しくはまた後で(笑)
大学での友人が、今は金沢で同僚
―RIT在学中、金沢工業大学へ留学されたのですね。
両大学は友好協定を結んでいて、毎年留学生の交換プログラムを行っていました。日本に興味があったので、応募しない手はなかったですね。
夏時期だけの短期プログラムだったのですが、留学生サポートサークル「SGE(Students for Global Exchange)」の仲間と一緒に過ごした時間は、とても楽しかったです。出会う日本人はみんな優しいし、治安は安全だし、生活しやすいなと感じました。
そして、アメリカに戻って考えていたのは、「卒業後にMBAを取得するべきかどうか」ということです。ソフトウェアエンジニアとしての「技術的なスキル」と「ビジネスの知識」がマッチすると、当時からよく言われていたので。
―進学するか、就職するかで悩まれた時期もあったのですね。就活はされたのですか?
日本にまた行きたいという思いがあったので、日本での就職も考えていました。そんなとき、留学生の友人に誘われて、ボストンで開催される日本人向けのキャリアフォーラムに参加したんです。これは毎年開かれている「合同企業説明会」のようなイベントです。
そこで証券会社の面接を受けることになったのですが、あれよあれよと選考がうまく進み、3回面接を受け、内定となりました。ところが2008年当時、リーマンショックが発生して、その証券会社からの内定が取り消しになってしまったんです。当時はとてもショックでしたね。
そんな訳もあってRIT卒業後、インターンシップ先だったLanguage Intelligence社に就職しました。1年間Webシステム開発とテクニカルサポート業務に明け暮れましたね。
そんな折、大学時代いっしょに日本語の授業を履修していた友人から、「金沢高専(現・国際高専)がコンピューター科目の講師を募集しているよ」と連絡が入りまして。同時期にRITを卒業した彼は、金沢高専の教職に就いていたんです。
そんな彼こそ現在、国際高専 国際理工学科 准教授のオガワ先生です。学生時代の友人が、今の同僚でもあるという、不思議なめぐり合わせですよね。それで私も金沢高専のポジションに応募しようと思いました。1番の理由は、「金沢に戻れる!」ということでした(笑)
教育における「レコメンデーションシステム」
―現在の研究について教えてください。
レコメンデーションシステム(RS)についての研究を行っています。このシステムは、「AI」「機械学習」といった分野と関連が深いのですが、ECのオンラインショップを例にすると、身近に感じていただけると思います。ある商品を購入する際に、他の商品もオススメされる機能ですね。
教育分野においては、RSの適用ができるか否かという研究がよく行われています。教育分野とEC分野は全然違うので、私の研究では「どのようにRSを教育の世界に適用させるか」という点にフォーカスしていますね。「学習進捗の把握」や「プロジェクトのテーマ選定」をサポートする機能を考えているところです。
工学を学ぶ学生にとって、「プログラミング」という科目ひとつを取っても、「プログラミング言語」「フレームワーク」といったさまざまな構成要素が存在するので、個々人に合ったレコメンデーションができるようになると理想的ですね。
―国際高専での先生の担当科目は何でしょうか?
主に高学年向けの専門科目を担当しています。「ソフトウェア工学」「プログラミング」「コンピューターグラフィックス」といった情報フロンティア専門科目です。今年の秋からは、白山麓キャンパスで低学年の授業も担当する予定になっていますね。
国際高専では入学から2年間、白山麓キャンパスで学びます。そして3年生に上がると、ニュージーランドの提携校であるOtago Polytechnicで、1年間の国際交流プログラムを受けます。
あいにく現在の3年生は、新型コロナウイルスによる渡航制限のため、Otago Polytechnicのオンライン授業を受講していますが、夏以降ニュージーランドに派遣できそうな見通しです。英語で工学科目を学び、基礎を身につけた上で、金沢キャンパスでの専攻を選択します。
―国際高専を目指す中学生に、メッセージをお願いします。
金沢は本当にいい街です。金沢に来て、ぜひ一緒に勉強しましょう。国際高専の教育の特徴は、実践的な「ハンズオン」「モノづくり」のプログラムが多いです。1年生から手を動かしてモノづくりを学びますので、「教科書ばかりの勉強はちょっと……」という方にはぴったりな学校ですよ。
もし英語が苦手でも、自分の好きなことを英語で取り組んでみてください。例えば、アニメが好きだったら、英語音声を聞きながら日本語字幕で勉強してみるといいと思います。まずは英語に慣れることからはじめましょう。日本語ができる先生も多いのでDAIJOUBU!
ロバート・ ソンガー氏
Robert Songer
- 国際高等専門学校 国際理工学科 准教授
2003年 Pinckney High School 卒業
2006年 金沢工業大学 IJST留学
2008年 Rochester Institute of Technology (RIT) 情報学部 ソフトウェア工学科 卒業
同年 Language Intelligence, Ltd.
2009年 金沢工業高等専門学校 助教
2012年 金沢工業高等専門学校 講師
2015年 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 知識メディア専攻 修了
2017年 金沢工業高等専門学校 准教授
2018年 国際高等専門学校(金沢工業高等専門学校から学校名変更)
2019年より現職
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