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「技術の継承」をよりスピーディーに! 世界のゲーム・チェンジャー育成のために必要な「教育と姿勢」

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長岡高専で様々な研究に携わり、さらに未来技術人財の育成も目指してご活躍されている外山茂浩先生。現在進行形の研究の詳細や、今の高専で必要となっている教育活動、そして外山先生の教育方針のきっかけとなった学生との出会いなどをお伺いしました。

研究にアクティブな長岡高専で「異分野融合型の研究」

―まず、現在の研究について教えていただけますでしょうか。

様々な研究に携わっているのですが、「技術の継承」をより早くするための研究は、大きな研究テーマの1つとして挙げられます。

「後継者不足」の話題がよくメディアで取り上げられていますが、それは「技術を受け継ぐのは難しく、時間がかかる」からです。「師匠と弟子」という関係性も現代ではあまり有効ではないですし、「見て覚えろ」と言われても覚えられないことが多いですよね。それに、「技術」を言葉で人に伝えるのは難しいものです。

そういった現状を打破するために、技術を可視化させる(目に見えるようにする)ことで、継承を簡単にするのが「技術の継承」に関する研究です。効率的に技術を受け継ぐことができれば、業界を目指す若者も増えると考えています。

コンクリートをハンマーで叩く様子
▲コンクリート構造物の打音点検技術の可視化に関する研究の様子。点検ハンマーをコンクリート表面に対して一定姿勢で打撃することで、うき・剥離をより高精度に検出可能となります

そもそものきっかけは、2015年度に国立高専機構で始まった「研究推進モデル校事業」でした。高専での教育と研究のシナジーを生むようなスキームを提案する事業でして、まずパイロット校として鶴岡高専と長岡高専が参加することになったのです。

スライドを見ながら説明する外山先生
▲OECD高等教育局ローズベアール課長が来校。課題抽出力・解決力を育む地域人材育成プログラム「JSCOOP」を学科横断型の教員チームで運営し、異分野融合型の共同研究につなげる取り組みに対して高い評価を得ました(写真1番奥:外山先生、手前1番右:ローズベアール課長)(2016.10)

「研究推進モデル校事業」を行っていくにあたり、私が長岡高専でのリーダーの1人になりました。私は大型の外部資金を狙っていくような研究ではなく、大学とは違う高専の「小ささ」や、異なる分野の研究室同士の風通しのよさを利用して、「異分野融合型の研究」を進めようと考えましたね。

交互に並んだオレンジと緑の椅子と、長机がある部屋の様子
▲長岡高専 システムデザイン・イノベーションセンター。異分野融合型の教育・研究を推進するために整備。前面に大型のホワイトボード(写真左)、後面に3Dプリンター、レーザーカッターを設置しています

そういった理由で、例えば「構造物の点検技能の継承」などを研究することにしました。私はもともと人間工学や機械工学などが専門分野だったのですが、違う学科にコンクリート構造物の研究をされている方がいらっしゃいましたので、コラボレーションしたのです。

このようなコラボレーションによる研究を学内で進めたことで、長岡高専は昨年度だと科研費(※)を基盤研究(B)(※)として7件獲得しています。これは全国の国立高専で最多です。もちろん1人で研究されている方もいらっしゃいますが、チームワークによって、より多く獲得することができたと思っています。

※科研費:科学研究費補助金の略。日本学術振興会から与えられる。
※基盤研究:日本学術振興会によって「一人又は複数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究」とみなされたもの。科研費の金額が高い順にS・A・B・Cの4種目がある。

―「技術の継承」に関する研究について、詳細を伺いたいです。

研究の大まかな流れとしては、優れた技術を持っている人(熟練者)の視線情報などを可視化させるところから始まります。

構造物の点検を例にすると、コンクリート橋や高速道路の高架下などを点検する際、熟練者は「どこにヒビが入りやすいのか」が“見える”そうです。ロボットを使うにしても全箇所を点検しないといけないのですが、それだと日が暮れてしまうので、熟練者は「あたりをつけて」点検しているんですよ。熟練者の“勘所”が働いている視線を、まず可視化させるのです。

「nac」と書かれた、黒い帽子のようなもの
▲視線追尾装置NAC EMR-9。モバイル性をコンセプトに小型軽量化しており、被験者に負担をかけず、技能者のより自然な日常の点検行動を計測することが可能です

今回は構造物の点検を例に挙げましたが、日本のコンクリート構造物の多くは高度経済成長期である70年代前後に建てられたものです。そして、コンクリート構造物の寿命は理論的には50年と言われていますが、70年代前後の50年後ってちょうど“今”なんですよね。しかも、雨風にさらされていることを考えると、寿命は50年より短くなります。

コンクリートでできた橋
▲社会基盤であるコンクリート構造物のメンテナンス、マネジメントは必要不可欠です

また、2012年の笹子トンネル天井板落下事故をきっかけに法改正が行われたことで、橋梁やトンネルでの目視点検(近接目視)を5年に1度、必ず行うのが基本になりました。ですので、目視点検技術の継承は緊急性の高い課題であり、その対策を急がないといけないのです。

「アントレプレナーシップ教育」で日本の現場を変える

―外山先生は、KEAの役職にも就いておられます。KEAについて教えてください。

国立高専機構は現在、「高専発!『Society 5.0(※)型未来技術人財』育成事業」を進めているのですが、この育成事業は「GEAR 5.0」と「COMPASS 5.0」という2つのプロジェクトから構成されています。その中で私は「COMPASS 5.0」の方に携わっているんです。

※Society 5.0:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のこと。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。(内閣府より)

「COMPASS 5.0」は、AI・数理データサイエンス、サイバーセキュリティ、ロボット、IoT、半導体の5分野を対象に、未来技術人財の育成モデルを開発し、全国の高専に情報を共有・展開する事業です。拠点校として10校が選ばれ、1分野2拠点校体制で推進されています。

そして、拠点校間と機構本部等を繋ぎ、情報の共有や拠点校の活動支援をする教員がKEA(国立高専エデュケーション・アドミニストレータ)です。私は2020年度からIoT分野のKEAを担当していまして、拠点校である仙台高専・広島商船と協働で、IoTエンジニアを育成する教材、カリキュラム開発の他、関連するアントレプレナーシップ教育の体系化を進めています。

(左)交互に並んだ黒と緑の椅子と机、パソコンが並んだ部屋
(右)「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度リテラシーレベル プラス」と書かれた図
▲長岡高専 AIルーム。AIやIoTが体験できる特別教室で、未来を支える次世代技術者の育成に取り組んでいます。それらの取組が、文部科学省数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度において「リテラシーレベル・プラス」として認定。「リテラシーレベル・プラス」認定は、全国で10大学、1高専のみ(2021.8)

―「アントレプレナーシップ」とは、何でしょうか?

「起業家的な精神」のことです。そもそも高専生はアントレプレナーシップを持っていると言われていますが、それが教育体制として体系化されていないのが課題になっています。

日本のモノづくり技術は決して悪くないですが、労働生産性の低さが問題視されていますよね。それを上げるためには、AIやIoTなどに精通していて、かつアントレプレナーシップを持って現場を変えようとする技術者が必要なのです。「起業家的な精神」というのは、決して「起業家だけが持つ精神」ではありません。

学生の前で話をする、フラーのロゴが入ったパーカーを着た男性
▲長岡高専×フラー株式会社のアプリ協働講義。長岡高専OBが多数在籍するフラーから講師を招へい。学生自身にデジタルものづくりの楽しさを感じてもらうと同時に、講師をロールモデルにすることで、参加学生のアントレプレナーシップ養成を狙います。(2019.5)

アントレプレナーシップを持った技術者を育成するために必要な教育方法を、日本CTO協会さんと話し合いをするなどして模索しているところです。各分野にKEAは1人ですし、0から1をつくる新しい仕事なので、なかなかタフですが、試行錯誤する姿を学生にも示せたらと思います。

尊敬する人は「学生」という思いを抱いたきっかけ

―外山先生の教育方針について、お聞かせください。

「尊敬する人は、『学生』。学生と共に学び、学生と共に成長する」という思いを持っています。

(左)スーツを着て、学生とともに写真に写る外山先生
(右)大きな車輪がついたロボット
▲外山研究室1期生の学生と、みえ産学官研究交流フォーラムに参加し、高専ロボコン出場ロボットを展示。ロボット製作指導も手探りで、学生とともに学んでいました(2003.1)

高専教員になってからですと、とある学生との会話が心に残っていますね。彼は、私の研究室に立ち寄ると、「企業における経営層トップって、どんな人か分かりますか?」と聞いてきました。「何をいきなり聞いてくるんだ」と思いましたが、詰まるところ彼は「文系のエリートが多い」と考えていて、それになりたかったのです。

私は、「技術者になるための学校に来ておきながら、突然何を言い出すんだろう」と不思議に思いましたが(笑)、同時に、彼の言う経営のこと、そして世の中のことを自分は全然分かっていないことに気づいたのです。「尊敬する人は、『学生』」のきっかけは彼のことでもあるのですが、すごい人っているんですよね。それを教員の能力の限界、常識の境界で抑えてはいけないと、彼を見て思ったのです。

その彼というのが、アプリやウェブなどデジタルに関わる支援を展開していて、高専卒業生も多く勤めている「フラー株式会社」の創業者であり、代表取締役会長の渋谷修太さんです。今は“さん”付けで呼ばないといけないですね(笑) 2017年には長岡高専とフラー株式会社で包括連携協定を結びまして、最新のICT教育やアントレプレナーシップ教育を、彼から教えてもらっています。

マイクの前で手を合わせる長岡高専の先生と、フラー株式会社のみなさま
▲長岡工業高等専門学校・フラー株式会社包括連携協定調印式(写真左から3番目:渋谷さん、1番右:外山先生)(2017.8)(長岡市提供)

―最後に、高専を目指しているみなさんにメッセージをお願いします。

好きなことで世界を変えたいという夢があるのなら、高専も1つの選択肢だと思います。アントレプレナーシップ教育につながる話ですが、GAFAなどといった世界的な企業の創業者がいつ起業したかというと、だいたい20歳ごろなのです。起業における「ある意味“旬”の時期」が20歳ごろなのかなと、周りではよく言われていますね。そして、大学在学中の年齢にあたるので、学業との両立が立ち行かなくなるケースも多いようです。

握りこぶしを作ってポーズを作る長岡高専の学生と、ケニアの方々
▲高専オープンイノベーションチャレンジ。長岡高専の学生が、ケニアのスタートアップ企業の課題解決に挑戦。試作品を現地に持ち込み、実証実験を行いました。(2019.7)

ということは、高専だとちょうど20歳で卒業できるので、15歳から刺激を受けつつ好きなことをしていくと、世界をけん引できるような人物になれるかもしれません。世の中がピンチのときに、ゲーム・チェンジャーになりうる技術者を育てたいと思っています。

外山 茂浩
Shigehiro Toyama

  • 長岡工業高等専門学校 電子制御工学科 教授

外山 茂浩氏の写真

1991年 新潟県立三条高等学校 卒業
1995年 新潟大学 工学部 機械システム工学科 卒業
1997年 新潟大学大学院 自然科学研究科 生産システム工学専攻 博士前期課程 修了
2001年 新潟大学大学院 自然科学研究科 材料生産開発科学専攻 博士後期課程 単位取得退学
2001年4月 鳥羽商船高等専門学校 電子機械工学科 助手→講師
2006年4月 長岡工業高等専門学校 電子制御工学科 講師
2007年4月 長岡工業高等専門学校 電子制御工学科 准教授
2013年8月~2013年12月 University of Portsmouth, School of Creative Technologies, Academic Visitor
2013年8月~2013年12月 University of Portsmouth, Intelligent Systems & Biomedical Robotics Group, Visiting Professor
2014年4月~2016年3月 国立高等専門学校機構 本部事務局 教育研究調査室 准教授(併任)
2015年4月~2016年3月 長岡工業高等専門学校 研究推進准教授
2015年5月~2019年3月 長岡工業高等専門学校 システムデザイン・イノベーションセンター長
2016年4月より現職
2016年4月~2018年3月 国立高等専門学校機構 本部事務局 教育研究調査室 教授(併任)
2016年4月~現在 長岡工業高等専門学校 研究推進教授
2017年10月~現在 長岡工業高等専門学校 校長補佐(次世代教育推進担当)
2018年8月~現在 国立高等専門学校機構 本部事務局 教育参事(併任)
2019年4月~現在 長岡工業高等専門学校 高専教育高度化戦略室 室長
2019年4月~現在 長岡工業高等専門学校 地域創生教育研究推進室 副室長
2020年8月~現在 国立高等専門学校機構 本部事務局 KEA(国立高専エデュケーション・アドミニストレータ)

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長岡工業高等専門学校の記事

長岡高専荒木教授
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教育・研究・キャリア支援の3本柱で運営する「In-Port」が目指す地域創生とは
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