実は、海外にも高専があるんです。日本の産業を支えてきた技術者育成のリソースが、モンゴル・タイ・ベトナムでそれぞれの国の文化のもとに発展しています。
今回はモンゴルの高専支援について、担当者に伺いました。
【岩熊美奈子氏 都城工業高等専門学校物質工学科教授(併)国立高等専門学校機構本部事務局国際参事】
モンゴルにある3つの高専の運営に関するアドバイスや教員を指導するなどサポートを行っています。
—なぜモンゴルに高専を?
モンゴルには石炭や石油など豊富な資源があるにも関わらず、工業や産業が発達していません。経済大国である中国やロシアが隣にあるため、精製等の加工を隣国に頼っていて、それらの国に輸出もしています。そこで、国内の工業や産業の発展のため、教育を高めたい、という意見がモンゴル国内から上がってきました。
ソ連崩壊後の1991年以降、モンゴルから日本の高専へ留学生の派遣が始まりました。そのころの留学生たちがモンゴルの国会議員、ウランバートル市議会議員や企業の経営者など、地位の高い役職に着くようになり、徐々に日本の高専教育が優れているという認識がモンゴル国内で生まれてきました。
2014年、モンゴル人の高専留学卒業生の協力のもと「モンゴル工業技術大学付属モンゴルコーセン」「新モンゴル学園付属高専」「モンゴル科学技術大学付属高専」の3高専が設立されました。
モンゴルにある高専の教育アドバイスや日本の大学、高専や企業との連携を強めるために高専機構は2016年にリエゾンオフィスをウランバートルに開所しました。
—実際にモンゴルにある高専を支援してどんな課題が出てきましたか?
高専教育最大の特徴である実験実習の状況が日本の高専とは異なることです。教えられる教員も機材も現在のところ足りていません。実験や研究をしたいのにできない環境です。
まずは今ある機材を有効に使うため、使用法やメンテナンスの技術を現地の教員に伝えるなど課題は山積みです。
環境がなかなか整わず試行錯誤するなかで、ウランバートルで開催された2019年のABUアジア・太平洋ロボットコンテストは学生たちにとって良い影響を与えたのではないでしょうか。ロボットを動かし問題点を見つけて仮説を立てて……と、課題解決する力が身についたようです。
モンゴルの国内予選で大学を交えた32チーム中4位と健闘する高専も現れました。残念ながらABUの世界大会には出場できませんでしたが、良い経験になったようです。
ほかには、現地の中学生向けのワークショップも好評でした。渋滞が多いウランバートルにモノレールをつくるという仮定のもと、モノレールロボットづくりに挑戦してみよう、というロボコンワークショップです。
モンゴルにある3つの高専の教員と学生が現地の中学生30人にものづくりの楽しさを教えました。TA(ティーチング・アシスタント)として都城高専の学生も毎年2名参加しています。
—卒業した学生の進路について教えてください。
モンゴルの学生の進路の希望は日本の高専生と同様に様々です。モンゴル国内の大学へ編入、海外留学にチャレンジする学生も多いです。
進学に関してのトピックスとしては、仙台高専が海外の高専生の専攻科入試を始めました。今年度はモンゴルの高専から3名の専攻科生が入学し、仙台高専で頑張って勉強しています。
このほか、豊橋技術科学大学の3年次に5名が編入学しています。また、就職に関しては、モンゴル国内で就職する卒業生のほか、日本への就職を目指す学生も多くいます。モンゴルの高専卒業生が日本に就職する際は技術力を生かした就労ができるように企業様にお願いしています。
今現在日本に来ているモンゴルの高専卒業生は私が認識している限り、高専で学んだことを生かした仕事についています。第一工業製薬株式会社で働いている新モンゴル高専の卒業生を始めとして、日本で働くモンゴルの高専生は徐々に増えつつあります。
都城市にある大淀開発株式会社に就職した卒業生2名は2月末に渡航してきて、ぎりぎりCOVID-19の入国制限前に入国できました。軒並みCOVID-19で飛行機が欠航していくなか、モスクワ経由で日本に来れたんです。CADで図面を作成する、現場で経験を積むなどがんばっています。
日本の企業でさらに経験を積んでいって、モンゴルのために活躍してほしいですね。
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