大学から生物学を専攻し、現在は化学や生物を教えながら藻類の研究を進められている大沼みお先生。学生時代から「緑が多い場所が好き」だった大沼先生が赴任した広島商船高等専門学校も、瀬戸内の穏やかな海と風、島の緑に包まれた絶好のロケーションです。
遺伝に興味を持ち、生物学の道へ
―生物学に興味を持ったきっかけを教えてください。
もともと、小学校の頃から好きな教科は理科、中でも生物が好きでした。将来、生物を勉強して、生物に関わる仕事をしたいと思ったのは、中学2年生の頃、テレビで遺伝を扱う番組を観たのがきっかけです。メンデルの遺伝の法則に従わない、朝顔の花の色やニワトリのとさかの形状を決める「不完全優性」という例を知り「おもしろい!」と思いました。
私立の高校に進学し、大学進学を考えて「外部進学コース」を選択しました。大学では基礎的な生物学を学びたかったので、農学系ではなく生物学の勉強ができる大学をいくつか受験。学内に緑が多くて広々とした雰囲気が気に入り、国際基督教大学へ進みました。
それまでは愛知県に住んでいましたが、母の実家が東京にあったので、大学進学のタイミングで、家族で引っ越しました。キャンパスは三鷹だったので、通学は新宿から中央線に乗り換えて、武蔵境駅で降りて自転車です。校舎の前に大きな芝生があり、休み時間にはよく芝生の上に座って友達と話したり、騒いだりしていました。
打楽器が好きだったので「ラテンアメリカ音楽研究会」に入りました。演奏したことはありませんでしたが、初心者でも歓迎で、お祭りのようなにぎやかな雰囲気に惹かれて。一言で打楽器と言っても色々あり、何種類かを触らせてもらいましたが、金属製で高音と低音が出る「アゴゴ」という小型の楽器を使うことが多かったです。
屋外で練習したりイベントに出たり、けっこう積極的に活動していました。商店街のお祭りで演奏するとか、営業的な興行が年に何度かあり、その演奏料で活動費も一部まかなっていました。
―大学の授業はいかがでしたか?
大学2年生の時、「微生物学実験」という授業があり、大腸菌を用いて「接合」という遺伝子の伝達実験をしました。2種類の大腸菌を混ぜ合わせると、遺伝子が片方から相手側に移ります。
何点か時間ごとに接合を中止させて、それまでに移動した遺伝子の頻度を調べると、遺伝子の配置がわかるという実験でした。ところが、実験手引書通りに進めても思うような結果が出ません。
同じ班の子と相談したり、担当教員に質問したりしているうちに「あ、そうか。きっと私たちの実験では、こんなことが起こったんだ」とわかっていき、微生物を使った実験のおもしろさに、どんどん引き込まれていきました。
当時、生物学を専攻していた20人くらいの同級生のうち、半分以上は大学院に進学希望でした。私自身も入学頃から進学を希望していたため、友達と一緒に研究室を見学してまわり、自分がしたかった「微生物を用いた遺伝子の発現制御の研究」ができる研究室のある東京大学大学院に進みました。
―順風満帆な道を歩まれていますが、挫折したことはなかったのでしょうか。
挫折した経験をあげるとすれば、高校受験の時でしょうか。公立高校の受験に失敗して私立高校に進学したのですが、いざ進学するとその環境が気に入り、結果的には良かったなと思っています。仲のいい友達がスポーツ推薦で一緒の高校に行くことになったので、彼女がいたことも大きかったかもしれません。
瀬戸内海に面した、大らかなロケーションが好き
―高専に就職したきっかけを、教えてください。
学位取得後、ポスドク以外の道を探す時期に差し掛かり、研究を続けながら働ける環境を探しました。大学や研究所など複数の就職先を検討するなか、当時所属していた研究室の先生に高専のことを教えてもらったんです。
生まれてからずっと中部地方から東側で生活してきたので、広島に来たのは就職の面接が初めてでした。就職が決まり、赴任する時にはフェリーでやって来ました。
おだやかな瀬戸内の海に囲まれて見晴らしがよく、すばらしい景色が広がっていたのを覚えています。自覚はなかったのですが、私自身、都会で働くよりも自然を好むタイプなんでしょうね。大学に進学した時も「緑が多い」という理由で学校を選びましたから(笑)。
この辺りは人懐っこくて親切な方が多く、あたたかいなと思います。赴任してすぐに足をケガしてしまったのですが、近所の方々が心配してくれて、やさしく接してくれました。現在は広島県竹原市の自宅から学校まで、フェリーと自転車で通勤をしています。
―どの授業を担当されているのですか?
1・2年生と3年生の一部、合計8クラスの化学・生物・地学の授業を担当しています。私は生物学が専門ですが、高専では化学の授業がメイン。実験や演習の時間もできるだけ多く設けるよう心掛けて、体験を通して現象を理解してもらえるようにしています。
1年生の化学で最初にする実験は「象の歯磨き粉」と呼ばれる実験です。化学反応によって液体から大量の泡が噴き出すので、みんなワイワイとにぎやかに楽しんでいるようです。1回の実験で、色々学んでもらおうと、試薬に無機触媒ではなく、ドライイーストを使用して、酵素の働きと性質を学べるようにアレンジしています。
授業以外では、数年前から寮務主事補をしています。広島高専は7~8割の学生が寮に入るので、管理の仕事も多岐にわたります。私が担当する女子寮では80人以上、男子寮では300人以上の学生が生活しています。また、本校の文化祭、「商船祭」では、科学展示として、バスボム(炭酸入浴剤)やビスマスの人工結晶づくりなど、普段できないことをしており、学生も学外の方も楽しんでくれます。
仕事もプライベートも「緑」でいっぱい
―現在の研究内容を教えてください。
「極限環境藻類」と呼ばれる、高温や強酸性、強アルカリ性など厳しい環境でも生育できる藻類を用いて、油脂生産の研究を進めています。人類は太古の昔から微生物の発酵の力を利用して、パンやお酒などを作っていますが、今は発酵だけではできないような食品や医薬品の開発にも大腸菌や酵母菌などの微生物が使われています。
最近は藻類でも同じように、人間に有用な物質をつくらせる研究が行われています。私の研究でも、こちらに着任する前はイタリア原産の単細胞藻類シゾンを使って、着任してからはシゾンだけでなく、中国・四国・九州の温泉を訪ねて採取、単離した藻類も使って、有用物質がつくれないかを調べています。
有用物質をつくらせるのに、極限環境に耐性である必要はないのですが、実用化するときに、特殊な環境に住む藻類は、他の生物が混ざってしまうことが起こりにくく、アドバンテージがあります。
うまくいけば化粧品・医薬品の開発や藻類バイオマス燃料の普及に役立ちますが、まだまだ研究段階。商船学科の研究室や卒研生、専攻科生たちと協力しながら研究を進めています。
身近な藻類と言えば昆布やわかめ、のりなどの大型藻類ですが、私が扱うのは試験管で増やせる単細胞の藻類。培養する藻類は、元気な状態だと緑色が濃くなり、元気がないと黄味が強くなります。
普段は授業が終わってから顕微鏡でサンプルを観察するので、気がつくと1日が終わってしまうこともよくあります。そうそう、サンプルに染色液を混ぜて光らせると、すごくきれいで癒されますよ。
―仕事・研究以外の時間は、何をして過ごされていますか?
多肉植物やエアープランツが好きで、家で育てるのが趣味です。特に好きな多肉植物はオブツーサとグリーンネックレス。オブツーサは、ぷっくりした葉の上半分が透明でキラキラしているところが好きです。グリーンネックレスは小さな白い花も可愛いです。
また、窓際は日当たりがいいので室内でパッションフルーツを鉢植えで育てています。花粉を綿棒で受粉させ、果実が成ったら収穫できるんですよ。今年は5個、実が成りました。今までは1~2個だったのでかなり出来がいいほうです。
また、広島に来てから「絶滅危惧植物の保全活動のためのフィールドワーク」にも参加しています。珍しい植物が生息しているのはたいてい山奥などの静かな場所なので、調査の時はかなりハードな山歩きになることも。活動を続けるうちに地元の方々とさまざまな出会いがあり、刺激を受けています。
―高専進学を考えている小・中学生に、メッセージをお願いします。
日々生活するなかで、ぜひ、自分が好きなことを見つけてほしいと思います。仕事と趣味をわける生き方もありますが、私は好きなことを仕事にしたタイプ。どちらが楽しいかは内容にもよるかと思いますが、大変なことがあっても「好きなことのためなら」と思えば頑張れることもたくさんあります。
高専に入ってからも進路はさまざまですが、進路を決める段階になって急に決断するのは難しいので、普段から情報に触れて自分の興味・関心にアンテナを張っておくようにするのがいいと思います。
大沼 みお氏
Mio Ohnuma
- 広島商船高等専門学校 一般教科 准教授
1995年 国際基督教大学 教養学部 理学科 卒業
1997年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 修士課程 修了
2000年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 博士課程 修了
2000年 東京薬科大学 生命科学部研究室 嘱託職員
2004年12月〜2005年3月 東京大学 分子細胞生物学研究所 学術研究支援員
2005年 東京大学 分子細胞生物学研究所 リサーチフェロー
2008年 立教大学 極限生命情報研究センター 農業・食品産業技術総合研究機構(生研機構)研究員
2010年 立教大学 理学部 ポストドクトラルフェロー
2015年 広島商船高等専門学校 一般教科 准教授
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