阿南高専 機械工学科をご卒業後、日亜化学工業株式会社で12年間勤務され、母校に戻ってこられた佐々木翼先生。人生の大きな分岐点には必ず誰かの「一言」があったそうです。技術職員として働く今、学生に伝えたいこととは。
「塾の先生の一言」がきっかけで、高専を選んだ
-阿南高専に進学を決めたきっかけは?
実は阿南高専は家から本当に近くて。小学生の時は、「小学校の裏にある大きな学校」という認識でした。今思えば、小学生の時に走った東四国国体の炬火リレーの出発地点は阿南高専前からでした。
祖父が日曜大工が得意だったこともあり、小さい頃から作業を見たり手伝いをすることは好きでしたね。
ただ、「将来何になりたいか」はあまり考えておらず、中3のときに通っていた塾の先生から高専をオススメされました。その先生曰く、僕の性格がどうも普通科高校向きではなかったらしいんですよね(笑)。そこでやっと「小学校の裏にある大きな学校が高専なんだ」と繋がりました。
-高専での生活はいかがでしたか?
ものづくりが好きだったので機械工学科を選び、合格した時は嬉しかったですね! 家から1㎞圏内でしたが、1年間だけ寮にも入りました。徳島県内のいろんな中学校から高専に来ているので、学校終わりや休日に遊びに行ったりと、多くの先輩や同級生と接する機会が得られて、とても楽しかったですね。
授業は座学より実験実習が楽しかったですね。特に切削加工は金属の形が変わる姿が目に見えて分かるので面白かった記憶があります。溶接も練習をすればするほど上手になるので、その過程も含めて楽しかったですね。
-卒研では鳴き砂の研究をされたそうですね!
研究室の指導教員だった奥本良博先生の研究テーマの1つに「鳴き砂」に関する研究をされていたので、「鳴き砂の復活」をテーマに卒研を行いました。社会貢献ができることをテーマにしたかったので、「奥本研究室にする!」と即決でした。
鳴き砂の「音」自体は砂の粒同士の摩擦で鳴るのですが、砂に汚れが付くとうまく摩擦しなくなるので音が鳴らないんですよね。対象の浜から少々砂を拝借して、波のような動きでビーチ渦を発生させる洗浄装置を作り、毎日数時間おきに水を交換し、砂の汚れを取り除く1年間でした。
陶器のコップの中に砂を入れ、陶器の棒で押しつぶした時に「キュッ」となった時は、「鳴ったー!!」と感動しました。手間ひまかけただけあって苦労が報われた瞬間でした。
奥本先生が、計画的にコツコツと研究を進めるように指導をしてくださったので、卒論は比較的余裕を持って終わりました。何事も計画性と、日々の積み重ねが大切なんだと学びました。
高専で学んだからこそ、仕事の苦手意識が無くなった
-佐々木先生はご卒業後、企業に就職されたんですね。
高専時代から進学は考えておらず、地元で働きたかったので、県内での就職を選びました。日亜化学は発光ダイオード“LED”をメインに半導体レーザー“LD”や蛍光体、電池材料などを開発・製造・販売している会社なのですが、高専出身の先輩もたくさんいて働きやすい環境でした。
職場では、主にLEDを製造するための装置の選定や、条件設定・工程管理のシステム開発などを担当しました。トライアンドエラーを繰り返しながら開発していましたね。
正直、高専の時は「この勉強が何の役に立つだろう?」と疑問を持ちながら学んでいた科目もありましたが、いざ働いてみると「あの授業で習ったやつだ!」と思うことが多くて(笑)。もっと真面目に勉強しておけばよかったなと後悔しましたね。
荷重計算や製図など高専で学ぶことをそのまま使って仕事をしていました。製図は得意ではありませんでしたが、高専で学んだからこそ仕事では苦手意識を持たずに進めることができました。本当に、高専を選んでよかったと思っています。
「先輩からの一声」で、母校に戻ることを決めた
-佐々木先生はどういったご経緯で、母校で働くようになったのですか。
高専時代の先輩が阿南高専の技術職員に転職されていて、そこで「企業技術者から高専の技術職員になれるのか!」と認識しました。その先輩にお声がけいただいたことがきっかけで、技術職員の道を選びました。純粋に「母校の後輩に教えることが楽しそう」と思ったんですよね。
実際働いてみると、材料の準備や発注・機械の選定や授業の組み立てなど、思った以上に考えることが多いですね。技術職員が研究をしていることや、公開講座を担当していることも学生のときには知らなかったので、毎日新鮮な気持ちで取り組んでいます。実習も研究も、どこまでも突き詰めることができるので、自分に合っていると思います。
-実験実習では何を担当されているのですか。
実習では主に溶接を担当しています。溶接って感覚を蓄積していかないと上達していかないんですよね。逆に言うと、感覚を掴めば一気に上達します。溶接中には確認すべきポイントがたくさんあるため、感覚を掴むまで時間がかかる学生もいます。
そこで、溶接棒を動かす速度や下げていく量などの腕の動かし方だけでも先にイメージが出来れば、溶接中に別のポイントを意識する余裕が生まれるので、「溶接中の動きを再現してくれる装置」の着想に至りました。科学研究費助成事業の奨励研究に4年連続で採択され、「溶接動作の体感装置」を作りました。
実際に「溶接動作の体感装置」を実習で使って、学生へのアンケート調査結果から効果があることが実証できたので、自信に繋がりました!
学生には常々、「自分が日常で使う機械や部品、乗り物に溶接の不具合があったらどうする?不具合のないものを作るには、何をどこまで考えることが必要だと思う?」と問いかけています。溶接部の見た目の綺麗さももちろん大切ですが、実習には曲げ強度や耐圧性などの数値で評価できる内容を取り入れて、グループ内でのコンテストをしているので、不良箇所を出さないように学生は一生懸命取り組んでいますね。
人生の大きな分岐点で、何かのきっかけが与えられたら
-学生と接する時に工夫されていることがあれば、教えて下さい。
僕の人生が、塾の先生や先輩の一言で変わったように、「誰かの一言で人生の選ぶ道が変わる」ことがあると思っていて、普段から学生との会話のきっかけ作りを意識しています。
例えば、僕の愛車は1993年式の「VOLVO 240」なのですが、上司が乗っている旧車がきっかけで「車を入口に工学との関わりの気付きになれば」と思い購入しました。実際に車を見た学生と話す機会ができて嬉しいですね。
またコロナ禍になる前はよくライブやフェスに行っていたので、バンドTを着ていると音楽に興味のある学生と話すきっかけになります。「そのバンドTシャツ持っています!他には何を聴くのですか?」などと興味津々に話しかけてくれます。
他の先生から教えてもらった話ですが、ある学生は、第1学年の時に私が担当する溶接実習体験で「私から褒められたことがきっかけになり、機械コースを選んだ」というのです。(阿南高専では第1学年時は4クラスの混合学級でコース選択に向けた基礎を学びます。そして第2学年から5つの専門コースで学びます。)
その学生は、第2学年からの機械コースでの溶接実習でも、とても熱心に取り組んでいて、溶接が楽しいと話していたことが印象に残っています。その後、大手機械メーカーへ就職し、(就職面接で溶接のことを話したそうで、)現在は溶接に関する業務に携わっているそうです。自分の一言が選択のきっかけになっていることを知り、この話を聞いたときは、すごく嬉しかったですね。
学生の人生の大きな分岐点になる職場で勤めているので、入り口は小さなことでも、彼らにとってのきっかけとなる何かを与えることができていたら、幸せに思いますね。
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
高専は基本的に各県にひとつしかありません。県内全域から同世代が集まるので、学生時代から広い範囲で人脈ができることは素晴らしいことだと思います。学生時代は「友達が多い」だけにしかならないかもしれません。それももちろん素晴らしいことなのですが、社会に出た時にその「つながり」は発揮されるものだと思っています。
能力があっても、それを発揮する機会がなければ有用ではないと思います。学内以外にも様々なことにチャレンジしてぜひ自分のたくさんの可能性に気付いていってください!
佐々木 翼氏
Tsubasa Sasaki
- 阿南工業高等専門学校 技術部 技術専門職員
2002年 阿南工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2002年~2014年 日亜化学工業株式会社
2014年より現職
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