高専教員教員

学び考える人になるお手伝いをしたいから、まず私が学び考える。幅広い読書がもたらす恵み

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母校である木更津高専・電子制御工学科で教員を務められている関口明生先生は「自分自身が学び考える」ことがよく生きるうえで必要だと話します。そのために、さまざまな本を読み、さまざまな価値観に触れているそう。そんな関口先生に、これまでの出会いや、教員として心がけていること、読書がもたらすことについて伺いました。

現職までの出会いと学び

―小さいころ、どんな子どもでしたか。

ざっくりいって「内向的で好奇心旺盛な変わり者」でした。今はどうかといえば、より一層あてはまるかもしれません(笑)

6年生の途中までいた東京の公立小学校では、私のような変わり者も個性の一つにすぎず、学校が大好きでした。団塊世代前後の両親から15年ほど遅刻して生まれた団塊ジュニア第1子で、周囲のご家庭と文化が違ったので、ドラゴンボールやガンダム、ミニ四駆といった流行についていくことは諦めていました。

興味が多動性であきやすい性格で、習い事をしたいと親にせびっても長続きしないのを繰り返して迷惑をかけていました。そんななかでも、小学校で始めた合気道は千葉に引っ越してきた後も中学校卒業まで続き、心の大切な基礎のひとつになりました。

―木更津高専に進学したのは、なぜですか。

数学と理科と英語が比較的得意で国語と社会が苦手だったので、普通科ではなく市立船橋高校の理数科を第一に目指していました。しかしある日、国立の高専という聞いたことのない進路もあると知りました。高専ロボコンも見たことがありましたから、がぜん興味がわいて、機電情を幅広く学べて5学科なかで一番偏差値が高かった電子制御工学科を第一志望で受験し、入学することができました。

高専ロボコンには専攻科も含めると学生として7年間関わり、警備員の方の目を盗んで学校にもしばしば寝泊りするほど熱中しました。なお、OBOG会の初代幹事や指導教員も含めれば、この2024年度が私にとって24年目の高専ロボコンでした。入学当初は、ドラえもんのようなロボットへのあこがれを持っていましたが、それは次第に、ロボットを構成する要素技術を学び使うことの興味や、メカトロニクス技術を応用して実現できるものごとへの興味や、ものづくりの経験を通した学びへの興味に変わりました。

▲木更津高専5年次での高専ロボコンのマシン「トン・de・もない」(上2枚)と集合写真

―専攻科ではどんな研究をしていたのでしょうか。

今では全く珍しくもないですし当時にしても学術的な新しさはほぼないのですが、いわゆる「移動ロボット」のうち、車いすのような左右の二輪で倒立する台車をつくって制御することをしていました。ちょうど「小泉首相がセグウェイに乗って出勤した」というニュースが出たころです。当時はaiboやASIMOのようないわゆる「サービスロボット」が脚光をあびた時期でもあり、「移動ロボット」はその技術要素の一つにあたります。

こまごました基礎的なことが好きで組込みに熱中していて時間だけはありましたから、モータ電流のPID制御を8 bitマイコンのアセンブリ言語でおこなったり、当時は高価だった加速度センサとジャイロセンサで相補フィルタを構成しようとしたり、限られたマイコンの容量の中でオドメトリの機能を実現するために三角関数を自分で書いたりといった泥臭いことを、図書館の本などで学びながら、独自にマニアックにいろいろと試していました。技術不足・知識不足で、毎日一人で夜10時ごろまで失敗の経験ばかりでした。しかし、それが貴重な学びでもあり、最終的には目的の動作を実現することができました。

▲専攻科生の頃の研究室の様子(左)と、研究で作製して制御した倒立平行二輪車

しかし、そうしてサービスロボット寄りの研究に熱中していながらも、この研究は生活を新たに豊かにしてくれることが本当にあるのだろうかといった自省もしていました。私の研究の目的が、結局は短期的・局所的な視点によるものであって、やりたいからやるといったといったことの粉飾にすぎないのではないかということです。内向的ですね。ちょうど進学先の研究室を調べている頃でもありました。

博士研究の恩師として筑波大学大学院の連携大学院制度でその後3年間お世話になる産業技術総合研究所(産総研)の荒井裕彦先生も、その数年前に同じように考えられたことがある様子でした。研究室を訪問させていただき、ロボット技術を用いた塑性加工の研究を見せていただいて、お話をお伺いして、どんな大学のどんな研究室よりも私に合っていると確信しました。

ロボットがワークに対して実加工を担うなんて産業用ロボットでさえ普通考えられないことですが、スピニング加工という塑性加工法はその未踏分野の一つでした。大学院入学時は、博士前期課程(修士課程)の後で就職するつもりであり、博士後期課程に進むつもりはありませんでした。

なお、塑性加工だけでも非常に魅力的な分野です。加工を扱う研究室の割合が大学や高専で減ってきていることには、危機感があります。塑性加工の研究の大きな魅力の一つは、片方の人の論理で合気道ができないように、人間の論理が自然に対して通用しないさまをじかに体験して省察できることです。しかし、この話は長くなりますから、別の機会にしましょう。

―念願の産総研での研究は、どうでしたか。

当初の想定以上に学びがある研究でした。これだけ魅力的な研究なのに、当時私しか学生がいないのは不思議であり、同時に、非常に恵まれた環境でもありました。はじめの研究テーマは丸3日熟考して選ばせていただきました。最終的には4つも研究テーマを持たせていただき、私の学会発表や論文投稿で予算を圧迫してしまい、申し訳ありませんでした。

▲筑波大学の連携大学院生の頃の関口先生と、力制御しごきスピニング加工による金属板の成形品
 「産総研の荒井先生のもとで3年間大変お世話になりました」

荒井先生は、名だたるロボット研究者の一人として産総研のロボット研究の部門に所属していながらも、サービスロボット(次世代ロボット)に関する主要な市場予測がどれも希望的観測にすぎないと、鋭く冷静に指摘する論文を出されました。

業界の予測に対して正面から否定することを言っているのですから、周囲からは非難の目が向けられ、実害も受けます。それでも、ほかの誰もが疑いもしないことでも、よく調べ深慮してなお間違っていると思えるのならばそれを声にすることができる荒井先生の姿を、今も非常に尊敬しています。私は荒井先生ほどの人物にはなれませんが、一つ一つのことを自身の目で見ようとして小さくても行動に移すことは、日ごろから大切にしています。

―大学院の修了後に公設試(都産技研)に就職したのは、なぜですか。

中小企業の皆様のご活躍を支援する公的機関において、自身を広く社会に役立てながら、自身なりの研究もしながら、さまざまな面で学び成長することができると考えたためです。高専教員としての険しい道も視野の一つでしたが、母校の募集はありませんでした。

都産技研では、事業化支援本部という部署の一つで、3Dプリンタや3Dスキャナ、3D CAD/CAEの支援を担当しました。言えませんが、あの製品からあの製品までも、幅広く関わらせていただきました。所属部署の方針や実際があるため仕方ないことですが、名目上は「研究員」という立場であったものの、自身のものといえる研究は一向に持てず、博士である意味はほぼないように見えました。

しかしながら、公的機関に籍をおく共用の技術者といった立場で中小企業の皆様の課題解決のお手伝いをできる多くの機会に恵まれて、研究者としての立場に対して優先順位が入れ替わってもかまわないと思えるようになりました。2年目に、出身学科である電子制御工学科で助教の募集があると知り、縁あって採用していただきました。

教員の仕事は、教えることよりも、ともに学び考えること

―高専の教員になってみて、いかがですか。

さだまさしの歌「不器用な花」の一節にある「一番遠いと思ったから選んだ」の意思で教員になりましたが、それにしても忙しいです(苦笑) 仮に忙しさをゼロにしても、これ以上難しい仕事は私には力不足です。そもそも、できていないかもしれません。

私が間違っているかもしれませんが、私にとってこの上なく難しい教員をするにあたって、当初から大切にしていることがあります。それは、学生の皆さんに「生涯にわたって学び考える方々」になってほしいというビジョンのための手段として、「まず私自身が学び考えること」です。教員が学び考えていないのに学生が学び考えたいとは思えないでしょう。ですから、年間100~200冊程度はさまざまな本を読み学び考えること、それは私の仕事の一つだと考えています。

―現在の研究内容を教えてください。

大きく分けて2つの研究を行っています。一つは、高専着任から再開した、メカトロニクス技術を応用したスピニング加工などの塑性加工の研究です。ロボット・メカトロニクスといった手段よりも、塑性加工で生じる効果のほうに重心を置きたいと考えています。

▲本記事のトップ画像にも使用した、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」をイメージした金属板の成形品。大学院時代から続く研究の一つの到達点であり、関口先生の研究の表れの一つとのことです

もう一つは、制御工学教育の基礎に関する研究です。この研究は継続的な読書の中から出てきた変わった研究で、始めるかどうか数か月悩みました。楽ではなく楽しくもないですが、やらないわけには私自身を許せるかわからないと考えて取り組んでいます。

ただ、私については、研究者としての立場でいることに比べて、共用の技術者の立場で地域の課題に対するお手伝いをさせていただくことのほうが多いです。この2024年度は、地元企業との板金曲げ加工の自動化についての共同研究と、館山市の水道局の方からのご相談がもとになって漏水の補修具の試作開発をする研究に、それぞれ学生と共に取り組んでいます。

自身の偏見を手放す助けとしての読書

―学生に指導する上で心がけていることはありますか。

ごめんなさい、職務怠慢に見られてしまうかもしれないのですが、「指導する」といった教員主体の言葉は、私には難しいです。少なくとも私にとって学校は、病院でもなく工場でもなく、学生の皆さんが主役で教職員は脇役です。ですから、教員としての私はそれよりも「学習を支援する」ように、あくまで学生の皆さんが主体であるようにありたいと、根本的に心がけています。

▲クラスのみなさん(25卒)と、4年次の見学旅行で広島へ
 「世界に戦争のあるなか、原民喜に感銘を受けて広島にしました」

「まず私自身が学び考えること」も、そのひとつの表れです。授業内容をできるだけ楽しくわかりやすく伝えるためや、私自身の持つ偏見にまず私自身が気づくためにも、私自身の学習が職務上必要でしょう。その主な手段が、娯楽や専門に限らない、幅広い読書です。

授業や教科書で学ぶ内容自体さえも、先人による有益な遺産であると同時に、何かしら偏見に由来した不正確さが含まれていないはずはありません。ですから、学習において何か幼稚かもしれないけれど根本的でもあるような違和感に気づくことがもしもあったら、それはその不正確さを少し減らす原石かもしれません。

そうした違和感に気づいたときには、それをすぐに記憶のどこかに埋めて一度すっかり忘れるとよいと思います。そしてまずは、千利休が伝えたという「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても 本を忘るな」の、「守」につとめてほしいです。難なく「守」ができるようになってから思い出して、幅広い読書と「本」(もと)に照らして省察すると「破」につながるかもしれません。教員としての私は、その小さな違和感と「守破離」への邪魔をしないようにありたいです。そしてその「破」を、ものわかりの悪い私に指導してほしいです。

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―学校や仕事で忙しくても読書をするコツはありますか。

私の場合は、通勤電車が読書の時間です。もちろん、睡眠や考え事、原稿・ソースコードのチェックにあてることもあります。本を読めば、貴重な精神的体験や、著者の認知の深さ・考えの深さに対する感銘が、時間と空間を超えて得られます。待ち時間も楽しみになります。

おすすめは、幅広い分野の本を、少しでも興味を持てたものから図書館で借りて読んでみることです。やや難しそうな本と簡単に読めそうな本を2冊借りて読むのを繰り返すと、読書の筋力が徐々についてきます。どれだけ負荷があるかは実際に読んでみるまで分からないですから、時にはナナメ読みでも、途中で挫折しても、借りてそのまま返してもよいと思います。

読書は、自身の考えや色眼鏡を保留して、ある程度その本に寄り添わないとできません。ですから、習慣的に読書を続けていると、新しい知識を取り入れる体験だけではなく自身のそれまでの考えを手放して相対化する体験も多くなり、知的に謙虚になれるはずです。

▲関口先生がここ数年で感銘を受けた本の中から、互いに響き合う3冊として、左からスタニスワフ・レム『ソラリス』(1961)、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』(1979)、David Bohm『On Creativity』(1998)
 「この3者の鼎談があったなら、何としても知りたかったです」

―高専生にメッセージをお願いします。

生涯学び考える方になっていただくお手伝いをできたらとてもうれしいと考えて、力不足ながら、私は教員をしています。

地球環境の危機が日々実際にあることやいまだに戦争があるということだけでも、先人や私たち大人の考え方がどこか、おそらくかなり根本的なところで間違っているということなのでしょう。受動的にしか学ばず考えずにいると、知らないうちにそれに加担してしまうことでしょう。

ですから、まずは健康的な生活を基礎に、科学技術はもちろんそれ以外にも興味を持ち、読書をし、自身の見かたと自身の行動を培うことが必要ではないかと、私は考えています。

関口 明生
Akio Sekiguchi

  • 木更津工業高等専門学校 電子制御工学科 准教授

関口 明生氏の写真

2006年3月 木更津工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2008年3月 木更津工業高等専門学校 専攻科 制御・情報システム工学専攻 修了
2010年3月 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 博士課程前期 修了
2011年3月 筑波大学大学院 システム情報工学研究科 知能機能システム専攻 博士課程後期 早期修了
2011年4月 東京都立産業技術研究センター 事業化支援本部 研究員
2013年4月 木更津工業高等専門学校 電子制御工学科 助教
2019年4月より現職

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