インタビュー

日本の工業製品は安全ではない!?安全かつ高性能な製品をつくるための研究とは

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大学院から現在に至るまで安全工学を研究されている久留米高専 機械工学科 准教授の南山靖博先生。日本の工業製品を、より世界に普及させるためには何が必要なのか、安全の重要性についてお話を伺いました。

人々を守る安全工学とは

―ご研究内容を教えてください。

MRブレーキの写真。
MRブレーキ

私が研究しているのは「システム安全工学」という分野になります。一般的に機械というのは、危険性が高いものでも、熟練者の技術によって事故なく扱えています。それを一般の老若男女が扱えるようにするには、構造と制御面で確かな安全性を確保しなければなりません。そこで、設計の段階から十分安全に配慮することで、安全かつ高性能な製品をつくるための研究をしています。

日本では意外と「性能が良ければいい」という製品が多くあるんです。世界的に見ると安全性が高くないために、日本の製品を海外に輸出できないという事例も出ています。そのため、この研究は日本の工業分野において重要な役割があります。

現在は、おもにMR流体の研究をしています。MR流体というのは、簡単に説明すると油とナノレベルの砂鉄を混ぜた液体なんですが、磁場をかけると砂鉄同士がくっつくので、磁場の強さに応じて固体に変化していきます。私はこれを使って伝える動力の強さを調整したり、切り換えたりすることで駆動するロボット制御について研究しています。

ここでいうロボットとは、人間と同じ場所で作業し、ときには人間と接触した状態で仕事をする「人間共存型ロボット」です。「産業用ロボット」であれば、フェンスなどで人間と機械を完全に分けておけるので、いくら暴走しても人間に危害は加わりません。一方で、家庭用や介護用などの「人間共存型ロボット」は、ちょっとした暴走ですぐ人にけがをさせてしまうので、安全性の基準がより厳しくなります。そこで、ロボットをMR流体で駆動させると、設定した動力以上では滑るため、人間に大きな力が加わらないというメリットがあります。

―安全工学はさまざまな産業や技術に活用されているんですね。他にはどのような研究を?

エレベーター制御の概略図
エレベータ パッシブダイナミック制御(PDC)

エレベータを中心に研究していた時期もあります。エレベータは、一般的にはモータですべてを動かす仕組みなのですが、それではモータの暴走などで危険を伴う可能性があります。そこで、根本的に構造を変えて安全性の高いエレベータの開発研究をしていました。具体的には、「定荷重ばね」というものを使用しました。

普通のばねは引っ張ると、張力が強くなっていくのですが、「定荷重ばね」であれば、機構のみでどれだけ引っ張っても常に一定の張力を保ち、張力を調整できます。そこでエレベータのカゴとカウンタウエイトをロープでつなぎ、滑車に掛け、カゴの下から「定荷重ばね」で引っ張りバランスを取ります。そして、移動する場合はアンバランス生成用の「定荷重ばね」の張力を変更し、ロックを解除すると力のアンバランスだけで移動します。移動中は外から全くエネルギーを与えません。

つまり、止まっている状態ですべての制御を行って、あとは開放しているということです。そのため、移動中に停電になったとしても、目的の階まで移動することが出来るので、エレベータ内に閉じ込められる事故を防ぐことができるんです。

また、アンバランス生成用の小型の「定荷重ばね」でアンバランスを生成することで、正確・安全なアンバランス力を簡単に生成することができます。そして、「定荷重ばね」をそれぞれ、カゴの下・カウンタウエイトの上に設置することでばねが壊れ張力が失われた場合は、上昇して停止するようにしています。下降する落下後の急停止に比べ、上昇して急停止する衝撃の方が人体に危害が少ないことを実験により検証した結果、このような構造にしました。

―この研究を始めたきっかけは、なんでしたか?

杉本先生と南山先生が映った写真。
杉本先生(写真:左)と南山先生(写真:右)

修士で入った研究室が北九州市立大学と共同研究をしていて、当時、北九大におられた安全工学の第一人者である杉本旭先生と出会いました。それまでは安全工学という分野すら知りませんでしたが、杉本先生から安全とはこういうものだというお話を聞き、安全工学という新しい分野に興味を持ちました。

そして、これから日本の製品をもっと世界に普及させていくためには、安全工学という分野の知識を取り入れていかなければと感じ、やってみたいと思いました。そこから、安全工学の研究を始め、修士の間は九州大学で授業を受けて、北九大で研究をするという生活をしていましたね。

高専時代のすべてが楽しくて高専の教員へ

―先生は呉高専をご卒業されていますね。高専を目指したきっかけはなんだったのでしょうか?

呉高専時代に奈良に友達と旅行に行った時の写真。
呉高専での学生時代(奈良県)

幼いころから工作が好きで、図書館で本を借りてきて、紙で写真の額縁や動物をつくって飾ったりしていました。木を使った工作なんかもしていましたね。

ですが、当時は広島市に住んでいて、呉市からは少し離れていたこともあり、中学2年生までは呉高専の存在を全く知りませんでした。中2の終わりくらいですかね。母親から呉高専という理数系のエンジニアを育てる学校があるらしいということを聞き、初めて高専を知りました。もともとモノづくりに関心があり、理数系も得意だったため、そこから高専を目指すようになりました。

学生時代の高専祭での出店。(イライラ棒)
呉高専での学生時代(高専祭・イライラ棒の製作)

―そこから高専教員になったきっかけは?

修士1年の終わりくらいに就職活動を始めようかなと思っていました。その時に杉本先生からの「ドクター来るんだよね?」という冗談半分の話が、「君はドクターに来て、この研究を続けるべきだ」という真剣な話になり、博士か就職かを迷うようになりました。そこで、博士に進んだ3年後の将来を想像し、昔から人に教えるのが好きだったこともあり、博士に進んでから大学や高専の先生になる道を考えるようになりました。また、高専の5年間は、思い返すと勉強も部活もすべて充実していて、私の中で一番楽しい時間だったので、大学よりは高専で若い子たちに基礎から技術を教えたいという気持ちがあり、将来高専の先生になることを杉本先生に伝え、博士に進みました。

就職活動では、高専ばかりを選んで願書を送り、現在の久留米高専に着任することが出来ました。着任したての頃は、学生のときの気持ちでいたのですが、教員として入るとそこは全く違う環境でした。高専に5年間通っていましたが、ある意味、高専のことは全く知らなかったと言えるかもしれませんね。

―現在はサッカー部とロボコン部の顧問をされているんですね。

中学サッカー部の時のチームメイトとの写真。
中学でのサッカー部(写真:左から2番目)

はい。私はもともとロボコン部に入りたくて高専進学を選んだのですが、当時は1つの部活にしか入ってはいけないという規定があったんです。そのため、小学校からやっていたサッカー部を選び、ロボコン部には入りませんでした。それが今、教員になってサッカー部とロボコン部の両方の顧問ができているので、楽しいですね。クラスマッチのときは学生と一緒にサッカーをしたりしています。

ちなみに、サッカー以外にも、平日の昼休みには毎日バドミントンをしています。正午になったら素早く昼食を取り、40分ほどひたすらダブルスの試合をしています。時々バド部の学生に入ってもらったり、オープン参加の大会に出場したりしています。

ロボコン部の学生とイベントをした時。
ロボコン部(二足歩行ロボット)

―お子さんもモノづくりがお好きだったりするんですか?

息子は今マインクラフトにはまっていて、私も一緒にやろうと言われてやっていたんですが、何をやったらいいかわからない状況で…(笑)。 試しにマインクラフトの大会に息子が参加したところ、賞を獲得し、息子共々びっくりしました。

また、ロボットのイベントがあれば、積極的に連れて行って、幼いころからロボットに触れさせていました。その甲斐あってか、今では息子も「高専のロボコン部に入りたい」と言っていますね(笑)。

人間共存型ロボットで世界を豊かに

―先生の今後の目標を教えてください

安全工学という分野は、安全安心なロボットなどの工業製品をつくるためにあります。そのため、これからも若い世代に伝えていき、安全の知識を身に付けた新たな技術者を生み出し、活躍してもらいたいです。

そして、自分の研究成果が元となった安全な人間共存型ロボットが世界に普及していったらいいなと。ロボットが普通に家にいる、しかも力仕事などをしてくれて、生活がどんどん楽になるというような、これからの世界に貢献していきたいと思っています。

南山 靖博
Yasuhiro Minamiyama

  • 久留米工業高等専門学校 機械工学科 准教授

南山 靖博氏の写真

2002年 呉工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2004年 九州大学 工学部 機械航空学科機械コース 卒業
2006年 九州大学大学院 知能機械システム専攻 修士課程修了
2009年 北九州市立大学大学院 国際環境工学研究科 博士後期課程修了
2009年 久留米工業高等専門学校 機械工学科 助教
2015年 有明工業高等専門学校 機械工学科(高専間交流)
2016年 久留米工業高等専門学校 機械工学科 講師
2017年 同上 准教授

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