鈴鹿高専を卒業後、豊橋技術科学大学へ進学し、現在は徳島大学で講師を勤められている西村良太先生。高専時代から大学院までの学生生活の思い出や、ご自身の音声認識研究、また「ホワイト研究室」を目指す講師としての取り組みについて伺いました。
テストで100点を取る、短期集中型の勉強
―西村先生が鈴鹿高専に進学されたきっかけを教えてください。
高専はロボコンをテレビで見ていたので知っていました。中学3年生の時に、高専の文化祭を見に行ったんですよね。その時にすごく学校の雰囲気が良かったことが印象に残りました。
もともとコンピューターに興味があり、情報系が学べる学校に行きたかったんです。また、高専に通うとしたら寮生活をすることになるので、それも楽しそうでした。また、私は理系科目の成績はすごく良かったのですが、文系科目はほぼ0点で。「理系科目だけ勉強ができればいいよ」という噂を聞いたことも決め手になりましたね(笑)
―鈴鹿高専に進学されてみて、いかがでしたか。
寮生活がすごく厳しかったことが印象に残っています。朝と夜に点呼があり、22時半に消灯したら鍵が閉まり、外には出られない。冷蔵庫に食べ物を入れていたら、みんなに食べられてしまうこともありました(笑)
私は幸い、先輩や同級生と仲良くなることが得意だったので、人間関係に悩むことは少なかったです。いつも友達と一緒だったので、勉強したり、夜中に話したり、楽しかったですね。
高専時代はけっこう成績が良かったんです。5年間学級委員長をしていて、いつも一番前に座っていました。短期集中型だったので、テスト期間に集中して勉強して、100点を取っていましたね。倫理社会の授業では、先生にマイクを付けて授業をしてもらって、その音声をMD(ミニディスク)で録音して、みんなに配ってテスト勉強をした思い出があります。
-高専時代はどのような部活に所属されていましたか。
コンピューター部に所属していました。泊まり込みで3日間プログラミングをするという、スポ根アニメのようなスパルタさでしたね(笑)
毎年、文化祭用にゲームをつくっていまして、フラッシュ暗算ができるゲームを開発したことがあります。30秒間で何個答えられるかを競うゲームなんですが、ものすごい人気が出ました。
また、高専プロコンにも出場しました。運営側からパズルゲームのような課題が出て、それを解くゲームをつくるのですが、自分は得意でしたね。同学年が4人ほどいまして、みんなで協力してプログラミングした思い出があります。
音声認識の権威のもと、大学院でも研究を続ける
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
桑原先生の研究室で音声認識の研究をしました。今の研究にもつながっているのですが、当時はMP3で音楽を共有したり、CDからMP3に変換したりする技術が始まった頃で、興味があったんです。
最終的には、ラジオの放送を書き起こしてテキスト化し、その中の特定の言葉を検索できるようなプログラミングをつくりました。本当は自分で一から実装したかったのですが、やることが無限にあったので、使用したプログラム自体は既存のものです。
桑原先生は学生の卒論の手伝いなどをすごく献身的にされていたのですが、「西村君は手伝わなくてもできるでしょ」と言っていただいたので、1人で最後まで走り抜けました。上手くまとまって良かったです。
―その後、豊橋技科大に進学されているんですね。
ゼミに入るとき、指導教官の中川先生に「僕は博士課程まで行きます」と宣言したんです。中川先生は「ドクターまで研究できるテーマにしよう」と言ってくださり、音声対話システムの研究が始まりました。
計画としては、学部4年生の時に「システム側から相槌を打つ、タイミングを制御する」システムをつくり、大学院1年・2年生で、「それを音声対話システムに組み込む」ことをやろうと考えていたのですが、高専時代にスパルタなプログラミング指導を受けていたおかげで(笑)、大学院1年生の前期の頃には音声対話システムを動かすことに成功していたんです。
なので、博士課程のときには、システム2人とユーザー1人で対話すると、どんなおもしろい対話ができるかをいくつかシステム化しました。
私が注力していたのは「会話の全体のリズム感」です。例えばSiriに話しかけても、ぐるぐるとタイムラグが起きるじゃないですか。それは通常友達と話している時のテンポ間とは違いますよね。その「間の長さ」を制御するところにこだわりました。
中川先生は日本における音声認識や音声処理の権威で、自分が今までに読んだ本の何ページにどんな内容が書いてあるかまで覚えている先生なんですよ。教えていただいた雑誌の該当ページをめくると赤ボールペンで線が引いてありましたね。パワフルでおもしろい先生のもとで、ずっと自分が好きな研究ができて楽しかったです。
目指すは日本屈指のホワイト研究室
―現在は徳島大学に勤められています。
実は中学生の時から「先生になる」のが夢だったんです。なので、博士課程まで進学する決意もできていたんですが、研究もできて、教師もできる職に就きたいとずっと思っていました。
教育方針としては、本当は「自分にも厳しく、他人にも厳しく」ありたいんですが、徳島大学に移るきっかけをいただいた北岡先生(現:豊橋技科大学 教授)の研究室が、日本屈指のホワイト研究室なので、それを目指して日々活動しています。
学生と一緒におもしろいことができたらとは思っています。まずは私生活が一番優先されるべきで、体調を崩してまで研究はしなくていいはずです。メリハリを付けて研究環境を整えていますね。
授業中は、最近のホットトピックを授業の最初に絶対紹介しています。学生のテンションをそこで上げて、授業に入っていくやり方を取り入れているんです。
また、学生には毎回アンケートを取るようにしているんですが、そのアンケート内容も工夫しています。まず学生にどんな内容でアンケートしてほしいか聞くと、「就活の悩み」や「徳島でおすすめのラーメン屋」などいろいろ出てきます(笑)
それを毎回アンケートで取り入れると、みんな真面目に答えてくれるようになるんですね。今回の授業でよかったところと直してほしいところを自由筆記で書いてもらうようにしていて、そこで出たことに対しては、全部漏れなく対応するようにしています。
授業中に分からないところなどは聞けないだろうということで、それもアンケート用紙に書いてもらえれば、次の授業の最初で解説するので、授業を重ねるごとにアンケートが「満足です」という内容になります。学生と一緒につくっていく授業は楽しいですね。
―現在の研究について教えてください。
音声対話システムを主軸にしていて、音声認識や音声合成、応答のやり取りを自分でつくるなど、やりたいことは山積みです。ChatGPTのおかげで、自然な状態の応答ができるようになってきたので、今は会話のテンポに注力した研究を続けています。
現在は静かな環境で綺麗に話せば、音声認識はほぼ100%できるようになっていると思うんですが、友達と盛り上がっているテンション感で話すと発音もくだけるので、音声認識がうまくいかなくなりますよね。今私が目指しているのは、そのあたりの音声認識率を上げることです。
ここ数年で音声認識や音声合成などすごく進化しているのですが、1つの分野で学会が1つ立ち上がるほど大きな分野なので、たくさんある課題を1つずつ解決していきたいと思っています。
―最後に、現役の高専生へメッセージをお願いします。
高専は普通科高校に進むより絶対に楽しいですし、自分の好きなことを伸ばしきることができる環境だと思うので、その環境をフルに使って、自分の経験値をアップさせてほしいです。
あとは面倒くさがらずに、いろいろと手を付けてみることですね。「何をやっていいか分からない」という人が、自分の好きなことだけやろうとしても、もともとのパイが狭いので、その中から選ぼうとするのは大変かもしれません。ですから、嫌いなことや、普段自分がやらないこともたくさんやってみると、だんだん自分の好きなことが見えてくると思いますよ。
西村 良太氏
Ryota Nishimura
- 徳島大学 社会産業理工学研究部 講師
2003年3月 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 卒業
2005年3月 豊橋技術科学大学 工学部 情報工学課程 卒業
2007年3月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 修士課程 情報工学専攻 修了
2010年3月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 博士後期課程 電子・情報工学専攻 修了
2011年1月 豊橋技術科学大学 研究員
2011年2月 名古屋大学大学院 技術補佐員
2012年4月 名古屋工業大学 特任助教
2015年4月 慶應義塾大学 特任助教
2017年4月 徳島大学 特任研究員
2018年10月より現職
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