高専教員教員

非破壊検査で水素エネルギー社会の普及を目指す。変わりゆく高専の中で考える「存在意義」

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました
公開日
取材日
非破壊検査で水素エネルギー社会の普及を目指す。変わりゆく高専の中で考える「存在意義」のサムネイル画像

電磁気現象を利用した非破壊調査の高度化など、さまざまな研究を行っていらっしゃる鈴鹿高専の板谷年也先生。高専生の頃から20年以上、高専と関わっていらっしゃいます。そんな板谷先生に、GEAR 5.0も含めた研究内容や、高専の今と昔などについて伺いました。

良いものを長期にわたって使い続けるための技術

―先生が研究対象に据えている1つ「非破壊検査」とは、どんな検査でしょうか?

物を使い続けると劣化や傷が生じてしまうのは仕方のないことですが、壊さずに中の状態を知ることができれば、新しく物をつくる必要もなく、安全に使い続けることが可能になりますよね。それを実現するのが非破壊検査です。

非破壊検査の方法はいろいろあり、それぞれが一長一短です。私の場合、磁界解析を用いた非破壊検査の方法について研究を続けていました。磁界による非破壊検査では、電気信号でデータを取ることができるため、センサと親和性があり、調査結果を活用する際などで便利になるというメリットがあります。

X線CTによって水素配管き裂の内部を観察している様子
▲X線CTによって水素配管き裂の内部を観察
モニターに映し出された、X線CTによって観察した、水素配管き裂の内部の結果
▲X線CTによって観察した、水素配管き裂の内部の結果

非破壊調査について関心を持つようになったのは、徳山高専で技術職員をしていた頃、徳山高専と宇部高専の先生に師事していたことがきっかけです。そこから20年以上に渡り、非破壊調査に関連する研究は続けています。

ガス溶接講習を行う板谷先生
▲徳山高専の技術職員のころ、ガス溶接講習を行う板谷先生

―高専機構の教育研究プロジェクトである「GEAR 5.0」にも関わっていらっしゃいます。

鈴鹿高専がエネルギー・環境分野の協力校であることから、私もプロジェクトに関わるようになりました。現在取り組んでいる主な研究としては、水素インフラ設備の水素脆化によるき裂のリアルタイム非破壊モニタニングです。この水素インフラ設備の水素脆化によるき裂のリアルタイム非破壊モニタリング開発補助事業は、競輪の補助を受けています。

水素は近年トレンドワードとなっており、各高専でもそれぞれの分野で研究が行われています。私が取り組んでいる水素き裂を対象とした研究が始まったのは2年ほど前からです。

水素配管き裂の試験片を製作している様子
▲内圧模擬疲労試験にて、水素配管き裂の試験片を製作(佐世保高専)

GEAR 5.0では、「ニーズプル型の研究(※)」が進められており、それまで面識のなかった研究者同士が1つのテーマのもとで集い、短期的に合同で研究を進めていきます。研究の進め方として初めてだったため、当初は恥ずかしさなども感じていましたが、最近ではニーズプル型の面白さも感じるようになりました。

※社会的課題の解決を目指すために進められる研究を指す。対照的な言葉としては「シーズプッシュ型の研究」があり、萌芽的な技術を発展させる場合のような、技術主導で進められる研究開発を指す。

水素インフラ設備の非破壊調査は、これまで行われていた事例がありませんでした。というのも、水素設備は通常の金属設備と比べ、水素脆性が問題となります。よって、水素き裂という事象に対してもさまざまな条件が存在しています。元々少ない分野の中で、さらに少ない事象を取り上げた結果、新たな事例をつくることができました。

KOSEN水素フォーラム2022の看板の前で写真に写る学生さん2人
▲板谷研究室の学生が、KOSEN水素フォーラムで研究発表

―さらに、水素ロボコンが昨年開催されていたようですね。

はい、正式名称だと「水素インフラ配管深傷ロボットコンペティション」になります。奈良高専で開催されました。参加校には、佐世保高専、久留米高専、奈良高専、鈴鹿高専(ともにGEAR 5.0 エネルギー・環境分野の拠点校と協力校)があり、高専ロボコンの規模までとはいきませんが、充実したコンペになりましたね。

コンペのコンセプトが、レゴを使い、自由な発想のもとでロボットづくりを行うことだったのですが、学年や専攻を超えてさまざまな学生が参加してくれたことにより、発想に富んだアイデアがたくさん出てきました。

ロボットを調整中の学生さん
▲水素ロボコン2023にて、ロボットを調整中の鈴鹿高専の学生

このコンペもGEAR 5.0の関連事業になっているのですが、新たなイベントに対しても学生が意欲的に参加するようになれば良いなと思っています。鈴鹿高専では、ロボコンなどメジャーなイベントでは学生も参加しやすい体制になっているのですが、マイナーなものに対しては、まだ未知数ですね。

―先生はそのほかにも、高温環境下での検査システムについて研究されているのですか?

電磁気現象を軸とした非破壊検査の延長線上で、高温環境下での検査システムについても研究開発を始めました。この研究開発は、NEDO若手サポート事業の一環として始まったものです。私の事業自体は間も無く終了してしまうのが、残念なところですね。

スマート渦電流センサによる新検査システムの開発にて、実験システムを構築している様子
▲スマート渦電流センサによる新検査システムの開発にて、実験システムを構築

なぜ、あえて高温環境下を含めたかと言いますと、現在検査を行っている環境の中には、あまりにも高温でそもそも人が立ち入るようなことができない場所が存在しています。そのような環境下においても検査というのは絶えず必要なため、開発が行われるようになりました。

―産学官連携での研究についても教えてください。

「切削研削加工技術の追求と自動化やデジタル技術導入によるスマートファクトリー実現の研究開発」があります。デジタル化の進化に伴い、工場もそれに対応するためにはどうすればよいか、というところが出発点になっています。

元々は地域企業との連携事業で始めていたものになりますが、学生も積極的に参加するようになり、近年ではこの分野で起業を行おうと試みる学生も出てくるようになりました。

ロボットを操作する学生さんと、企業の方々
▲板谷研究室の学生と企業の技術者が、スマートファクトリー実現へ向けて研究開発

ただ、学生起業に関して、鈴鹿高専ではまだ活発な動きは見られていません。おそらく、起業に対する教育や風土などの影響もあるのでしょう。本校は、今ある企業や事業に対してスマートに馴染んでいこうとする学生が多いように感じますね。それもまた良いことだと思います。しかしながら、今後、本校のスタートアップ事業により活発になると思います。

今だからこそ、創造的な活動をし続ける高専教員として

―現在までの経歴について、きっかけを教えてください。

鈴鹿高専の電気工学科を卒業後、そのまま同校の専攻科へと進学しました。公務員になろうと思っていたので、技術を生かして仕事ができる徳山高専の技術職員として採用していただきました。

体育館でバドミントンをしている板谷先生
▲徳山高専の技術職員のころ、趣味のバドミントンを行う板谷先生。現在まで20年間継続されています

その後、技術職員として働いているうちに、もっと学生と近い距離で教育に踏み込んでみたいと思うようになっていきました。そのことを当時お世話になっていた徳山高専の先生に相談したことが、教員になる転機となっています。

その後は、徳山高専に技術職員として在籍しながら、高専の先生のもとで研究活動を行わせてもらいました。その後、山口大学に入学し、博士課程を修了したのち、鈴鹿高専の教員になりました。

スライドを見ながら発表する板谷先生
▲博士論文公聴会にて、恩師の前で発表(2013)

―長く高専と関わり、変化したと思うことはありますか?

もちろん、いろいろあります。中でも、教員、教育の質と学生支援の手厚さについては特に変わったなと感じますね。

昔は博士の学位を持たなくても教員になれましたが、現在では難しいです。また、専門知識だけではなく、社会に適応した知識の習得も求められるようになっています。英語教育なんかもどんどん力を入れているのではないでしょうか。

上海で写真に写る板谷先生
▲中国の常州信息職業技術学院へ学生を引率した際、上海にて

そして、何よりも学生支援に対する高専の姿勢が、昔よりはるかに向上したように感じます。私が学生だった当時は、進路に対して高専からサポートを受けている感じはそこまでありませんでしたが、今ではキャリア支援室なども整備されて、厚いサポートが受けられるようになっています。

―学生についても変化を感じますか?

それが難しいところでもあると思います。私が学生だった頃の鈴鹿高専では、やんちゃな学生が多かったですが、その分みんな馬力があったので、頑張る学生が多かったです。決して今の学生が頑張っていないわけではないですが、スマートな学生が増えた分、馬力のある学生は減ってしまったように感じますね。

ですので、私は指導の際、手取り足取り教えてはいません。教員が学生に対して過保護になりすぎてしまうと、学生は考えることをやめてしまいますので。丁寧な指導を行っている教員が多数いらっしゃるのであれば、私は適切な助言はしますが、あえてそのような指導は行わないようにしています。

東大寺で学生さんと写真に写る板谷先生
▲国際会議ICIIBMS(International Conference on Intelligent Informatics and BioMedical Sciences)2022で発表した板谷研究室の学生と一緒に東大寺へ

―今後の活動の方針について教えてください。

これまでは限られた範囲の中で貢献する研究が多かったのですが、今後に関しては外部との関わりにさらに目を向けて活動を行っていきたいです。

学生と取り組む研究としては、地元の名品である伊勢うどんの長さのギネス記録に挑戦し、学生と一緒に地域創生に取り組んでいきたいと思っています。

うどんをのばす学生さん
▲伊勢うどんの研究に取り組む学生

また、世の中の動きにも徐々に合わせていく必要があると感じています。先ほど、研究事例として挙げたスマートファクトリーのように、DXやAI技術の導入にも積極的に取り組んでいきたいです。

デジタル化やスマート化が進んでいくことによって、私たち人間がこれまでこなしてきた仕事は少しずつ減少してしまいますが、研究者として創造的な活動を行うことはロボットにはこなせないことです。ですので、創造的な活動をし続ける高専教員として、世の中での存在意義をつくっていく必要があると思います。

トロフィーや表彰状を持つ学生のみなさま
▲板谷研究室の学生が、高専ワイヤレスIoTコンテスト2022で成果発表

―最後に、月刊高専を読む学生達にメッセージをお願いします。

現役高専生には、一言。どんどん挑戦してみてほしい。

そして、高専を目指す中学生は、メディアなど高専を知る機会を通して、高専のことを好きになろうとしてみてください。好きになれば、高専に入りたいという意欲が湧くと思います。その意欲を忘れず、高専にぜひチャレンジしてください。

ソフトボールチームの皆さんと
▲趣味のソフトボールのチームで集合写真

板谷 年也
Toshiya Itaya

  • 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 准教授

板谷 年也氏の写真

2000年3月 鈴鹿工業高等専門学校 電気工学科 卒業
2002年3月 鈴鹿工業高等専門学校 電気工学科 専攻科 電子機械工学専攻 修了
2002年4月 徳山工業高等専門学校 教育研究支援センター 技術職員
2006年4月 鈴鹿工業高等専門学校 教育研究支援センター 技術職員
2012年10月 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 助教
2013年3月 山口大学大学院 理工学研究科 物質工学系専攻 修了、博士(工学) 
2015年4月 鈴鹿工業高等専門学校 電子情報工学科 講師
2017年4月より現職

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました

鈴鹿工業高等専門学校の記事

学生時代の経験が、現在の礎に。鈴鹿高専が進める「GEAR5.0」や、「ものづくりDX」とは。
鈴鹿高専兼松教授
全国の高専をまとめた仮想研究所?「GEAR5.0」プロジェクト
黒飛先生
偶然から始まった大学生活。鈴鹿高専で働くことになったきっかけは「ドラえもん」!?

アクセス数ランキング

最新の記事

日本初の洋上風力発電所建設を担当! 「地図に残る仕事」を目標に今後も再エネ発電所建設を行う
大切なのは初心を貫く柔軟な心。高専で育んだ『個性』は、いつか必ず社会で花開く!
自然のように、あるがまま素直に生きる。答えが見えない自然を相手に、水の未来を考え続ける