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高専生から感じた「強い意欲」と「ハングリー精神」。長く活躍するためにも「人類のフロント」を知ってほしい!

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地球化学・環境化学・放射化学をご専門とされている東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の高橋嘉夫先生。日本放射化学会主催の討論会で聞いた高専生の発表に大変驚かれたとのことです。高専生のすごいところや、研究内容、研究において大事なことなどをお伺いしました。

放射化学の研究は今も盛ん!——しかし人材が不足

―先生と高専とのつながりを教えてください。

私は理学研究科との併任で東京大学アイソトープ総合センター(以下:ISC)のセンター長を務めているのですが、特に秋光信佳教授が進める「復興知」事業を通じて、福島高専などと連携を深めています。

アイソトープ総合センターの前で写真に写る髙橋先生
▲東大アイソトープ総合センター(ISC)のメンバー。ウイーンの国際原子力機関(IAEA)のJalilian博士が、2022年9月の放射化学討論会時にISCを訪問された時の写真。右から1、3、4、5、8人目が和田洋一郎教授、秋光信佳教授、高橋先生、Jalilian博士、松尾基之特任教授

ISCはアイソトープ(同位元素)に関わる先端的の研究開発や、放射線災害地域に対する支援、学内及び学外の放射線取扱者の教育訓練を行っていまして、2011年の福島第一原子力発電所事故後の放射性核種の挙動調査や復興支援などを通じて、高等教育にも関わっているんです。

「復興知」事業としては、例えば夏に東京大学の学生が福島高専に赴き、高専生と一緒に野外調査をしたり、現在タイムリーな課題に関して討論したりして、学びを深めています。秋光先生もおっしゃっていましたが、重層的な人材としての「ミルフィーユ人材」の養成が目標です。

―高専などと連携するようになった背景は何でしょうか。

スライドを見せながら説明する髙橋先生
▲放射化学討論会で実行委員長として挨拶をする高橋先生

もともと私の専門分野の1つである放射化学は、研究者人材がどんどん減ってきているんです。この分野で最も有名なキュリー夫人(※)は世間的な認知も高いですし、1960年代や70年代は原子力研究で活発だったのですが、原子力へのイメージは次第にネガティブなものになってきました。

※キュリー夫人:マリー・キュリー。1867-1934。ポロニウムやラジウムといった新しい元素(放射性元素)を発見。1903年にノーベル物理学賞、1911年にノーベル化学賞を受賞しており、ノーベル賞を2回受賞した初めての研究者としても知られる。

実際は日本人チームによる新しい元素(ニホニウム)の発見や、小惑星探査機「はやぶさ2」での研究、核医学の研究など、今でも活発です。核医学に関しては、ラジウムを投与すると前立腺がんがほとんど副作用なく治ることが分かり、世界にその治療法が広まっています。

ラジウムによる前立腺がん治療に関する資料
▲ラジウムによる前立腺がん治療に関する資料。左上はマウス実験の結果を表しており、黒い影(がん)がラジウムの投与によって消えているのが分かります(東京大学アイソトープ総合センターの秋光教授作成のスライドより)

このように今でも注目されている分野なのですが、様々な大学で同分野の研究室が少なくなってきているので、人材確保と育成が大きな課題になっているんです。

福島高専生と出会って感じた「意識の高さ」

―理学全般で考えると、研究は盛り上がっているのでしょうか。

東大本郷キャンパス理学部1号館の居室で座る髙橋先生
▲東大本郷キャンパス理学部1号館の居室での高橋先生

それを簡単に調べるには論文数を見ればよいのですが、日本はどんどん少なくなっています。文部科学省の調査によると、2018~2020年の「質の高い科学論文数(多くの研究者に引用された論文数)」の年平均は12位となっており、中国(1位)やスペイン(10位)、韓国(11位)よりも下位にいます。ちなみに、2004~2006年は4位でした。

そして、「論文数の減少」と相関関係にあるのが「ポスドクの人数」、ひいては「博士号を取得した人数」です。現在、学会によっては学会員がピーク時の半分になっているところもあります。少子高齢化で若者の数が減っていることもありますが、減り具合を考えると、理学研究者を志す人そのものも減ってきていることが分かるのです。

今の子どもの将来の夢では「スポーツ選手」や「YouTuber」などが上位に来ると思いますので、その理由も分かります。ただ実は、2010年に行った40歳以上の3千人余を対象とした朝日新聞のアンケート「生まれ変わったら就きたい職業」では、「大学教授・研究者」が1位でした。そして、2019年のアンケートでも同様に1位だったんです。

実験室にて学生さんと写真に写る髙橋先生
▲とある日曜日にラボにいた学生さんと実験室にて(左から2番目:高橋先生)

日本は研究力で生きている国なので、このまま研究者の減少が続くのはまずいと思っています。ただ、高専生は企業に就職する人が多いものの、後々あこがれの職業になるかもしれない「大学教授・研究者」へのルートにも乗っていると言えますよね。高校生含め、大学に入学する前の高専生と関わりを持つことは重要なのです。

―実際に高専生と関わってみた際の印象は、いかがでしたか。

今年の9月15~17日に私が実行委員長として開催した日本放射化学会主催の「日本放射化学会 第66回討論会(2022)」のポスターセッションで、福島高専と磐城高校の高専生・高校生に発表いただいたのですが、皆さん、いい意味でとても意識が高く、今の日本が抱える様々な問題や、それに向かって自分がどうアプローチをすればよいか、などを考えている学生さんもいて、本当にびっくりしました。

高校生・高専生と写真に写る髙橋先生
▲放射化学討論会で優秀発表賞を受賞した高校生・高専生と共に(右端:五十嵐康人放射化学会長;左端:高橋先生)

東日本大震災および福島第一原子力発電所事故が起こったころ、参加した学生たちは8歳ぐらいです。ですので、原子力に対してネガティブなイメージを持って育っているのかなと思っていました。

しかし、実際は異なり、廃炉などといった今後の課題を自分たちの手でやり遂げるという強い意欲やハングリー精神を感じたんです。「すごい人材が揃っているな!」と思いました。

そして、高専についていろいろ調べてみると、それは福島高専の学生に限らず、高専生そのものの特徴だということが分かったんです。社会と近い距離で勉強・研究を15歳から行っているわけですから、意識が高いのも納得できます。

放射化学討論会での高専生のポスターの内容そのものに関しては、一般的な日本人と現地住民の間にある福島への意識のギャップなどといったフィールドワーク的な内容が多かったかと思います。学会の参加者はほとんどが理系研究者ばかりでしたが、みなさん高専生のポスター発表を高く評価していました。情報発信手段としてのSNSに言及している発表もあり、個人的にはそこにも驚きましたね。

東京大学の学部レベルでも、推薦入試などで高専生の進学をプロモートすべきだと、今回の経験を通じて思いました。

「人類のフロント」を前に進めるのが、研究者の役割

―先生ご自身は、どのような研究をされているのでしょうか。

分野としては地球化学・環境化学・放射化学です。社会実装に近い例としては、例えば「レアアース資源の開発」があります。レアアースはレアメタル(希少金属)の一種で、スマートフォンの製造や省エネ家電、次世代自動車などで使用されるものです。最近だと、風力発電での利用もありますね。

山口様と髙橋先生
▲パリで開催された地球化学分野で最大の国際会議Goldscmidt 2017にて、当時の修士課程学生(山口瑛子さん(写真左)、現・日本原子力研究開発機構 研究員)のポスター発表の様子(2017年8月)。内容は、地球表層でのセシウムやレアアースの挙動に関する研究紹介

私は化学的な観点から、気候・地形などを鑑みて、その場所にどれほどレアアースが埋蔵されているか予測する方法を開発してきました。そして、実際に探索してみると、世界シェア1位の中国(米地質調査所(USGS)によると、2020年の生産量は世界の58%)に匹敵するほど、滋賀県や広島県にレアアースがあることが分かったんです。海外に目を向けても、オーストラリアやアイルランドにも多くのレアアースがあることが予測されています。

自然の中でのレアアース調査
▲スリランカでのレアアース調査(右:高橋先生)

次世代技術で頻繁に使用されるレアアースを中国にかなり依存しているのは大きな問題です。輸出制限によって価格を高騰させ、もともと価格の安い中国のレアアースを世界市場で売ることで、他国のレアアース事業が一気に潰れるケースも過去にありました。だからこそ、レアアース採掘のポテンシャルが日本にあることを示すのは、非常に意味があります。

以前は海底からレアアースを採掘する方法が検討されていましたが、そのコストはかなり高いです。しかし、陸上からまとまった量が採掘できると分かると、かなり前進ですよね。環境汚染の問題を指摘する声もありますが、今日本で見つけているイオン吸着型鉱床はウラン・トリウムなどの放射性元素を含まないのも長所です。

ボートに乗る髙橋先生
▲マジェロ環礁の環境調査(2016年2月)。右奥は当時博士課程学生の伊藤理彩さん(現・阪大 助教)、左奥は当時修士課程学生の武藤俊さん(現・産総研 研究員)

世界の人口増加を見据えた高効率なエネルギー社会づくりやカーボンニュートラルの実現のために、“レア”アースが期待されているのは面白いっちゃ面白いです(笑) 金属資源の分野は、特に国内では衰退の歴史をたどっていましたが、今現在は人材が本当に必要な分野になってきています。放射化学と同じですね。

そのほかにも、大気エアロゾルなどが関係する気候変動問題や放射性核種除去法開発などに取り組む一方で、「はやぶさ2」がもたらしたリュウグウの分析や地球の進化過程などにも取組んでいます。

―研究者として大事なことは何だと考えていますか。

研究の動機として「その研究で社会の役に立ちたいという気持ち」か「その研究が好きだという気持ち」の少なくともどれか1つを持つ必要があると思います。

教え子の方たちと写真に写る髙橋先生
▲博士号をとった2人の教え子と(2020年3月23日)。(右:栗栖美菜子さん(現・海洋研究開発機構 研究員)、左:宮本千尋さん(現・一般社団法人サイエンスエデュケーションラボ(SEL) 副館長)

私自身、高校生のころは環境問題を解決するために研究者になりたいと思っていましたが、いざ研究を始めると、サイエンスそのものを面白いと思うようになりました。ですので、今の私は先ほどの2つをどちらも持っていることになりますし、2つ持てるよう、扱っている現象の基礎的な部分をなるべく大事にしています。

トラックの前で学生さんと写真に写る髙橋先生
▲前任の広島大学から東京大学に移る際の引っ越しにて(後列中央:高橋先生)

なぜなら、興味を持たれやすい応用的分野(プロジェクト)は、だいたい10年間で研究の寿命が終わるからです。実は先ほどの「レアアース資源の開発」も応用的な研究ですが、根幹のところはあと5年間ほどで終わるかなと見込んでいます。新しい発見があれば別ですが……。

研究者人生は30~40年間ですから、興味を持っていきなり飛び込んだ10年間のプロジェクトがいざ終わると慌てますよね(笑) ですが、基礎研究をやっていると、プロジェクトが終わった後も、別の応用的分野へスムーズに移ることができます。これは、技術者に対しても同様のことが言えるのではないでしょうか。

基礎的環境化学の重要性のスライド
▲基礎的環境化学の重要性(高橋先生の講演用スライドより)

だからこそ、学生のみなさんには基礎的な部分をしっかり勉強してほしいなと思います。基礎科学におけるフロンティアの研究は、間違いなく面白いです。そして、そのフロンティアをさらに突き詰めて考えていくと、社会貢献につながるケースが多いです! そうなると、最高にハッピーですよね。

研究者は大小問わず新しいことを発見しないといけません。そして、それを論文として人類のみなさんにお知らせし、「人類のフロント」を進歩させないといけません。我々が現在享受しているモノに溢れ便利な現代社会は、その小さな発見の積み重ねで実現されたものです。こうした1つ1つの知の開拓が、今までも、これからも、人類が発展していく上での唯一のよりどころなのです。

理学研究における「人類のフロント」を説明した資料
▲理学研究における「人類のフロント」(高橋先生の講演用スライドより)

そして、学校は現在「人類のフロント」がどこにあるかを知る場所です。基礎を学ぶことは「人類のフロント」を学ぶことであり、基礎を知らないと応用として新しいことはできません。新しいかどうかの判断もできません。

私の所属する地球惑星科学専攻はもともと応用的な指向が強いところですが、大学院の最初の段階では基礎的な部分を学べる課程にしています。理学部でも2年生後期から専門基礎を学べますし、3年生の前期はその学びにおいてかなり重要な時期です。しかし、その前の段階から基礎を学んでおくと、充実した大学生活を送れると思いますよ。

―最後に、進学を検討している高専生に向けてメッセージをお願いします。

東京大学にはいろいろな先生がいらっしゃいますし、理学部では留学の機会が多いです。また、こうした留学も含め、修士・博士課程の学生には経済的なバックアップ体制を整えています。

先ほどの内容と被りますが、高専生は意識が高いですし、応用に対する感度も高いです。最先端に食らいついていくのは大変なことですが、息の長い研究者(もしくは技術者)としてやっていくためにも、東京大学でぜひ基礎を固め、人生の基盤をつくってほしいと思います。

高橋 嘉夫
Yoshio Takahashi

  • 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授
    東京大学アイソトープ総合センター長

高橋 嘉夫氏の写真

1987年3月 茨城県立土浦第一高等学校 卒業
1992年3月 東京大学 理学部 化学科 卒業
1994年3月 東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻 修士課程 修了
1997年3月 東京大学大学院 理学系研究科 化学専攻 博士課程 修了
1997年4月 日本学術振興会 特別研究員(PD)
1998年4月 広島大学 理学部 地球惑星システム学科 助手
2000年12月 広島大学大学院 理学研究科 地球惑星システム学専攻 助教授
2008年4月 同 教授
2014年6月より現職

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