高専教員教員

迷ったら一緒に考えよう。結果だけにとらわれず、本質を見つめる力を

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山口県 宇部高専の久保田良輔先生は、人工知能やIoTといった最先端の情報工学の研究を続けられています。「昔は勉強が好きではなかった」と話す久保田先生。そんな先生が工学の道を志すきっかけになった数々の出会いを通して、指導への思いをインタビューしました。

勉強は、それほど好きではなかった!?

―小さい頃は、どんな遊びをして過ごしましたか?

正門の前で、卒業生たちと記念写真を撮る久保田先生
宇部高専の正門にて、卒業の記念に撮りました

佐賀県の有田という、自然いっぱいの場所で育ちました。とにかく外で遊ぶのが好きで、夏休みは早朝ラジオ体操に出かけるとそのまま家に帰らず、虫取りなどをして遊んでいました。山や川がすぐ近くにあったので秘密基地づくりや魚釣りも好きでしたね。勉強はあまり好きではなく、中学では成績はそれほど良くなかったんですよ(笑)。

私自身はそれでもいいと思っていましたが、親の勧めで塾へ行くことに。その塾の先生と気が合ったので、塾に行くのが楽しくなり、勉強もするようになりました。先生は工業製品の研究開発の仕事に就いていたことがあり、飛行機の操縦や車のエンジン開発など、勉強以外にいろいろな話をしてくださいました。そこで先生から「将来好きなことをするためにも、まずは勉強を」と教わり、高校へ進学しました。

小さい頃から木工など「自分でつくる」ことは好きだったし、塾の先生の影響で中学時代から工学の道を志していたので、大学受験は工学系と決めていました。当時話題になりつつあったコンピュータについて学びたいと思い、センター試験が終わってから受験先を探したところ、九州工業大学の情報工学部を見つけたんです。全国で初めて情報工学部を設置した大学で、現在でも国立大学では唯一、情報工学部をもつ大学です。

将来に迷ったときに出会った言葉

―大学では、どのような研究をされていたのでしょうか。

PCが並ぶデスクの椅子に座ってリラックスした感じの久保田先生
大学研究室での一コマ、打ち合わせの後

修士までは主に人間の知能について、脳の神経回路の一部を模した数理モデル「ニューラルネットワーク」が専門でした。博士号取得後は、大学時代の恩師の勧めで2年間山口大学に所属し、博士研究員として研究に取り組んでいました。当時からの研究は、計算知能(Computational Intelligence)に焦点を当てている現在の研究にも通じています。

私は博士課程に4年間所属していて、途中なかなか研究がうまく進まず、「博士号が取れないかも」と悩んだ時期もありました。当時の自分の実力だと博士号の取得は難しそうだったのですが、何とか取得することができました。

20代半ばで、まわりは就職したり結婚したりと一人前になっていく時期です。私だけはまだ学生で、周囲の環境とのギャップやプレッシャーを感じていて、誰にも相談せず悩んでいました。中学時代にお世話になった塾の先生から「引っ越すので、塾を引き継いでくれる人がいるといいんだけど」と声をかけていただいていたこともあり、塾の先生になる道も可能性としてはありました。

ある時、研究室の1学年上の先輩に相談したら「自分がやりたいと思うことを、諦めずにやってみたほうがいいんじゃない」と言ってくださり、目の前が開けたような気持ちになりました。面と向かってきちんと感謝を伝えたことはありませんが、今思うとあの時の言葉が大きな支えになったと感じます。

―そこから、なぜ高専の道へ?

教室にて、学会発表を熱心に聴講する久保田先生
学会に参加して熱心に聴講していました

博士課程の後、山口大学での博士研究員は任期が3年と決まっていたので、修行するつもりで研究に取り組んでいました。その先は大学で研究職に就く道もありましたが、ポストはそれほどすぐに空かないし、年齢やタイミングの問題もありました。

本来は3年目で就職試験を受けるところを、練習だと思って試しに2年目に宇部高専の公募を受けたら合格してしまって(笑)。これも縁だということで、大学とも相談して高専で働く決心をしました。「自分の城」が早く欲しかったという思いもありましたね。

私自身は普通高校の出身ですが、九工大には高専からの3年次編入生が多く、周りにたくさん高専出身者がいました。彼らはみんな優秀で、私が高専に就職する時にもいろいろと高専のことを教えてもらいました。ちなみに、昔は知りませんでしたが、地元の有田からだと佐世保高専が通学圏内にありました(笑)。

一緒に考える、やってみる

―研究テーマについて、教えてください。

広いものがほとんどない教室で、カラーコーンなどを立てて、VRゴーグルを付けた鬼ごっこをする学生たち
視点共有カメラを使った鬼ごっこ

私の研究の目的は、「賢いコンピュータをつくること」。研究室では、生体の進化や群れ行動に基づくアルゴリズム(進化的計算法)を重点的に扱っていて、遺伝的アルゴリズムや粒子群最適化法の性能改善、ニューラルネットワークといったテーマで研究を行っています。近年注目されている「IoT」や「人工知能」といった言葉も重要キーワードです。モノを認識する、音を聞きとるなど、人間のように賢くふるまえるコンピュータをつくるのが理想です。

また、学生たちが習得した技術を応用する「KOSENスポーツ事業」にも取り組んでいます。信号・画像処理やパターン認識の新たな応用のひとつとして、スポーツで使う道具の開発にも力を入れています。ICTを使った新しい道具ができればルールも変わります。そこから新しいスポーツが生まれたら、もっと幅広くスポーツを楽しむことができるのではと可能性を感じています。

体育館にて、PCや装置を使ってワークショップをする学生たちの姿
ICTを使ったスポーツ道具開発に関するワークショップの風景

その延長として、宇部高専では、毎年1種目は学生が考案したスポーツがクラスマッチの種目に登場します。前回はドッジボールをベースにした「3色ドッジボール」。サッカーやバスケなどの主要な種目はそのままで、学生たちが毎年新しい種目を考えて取り入れて楽しんでいますよ。

体育館にて、ボールを使って新しい体育種目を行う学生たち
3色ドッジボールの試合風景(クラスマッチ)

―指導するときに大切にしていることを、教えてください。

授業の場合は、ベースになる教科書や理論はもちろんのこと、いかにしてその本質を伝えるかを心がけています。難しい学問だと複雑な計算式や化学式を解くことにとらわれてしまいがちですが、その式を使って何ができるかを理解してもらいたいと考えています。結果だけにとらわれると、「目的」を見失ってしまう。「目的」と「手段」を切り分けて説明して、きちんと見せることが大切だと思っています。

学生たちに囲まれて、祝福を受ける久保田先生
研究室の学生からお祝いをいただいた時の写真(前列右側:JAXA浅村氏

実験の場合は、説明しすぎないように。卒業研究でも細かく指示は出しすぎず、調べ方や考え方を教えて自分たちの力で進めるか、学生と肩を並べて一緒に進めることもあります。学生と子どもは違いますが、自分の子どもが生まれてから変化した部分もあるのでしょう。

もし魚釣りをするとすれば、私は魚の釣り方を手取り足取り教えるよりも、「いっしょに釣ろう」と言うタイプ。効率を考えると遠回りになることもありますが、時間をとって一緒にやってみる、一緒に考えるのが理想的です。それは、どんなことでも学生が自分で決めたほうが、諦めずに最後まで貫けるし、納得できると思うからです。

高専生たちは、10代の早い段階で自分の進む道を決めた人ばかり。普通の高校に行く生徒とは「覚悟」が違います。人生の重要な決断を14歳で下せるわけですから、決断力があるし学習する能力も高い。私も覚悟をもって、尊敬して接しています。

国際会議でシンガポールに行った際に、田向先生と学生らでビールで乾杯する久保田先生
シンガポールにて、共同研究先の大学に進学した卒業生と国際会議参加後に(後方一番右:九工大 田向先生

久保田 良輔
Ryosuke Kubota

  • 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 教授

久保田 良輔氏の写真

1996年 佐賀県立伊万里高校 卒業
2000年 九州工業大学 情報工学部 制御システム工学科 卒業
2002年 九州工業大学大学院 情報工学研究科 博士前期課程 修了
2006年 九州工業大学大学院 情報工学研究科 博士後期課程 修了
2006年 山口大学 文部科学省知的クラスター創成事業 研究員
2008年 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 助教
2012年 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 准教授
2016年 宇部工業高等専門学校 制御情報工学科 教授

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