電波のシミュレーションを主に行い、通信や自動運転などの応用について研究されている東京農工大学の有馬卓司先生。都立航空高専(現・都立産技高専)から電気系に興味を持ち、東京農工大学へ編入されています。日々進化する携帯電話や自動運転の未来と展望、そして高専の魅力について、お話を伺いました。
高専から東京農工大学へ編入。電波のシミュレーションを研究分野に
―まず、ご出身の都立航空高専についてお聞かせください。
私は東京・葛飾生まれで、下町の情緒あふれる雰囲気に囲まれて育ちました。都立航空高専は家の近くにあり、現在でも科学技術展示館という、教材として使われてきた飛行機などが展示されている場所があるなど、異色の高専として知られていました。
高専に入ろうと思ったのは、中学生の当時は理工系にしか興味がなく、理科や算数が得意だったからです。特に電気系が好きで、電流の流れ方や電球の光り方に興味を持っていました。自分で言うのも何ですが、勉強が割と出来て(笑)、成績は悪くなかったので、高専を目指すことにしたんです。
―その後、編入で東京農工大学へ進学されていますが、大学ではどんな研究をされましたか?
学生の頃から電磁気の科目が好きでしたので、電気系の分野に進みたいという気持ちがあり、東京農工大では電子情報工学科に入学しました。編入生の数が多かったですね。修士課程への進学が一般的な雰囲気でしたので、みんな真剣に勉強していました。
研究分野は主に電波のシミュレーションでした。電波の飛び方や通信の仕組みをコンピュータで再現することで、無駄な電力消費を減らしたり、弱い電波で効率的に通信できる方法を探ったりしましたね。例えば、スマートフォンの基地局からの電波を特定の方向に向けることで、電力を節約したり、通信品質を向上させたりできます。自動運転やICカード乗車券「Suica」なども、電波を使った研究が関連しているんです。
電波シミュレーションは奥が深く、非常に難しい分野でして、世界中の研究者たちが取り組む難題です。しかし、コンピュータの進化により、より精密なシミュレーションが可能になり、今後もさまざまな応用が期待されています。
そもそも、電波の研究に興味を持った理由は、携帯電話や自動運転車など、私たちの日常生活に密接に関わっているからでした。電波は無線通信や情報伝達に欠かせない技術であり、その進化が私たちの生活を便利にしてきたのです。
さまざまな支援機能や新技術など、携帯電話の進化を促進
―東京農工大卒業後、母校で研究の道に進まれたのはなぜですか?
母校で教職として働く道を選んだ理由は、技術研究系の学問に興味を持ち、学会発表などの活動に参加する機会が増えたことで、指導教員の先生が大学の教員職(助手)を勧めてくれたことが影響しました。現在は、電波関連の分野を教えています。ちなみに、電磁気は学生が最も嫌う科目の1つではありますね(笑)
研究は学生時代同様、主に電波のシミュレーションに関わっています。ただ、研究費の獲得や旅費の問題もあり、大学教員としての道は厳しいこともありますが、研究の面白さや応用の可能性に魅力を感じている日々です。今後の研究としては、さらに携帯電話や自動運転などに応用するためのシミュレーション技術を発展させていく予定です。
がむしゃらに研究を続けていたら、いつのまにか教授になっていました(笑) 大学院の学生は主に研究活動を行っていますので、将来、研究者として社会で活躍できるような人材になるよう教育しています。
―現在の研究について、詳細を教えていただけますか?
例えば、自動運転技術はまだ完璧ではありません。機械だけで完全に信頼性の高い動作をするのは難しいんです。自動運転の判断は、機械に任せつつも、最終的な判断は人間が行います。技術の進化により信頼性が向上すれば、将来的にはもっと多くのことが可能になるでしょう。
また、シミュレーション技術も重要です。例えば、携帯電話の通信品質を向上させるために、電波のシミュレーションを行います。これにはスーパーコンピュータが必要で、さまざまな条件を試して、最適な設計を見つけ出します。
しかし、シミュレーション結果を信頼性高く反映するためには、さらなる研究が必要です。現在の技術は素晴らしいものがありますが、まだまだ未来の改善余地がたくさんあると感じます。研究の進展によって、自動運転技術や通信技術などがさらに発展していくことが期待されているのです。
―例えば、お話にあった携帯電話は、どの程度まで進化する可能性があるのでしょうか?
現在の5G技術によって、通信速度だけでなく、さまざまな支援機能が進化できます。例えば、最大時速300キロのF1の車両を携帯電話で操作することができるとして、以前は0.5秒以上かかっていた制御も、現在では0.01秒程度で可能になります。NTTドコモなどの企業が、これに取り組んでいますね。
さらなる進化として、6Gや7Gも考えられます。このフェーズまで来ると、「どこでも繋がる」ことが重要な要素となっています。例えば、会社のオフィスや山奥などでも携帯電話が常に通信可能になることが目指されています。
その他の未来の展望としては、携帯電話に埋め込まれる技術やRFIDタグ(※)を使って、身の回りの物品をより簡単に管理できるようになるかもしれません。
※RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波を用いて非接触でICタグのデータを読み書きする自動認識技術のこと。バーコードのスキャンと異なり、複数のタグを一気にスキャンすることができる。最近では、ユニクロなどのセルフレジにも導入されている。
ただし、これらの技術は難しい部分もあり、進化には時間がかかることも予想されます。現在の5Gが進化を遂げているように、6Gや7Gもまた新たな世界を切り拓くことでしょう。周波数帯の法律上の規制も変化していくかもしれません。現在の技術は素晴らしいですが、さらなる未来への進化に期待が寄せられています。
私は電波のシミュレーションを通じて、より効率的な通信や電力利用の方法を探ることで、社会に貢献したいです。研究の過程は大変なこともありますが、自分が興味を持っている分野に挑戦できることは、非常に充実感がありますね。
高専で素養を培ったからこそ、今がある
―最後に、これから高専を目指す中学生へメッセージをお願いします。
私が高専生だったときは、特段成績が良いわけでもない、いわゆる普通の学生でした。当然、将来、大学で教授になるとは想像していなかったです。でも想像できないことが起きるのが人生です。素養は高専で培ったことに、間違いはありません。
高専は人生のもっとも多感な時期の5年間を過ごすという、世界的にも稀な学校システムになっています。言い換えれば、この5年間でその後の人生を決めることができるんです。就職もできるし、大学に進学することもできます。カリキュラムも充実していて、自分の興味や好きな分野に特化した勉強ができます。2年生頃からは専門的な学習が始まるでしょう。
また、座学だけでなく、実験も含めて幅広く学ぶことができます。また、高専では同じ研究分野の仲間と一緒に学ぶことが多いため、技術を共有し合いながら学ぶことができます。5年間は長くて短いですが、5年間で自分の好きなことを極めるべく頑張ってほしいです。
そして、高専では大学受験の期間がなく、物理や専門科目を含む理工系科目だけで大学に編入することができます。それによって、好きな分野に没頭して学ぶことができ、大学受験による余計なストレスを感じることがありません。高専は自分の好きなことを集中して学びたい方にとって、非常に魅力的な場所と言えるのではないでしょうか。
有馬 卓司氏
Takuji Arima
- 東京農工大学 工学研究院 先端電気電子部門 教授
1996年 東京都立航空工業高等専門学校(現・東京都立産業技術高等専門学校) 電子工学科 卒業
1998年 東京農工大学 工学部 電子情報工学科 卒業
2000年 東京農工大学大学院 電子情報工学専攻 博士前期課程 修了
2003年 東京農工大学大学院 電子情報工学専攻 博士後期課程 修了
2003年 東京農工大学 工学部 電気電子工学科 助手
2007年 同 助教
2008年 同 講師
2013年 同 准教授
2023年より現職
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