宇部高専の機械工学科を卒業したあと岡山大学へ進学し、現在は同大学院の博士前期課程2年目となる山縣充紀さんは、希望する企業の内々定を受け、来年春から社会人となります。高専入学から現在に至るまでの山縣さんの足跡や研究内容についてお話を伺いました。
得意分野を伸ばし、生かした高専時代
―高専に進学した経緯を教えてください。
山口の下関出身で、小さい頃は大工に憧れる少年でした。小学生に入ってから算数のおもしろさに気付き、特に図形問題が好きでしたね。中学では理数系の科目が得意になり、自分でも得意分野は自覚していました。
高専への進学を考えたのは、中学の三者面談がきっかけです。先生に高専を勧めてもらい、オープンキャンパスにも参加しました。パソコンで「CAD」という専用ソフトを使って製図するなど、実際に体験できる企画が多く、楽しかったのを覚えています。
また、実は叔父が高専出身で、母も高専について詳しかったことも、進路を考えるうえで大きかったです。
―高専での学校生活はいかがでしたか?
実家から宇部高専に通い、自由な学校生活を送りながら5年間でいろいろな経験ができたと思います。平日は通学と授業で、部活動(剣道部)は週に3日ほど参加しました。
クラスの友人はみんな個性的で、例えると「小学校みたいな」雰囲気でした。みんな、いい意味で少しずつぶっ飛んだ部分があり、自分を貫くタイプ(笑) そういう人に慣れているので、大学でも多少のことでは違和感を持たないようになりました。
週末はアルバイトで飲食店に勤務。5年間同じお店でホールを担当しました。大人と話す機会が増えたことで、自分自身にも変化が生まれましたね。中学生の頃は人前で話すのがあまり得意ではなかったのですが、高専やアルバイト、大学と経験を積むにつれて、自ら進んで対話ができるようになったと思います。
授業では、最初につまずくことがなく、うまくスタートできたと感じています。機械工作をしたり「CAD」に触れたりしながら、ものづくりの楽しさも知ることができました。理系科目が得意だった自分に高専のスタイルが適していたのか、成績が上位のまま卒業でき、大学編入もスムーズでしたね。
さらなる知識を得るための大学編入
—大学への進学を考えた理由は何でしょうか?
進路については、3年生から4年生頃から本格的に考えはじめました。高専生の多くは専攻科に進みますが、自分はどうするのか? 就活と進学とでは時間の使い方が大きく変わってくるので、高専生にとっては重要な判断のポイントです。
私の場合は、大学に行って「さらに学びたい!」という気持ちと、「遊びたい!」という気持ちがあり(笑)、編入を考えました。編入試験のスムーズさや研究室などを考慮して、岡山大学に進学することになります。
ところが、大学に入学した2020年4月は、コロナ禍の真っ只中。ずっと自宅で過ごし、友達や知り合いができたのは半年後でした。初めての一人暮らしということもあり不安もありましたが、何より惜しかったのは「楽しさを求めて大学に入ったのに!」ということでしたね(笑)
秋ごろからはようやくアルバイトをはじめ、他大学の友達も増えたので、ようやくキャンパスライフらしくなりました。
—それでは、山縣さんの研究について教えてください。
実は高専と大学とは、随分とジャンルが変わったんです。高専では、ガラスについて研究をしていました。物質が液体から固体になるときは原子が規則的に並ぶのですが、ガラスの場合はランダムな状態で固まります。その現象は「アモルファス」と呼ばれ、メカニズムはまだ解明されていません。
いろんな研究のなかで、原子の並び方は2つの規則性に基づくとされています。私は、そのうちの1つである「中範囲規則性」についてプログラミング言語を使って考察し、構造モデルを作成しました。専門的に表現すると「二次元ガラス転位シミュレーションにおける中範囲構造の最適化」の研究です。
—大学での研究は、何になったのでしょう?
研究対象が機械設計学に変わり、「ピーニングによる表面形状の違いが摩擦特性に及ぼす影響」について研究しました。
「ピーニング」というのは表面改質技術のことで、金属の表面を叩いて延ばすことを指します。工場部品や工業製品において、どんなものをつくればよいのか、ものづくりに必要な部品や製品の構造を考えることを専門としていました。
例えば、歯車の表面が接触することで摩擦や摩耗が発生すると、熱や音の影響でエネルギーが逃げてしまい、その分ロスが生まれますよね。そこで、どうすれば摩擦を減らす、あるいは小さくできるのかを考えるのが私たちの役割です。
その場合、パーツすべての素材を変えるとコストがかかるため、表面だけを変える方法が一般的です。摩擦係数を減らし、損傷を抑制することで、例えばトランスミッションなどの自動車部品の小型化や高速化にもつながります。
研究室では、微粒子ピーニング(金属の小さな玉)とレーザピーニング(レーザ)の2つに着目して研究を進めました。微粒子は動きがランダムで制御しにくいのが難点ですね。規則的な形状で高精度なレーザーが最近では注目されていますが、適用はまだ進んでない状況です。
大学では、高専時代とは比較にならないほどハードな研究活動が待っていました。最初は「これは大変だ、どうしよう」と思っていましたが、「論理的な思考力やプレゼン力、スケジュールの管理能力を磨こう!」と振り切ったことで、学力・メンタル・技術ともに鍛えることができたので、経験値と自信につながったと実感しています。
プラントエンジニアとして、一般企業に就職へ
—今後はどのような道に進まれるのですか?
製紙業の企業に内々定をいただき、来年春からは工場の設備の修理や導入などを手掛ける「プラントエンジニア」として働く予定になっています。製紙業を選んだのは、高専時代に受けた企業説明会で、その企業の話を聞いておもしろそうだと思ったからです。以来、ずっと興味をもって、将来的にはそこで働きたいと考えていました。
紙の需要が減ると言われ続けているなか、紙ストローや紙バックなど、社会の変化に応じて新たな需要が出てきました。「これからどうなるのか? なくなるかどうかはわからない」というのが、おもしろいポイントだと感じています。
—最後に、高専生や受験を目指す中学生にメッセージをお願いします。
高専時代の経験は、今でも大いに生きていると感じています。特に、プログラミング言語を習得していると、これからも役立つスキルになると思います。
また、大学では「ピーニング」という新しい分野の研究にチャレンジしましたが、もともと興味があった「特殊加工」に近いジャンルではあるので、最終的には自分の興味関心のある分野の研究をすることができました。研究は大変でしたが、「知らないことは多いけど、おもしろい!」とも言えます。
工学系や理学系の大学など、理系志望だったら「高専」という選択肢はぜひ検討してみるといいと思います。また、大学への編入制度を活用すれば、数学と物理だけで受験ができ、複数の国公立大学に出願できる点も大きなメリットです。
大学でTA(ティーチングアシスタント)をしていて感じるのは、高専卒生の「理系科目への執念」でしょうか(笑) 一般高校から大学で理系に進む場合と、高専から編入で入学する場合では、スタート時点でのスキルが違うし、「絶対にこの授業をマスターする」という底力があるように思います。
就職活動を終えた今感じるのは、大学に進学しても、社会人になっても、「高専出身」というのが、他の誰とも違う「個性」になるということです。理系の科目に興味がある方は、ぜひ進路の選択肢として考えてみてください。
山縣 充紀氏
Mitsuki Yamagata
- 岡山大学 大学院自然科学研究科 機械システム工学専攻 博士前期課程
2020年3月 宇部工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2022年3月 岡山大学 工学部 機械システム系学科 機械コース 卒業
2022年4月 岡山大学 大学院自然科学研究科 機械システム工学専攻 博士前期課程 入学
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