九州工業大学大学院を卒業後、鶴岡高専を経て、佐世保高専の教員として地元・長崎に戻られた城野祐生先生。EDGEキャリアセンター長を務め、学生たちの様々な活動を支援されています。生い立ちを含め、地元長崎を活性化させるための活動内容を伺いました。
長崎から、福岡の九州工業大学へ
―城野先生は高校を卒業後、九州工業大学に進学されています。
小さいころは魚釣りと工作が大好きでした。小学生のころには、壊れた掃除機を修理したり、祖父から教えてもらって、竹や萱(かや)を使って弓矢をつくったりしていましたね。技術家庭の授業は「誰にも負けない!」と意気込んでいました。
九州工業大学に決めたのは、高校時代の卓球部の先輩が進学していたのが理由の1つです。先輩からは、大学の雰囲気や、工業系の単科大学だから専門的な内容を深めやすいといった話をよく聞いていました。企業への就職率が良かったのも要因でしたね。
もともと、中学生のころは地元の長崎大学に行きたいと考えていましたし、福岡にある九州工業大学に進学した当初はホームシックになりかけましたが、卓球部の先輩や同期もいたので心強かったです。彼らとは、今でも交流がありますよ。
―その後、高専教員になられた経緯を教えてください。
大学入学時は、大学を出たら就職しようと考えていました。しかし、もっと専門の内容を学びたいという気持ちと、希望のモノづくりの仕事につくためには大学院まで進んだ方が良いという話をよく聞いていたので、大学3年生のころに、大学院へ進学することを決めましたね。
大学院の博士前期課程のころは、長崎で1番大きな企業だった三菱重工業に就職できると良いなと思っていました。しかし、大学4年次から所属していた研究室の湯 晋一(ゆう しんいち)先生に、「博士後期課程へ進んでみないか」と提案いただき、悩んだ末、進学することに決めたんです。
湯先生は、はっきりとものをおっしゃる厳しい先生でした。ですが、接する時間が長くなるにつれ、その厳しさは「研究に対して妥協しない」という姿勢から生まれているのだと気づきました。当時から尊敬していましたし、研究そのものへの魅力も大きくなっていきました。
そういったこともあり、博士後期過程修了後は教育研究の道へ進みたいと考え、いくつもの公募を受け、山形県の鶴岡高専に採用していただきました。そして、1年目として働いていたある日、佐世保高専に勤めていた大学時代の先輩の先生から、教員の募集があるという話を聞いたんです。
長崎出身ですので、いつか地元に戻って働くことができたら良いなと考えていましたし、この機会を逃すと次にいつ募集があるかわからないと思い、採用試験を受けました。そして、佐世保高専に勤めることになり、現在に至ります。
製造プロセスに必要な「流動層」
―現在の研究内容は何でしょうか。
粉体(粉や粒子など)のハンドリングや混相流(液体と気体、液体と固体、気体と固体など、異なる相が混ざりあった流れのこと)の移動現象に関する研究を行っています。
粉体の研究は大学4年生のころから行っています。現在は、粉体と流体(大まかには気体や液体の総称)の接触操作を行う「流動層」に関して特に研究しています。流動層とは、まとまった粉体に上向きの流体を噴出させることで、粉体が浮遊した状態で容器内を動きまわるものを指します。
そして、流動層として粉体と流体が混ざることで、流体が持つ成分を粉体に吸収させたり、粉体を乾燥させたり、粉体の表面をコーティングしたりすることができるんです。化学工業分野や食品分野、製薬分野の製造プロセスで多く用いられていますね。
私の研究内容は、流動層が効率的に機能するために、例えば流体の速さや、流体の温度・湿度などに対する流動の特性を調べることです。粉体の大きさによっても変わってきますので、それぞれのケースで、どのようにするのが最適なのかを明らかにしていきます。パラメータの多い分野ですので、大学生のころから数値シミュレーションも活用していますね。
しかし、数値シミュレーションといっても、流動層は複雑なものですので、完全に一致することはまずありません。ですので、現状の課題は、どれほど数値シミュレーションと合っていたら「一致した」と言えるのかという判断の基準を明確化することだと思っています。画像解析やディープラーニングによって粉体の現象を評価できればと、研究を進めている段階ですね。
そのほかにも、ファインバブルを用いたマイクロプラスチック回収に関する研究や、マイクロリアクターを用いたゲルビーズの作製に関する研究も、学生たちと一緒に取り組んでいます。環境問題やモノづくりなど、学生が興味を持ちやすい研究ですが、どちらもやはり微小粒子(粉体)や流体、移動現象の研究ですね(笑)
「学生」と「地元企業」の循環をつくるために
―城野先生は「EDGEキャリアセンター長」を務められています。
そうなんですよ! EDGEキャリアセンターは、学生のみなさんが長崎県や佐世保市などの地方自治体、企業技術者、起業家と交流することで、自律的にキャリアデザインやアントレプレナーシップ(起業家的な精神)を身につけることを目的に設置されました。
EDGEキャリアセンターの「EDGE」は「Enhancing Development of Global Entrepreneur」の頭文字を略したものです。日本語に訳すと「グローバルアントレプレナーの育成促進」ですね。
―以前、長岡高専の外山先生に取材した際、「そもそも高専生はアントレプレナーシップを持っていると言われている」とおっしゃっていました。
私も同感です。外山先生とは7~8年ほど前に、国立高専機構の本部で一緒にお仕事をさせていただきました。お互いの高専の情報交換を密にしながら、国立高専機構の本部として、全国にある51校の国立高専が同じ方向を向くにはどうすべきか取り組んでいました。とても充実した時間でしたね。
話を戻しますが、アントレプレナーシップの素養を持っている高専生はたくさんいます。しかし、それを伸ばしていく仕組みがありませんでした。全国の高専では、伸び悩んでいる学生に対しての教育サポートをしっかり行っています。これはとても大切なことですが、一方で、素養をさらに伸ばしていく教育があまりできていなかったのです。
日本社会全体の動向を見ても、アントレプレナーシップを伸ばしていくことは重要な課題になってきました。そこで、佐世保高専でも推し進めようと2019年に設置したのが「EDGEキャリアセンター」なんです。アントレプレナーシップの育成を「正式な学内組織」として進めるのは、全国の高専で初めてとなります。
EDGEキャリアセンターが設置されて以降、その効果は目に見える形で大きく出ていますよ。外部の活動に参加する学生は増えていますし、支援した学生たちはアイデアコンテストやビジネスプランコンテストで多数の賞を獲得していますね。
―EDGEキャリアセンターの活動内容は、どのように検討されているのでしょうか。
私がセンター長になったのは今年からですが、EDGEキャリアセンターには立ち上げ前から、地域共同テクノセンター長として4年間関わってきました。その活動の中で、学内の教員だけが教えるのではなく、アントレプレナーシップなどに詳しい方に来ていただいた方が良いと考えていました。
例えば、現在、佐世保高専には入江英也先生という、教員をされながらシステム開発会社を経営されている方がいらっしゃいます。国の「クロスアポイントメント制度」を活用して2019年に着任された先生で、これは国立高専で初のことです。その入江先生に「経営について」や「アイデアを出す方法論」などといったアントレプレナーシップ教育を行っていただいています。
そのほか、本校を卒業されたあと、起業家になって活躍されている方が何人もいらっしゃいますので、アドバイザーなどの立場で協力していただいています。企業の方にも、発表会での講評や、講演などをお願いしていますね。
―そのほか、EDGEキャリアセンターの活動内容を教えてください。
「アントレプレナー教育部門」のほかにも、「国際交流部門」「地域企業連携部門」「キャリア支援部門」があります。「国際交流部門」は、世界で活躍できるグローバルエンジニア能力の育成のために、在学中から海外留学や海外インターンシップを推進し、学生のみなさんを支援している部門です。
その支援の1つとして、外部の補助金だけでなく、EDGEキャリアセンター自体が学生に一部補助金を出しています。実は、EDGEキャリアセンターには基金がございまして、長崎の連携企業から寄付金をいただいているのです。また、同窓会をはじめとした卒業生のみなさまにも多大なご支援をいただいています。
このような様々な外部からのご協力によって、学生のレベルが高くなり、佐世保高専を卒業した後は、起業したり連携企業に就職したりする流れになれば良いですね。そして、社会人になってからは、学生にアントレプレナーシップ教育を行う。そのような循環が生まれればと思います。
私は長崎出身で、長崎が好きです。ですが、若い人が県外に流出していて、長崎に元気がなくなってきていると思います。若い人が長崎に残ってくれるために、どのような支援や体制をつくっていくべきかを、地域の企業や行政と一緒に、これまで以上に検討しないといけないと考えていますね。長崎でがんばりたいと思う学生をもっと増やしたいです!
―最後に、未来の高専生に向けてメッセージをお願いします。
高専では早くから専門的な分野に取り組むことができますし、実験もたくさんできます。モノづくりに興味を持っていれば、そういったことに打ち込む時間が多く取れると思いますよ。
それに加え、新しいモノをつくったり、今までにないことにチャレンジできたりする環境が佐世保高専には整っています。EDGEキャリアセンターもありますからね。チャレンジしていく5年間の過程で知識や発想・ビジネス・人脈などを得ることができると思います。未知の領域に挑戦したい人たちに、ぜひ来てもらいたいですね。
城野 祐生氏
Yuuki Johno
- 佐世保工業高等専門学校 物質工学科 教授、物質工学科長、EDGEキャリアセンター長
1993年3月 長崎県立長崎東高等学校 卒業
1998年3月 九州工業大学 工学部 設計生産工学科 卒業
1999年3月 九州工業大学大学院 工学研究科 博士前期課程 設計生産工学専攻 修了
2002年3月 九州工業大学大学院 工学研究科 博士後期課程 設計生産工学専攻 修了
2002年4月 鶴岡工業高等専門学校 助手
2003年4月 佐世保工業高等専門学校 物質工学科 講師
2009年4月 同 准教授
2014年4月 国立高等専門学校機構 本部事務局 教育研究調査室 准教授 併任(2016年3月まで)
2020年4月より現職
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