豊田高専専攻科を卒業後、山梨大学大学院で研究を続けられ、現在は豊田高専で教壇に立たれている江端一徳先生。「自然の美」を大切にして研究を続けられている江端先生に、学生時代の思い出や、研究や教育についての思いを伺いました。
授業がきっかけで、水質関係の研究室へ
-豊田高専に進学されたきっかけを教えてください。
父に高専の友人がいたようで、中学からの進学を選択する際に「高校ではなくて高専という選択肢もあるよ」と父から勧められたんです。特にモノづくりに興味があるわけではありませんでしたが、手に職を持ちたかったので、高専は魅力的に感じました。
ホームページで情報を収集し、オープンキャンパスにも参加して、自分に1番合っていそうな環境都市工学科を選びました。学科はふわっとした感じで選んだ記憶がありますね(笑)
-印象に残っている授業はありますか。
退官されていますが、水理学の山下清吾(せいご)先生の授業は印象に残っていますね。ちょっとでも集中力を切らしたら、ついていけない授業でした(笑) 目を見開いて聞いて、勝負のような時間でしたね。ただ、厳しい中でも授業は分かりやすくて、そこで水関係の研究に興味を持ったんです。
研究室は山下先生と迷ったのですが、松本嘉孝(よしたか)先生の研究室を選びました。水質を研究されていたのですが、それが面白そうだったのが理由ですね。
-松本先生の研究室で、どのような研究をおこなったのですか。
豊田市の中心部を流れている川に含まれるリンの動態を調べていました。雨が降ると、アスファルトに蓄積している蓄積物や、畑などの肥料に含まれているリンが川に流れてくるんですよね。リンには「水に溶けるリン」と「溶けていないリン」があるので、「雨が降ったときにどれぐらい濃度が変わるか」などを研究しました。
専攻科の先輩も同じ研究をしていたので、ディスカッションしながら研究を進めていくのは楽しかったですね。ただ、水質の分析は難しく、リンの濃度が異なる希釈系列をつくって、そこに光を当て、リンの濃度を推定するのですが、リンの濃度と光の強度が合わなくなったりして、そこは大変でした。
専攻科や大学院でも、大好きな自然の研究を続ける
-高専時代は、陸上部に所属されていたそうですね。
5年間、1,500mや5,000mなどの長距離を専門にしていました。大会で輝かしい成績を残したわけではないのですが(笑)、長距離部門のリーダーとして同級生や後輩と切磋琢磨して、充実した5年間でした。
練習では一定のペースで走る練習や、強弱をつけて走る練習を毎日していましたね。400mトラックを12周半ほど走るわけですから、やはり後半になるにつれ、きつくなるんですよ。そのときにいかに走れるか、いかにスピードを上げられるかを意識していましたね。人数も多くなかったので、互いに支え合いながら毎日練習したことが思い出に残っています。
-その後、専攻科に進学されているんですね!
大学編入も考えましたが、最終的には専攻科に進学しました。専攻科では、研究テーマを「森林流域」に変えているんです。葉っぱなどの有機物は、川の流れが遅いと堆積するんですが、その堆積量が川の流れるスピードでどう変化するのかを研究しました。
また、葉っぱは水生生物にとってエサになるので、葉っぱを網に入れて川底に沈め、葉っぱの減る量で、生物がどれだけ食べたかなどを実験していました。
雨の影響を受けるときと受けないときがあり、その因果関係が解き明かされていなかったので、それを実験で解きほぐしていくことは大変でした。夏は生物が盛んに動きますし、秋は落葉で葉っぱがたくさん落ちてきますので、複合的に絡み合う要因の中で、何が効いているのかを探すのが研究の1番の醍醐味でもありましたね。
-山梨大学大学院では、どのようなことをご研究されたのですか。
大学院では西田継(けい)先生にお世話になりました。実は、松本先生の母校が山梨大学だったので、専攻科のときからお邪魔することが多かったんです。お互いの人となりも分かっていたので、進学先に選びました。
大学院では「溶存有機炭素」といって「水の中に溶けている炭素」について研究しました。森林の上流から下流にかけて、どれくらい溶存有機炭素が流れるかをパソコンでシミュレーションしました。
自然が好きなので、研究室にずっとこもるのではなく、外に水を汲みに行くだけでリフレッシュできましたね(笑) 2週間に1度、調査のために水を回収しに行って、実験室で分析して、データを取ることの繰り返しでした。
ただ、溶存有機炭素の発生源の場所は分かるんですが、水かさが上がったときに、溶存有機炭素がどれだけ川の中に入るかが分からなかったんです。それをうまくシミュレートすることは難しかったですね。
-豊田高専での取り組みを教えてください。
教えることに興味はあったんです。ずっと研究をしてきたのでそれを還元したいという思いが強かったんですよね。自分の中では大学よりも高専の方が性に合っていると思っていたので、「運よく高専の教員として戻れれば」と思いながら企業で働いていました。そしたら、母校に戻れることになって嬉しかったですね。
現在は大学院のときの延長線で溶存有機炭素の研究を続けています。研究のスタンスといいますか、「いかに自然の美を追求するか」には興味がありますね。高専時代から「自然がどういった現象を起こしてくれるのか」というワクワク感が研究のモチベーションです。
基礎的な研究なので、「何かを発明してノーベル賞を取る」ような、世の中に対してインパクトを与える研究ではないのですが、縁の下の力持ちとして地道にやっていければと思っています。長距離もそうなんですけど、地道に基礎的な研究をいかに積み上げていくかだと思いますね。
遠隔でも授業ができる中、「学校に来る意味」は何だ
-学生と接するうえで、大切にしていることを教えてください。
「机上で学んだ経験を、実地で生かしていくことができるか」を意識しています。「実践的な技術者を養成する」というのが本校の方針でもあるので、「社会で役に立つかどうか」にフォーカスを当てて、学んだことがシームレスに社会に生かせるようにしていきたいですね。
昨年まで学科長だった先生から、「学校に来る意味は何だ」ということをディスカッションさせていただいたんです。今は配信を聞くだけでも、授業として一応は成り立つじゃないですか。その状況の中、「学校で我々がただ授業をして、技術を教えているだけだと意味がない」という話も出たんです。
やはり「遠隔ではなかなか体験できないことを学校で体験させたい」と、その先生はペアワークを授業に取り入れていたんです。私もペアワークを授業に取り入れ始めたのですが、学生はお互いの意見を盛んに伝えあっていました。その場がすごく盛り上がるんですよ。意見をなかなか言えない学生も中にはいますが、教室の中をぐるぐる回りながらフォローしています。
この教育の効果がどこまであるのかはまだ分かっていませんが、ディベートはこれからの社会で生きていくうえで必要になると思います。問題解決能力だけでなく、問題を見つけさせる力も上げていきたいですね。
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
「好奇心」が次に行くためのトリガーだったり、モチベーションになったりすると思います。授業や部活、文化活動など、いろんなことに好奇心を持ってほしいですね。自分の知っていることは安全じゃないですか。その境界を越えて、いかにその外の世界を知ろうと思うかだと思うんですよね。
とにかく「やってみなはれ」じゃないですけど、外に出て世界を知る経験もどんどんしてほしいですね。社会情勢的にも人との関わりが薄くなりがちだと思うんですが、寮や部活、先生や先輩後輩との会話など、社会を知るチャンスは高専内にもたくさんあります。校内でも校外でも、もっと人とコミュニケーションをとって、充実した5年間を過ごしてほしいですね。
江端 一徳氏
Kazunori Ebata
- 豊田工業高等専門学校 環境都市工学科 講師
2010年 豊田工業高等専門学校 環境都市工学科 卒業
2012年 豊田工業高等専門学校 専攻科 建設工学専攻 修了
2014年 山梨大学大学院 医学工学総合教育部 国際流域環境科学特別教育プログラム 修了
2018年 山梨大学大学院 環境社会創生工学専攻 単位習得満期退学
2018年~2019年 ヴェオリア・ジェネッツ株式会社
2019年より現職
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