高専教員教員

いまだ謎だらけな「原形質流動」に挑む!勝手気ままに動くタンパク質たちは、細胞にムーブメントを起こせるのか?

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いまだ謎だらけな「原形質流動」に挑む!勝手気ままに動くタンパク質たちは、細胞にムーブメントを起こせるのか?のサムネイル画像

日本大学をご卒業後に東京工業大学大学院を修了し、佐世保高専に着任された三橋和彦先生。先生が取り組まれている「原形質流動」の研究は、いまだ謎だらけなのだそう。研究のお話や、ラグビー強豪校の秘訣、力を入れているという国際交流についてお話を伺いました。

文理選択を迷ったが、物理の先生がきっかけで理系に進む

-三橋先生は、最初から理系志望だったんですか?

緑のサークル型の植栽の奥に、学校名の記載された校門
佐世保高専の正門風景(2002年撮影)

どちらかと言うと理屈っぽい考え方をしていたので、将来は弁護士になろうかなと思っていました。進路選択の際に文系か理系か迷っていたんですが、物理を教えてくれていたちょっと変わり者の先生の影響を受けて理系に進みました。

動機もヘンテコで、「量子力学」とか「相対性理論」に興味を持ったわけではなく、素朴な「力学」の方に興味を持ったんですよね。千葉県船橋市の高校に通いながら御茶ノ水の予備校に通っていたので、距離的にも労力的にも当時の私には厳しくて。半ば失速しながら日本大学に入学しました。

-学生時代はいかがでしたか?

友人らが思い思いに過ごすなかで、カメラに笑顔を向ける大学生時代の三橋先生
大学時代の写真、軽井沢研修所にて

大学の頃は、授業にあまり出ないかなりテキトーな学生でした(笑)。ただ、友人には恵まれましたね。「勉強をするグループ」と「遊ぶグループ」両方に友人たちがいて、勉強友達とは物理の本を読み合ったり、遊び友達とはスキーに行ったり飲んだくれたりしていました。結果的に、良いバランスだった様に思います。心身のリハビリにもなりましたし。

ちょうどその頃は「大学院に学生を集めよう!」という動きが盛んだったので、その流れに乗って、日本大学から東京工業大学の大学院にもぐりこみました(笑)。生物の物理現象を研究したかったので、その研究をされていた東工大の弘津俊輔先生に直接電話をかけ、進学先を選びました。

研究室は自由すぎる雰囲気で、先生が見ていないところで勝手に研究したり、夜に学生達だけでゼミを開いていました。学会前に先生に相談しに行くと、「君はそんなことをやっていたのか」と言われる始末でした。とても今の時代にはありえない、牧場のような研究室でした。

「原形質」は語らず。されど、みな同じ方向を目指す。なぜ?

-大学院では、どのような研究をされたのですか。

顕微鏡で覗いた写真。緑色の細胞がみえる中央付近は、透明の「窓」になっている
車軸藻の顕微鏡画像、中央付近は光照射によって葉緑体が剥がれた「窓」領域

「車軸藻(しゃじくも)」という水草があるのですが、細長い細胞の中で液体(にみえるもの)がグルグル回っているんです。中学校の時に「原形質流動」として習った方も多いと思います。これまでに日本の研究者たちの努力によって、原形質を動かすモータータンパク質が主に2種類あることは分かっているんですが、なぜ細胞レベルの流動になるのかは解明されていないんですよ。

第一、車軸藻自体が小さいし、細胞の中を顕微鏡でのぞいたところで、ほとんど透明で何が起こっているか見えません(笑)。そこで、大学院の頃は細胞の外側からレーザーを集光して(光ピンセット)、原形質中をプカプカ浮かんでいる顆粒を「つまんで」、顆粒にどんな力が加わっているかを調べていました。

その結果、流動中では上流と下流方向に激しく向きが変わる力がはたらいていることが分かりました。一見、流動は滑らかに流れている様に見えるんですが、実はぜんぜん滑らかでも穏やかでもなかったんです。植物細胞の中は嵐の海なんですね。

藻の研究内容について、詳細に説明した資料。左に図が2つ、右に文字で説明されている
車軸藻の一種フラスコモの原形質流動について

現在も原形質流動の研究を続けています。常温では流動が速すぎるので、凍る直前まで細胞を冷やして細胞内の顆粒の動きをビデオカメラで見ています。顆粒が「ゆっくり動いたり止まったり」するんですが、これは周りから引っ張られる影響が小さいことを意味していて、都合が良いんです。

今の関心事は、細胞の中でバラバラにはたらく力が一本の流れに統合されていくプロセスです。モータータンパク質はランダムに動き回っているのに、全体としては川の流れのようにとても整った動きになるのは、とても不思議です。

例えば、古代エジプトでピラミッドをつくるときに、人夫たちがそれぞれのタイミングで違う方向に巨石を引っ張り続けても、石は微動だにしないですよね。正しいタイミングで「引け!」と声を掛ける人がいて初めて、巨大な石を運べるんです。

では細胞内ではどうでしょう? 粒子は声が出せないのに(笑)、バラバラに動いているタンパク質が大きな流れを作れるなんて、おかしいと思いませんか?そこには、うまく力を結びつける「何か」があるから、流れているように見えるんでしょう。それを調べているところです。

原形質は、顕微鏡サイズだとゼリーみたいに「ぶよぶよ」に見えます。この「ぶよぶよ」がミクロな世界ではちょうど良いバランスになっていると思うんです。エビデンスで示さないと科学にはなりませんからね(笑)。細胞の中の統計性に関しては、あくまで基礎研究レベルなので、引き続き研究を続けていきたいと思います。

右に2つの図があり、上の図はほぼ白黒で、白い丸のようなものがいくつか連続してある。下の図は、そこに黄緑や水色、青の線がいくつも入っている。左には文字で、流動について説明した文字
細胞の内壁表層でとらえた原形質顆粒(大小)の軌跡

-高専の教員を目指したきっかけを教えてください。

実は「仕事をする」というイメージを持ったのが、博士課程3年の最後の方だったんです。それまでやりたいことだけをやってきたので、就職して企業で働くというイメージを持ったことがなくて。まるでニートですね(笑)。

そんな時に物理学会の学会誌を見ていたら、佐世保高専の公募が出ていて。高専の関係者が周りにいなかったので「あまり知らなかった」というのが正直なところだったんですが、「5年制で大学のような研究が出来る」ということを魅力的に感じ、運よくご縁をいただいたんです。

ラグビー強豪校の顧問が伝える、「勝ちに必要な要素」とは

-佐世保高専の学生の印象はいかがでしたか。

くもりぞらに、少し葉の入った満開の桜
佐世保・旧帝国海軍墓地にて(2004年撮影)

着任したころは、個性的な学生が多かった印象ですね(笑)。朝から夕方まで授業の時間は寝て、授業の最後に起きたかと思えば、そこから夜中までロボット製作に取り掛かる男子学生がいたり。

私が世話係で、彼はロボコンのチームリーダーをしていたので、話す機会が多かったんです。彼は「勝つことよりも、やりたいことをちゃんと見せられたか」にこだわっていました。無駄であろうがなかろうが、球を何十発も飛ばすロボットをゴリゴリ製作していましたね。

欲しいものがあれば、お金をどんどん使っていたので、経理担当の学生に「金がなーい!」と怒られたり(笑)。無茶苦茶でしたが、今はそんな学生は少なくなりましたね。彼は現在、ゲーム会社の代表取締役になっているんですよ。

-先生は、着任当初からラグビー部の顧問をされていらっしゃるんですね。

青とオレンジのボーダーのラガーシャツに身を包み、賞状やラグビーボールを手に写る人もいる、集合写真
全国高専ラグビー大会ベスト4(2017年1月撮影、神戸・ユニバー記念競技場)

佐世保高専のラグビー部は、全国大会に十数年出続けている強豪校なんです。私には「部活は学生のもの」という考えがあるので、部活のトップが「教員」になるのは少し違うのではないかと思っているんですね。なので、私はキャプテンとだけ話すことに徹していて、キャプテンがチームをまとめています。基本的には「キャプテンを励ます会」というポジションでしょうか(笑)。

強豪校とはいえ、「全国に行けないかも?」ということが2度ほどありました。ラグビーの試合はあまり番狂わせのようなことはなく、「強いほうが勝つ」という試合展開が多いんです。そんな中、10点ほど点差を付けられていたところから、ラスト5分で逆転勝ちすることが出来ました。

私は試合中、相手側の陣地から写真を撮るのですが、負けつつあるチーム内で歯車が噛み合わず、だんだん雰囲気が悪くなるんです。佐世保高専は、ピンチの状況でも「行動で諦めない」。これが勝てた理由だと思っています。「気持ちで諦めるな!」と、口で言うことはいくらでもできますからね。

外国人に対してアレルギーを持ってほしくない

-佐世保高専の国際交流は特徴があるらしいですね。

バスケットコートに50名くらいの2チームの選手たち、ポンポンを持ったチアリーディングのひとたちの集合写真
米海軍佐世保基地内キングスクールとのバスケットボール交流戦(2021年)

2020年度から国際交流に関する校長補佐を務めています。また、「EDGE(エッジ)キャリアセンター」と呼ばれる学生のアントレプレナーシップや国際交流を支援する組織も創設され、その国際交流部門も担当しています。

「アントレプレナー」とは「起業家」のことを指しますが、本校の特徴としては「起業家を育てる」趣旨ではやっていないんです。「起業のために必要な精神を身に着けて、世の中に出てほしいという」意図でやっています。だから、アントレプレナー「シップ」教育なんです。

小学校廃校跡地にあるスタートアップカフェの前で、学校のときには廊下だった場所で集合写真
タイ泰日工業大・訪日団(2020年撮影、福岡スタートアップカフェにて)

起業は成功の確率は高くないですし、誰にでも勧められるわけではありません。でも「起業家精神」は、例えば企業の新規事業の立ち上げなどでも、必要になる場面はたくさんあります。

学生のうちに失敗できるような環境の中で、起業家精神を養い何かにチャレンジしてみる。そこで「何が必要なのか」を体験していると、その後の発想が変わります。そして国内での経験をもとに海外に出ていき、また国内に戻ってという「スパイラルアップ」になるような仕組みを考えています。

現在はパンデミックで海外に行けないので、オンラインで世界各国とのつながりをつくっている最中です。これまでタイやシンガポール、フィリピン、米国の大学生たちとオンライン交流を行ってきました。今の学生は「オンラインネイティブ」ですから、オンラインでチャンスをつくって、ここぞというときに挑戦していく。その手助けができる組織を教員同士で協力しつくっています。

-高専を目指す中学生にメッセージをお願いします。

阿蘇の景色を背景に、赤いバイクを路肩に停めて、ライダージャケットを着て写真におさまる三橋先生
DUCATIでツーリング(2016年撮影、阿蘇大観峰)

研究は自分が面白いと思うものに、全力で取り組んでほしいですね。佐世保高専の電気電子工学科は、卒業後に実務経験を積めば電力業務に関する資格が取れるようになっています。電気系の仕事に就きたいと考えている方にはピッタリだと思います。

また、やはり学生には外国語を使う力を身につけて欲しいと思っています。外国人に対してアレルギーを持って欲しくないんですよね。英語がうまくなくても、とにかく話してみる。すると、いろんなチャンスが入ってくるんです。将来何の役に立つか分からなくても、自分のチャンスを広げる方向を考えて生きて欲しいですね。

三橋 和彦
Kazuhiko Mitsuhashi

  • 佐世保工業高等専門学校 電気電子工学科 教授・校長補佐(国際交流)

三橋 和彦氏の写真

1989年 千葉県立船橋高等学校 卒業
1993年 日本大学 理工学部 物理学科 卒業
1995年 東京工業大学大学院 理工学研究科 物理学専攻 博士前期課程 修了
1998年 東京工業大学大学院 理工学研究科 物理学専攻 博士後期課程 修了、理学博士
1998年 佐世保工業高等専門学校 電気電子工学科 助手
2002年 同 講師、2007年 同 准教授
2013年~2014年 イギリス ダラム大学 物理学科 客員研究員(国立高専機構 在外研究員制度)
2017年 茨城工業高等専門学校 国際創造工学科 一般教養部 准教授(高専間人事交流による出向)
2021年より現職

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