インタビュー

「一般的とは何か、普通とは何か」。経験から語る、「多角的に物事を見る」ことの大切さとは。

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました
公開日
取材日
「一般的とは何か、普通とは何か」。経験から語る、「多角的に物事を見る」ことの大切さとは。のサムネイル画像

山口大学大学院を修了後、大島商船に着任された橘理恵先生は、中学校時代に勉強が嫌になったとのこと。そこからなぜ研究者の道を選ばれたのか、またご自身の経験から語る「多角的に物事を見る」ことの大切さとは。現在の取り組みも含め、お話を伺いました。

ドラマの「鑑識官」に憧れて、大学進学を選んだ

-先生はどんな学生だったんですか?

中学生の時に勉強をする必要性が分からなくて、高校に行く意味を見いだせなかったんですよね(笑)。親に説得されて、しぶしぶ高校に行ったぐらいです。その後、進路を考える頃になって、初めて自分が「何が好きか」を考えて。その時に、ずっとテレビで見ていた「あぶない刑事」を思い出したんです。

刑事が事件を解決するシーンも好きだったんですが、それよりも鑑識官が音声や銃痕を分析して、犯人と一致するかどうか調べるシーンの方が好きで(笑)。ほんの1シーンなんですけど、「面白い!」と思ったんです。

そこから鑑識の仕事に就きたいと思うようになり、高校を出てすぐ警察官になるよりは、大学で情報技術を学んだほうがより夢に近づけるのではないかと思い、大学進学を選びました。

ゼミ配属を決める説明会で、すべてが変わった

-そうだったんですね!大学生活はいかがでしたか?

PCの置かれたデスクに座り、こちらをほほ笑む学生時代の橘先生
イギリスで開催された国際会議のケンブリッジ大学見学ツアーにおいて、ケンブリッジ大学内のMicrosoft社の研究所の一角にて(大学院博士課程時代2004年)

山口大学を選んだのは、引っ越しなどの移動が面倒だったので地元の大学に行きたかったからです。入学後すぐに認識工学で有名な先生がいらっしゃることを知り、「その先生の研究室で研究がしたい!」とずっと思っていましたが、ゼミの配属を決める説明会で人生が変わっちゃったんです(笑)。

認識工学の先生がプレゼンテーションで、「指紋認証の時代は終わった。これからは顔認証だ!」と仰っていて。確かに惹かれるものはありましたが、「自分の顔をサンプルにして研究することは嫌だな」と思っちゃったんですよ(笑)。

それで迷っていたら、別の先生が「肺のCTやレントゲン写真の解析をしています」とプレゼンされていて。それが後に恩師となる木戸尚治先生との出会いだったんですよね。そのプレゼンで、木戸先生のゼミに決めました。

CT写真が、単に「医者が診るためだけに撮られているのではない」ことを、そのとき初めて知ったんです。CTを通じて人との関わりも感じましたし、工学アプローチではあるものの医療に携われるのではないかと思ったんですよね。

実は高校の時、工学部か医学部の法医学系かで迷っていて、「この道を選べばやりたいことができるのでは?」と思いました。

-実際の研究はいかがでしたか?

CT画像。医師とコンピュータとの結果を図で比較したもの
左図は肺腫瘍が存在する胸部CT画像で、黄矢印が示す場所に肺腫瘍があります。右図は肺腫瘍の領域抽出を行った結果で、4人の医師による結果とコンピュータによる結果を比較したものです。

肺のCT画像を撮って、断面が輪切りになっているので、その写真を見て肺腫瘍を見つけていくんです。悪性腫瘍と分かればすぐに対処ができますが、サイズが小さいものは良性か悪性か分からないので経過観察になります。この判断ってすごく難しいんですよね。

悪性でも腫瘍が大きくなるタイミングが早いのもあれば、あまり変化しないものもあって、医師は大きさの変化を診断の一つの材料としています。医師の判断はもちろんですが、コンピュータが「第2の医師」として定量的に腫瘍の経過観察できれば、患者様も安心だし、医学的にもより進歩できると思ったんです。

「いかに腫瘍を正確に測るシステムをつくれるか」はやはり難関で。放射線科の先生にもご協力いただいて、腫瘍の特徴や判断のポイントなども教えていただきました。

本当に難しくて分からないことだらけだったんですが、研究にハマっていたこともあり大変さはあまり感じなかったですね。普通に生活していたら知ることが出来なかった知識や情報を教えていただいて、それが楽しくて無我夢中で研究に没頭していました。

「多角的に物事を見る」ことの大切さ

-大島商船に赴任されたきっかけを教えて下さい。

校内で色づく木々を背景に、学生たちと写真を撮る橘先生
2021年11月情報工学科5年生の学生と校内で紅葉狩り(真ん中の緑色のセーターが橘先生)

大学だけでは研究の時間が足りなかったので、そのまま大学院に進学しました。その時は働くなら「企業」の選択肢しか考えていませんでした。

ただ、学会に行って企業の方と接する機会があった時に、「企業で出来ることと出来ないこと」について教えていただく機会があって。「やりたいことが残っているなら大学にいたほうがいい」とアドバイスをいただきました。

また同じ頃に後輩や准教授の先生に「教えることが向いている」とアドバイスをもらったこともあり、そこで初めて「教職」が選択肢に入ったんですよね。その後、ご縁があって大島商船に着任しました。

-教える上で、大切にされていることはなんですか。

中学生を前に、ボードにスライドを映して説明する橘先生
オープンキャンパスで中学生を対象に画像処理について説明。(コロナ禍のため体験学習がなくなっていましたが、少しでも高専の授業内容に触れて欲しいと思い、画像処理の説明をしました)奥でマスクしているのが橘先生

私は「多角的に物事を見ることができる人材の育成」を大切にしているんですよね。「自分と違うから、興味がないから、人の意見を聞かない」のではなく、意見を聞いて自分と違えば「考え方が違うんだ」と思えばいいし、納得する部分があれば取り入れていくというように、「意見を受け入れなくてもよいから受け止める」という考えを学生が持てるようになって欲しいと思っています。

実はこの考えは、学生時代に准教授から言われた「貴方はマイノリティーであるということを認識するべきだ」という言葉から来ているんです。私自身、学生時代に「同じ大学で、同じ学科で、同じゼミならモチベーションも一緒でしょ?」と思い込んでいた部分があって、すごく苦しんだ時期があったんですよね。

そこに准教授の言葉がストンと落ちて。「同じ環境でも、考え方は全然違う」ということを初めて認識できました。

「一般的」「普通」という言葉は、よく使いますよね。だからこそ、学生には「一般的とは何か、普通とは何か」を考えてもらっています。多角的な考え方が出来ることで、様々なヒントをキャッチすることができるようになりますし、より良いものづくりや、よい人脈が築けるのではないかと思っています。

自分の手で実用化していきたいシステムとは

-先生の現在の取り組みと、今後の目標を教えて下さい。

澄み切った真っ青な空と、中高層の建物、白く凍ったチャールズ川
在外研究で滞在したマサチューセッツでの思い出(徒歩による通勤途中で凍ったチャールズ川を撮影してみました)

現在は肺の細胞を顕微鏡で見て、どんな病気なのか「より早く、より正確に」確定できるような病理画像の研究を行っています。

また2014年に在外研究でマサチューセッツ総合病院に行ったことがきっかけで、大腸ガンの研究も始めました。大腸ガンの検診で内視鏡検査をするんですが、検査も時間がかかるし、お腹を空にして検診しないといけないので苦痛ですよね。そこを楽にしていきたいんです。

CT画像。同じような画像が2枚。左側の画像には大腸の腸内に白い影がある
左図は腹部CT画像を立体的に表した画像です。黒い穴が大腸の領域で、その付近の白い領域が腸内の残渣です。右図はコンピュータによって仮想的にクレンジングした結果で、白い領域が取り除かれています。

画像内視鏡の技術を使い、お腹の中を撮影するだけで大腸内を検査してくれるような技術が開発できれば、「お腹を膨らませる」というデメリットはあるものの、今よりも楽に検査ができるようになります。最終的には「お腹を膨らませなくても検査ができること」が理想なので、1つずつ研究を進めていっています。

今は対象とした画像解析を行うことにより、医師の診断を支援するシステムを実現することを目標として研究に励んでいます。実用化まではいろいろ問題がありますが、1つでもいいから自分の手で実用化していきたいですね。

また学内では「情報教育センター長」として、情報リテラシーの重要性を伝えています。きちんと使い方が分かっていなければ、リスクを抱えたままインターネットと付き合うことになります。高専生だけでなく小学生・中学生とその保護者に、情報リテラシーをしっかりと意識していただくことが重要であると思っているので、この活動もより広めていきたいですね。

濡れたアスファルトのうえを他の参加者たちとともに走る橘先生。完走記念のメダルも。
これまで7回のフルマラソンを完走しました。左の写真は2013年の下関海響マラソンの写真です。右のメダルは下関市で開催された「海峡ウォーク30km,ツール・ド・しものせき130km,海響マラソン(42.195km)」を完歩・完走してもらった海響アスリートのメダルです(2013年)。

橘 理恵
Rie Tachibana

  • 大島商船高等専門学校 情報工学科 准教授

橘 理恵氏の写真

1997 年 山口県立下関南高等学校 卒業
2001 年 山口大学 工学部 知能情報システム工学科 卒業
2003 年 山口大学大学院 理工学研究科 博士前期課程 知能情報システム工学専攻修了
2006 年 山口大学大学院 理工学研究科 博士後期課程 システム工学専攻修了
2006年 大島商船高等専門学校 情報工学科 助手
2007年 大島商船高等専門学校 情報工学科 助教
2012年 同講師、2015年より現職

SHARE

この記事のタイトルとURLをコピーしました

大島商船高等専門学校の記事

工業高校から高専へ編入! 苦手な化学の克服が、人生のターニングポイントだった
自立型再生可能エネルギーの構築とともに、国際的な視点で「グローバル人財」に必要な力を磨く
エンジンに魅了され、ポンプの研究へ!? 研究は「やりたいこと」のどこかに必ず繋がっている

アクセス数ランキング

最新の記事

須藤先生(アイキャッチ)
異国の地が教えてくれた教育のおもしろさ。母校で探求する数学力とは
玉田先生
日本の橋梁点検技術を底上げ! クレインブリッジの損傷を発見したのは「講習会のおかげ」だった!?
北大4名の皆さま
高専から北海道大学へ進学! 大学での研究を通して学んだことが、就職先でも生きている!!