全国の高専生が集う高専ロボコンやロボカップでチャンピオンとなったチームを導いてきた小山高専電気電子創造工学科の床井良徳准教授。発足からたった3年で世界大会制覇を成し遂げたチームの成長秘話や学生への想いを伺いました。
ロボカップ世界大会制覇の道のり
―先生が高専に就職されたきっかけは?
子供の頃からものづくりが好きでした。研究が好きだったこともあり、なにかを探求できる環境で仕事ができたらいいなと思って、教育関係に進みたいと漠然と考えるようになりました。
実は、小山高専は私の母校でもあるのですが、在学中は将来像も決めきれていませんでした。ただ当時を振り返ると、実験のレポートのなかの考察を書くのが好きだった。データを持ってきて、解析して、そこからなにか新しい知見が出ないかを考える作業がおもしろいなと思うようになり、研究者の道へ進みました。
―以前は長岡高専にお勤めでしたね。ロボカップ世界大会制覇はそのときに?
小山高専に赴任する前は、およそ9年間長岡高専に勤めていました。長岡高専にはロボティクス部があり、40~50名ほどの部員がそれぞれチームを作り、ロボコン出場に向けて日々製作に取り組んでいました。
実は、私自身もロボコンに出たいという理由で高専に入学しているんです。小山高専在学中には実際に高専ロボコンにも出場しました。そうした経験もあり、長岡高専に赴任したその年からロボティクス部の顧問となりました。
そんななか2015年に発足したのがINPUTというチームです。このチームが2年後の2017年に、ロボカップ世界大会でチャンピオンになったんです。
―目覚ましい成績ですよね。大会はどういった内容だったのですか?
INPUTが世界大会に出場した年は、国内での大会が3月下旬にあり、世界大会が7月下旬に開催されるというスケジュールでした。ただその4カ月弱という短い期間に、大会のルールが大きく変更になったんです。
ロボカップはサッカーで対決する競技です。これまではボールから出る赤外線をたどり、自動でロボットが動いていくというシステムでした。ですがルール変更で赤外線の出ない、ただのオレンジ色のボールになったんです。どのチームもカメラを使うことになり、彼らは約3カ月の短いスパンでカメラのシステムをつくりあげました。
その技術が功を奏し、圧勝。他のチームはルール変更に追いつけず、ボールを追えないなか、彼らのロボットだけはしっかりとボールを捉えていました。世界大会のほとんどの試合でコールド勝ちをするほど、圧倒的な強さでしたね。
―他チームも同じ条件下でルール変更があったなか、INPUTがここまで対応できた要因は?
ボールを探すには、新しいプログラムをつくりあげる必要がありました。INPUTでは、このプログラミングを担当していたのが、軽音学部で音楽をやっていた学生でした。まるで作曲をするようにプログラミングしているのでとても興味深かった。その芸術性や創造力が活きたのだと思います。技術者といえども、いろんなことに精通していることが突拍子もない発想の源になるんだなと逆に学ばせてもらいました。
―先生としてはチームをどのようにサポートしたのでしょう。
高専生って私たちが思いつかないようなものを作ったり、考えついたりする子が多いんです。教員としてうれしい部分でもありますね。ですので技術面はあくまでヒントを出すだけ。彼らが不自由なく活動できるような場を整えてあげることが、主なサポートでした。
どの年代も本人たちの意思が強く、明確な目標を持っている子ばかりだったので、自分たちでなんとかしようという気持ちが原動力となって活動していました。
先のINPUTのメンバーたちはロボコンのために5年間で1万時間以上、年間2,000時間以上の時間を費やしました。高専にはそれだけ好きなことに熱中できる分野や環境が整っているので、熱意と目標があれば目的に向かってひたむきに頑張れるという強みが、高専生にはあるんだと思います。
社会性を身に着ける教育を実践
―小山高専に赴任されてから、研究やロボコンへの取り組みに変化はありましたか?
今は、高電圧パルスを使った材料合成について研究しています。長岡高専在職中から継続している研究で、卒業研究の時間と5年生の学生に任せて進めています。5年生になるとある程度自分で研究できるので、なにか結果が出てきたら一緒に考察するといった作業で進めています。
ロボコンは、小山高専には部がないのですが、プロジェクトとしてチームを作ってサポートを続けていますよ。ただ私の高専生時代は、時間はいくらでも費やせたんですが、今は時代の変化もあり、限られた時間のなかでのパフォーマンスになる。そのやりくりがなかなか難しいですね。
研究好き、ものづくり好きということもあり、ロボコンもそうですがなにかひとつこれだ!と思うと、そこに対してすごい力が出てくるんです。いまは教育指導についても力を注いでいます。
―学生といっしょに研究を進める上で、教育・指導はどういったことを心がけていますか?
最近では高専の特殊な良い部分が見えてきて、学生と先生という間柄だけではない関係性というのを感じています。一緒に研究・活動しているパートナーや仲間だと思い、何かをともにつくりあげる際には相互に意見を出し合っています。高専では、研究を良くしていこうと思ったときには、学生を大切にしないと動けない。良い人材や学生に直接動いてもらわないと、良い研究は生まれない。そういうところでも、学生とどう付き合っていくかという距離感がとても大事です。
ただ主体性を持つのも難しい。大学同様の高等教育機関とはいえ、年齢は高校生と同じですので、学生としていきなり自分で考えて行動するのはすぐできるものでもないと思っています。そうしたところではいま、小山高専の加藤先生達と一緒に新しい教育プログラムを実践するなどして、低学年の教育に力を注いでいます。自立した学生を育てていこうという取り組みですね。
人材を育てていくというのは、学生をどのようにサポートしていくかの重要度が高い。メンタルや気持ちを鑑みて、プレッシャーかけたり、抜いたりなど、ひとりひとりに合わせたサポートをしていけたらいいなと思っています。
今後は農業の分野にも挑戦
―研究、教育に力を注がれている先生の今後の展望とは
いま行っている研究を地道に進め、いずれ学問を構築したいと思っています。またそれとは別にやりたいこともあるんです。私の実家が農家なんですが、昔からロボコンに携わっているということもあって、将来的には農業とロボットをつなげていきたい。学生から課題を出してもらいつつ、農業の大変な部分を補うロボットが作れないか、学生と一緒に考えていきたいと思っています。
2001年 小山工業高等専門学校 電気工学科 卒
床井 良徳氏
Yoshinori Tokoi
2003年 長岡技術科学大学 工学部 電子機器工学科 卒
2005年 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 電子機器工学専攻 修了
2008年 同大学院 工学研究科 エネルギー・環境工学専攻 修了
2008年 新潟大学大学院 自然科学研究科 日本学術振興会特別研究員
2009年 長岡技術科学大学 工学部 産学官連携研究員、研究支援者、教育アドミニストレータ。
2010年 長岡工業高等専門学校 電気電子システム工学科 助教、2013年 同 准教授
2019年 小山工業高等専門学校 電気電子創造工学科 准教授
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