インタビュー

元船乗りの校長が取り組む、これからの日本社会を見据えた教育とは

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大学卒業後、大手海運会社にて機関士として勤務、その後、大学教員を経て富山高専に着任された賞雅 寛而(たかまさ ともじ)校長先生。特色ある富山高専の魅力と教育への取り組みについてお話を伺いました。

船乗りとしての経験が、研究のきっかけに

―教員になる前は、機関士として勤務されていたそうですね。

ペルシャ湾でランニングをする学生時代の賞雅先生
1977年ペルシャ湾にて

私が東京商船大学(現:東京海洋大学)に入学した頃は好景気だったんですが、その後に起こったオイルショックによって社会が混乱し、私が大学を卒業する頃には、就職難の時代になっていました。機関士になるための知識はもちろんのこと、英語も必死に勉強し、なんとか「大阪商船三井船舶株式会社(現:株式会社商船三井)」に就職することができました。

機関士というのは、エンジン・発電機といった船の心臓部を整備・点検する仕事で、船を動かすために必要な役割を担っています。当時は、25人ほどの日本人船員と共に船を運航し、石油などの貨物を運んでいました。大変な仕事ではありますが、「日本の産業を支えている」ということに、とてもやりがいを感じていましたね。

―そこからなぜ、教員に?

海洋大で研究していた電池推進船前で記念撮影
海洋大で研究していた電池推進船(右から賞雅校長・共同研究者大出教授・賞雅校長の奥様)

機関士として働き始めて約3年目に、母校の教授から「戻ってきて教員にならないか?」と言われまして。好きな仕事に就いて楽しくなってきた時期でもあり、多少の迷いはありましたが、結果として研究者になる道を選びました。

機関士時代に石油輸入による日本のエネルギー供給の不安定さに関心があったこともあり、資源の乏しい日本がエネルギーを安定的に確保するための手段として「原子力発電」の研究を行い、博士の学位を取得しました。

それから約40年間、大学の教員として研究・教育活動に邁進し、副学長まで勤め上げました。東京海洋大学から富山高専の教員へ赴任する例は多くあり、縁あって私も2017年から富山高専の校長に着任しました。

先端技術教育と多様性の推進

―富山高専の特徴について教えてください。

富山高専 射水キャンパス全景
富山高専 射水キャンパス全景

富山高専は、「富山商船高等専門学校」と「富山工業高等専門学校」が2009年に統合してできた、いわゆる「スーパー高専」であり、キャンパスが2つあることが特徴です。また、「国際ビジネス学科」という、全国高専の中で3校しかない文系学科がある高専でもあります。もともと「国際ビジネス学科」は、富山商船高専時代の、国際航海のための経済的知識と語学能力を持ち合わせた船長を育てるための学科から派生して誕生しました。

富山高専 本郷キャンパス全景
富山高専 本郷キャンパス全景

そのため、他高専の文系学科と比べても、より国際的な学科だと思います。英語はTOEIC600~700点が必須レベルであり、第2外国語も必修です。高学年になると中国語やロシア語で討論する機会もあり、語学に力を入れた教育が行われています。外務省に入省する卒業生が多いことにも、学科の特色が表れていますね。

20年以上前から、海外の提携校の単位認定制度が設けられており、留年をしなくても、最大1年間の留学に行けるという環境が整っています。「半年・1年」の中から期間を選択し、各学年から毎年、10人ほどの学生が留学しています。

ハワイ大学カウアイコミュニティカレッジとの5商船学科国際インターンシップ10周年記念シンポジウムの様子。
2018ハワイ大学カウアイコミュニティカレッジとの5商船学科国際インターンシップ10周年記念シンポジウム

富山県は私立高校・大学の数が少なく、特に私立の女子高は1つもないため、本校には優秀な女子学生がたくさん集まってきます。近年では、国際ビジネス学科以外の理系学科でも、女子学生の数が増えてきているんですよ。

そのため、全国高専の女子学生の割合は一般的には15~30%ですが、本校は37~38%と高い割合になっています。外部から来られた先生から「他高専とは雰囲気が違って、女子大みたいですね」と言われることもあるくらいです(笑)。

さらに、全国51高専の中での地元就職率は、東京高専・豊田高専・明石高専に続いて第4位。そのため、地方における高専の中では、最も多くの学生を地元へ輩出していると言えるかと思います。それは、富山に優秀な企業が多いということが一番大きいとは思いますが、富山県にある企業の良さを知ってもらうために、企業見学やインターンシップをほとんど県内で行っていることも背景にあるでしょう。

―校長としての取り組みには、どんなものがありますか?

遠隔授業を行う商船学科
2020遠隔授業 商船学科

私が着任したばかりの頃は、今でこそ主流になった「遠隔会議」は全く行われていませんでした。そこで2つのキャンパスの融合を目的に、3年前からすべての会議を遠隔で行うように変更しました。

そうすることで、キャンパスごとではなく、学校全体として情報が共有できるようになったんです。その甲斐あって、COVID-19の流行が深刻化し始めた2020年4月において、日本の学校で最も早く遠隔講義を開始することができました。

また、新しい技術に適応するため、2019年度から、全6学科において「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」を実施。全国の高専の中で2つしかない国立高専機構プロジェクトの拠点校として、力を入れて取り組んでいます。

さらに、本校は、タイの留学生受け入れの国立高専拠点校に指定されており、外国人留学生の受け入れも積極的に行っています。これからの日本社会は、ますます「多様性」が重視されていきますよね。そのため、学生のうちから異なる言語や文化を持つ留学生と触れ合うことは、学生にとって非常に良い経験になると考えています。

今後の日本に貢献できる教育を

―先生が思う、高専で学ぶことの良さはなんでしょうか?

乗船実習で海を背景に記念撮影
2017乗船実習

一般の高校では、「学んだことが実際に何に役立つか」を知らずに勉強している場合がほとんどです。しかし高専では、「この技術が社会でどのように役立てられるか」という点を重視した教育が行われています。

また、普通高校から大学に進学すると、本格的な専門の勉強が始まるのは、一般的に20歳からです。ですが、15歳から20歳にかけての人間の成長というのは目覚ましく、人生の中で最も重要な時期です。この時期に、高専生は博士号を持った先端的な研究者から専門を習うことができるんですが、これは、非常に贅沢なことだと思います。

そして、その専門的な実習・実験というのは、各高専にいる技術職員の方々のおかげで実施できています。私が富山高専に着任した時、技術職員のレベルの高さにすごく驚きました。大学の工学部ですら、実習・実験の数が少ないという問題に悩まされているのが現状です。そのため、こういった点からも、高専生は環境にとても恵まれていると思いますね。

―今後、取り組んでいきたいことはなんですか?

タイからの短期留学生の修了式
タイ短期留学生修了式

現在日本では、少子化による人口減少が大きな問題となっています。将来的に人口が半減し、85歳まで働くような社会を考えると、これからは「機械やAIといった技術を使って、人間の幸せを増幅させるような社会」を創造していく必要があります。

そして、高専生はその社会でトップランナーになれる人材。教育においてもその人材を最大限に生かすための変革が必要になりますので、今後の日本に貢献するような教育プログラム・制度をつくりあげられたらなと思っています。

賞雅 寛而
Tomoji Takamasa

  • 富山高等専門学校 校長

賞雅 寛而氏の写真

1976年 東京商船大学商船学部 機関学科卒業、同年 大阪商船三井船舶株式会社 三等機関士。
1980年 東京商船大学大学院 商船学研究科 機関学専攻修士課程修了、同年 東京商船大学商船学部 助手。
1981年 同講師 、1984年 同助教授 、1997年 同教授。
2003年 東京海洋大学 教授、2012年 同理事(研究・国際担当)副学長。
2017年 富山高等専門学校 校長。

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