
大島商船高専を卒業後、九州工業大学に進まれ、現在は同大学院で研究に励まれている大野誠也さん。高専の野球部での経験が土台となり、卒業論文や授業の取り組み方も変わったそうです。修士修了後はご就職されるという大野さんに、高専時代の思い出や、研究のやりがいについて伺いました。
野球部の先輩がきっかけで、大島商船高専に進学
―大野さんが大島商船高専に進学されたきっかけを教えてください。

小学校4年生の時に野球を始めて、中学校でも続けたのですが、そこで仲が良かった先輩が大島商船高専に入学されたのがきっかけです。中学校1年生のときから進学先は考えており、その中で「大人になって働いていけるのか」という漠然とした不安がありましたが、高専は就職しやすいし、短大生と同じような扱いがされると聞き、大きな決め手になりました。
進学先は機械工学科か情報工学科か迷いましたが、幼少期からゲームが好きだったので、身近に感じた情報工学科に進学しました。
—実際に進学されていかがでしたか。
一番印象に残っているのは、学校のPR動画を作成して、オープンキャンパスで未来の後輩に向けて発信するという授業です。動画作成ツールを初めて触り、5人1組のチームでPR動画を作成しました。私たちのチームは「情報工学科あるある」をコンセプトにして、「レポートが多い」「イベントが盛り上がる」「就職に強い」などを動画内でアピールしました。
「イベントが盛り上がる」では、「学生同士でポッキーゲームをする」というキャッチ―な企画を私が提案して、唇が触れるギリギリのところで動画をカットするという遊び心を入れたんです(笑) インパクトがありつつ、先生に注意されないラインを考えて脚本をつくった記憶があります。実際にオープンキャンパスで動画を流した際、参加していた方々が要所で笑ってくれて嬉しかったです。
一生忘れることのない、野球部での努力の日々
—高専生時代も、野球部に所属していたのですか。
はい。小学校6年生からキャッチャーを始めていたので、高専でもキャッチャーをしました。野球部はすごく弱小で(笑)、入学したときに3年生の先輩が2人しかいないチームだったので、1年生のときからレギュラーで試合に出させていただきました。ただ、同級生にはとても恵まれており、私含め11人も入部しましたね。

練習は一生懸命したのですが、1年生夏の大会はコールド負け。しかし、そのコールド負けしたチームと3年生夏の大会で再戦するという展開になったんです。そのチームは前年度ベスト4で本当に強いチームだったのですが、なんとそのチームに勝つことができました。私たちからしたら、甲子園出場と同じぐらい嬉しかったことで、未だに心の支えになっている経験です。
―その嬉しさの理由は、リベンジを果たした以外にもあるのでしょうか。
私が入学したときの高専のグラウンドはボコボコの状態で、自分たちで土を掘り起こして均して、雑草を取り除いてと、練習する以前のところから始まりました。練習はもちろんのこと、チームメイトと土台から一緒につくってきたことが、信頼や絆が生まれるきっかけにもなりました。
そのような過程を経て、コールド負けしたチームに勝ったので本当に嬉しかったんです。正直なところ、最後のアウトが取れる瞬間まで勝った気がしておらず、いつどこで逆転されるか分からない状況だったので、最後の1球がファーストミットに収まったところでガッツポーズしたのを覚えています。
チームメイトは主張できる人が多かったのでぶつかることも多かったですが、最終的には「みんなで同じ方向を向いて頑張る」というコミュニケーション能力も鍛えられました。この野球部での経験は、「何事もすぐ諦めたりせずに、地道に努力を積み重ねる習慣」になりましたね。

—卒業研究はどのようなことをされたのですか。
野球部の補助を務めていらっしゃった松村遼先生の研究室に入り、「夜間における害獣検出のための害獣サーマル画像の生成」の研究をしました。夜間に害獣を検出する際にはサーマルカメラを使う必要があったのですが、害獣の画像をAIに学習させるための素材がたくさん必要だったんです。ただ、害獣のサーマル画像がなかったので、動物の画像からサーマル画像を生成するのが研究の目的でした。

画像認識は初めてだったので、卒業論文が終わった当時も分かりきっていたか自信がないほど難しかったですね。ただ画像処理は目に見えて成果が出るので、それがモチベーションに繋がりました。
松村研は、どの学生もとてもメリハリをつけて研究していました。遊ぶときは研究を忘れて遊ぶ、研究するときは集中する、という流れが私にすごく合っていました。松村先生は分からないところをすぐに一緒に考えてくださる先生だったので、すごく心強かったです。
高専時代に理解ができなかった研究を続けた理由
―その後、九州工業大学に進学されたのですね。
九州工業大学では、「小型GPUマシンを用いた散乱媒質除去システムの作成」を研究しました。もともと研究室の先行研究で、「霧の画像の中から物体の画像情報のみ取得する」という研究をしていたんです。より実用的にするために、小型GPUマシンを用いて霧を除去するシステムを研究したのが大学4年生のときの研究です。
配属された当時、同じ散乱媒質系の研究をされている先輩が留学生のドクターの方だったので、意思疎通が難しい場面が多くありました。ハードルはあったものの積極的に話しかけ、コミュニケーションを取ることは意識しましたね。

また、大学生・大学院生の生活では1日7~8時間研究するのですが、ずっと研究するのはけっこう大変なんですよ(笑) そういう意味では、高専のときに身についたメリハリが生きていますね。
―現在はどのような研究をされているのですか。
九州工業大学大学院で「散乱媒質状況下における3次元物体検出システムの作成」の研究をしています。これは大学4年生のときの研究の延長線上ではあるのですが、簡単に説明すると、「霧の中から車の情報を誰でも分かるように取り出してくる」という研究です。参考にしている論文の数式を見て理解を深めたり、なぜこれが正しいのかをうまく説明したりするところに苦労しました。
画像認識の土台は高専で培ったので、そこが間違いなく役に立っています。高専の時はよく分かっていなかったところも多かったのですが、研究を続けるうえで一番未来が見通せたのが画像処理だったんです。数式を理解していくと、「こういう処理をしたからこういう結果が出るよね」ということが分かるようになってきます。難しいことをしていると思いつつも、「でもそうなるよね」と分かる分野が増えてきて、研究の面白さを感じていますね。

今後は自動車業界で就職する予定なのですが、「自分のために頑張る」のはなかなか難しいと思っています。私は、家族や友達のことを考えたほうが頑張れることが多いです。研究もいろんな人に支えられながらできたところがあるので、常に「人との繋がり」を意識しながら、それを自分の中で消化して積み上げていき、また人に還元できたら嬉しいです。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
高専に進学するメリットは専門分野を16歳のときから学べることです。これはすごく周りとのアドバンテージになります。大学の研究室で同級生が、「大学に入ってから初めてプログラミングを触った」と話しており、高専での勉強期間は確実に強みになると感じました。
そして、5年間同じ同級生で過ごすことは、もっと大きなメリットです。心からの友人ができ、それが私の高専生活を豊かなものにしてくれましたし、今でも帰省したり、結婚式に呼ばれたりと、交流が続いていることが支えになっています。世間一般的な高校とは授業体系も異なり、変人も集まりやすい高専ですが、私は大島商船高専に入学してよかったと思っています。
また、大学では外の世界をたくさん知ることができます。私の研究室の先生は韓国のご出身ということもあり、海外研修や留学生との関わりもたくさんできました。興味がある方は、大学への進学も積極的に検討されてみてください。
ぜひ高専で素敵な5年間を過ごしてください。後輩たちを応援しています。
大野 誠也氏
Seiya Ono
- 九州工業大学大学院 情報工学府 情報創成工学専攻 2年

2021年3月 大島商船高等専門学校 情報工学科 卒業
2023年3月 九州工業大学 情報工学部 情報・通信工学科 卒業
2023年4月 九州工業大学大学院 情報工学府 情報創成工学専攻 博士課程前期 入学
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