進学者のキャリア大学等研究員

ロボットに「心」を宿す技術で、社会を豊かにしたい。インタラクションデザインで拓く未来への挑戦

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小学生時代から始まったものづくりへの探求心と、長野高専で培った実学への姿勢を生かし、現在はインタラクションデザインやデータ駆動型農業の研究に取り組む信州大学の小林一樹先生。高専時代の経験が、研究者としての基盤をどのように支えたのか、お話を伺いました。

ものづくりへの興味が生んだ研究の最前線

―高専に入る前の興味・関心についてお聞かせください。

昔からものづくりに興味がありました。小学校2年生の頃か、もっと前からかもしれません。

幼少期の小林先生
▲幼少期の小林先生

例えば、車に乗りたかったので、小学生では車に乗れないから、自転車を車っぽく改造しようと考えました。ハンドルからブレーキを外して、前タイヤのスポークのところにブレーキをつけて、足でブレーキをかけられるようにしたんです。坂道で走らせて、いざとなったら止められなくて壁にぶつかったりしましたが、そうやって自分でいろいろいじるのが好きでしたね。

―高専を知ったきっかけは何ですか。

母親の影響が大きいですね。私は勉強にはあまり興味を示さなかったので、母親からは「せめて高専でも行って手に職をつければ」と言われていました。また、中学に入って成績が思ったよりよかったので、普通高校に進学する予定でしたが、担任の先生から「力試しで高専を受けてみろ」と言われて受験しました。

合格すると、母親から一転して「普通高校に行ける成績があるのに高専に行く必要はない」と言われたりもしましたが、私は高専に行くことに決めました。

―高専では研究以外にも打ち込まれたことがありますか。

テニスを高専から始めました。5年間続けられるのがよかったですね。全国大会に出場できたのも、5年間打ち込めたからだと思います。3年間だと足りなかったかもしれません。

高専では他にもプロコン(プログラミングコンテスト)に参加していて、充実した学生生活を送っていました。私たちが参加した課題部門は与えられた課題に適合したものをつくる部門で、研究室の先輩たちが代々優勝していたので、配属になったメンバーの一人が「やりたい」と言いはじめ、みんなで取り組むことになりました。

勉強面は、1年生の頃は部活と両立できるように頑張っていましたが、それが結構しんどくて、勉強の方に身が入らなくなりました。でも、学問自体は嫌いではなかったので、分からないところだけはこだわって理解するようにしていましたね。結果的に、勉強してもしなくても成績はあまり変わらなかったので、「まあいいか」とも思っていました(笑)

―高専卒業後は茨城大学のメディア通信工学科(現:電気電子システム工学科)に編入されたそうですが、どのような学科だったのでしょうか?

もともとは電気電子系の学科で、その中の通信が母体になっていたと思います。メディアというカタカナの学科名が少し珍しいですが、情報系の講義も開講されていました。

ただ、メディア通信工学科に入ったものの、自分がやりたいと思える分野の研究室がなくて困っていたんです。そんな中、私が4年生になる年に新しく先生が赴任されました。その先生の専門が脳科学で、授業も取ったことがなかったのですが、面白そうだと思い、「賭け」でその研究室に配属を希望することにしたのです。

高専で培った実学が、インタラクションデザインの未来を拓く

―現在の研究について教えてください。

博士後期課程から続けているものではありますが、インタラクションデザインという分野を中心に研究しています。人間とロボットが協調して作業する際に、ロボットが人間の行動を察して動くことで、心地よく協働作業ができるようにすることを目指しています。

例えば、掃除ロボットが人間の意図を理解し、適切に動くことで、より快適な生活空間を提供することができます。人間の意図を理解するためには、環境の変化をセンサーによって感知し、その情報をもとにロボットが動くことが重要です。

形状を自由に変更できるニットインタフェース。これを活用したインタラクションデザインを研究されています
▲形状を自由に変更できるニットインタフェース。これを活用したインタラクションデザインを研究されています

またデータ駆動型農業についても研究を進めています。農業では、経験や勘に頼る部分が多いですが、それをセンサーや情報技術を使って記録し、分析することで、定量的な裏付けを取ることができます。これにより、効率的な農業が可能になります。

農園を観測するフィールドモニタリングシステム
▲農園を観測するフィールドモニタリングシステム

データ駆動型農業は、博士取得後に人工知能学会の研究会で農業をテーマにした研究発表を聴講した際に知り、いつか取り組んでみたいと思った分野でした。その後、信州大学に赴任し、配属された研究室で農業関連の研究を行う機会に恵まれたことは、まさに願ってもないチャンスでした。インタラクションデザインの延長として、農家の知識や経験を取り出し、人工物がインタビューすることで、暗黙知を明らかにする研究も進めています。

自動で鳥と追い払うドローンと、独自開発されたドローンステーション
▲自動で鳥を追い払うドローンと、独自開発されたドローンステーション

―今後の目標について教えて下さい。

心や意識を持つ人工物をつくりたいと思っています。人工物が人間の意図を理解するだけでなく、人間も人工物の意図を理解することが重要です。

例えば、掃除ロボットがなぜそのタイミングで動くのかを人間が理解できると、安心感が生まれます。ロボットが心を持っているように振る舞うことで、人間がロボットの意図を理解しやすくなるのです。生活空間において、ロボットが人間の快適さを脅かさないようにするためには、ロボットが心を持っているように感じられることが重要といえます。

そして、人がロボットを見たときに心を持っていると感じるためには、ロボットがどのように振る舞うべきかを研究する必要があります。しかし、脳の中でどのような処理が行われているのかは解明されつつありますが、その「物質としての脳」から我々が感じる体験や感覚がどのように生じるのかはまだ解明されていません。これは「意識のハードプロブレム」と呼ばれています。

この研究は非常に難しいものであり、同じ分野の人からは変なことをやっていると思われることもありますが、私は挑戦し続けたいと思っています。

ブロックプログラミングで重機を制御するイベントを開催したときの集合写真(重機に乗っている方が小林先生)
▲ブロックプログラミングで重機を制御するイベントを開催したときの集合写真(重機に乗っている方が小林先生)

―高専でよかったと感じることはありますか?

受験戦争に巻き込まれずに済んだことは自分にとっては大きいです。受験のための勉強をしていたら、勉強が好きになれなかったかもしれません。高専では手を動かす機会が多く、実際に試してみることができるので、実学に重きを置いている部分がよかったです。普通高校では得られないような経験が詰まっており、型にはまらない自由な環境で、自分の強みを活かしながら生き抜く力を培うことができたと感じています。

また、高専卒業生に会うと「同じ苦労を味わった仲間」という意識から特別な親近感を覚えることも、高専ならではの魅力の一つだと感じています。

―高専生にメッセージをお願いします。

いちはやく自分が「変態」であること、つまり他の人とは違う独特の視点や個性、興味を持っていることに気づき、その特性を大切にして好きなことに思い切り取り組んでください。やりたいことがあるなら、我慢せずにまずは行動してみることが大切です。

具体的には、研究として実践している先生に相談してアドバイスや情報をもらいながら進めるとよいでしょう。また、自分の興味が世の中にすでに存在するものと重なるなら、その分野に携わる仕事に就くのも一つの選択ですし、それでも満足できない場合は進学して自分で研究を深める道もあります。

これからの時代は、尖った個性や興味を持つ人材が集まり、横へと広がりながら新しい価値を生み出していく時代になると思います。自分の興味を大切にして進んでいってください。

小林 一樹
Kazuki Kobayashi

  • 信州大学 学術研究院 工学系 教授

小林 一樹氏の写真

1998年3月 長野工業高等専門学校 電子情報工学科(現:工学科) 卒業
2000年3月 茨城大学 工学部 メディア通信工学科(現:電気電子システム工学科) 卒業
2002年3月 茨城大学大学院 理工学研究科 メディア通信工学専攻(現:電気電子システム工学専攻) 修士課程 修了
2006年3月 総合研究大学院大学 複合科学研究科 情報学専攻 博士後期課程 修了 博士(情報学)
2006年4月 関西学院大学 理工学研究科 ヒューマンメディア研究センター 博士研究員
2008年5月 信州大学大学院 工学系研究科 情報工学専攻 助教
2012年4月 信州大学大学院 理工学系研究科 助教
2013年8月 信州大学 工学部 情報工学科 助教
2013年11月 同 准教授
2014年4月 信州大学 学術研究院 工学系 准教授
2021年4月より現職

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