
富山高専を卒業後、大阪大学に進学し、現在は京都大学の大学院で研究に没頭されている長谷川愛(めぐみ)さん。高専での留学経験をきっかけに、環境問題に取り組むようになったそうです。そんな長谷川さんに、高専時代の思い出や、研究のきっかけについて伺いました。
カナダの学生の衝撃と、フードバンクの新鮮さ
―富山高専に進学されたきっかけを教えてください。
富山高専に進学したのは「国際ビジネス学科」という全国でも珍しい文系の学科があったからです。中学生の頃に一番興味を持って勉強していた英語を伸ばしたかったことや、高校生にあたる年齢で長期留学が可能だという珍しい制度に惹かれました。オープンキャンパスに参加したとき、先輩方の留学に関する発表を聞いて、海外が少しだけ身近に感じたことを覚えています。
―富山高専に進学されてみて、いかがでしたか。
3年生の時に10ヶ月間カナダに留学したことが一番印象に残っています。ただ、留学は入学前の一番大きな目標だったものの、大きな葛藤もありました。
というのも、私は高専から寮生活を始めたのですが、なんと1年生のうちにホームシックになってしまいました。それを何とか乗り越えて、やっと2年生では友達と楽しく過ごせたところだったので、「3年生で全く違う場所に身を移すと、またホームシックになっちゃうんじゃないか」とすごく不安だったんです。

一度はもう留学を諦めてしまおうかという気持ちになったこともありましたが、「今諦めるときっと後悔する」と、次のステップに進むことに決めました。自分の殻を破ることが一番の目標でしたね。
―留学中の思い出について教えてください。
当時、ある程度英語力には自信がある状態で留学したんですが、いざ現地に行くと全然喋れないし、聞き取れなくて(笑) でも、「オープンな心意気」が身につきました。私はもともと内気な性格だったのですが、10ヶ月間と期間が定まっていたこともあり、残り時間を意識しながら生活する中で、おのずと積極性が身についたんです。
留学中は、大学に付属しているインターナショナルスクールで学んでいたのですが、その授業で、「SDGsを市民生活の中に落とし込むには何ができるか」を考えて発表するというアクティビティがありました。当時の私はそもそもSDGsを知らなかったのですが、周りの学生はある程度知識を持っていて、かつ自分たちの意見を言えることに衝撃を受けましたね。

その後、Girl Guides of Canadaと呼ばれる「女性が地域社会に貢献する活動団体」に所属して、フードバンクに参加させてもらいました。食料を寄付する意思のある方が、紙袋に入った缶詰や保存の効く食料をご家庭の前に置きまして、私たちがそれを車で回収して集積所に持っていくんです。それが本当に新鮮で、とてもいい経験になりました。
個人的な思い出は、留学中一緒に行動していた中国人の友達と、ビクトリアの本格的な中華料理屋さんに連れて行ってもらったことです。なぜかカナダで中国の文化を学ぶことができて、すごく楽しかったですね。

-留学中の英語の勉強方法について教えてください。
実は、留学前に勉強していた英語と現地で使う英語のギャップの大きさに衝撃を受けました。というのは、日本の学校では特に「読む」「書く」技能を身につけることに焦点が置かれていると思いますが、留学先で最も必要になったのは「聞く」「話す」技能だったことです。
私は留学前にオンライン英会話教室に通っていたのですが、いざ留学に行くと会話のスピードについていけず、初日の授業では先生がジョークを言って他のクラスメイトが笑っているタイミングでも、訳もわからず置いてけぼりな自分に戸惑いを感じました。
もちろん、言語を使いこなすには四技能の全てが重要だと思います。しかし、留学序盤の内省を経て、私は「現地でしかできないことをしよう」という思いが強くなり、英語ネイティブの友達とカジュアルな会話を増やして、耳を慣らすことを一番意識しました。やはり基礎がないと応用はできないことをすごく感じたので、毎日の勉強をひとつずつクリアにしていくことが大事だと思います。
-その後、環境活動の場を広げられたそうですね。
留学から帰ってきた後は、学生主体で運営している青年環境NGO団体「Climate Youth Japan(CYJ)」に所属しました。気候変動問題をメインに扱っており、環境にまつわる勉強会や政策提言活動、国際会議への参加などをしています。
2021年の冬にはイギリスで開催されたCOP(※)に参加し、グループでプレゼンテーションをしたんです。私たちは「同年に開催された東京五輪に対する持続可能性の観点からの評価と、2025年の大阪万博に向けてそれらをどう生かすことができるかの展望」について発表しました。
※ 正式名称はConference of the Parties(国連気候変動枠組条約締約国会議)で、気候変動にまつわる国際的な会議のこと。国連気候変動枠組条約には、気候変動問題を解決すべく、2023年10月現在で世界198か国・地域が締結・参加している。

世界各国の政府やメディア、企業や学生など、立場の違う人々が一つの問題に関して議論していたことに感銘を受けました。「もっとこの分野に携わりたい」という思いを新たにしましたし、環境問題に対して何かしらの熱意や問題意識を持って取り組んでいる仲間を見つけられたことは貴重な経験でしたね。
高専で学んだ「目指すべき方向性を定める」重要性
-卒業研究はどのようなことをされたのですか
留学後は、宮重先生のゼミに所属して、「地域におけるNPO活動を通じた社会関係資本の蓄積が、環境配慮行動の促進に寄与するプロセス」について研究しました。徳島県の上勝町で、行政と市民が一丸となってリサイクル事業に取り組んでいる事例があり、そこから「どうすれば行政と市民がうまく連携してプロジェクトを進められるのか」を研究するものです。
卒研は、宮重先生の言葉で言う「どう調理するか」に苦戦しました。大きな規模の活動であっても、中身を見てみると一人ひとりが意思を持って動いているからこそ活動が成り立っているので、その行動の源泉に着目しましたね。
宮重ゼミでは、目指すべき方向性やビジョンを明確に持って行動していくことの大切さを学びました。ゼミの中で輪読した『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(※)の中で、「長く経営できている大企業は、明確な企業理念に社員が共感していて、それを社員一人ひとりが軸として行動するから長く続く」といった趣旨の理論が書かれていて、目指すべき方向性を定めることの大切さに気付いたんです。
※ジェームズ・C・コリンズ, ジェリー・I・ポラス著, 山岡洋一訳『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』, 日経BPマーケティング, 1995.
ゼミのおかげでテーマに関係なく共通する本質的な問題提起をできるようになりましたし、宮重先生のご指導もあって、次第に論理的思考が身についたと感じます。

そして、このゼミでの学びをもとに、次の目標として「環境問題に対する関心を究める」ため、大学編入や今の大学院を決めました。高専では本格的に環境問題を学んでいたわけではなかったので、専門性を身につけたいと思い、大阪大学へ。大学から大学院に関しては、環境問題に特化しているという点で京都大学大学院を選びました。
―現在はどのような研究をされていますか。
「ベジタリアンやヴィーガンに代表される菜食主義者が地球環境に与える影響」というテーマに取り組んでいます。菜食主義にはCO2排出量が少ないという特徴があり、これは地球温暖化問題を考えるうえで効果的な行動だと捉えられています。これを人々の行動変容の観点から研究できないかと考えているところです。
将来的には国際的な環境NGOで働いてみたいですね。NGOは非政府組織なので、利害関係に縛られない自由さがあると思っています。第三者的立場からどれぐらいの影響力を持って問題に働きかけられるのか、という問題に挑戦してみたいです。

―現役の高専生へメッセージをお願いします。
高専には、自分の関心を追求できる自由な環境があります。私は「自分の大切なことはこれだ」と思えるような軸を見つけることができましたし、人生のターニングポイントともいえる貴重な5年間を過ごすことができました。今のキャリアは、高専での充実した体験が導いてくれたと強く感じます。
進学すると、大学・大学院ではより研究や議論の質が高まります。特に大学院は、自分が持っている疑問や関心を同じように共有できる人と出会えて、非常に高い知識レベルで話し合える場所で、日々刺激を受けています。

私は「知ること」こそが一つのターニングポイントで、自律的に思考・行動するためのきっかけになると考えています。在学生の皆さんには、多方面にアンテナを張り巡らせて、いろんな情報に触れて、関心を広げてほしいです。仮にそこで得た情報が直接関心に結びつかなかったとしても、「少なくともこれには興味がない」という、自分を知るための情報になります。皆さんの学生生活が実り多きものとなりますよう、応援しております!
長谷川 愛氏
Megumi Hasegawa
- 京都大学大学院 地球環境学舎 環境マネジメント専攻 修士課程 2年

2021年3月 富山高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2023年3月 大阪大学 人間科学部 人間科学科 社会学科目 卒業
2023年4月より京都大学大学院 地球環境学舎 環境マネジメント専攻 修士課程
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