コロナワクチンでも話題の「RNA」を研究されている、東京大学大学院 薬学系研究科教授の秋光信佳先生。大学薬学部からだけでなく高専専攻科からも入学できるという進路についてや研究内容、高専生の進路に関するアドバイスなどをお伺いしました。
ゲノムに隠れた謎を解明する研究
―どのような研究を行っているのでしょうか?
ひとことで言うと、私は「遺伝子の研究」を行っています。私たちの体の成り立ちを突き詰めてゆくと、DNAに書き込まれている遺伝子(遺伝情報とも呼びます)につきあたります。また、遺伝子の異常が病気を引き起こします。そのため、遺伝子を理解することが、病気の根本原因の解明につながり、画期的な新薬を作っていく上で、とても大きなヒントを与えてくれます。
DNAに書き込まれた遺伝子の情報は、いったんRNAという生体分子に写し取られ、このRNAからタンパク質が作られます。この一連の流れをセントラルドグマと呼びます。私は、セントラルドグマで中心に位置する「RNA」を主に研究しています。
コロナウイルスも、実はRNAでできています(このようなウイルスをRNAウイルスと呼びます)。さらに、モデルナやファイザーが開発したコロナワクチンは、従来のワクチンと違って「RNA」を活用しており、「メッセンジャーRNAワクチン」と呼んでいます。そのため、RNA分子を理解することは、コロナウイルスはもちろん、薬学において非常に重要なんです。私たちはそういったRNAに関する最先端の研究を行っています。
RNA分子を理解し有効活用することで、遺伝子の理解を深め、がんやストレスに関する病気の撲滅に取り組んでいこうというのが、私の研究室の大きな方向性です。
学問分野の名称としては分子生物学という分野になるのですが、「ゲノムの謎を解明する研究」といったら、かっこよすぎますかね(笑)? 遺伝子の働きを理解し、病気の原因を明らかにし、そして創薬に役立てることを目的として、日々研究に励んでいます。
知られていない、高専専攻科からの入学という進路
―薬学部からの進学者が多いと思いますが、高専専攻科からも入学できるんですか?
できるんですよ!しかも文系を含め、どの専攻科卒でも「学士」の学位を持っていれば入学OKなんです。じつは、東大の薬学系研究科は、薬学部出身の学生だけに来てほしい訳ではなくて、生命現象を理解したいとか、創薬をやりたいとか、有機化学をやりたいとか、そういう研究分野に興味をもった熱意ある学生さんに入学していただきたいんです。
3年ほど前に東大の薬学系研究科の入学試験の内容を大幅に改定し、薬学部出身以外の幅広い分野の方も受験し易くなったのですが、受験生の皆さんに十分周知できていません。実は、私もつい最近まで、高専専攻科から薬学系に入学できると知らなかったくらいなんです(笑)。そんなこともあって、高専専攻科からの東大薬学系への入学者は、私が知っている限り、ひとりもいません。この記事を読んでいる方に、是非、高専専攻科からの東大薬学系入学者の第1号になって欲しいと思います。
ちなみに、私の研究室では、東大以外の大学からは、東京理科大学・北里大学・学習院大学・名古屋市立大学・日本医科大学などから入学実績があります。最近は海外からの留学生も増えています。薬学部ではない、他学部からの進学者も多いんですよ。
いまは多様性の時代ですよね。私は、いろんな国や大学、さまざまな勉強をしてきた方が同じ研究室で机をならべて、多角的な視点で一緒に研究を進めることが必要だと考えています。中学を卒業後7年間、しっかり研究に取り組んで来られた高専専攻科の方にも、ぜひ来ていただきたいですね。
―卒業後の進路としては、どういったところがありますか?
薬学系研究科を卒業したかたは、国内外の様々な場所で活躍しています。たとえば、武田製薬やアステラスなどの日本を代表する製薬企業に就職する学生さんが沢山います。国や県などに職員として就職する方もいます。また、研究者として海外に武者修行に出る学生さんも沢山います。
私の研究室の卒業生も、製薬企業、海外の研究所・大学、国内の研究所などに就職しています。研究するよりサポートするほうが向いているのがわかったといって、研究者をサポートする国立研究機関を目指す学生もいます。
秋光研究室に所属されている3名の院生にも、お話を伺いました
―秋光研究室を選んだ理由は、なんでしたか?
山地さん:東大大学院薬学系研究科の説明会に参加した際に、もともと興味があったノンコーディングRNAの魅力について秋光先生が語っており、研究室見学をする中でさらに興味が湧いたのがきっかけですね。
私の勝手なイメージですが、大学教授はみんな物静かで真面目すぎて、つまらない人が多いと思っていたんですよ(笑)。でも秋光先生は研究に対する熱意がすごいし、プレゼンも上手で、人とのコミュニケーションを大事にしている人だなと感じました。そんな先生の性格が自分に合っていると思い、秋光研究室を選びました。
韓さん:中国にいたときから、日本の薬品と製薬はレベルが高いと思っていたんです。分子生物学に興味を持っていたので、秋光先生のホームページを拝見し、先生の論文を読んだことがきっかけですね。
光冨さん:秋光研に来る前は、蚕を使った細菌感染症の研究をしていました。でも研究を続けていく上で、ヒトの細胞を扱う技術や分子生物学の技術を身につけたいと思うようになったんです。秋光先生は分子生物学分野で実績を残されていて、研究室の先輩でもあり、学会や授業で面識があったので、博士課程からこの研究室に加入しました。
―どんな雰囲気の研究室ですか?
山地さん:先輩と後輩の仲がいい研究室だと思いますね。韓先輩や光冨先輩をはじめ、雑談を交えながら楽しく研究ができています。研究のことだけでなく、プライベートなこともよく話しますよ。
韓さん:なにか問題が発生した時も、みんなが助けてくれて、本当に家族みたいに思っています(笑)。仲が良くて、明るい研究室であることは間違いないですね。
光冨さん:一生懸命に研究課題に取り組んでいて、真面目な人が多いと思いますが、ちょっとのんびりしている雰囲気かも(笑)。みんな優しいです。
―入学希望の高専生へ、入試対策についてアドバイスはありますか?
山地さん:私は過去問などから、どの部分が出やすいかをノートにまとめ、理解できるまで何度も読んだり、わからない部分は教授に質問したり、ネットで調べたりしました。募集要項には、この内容から出題するなど書いてあるので、まずはよく確認することをおすすめします。
韓さん:試験は選択科目があり、12題のうち3題を選べるんですが、自分の得意分野を選ぶことですね。大事なのは、過去問を事前に調べておいて、自分がいちばん得点をとれそうな科目を集中的に勉強することです。
光冨さん:私は東大薬学部出身だったので、学部時代の授業の内容を復習しました。そのうえで、ひたすら院試の過去問を解きました。英語も試験科目にあるのですが、TOEFLなので、その対策も行いましたね。
―みなさん、貴重な情報をありがとうございました!最後に、秋光先生から高専生へのメッセージをお願いします。
大学院に進学を希望するときは、必ず志望する研究室に問い合わせて訪問し、先生だけでなく研究室のメンバーとも話してみてください。大学院では、研究室で過ごす時間が長くて、人間関係が密なんですよね。研究内容や研究室の雰囲気が合わないと、とても苦痛な2年間を過ごすことになります(笑)。そういった部分の合う合わないは、とても大事だと思いますよ。
また、研究室によっては、外部からの学生をほぼ受け入れない先生もいらっしゃるので、ちゃんと調べておかないと、入学後に希望と違う研究室へ配属されることもあります。
高専専攻科から薬学系大学院という進路は、ほとんど知られていませんでしたが、ぜひ選択肢のひとつとして考えていただきたいです。
私の勝手なイメージかもしれませんが、高専生は研究熱心な学生が多いと思っています。ぜひ、そんな方に来てもらって、たくさん研究をしていただきたいですね。
生命現象の解明に取り組み、それを医薬品開発などに応用してみたい方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。お待ちしています!
2021年6月9日(水)に高専生向けオンライン進学セミナーを開催しました。
第1回 進学セミナー 東京大学編
【秋光研究室】
東京大学 アイソトープ総合センター 研究開発部門 秋光研究室
〒113-0032 東京都文京区弥生2-11-16
TEL: 03-5841-2877
FAX: 03-5841-3049
【大学院入試 問合せ先】
東京大学大学院薬学系研究科事務部 教務チーム
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