富山高専の国際ビジネス学科を卒業し、東京外国語大学へ編入された藤野綾乃さん。現在は朝鮮語の言語学習を通じて文化や価値観に触れ、人間の営みを考えている藤野さんに、高専時代のエピソードや現在の研究、これからの挑戦について伺いました。
外国語とビジネスを、どちらも深く学べる
―幼少期はどんな環境で過ごしましたか?
富山県で生まれ、幼少期に公文で英語を習い始めました。ディズニーチャンネルで海外のドラマや映画に出会った頃から、本格的に英語が好きになりましたね。例えば『ハイスクール・ミュージカル』は、劇中の音楽はもちろん、海外の暮らしや文化にも魅了され、憧れを抱かせてくれた作品でした。
中学に上がって、授業で英語の勉強を始めると、さらに英語が好きになり、授業以外にも自主的に勉強をしたり、英検の資格を取ったりしました。そして気づけば、「将来は日本だけでなくグローバルな場で活躍できる人になりたい」と思うようになっていたんです。
そして、富山高専の国際ビジネス学科を進学先として決めました。普通高校に通って大学進学のための勉強をするよりも、英語やそれ以外の外国語、さらにビジネスに関する専門知識を早い段階で身につけられると思ったからです。
―高専を進学先に選んだ決め手について、詳しく教えてください。
富山高専の国際ビジネス学科では、英語と環日本海諸国語(ロシア語・中国語・韓国語のうち1つ)をネイティブのもとで専門的に学べます。留学の制度も整っており、外国語を極めたい私にとっては最適な環境でした。
また、当時は高専卒業後に就職する予定だったので、ビジネスの場で必要となる経営学や経済学、会計、法学、パソコンスキルなどの知識を幅広く学習できる点も魅力に思ったんです。
そんな中、1番の決め手となったのは、高専の説明会に参加した際にある先生が、「好きこそものの上手なれ、ですよ。高専は好きなことを伸ばせる学校です」とおっしゃったことでした。「ここで好きな英語を極めたい」と私は強く感じ、進学を決めましたね。
高専で出会った韓国語。生の言葉が分からず、さらに熱中
―富山高専での学生生活についてお聞かせください。
富山高専には、電子情報工学科などの理系の学生や商船学科の学生もいます。そのため、学科に属する学生や先生方の特色もさまざまで、多様な価値観にあふれていたと思います。このおかげで、自身がもっている偏見や固定観念にとらわれることなく、さまざまな意見を受け入れられるようになりました。
高専ならではの自由さに最初はギャップを感じましたが、多様性のある学校に5年間通えたことはとても良い経験だったと思います。
さらに、韓国語を初めて学んだのもの高専時代でした。最初は、「先生の雰囲気と韓国料理が好きだから」という安易な理由で選んだ外国語の授業でしたが、10人ほどの少人数制で密に勉強できたことで韓国語をだんだん好きになり、大学編入のときには英語ではなく韓国語を選択したくらいです。
―英語から韓国語の専攻へ転身したのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
1番は、高専3年生の夏休みに参加した韓国・ソウルへの短期留学です。私は好きになるととことん勉強したくなるタイプで、留学するまでは韓国語のリスニングやライティングに、それなりの自信がありました。
しかし、いざ現地へ行き、観光地から離れて郊外で韓国語を話すシーンになると、言葉が全く出てこなかったんです。授業で勉強してきたのは教科書文法なので、地方の方言がわからず、困惑してしまいました。特に、ご高齢の方と話したときは、方言の理解に苦戦して、モヤモヤした気持ちで帰って来た経験が、勉強意欲をさらに刺激しましたね。
この頃には大学進学を考え始めていたので、編入試験の勉強をしながら卒業研究を開始。韓国の学歴主義による青年失業者の発生をテーマに、それらの因果関係を明らかにしました。
―外国語を勉強するときには、どんなツールを使っていますか。
英語も韓国語も入り口はエンタメであることが多いです。「好きなものの意味や読み方を知りたい」という気持ちが、最も無意識的に勉強への意欲向上につながっていると思います。
また、実家から高専までの片道1時間半の通学時間を使って、とにかく勉強していました。韓国語のラジオを聞いてみたり、韓国文学を読み漁ったり。ネットニュースも朝鮮日報やJTBCニュースなどの韓国のアプリでニュース記事を読んでいました。そうすると、場面ごとに使い分けられている言葉のニュアンスがわかっておもしろく、とても勉強になります。
日韓問題などがニュースになったときは、日本側の報道だけでなく、韓国でどのように報道されているかを調べて、それぞれの視点から考えたりもしていました。
私が選んだ“グローバル”な舞台
―編入先として東京外国語大学を志望した理由をお聞かせください。
富山高専を志望したときと同じく「グローバルな場で活躍できる人になるための学びや経験ができる学校であること」、そして「韓国語を言語学的な側面から体系的に学べる学校であること」という条件で学校を探した結果、東京外国語大学の言語文化学部が最も適していると思いました。
この頃になると、外国語をただ学ぶのではなく、外国語学習を通して、多様な文化や価値観に触れ、人間の営みについて考える——これが1番の目的になっていました。「韓国語を学ぶ」のではなく「韓国語で学ぶ」学校であり、私が関心を持つテーマを最も学術的に研究できる環境だったことも決め手となりました。
―それでは、研究しているテーマについて教えてください。
私が行っているのは、中級レベルの韓国語力をもつ日本語母語話者が上級レベルになるための研究です。その一環として、似て非なる意味を持つ韓国語の使い分けについて研究しています。
具体的には、「約束は守るべきものである」など、「〜ものである」という一般常識や当然の事実を表す際の表現についてです。中級レベルの学習過程においては、この「〜ものである」という文法について、主に2つの表現を参考書で学ぶことが多いです。
私は高専4年生のとき、この2つの表現の使い分けについて疑問に思ったんです。担当の先生に尋ねても「感覚的に使い分けているけれど、その基準が何かと言われると言語化できない」という答えでした。日本語で例えるなら、類義語の「とても」と「非常に」の使い分けのようなことですね。
この使い分けの基準を明らかにし、韓国語を学ぶ人が現地の人と同じ言語運用感覚を養うことを、卒業研究のテーマとしています。まだ研究途中ですが、「~ものである」の意味をもつ「①-ㄴ/는 법이다(―ヌン ポビダ)」と「②-게/기 마련이다(―ゲ/ギ マリョニダ)」のそれぞれの文法に含まれる「①법(ポブ)」と「②마련(マリョン)」が指す「当然」の範囲が異なることで使い分けされているのではないか、というのが現時点の考察です。
―将来の夢について教えてください。
グローバルな場で活躍できる人になりたいと思っています。「グローバルな場で活躍」と言うと、海外で働くといったイメージが沸くかもしれませんが、そうではありません。私は「グローバルな場」を「多様な人がいる場所」と捉えています。
そのため、富山高専も、東京も、私にとってはグローバルな場です。多様な人がいる場所で活躍できる人、すなわち、どんな人がいても通用できる人になることが私の夢ですね。
―最後に、学生にメッセージをお願いします。
自分の考えを尊重する。今1番伝えたいメッセージはそれです。偏差値などの数字や社会的なイメージ、周囲の意見などを一旦抜きにして、自分の基準で物事を考えることが大事だと思います。
人によっては、「自分の基準=他者の評価」で、他者の考えが自分の中心にある人もいるかもしれません。それはそれで1つの価値観なので、悪いとは思いませんが、後々人のせいにしない選択をするには、自分の考えを尊重して生きるほうがみなさんのためだと思います。
自分が考え抜いた選択なら、途中で挫折しても、諦めない気持ちが生じるかもしれません。あなたの人生を豊かにできるのは、最終的なアクションを起こすあなた自身に委ねられています。あなたが選んだのなら、きっと大丈夫です。自分を信じてくださいね!
藤野 綾乃氏
Ayano Fujino
- 東京外国語大学 言語文化学部 言語文化学科 朝鮮語専攻
2021年3月 富山高等専門学校 射水キャンパス 国際ビジネス学科 卒業
2021年4月 東京外国語大学 言語文化学部 言語文化学科 朝鮮語専攻 入学
2022年9月〜12月 慶熙大学 交換留学(韓国)
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