子供の頃からモノづくりが好きで高専への進学を決め、専攻科、大学院を通し吹奏楽の音楽経験を元に電子楽器の研究に取り組んでこられた、東京情報大学の小出英範先生。電子楽器の操作性の向上と今後の可能性、活用法についてお話を伺いました。
楽器演奏の研究は、渡りに船だった
―まず、高専へ進学を決めた理由をお聞かせください。
幼稚園、小学校、中学校と、モノづくりや工作が大好きでした。段ボールを切ったり貼ったりしているような、そういった子供だったと思います。当時、親の勧めで参加していた「少年少女発明クラブ」では、ノコギリとかはんだ付け体験など、さまざまな工作や実験のモノづくりの活動をしていました。
そして、「モノづくりが好きなら、高専で勉強するのが良いぞ」という祖父の熱心な勧めで、最初に聞いた言葉が高専だったんです。モノづくりについて詳しく勉強できる環境があるならと、近くの木更津高専を第一志望にしました。
「モノづくり=機械」というイメージもありましたが、入学した段階で厳密にモノづくりのどこが良いというビジョンがなかったので、だったら幅広く勉強できるほうが良いだろうと、「電子制御工学科」を選びましたね。
電子制御工学科で良かったところは、実習で機器の使い方を実践できたことです。電気も制御も幅広く勉強でき、その後、会社員だったときの業務や、現在行っている電子楽器製作の研究に役立っています。
―電子楽器の研究をテーマに選んだきっかけを教えてください。
小学校の頃から地元のお囃子、中学校から吹奏楽でチューバやバリトンサクソフォンなど楽器の演奏をしていましたので、高専4年生の特別研究で先生から電子楽器の研究テーマを提示されたとき、「あ、これだ!」と直感しました。楽器に関連する研究として、電子楽器の製作を行うことができたことは「渡りに船」という感じでしたね。
高専卒業後は進学を検討していて、4年生後期から行っていた電子楽器の研究を継続したいと考えていたので、同校の専攻科を希望しました。自身の専門分野と楽器演奏の経験の両方を生かせると考えたんです。
専攻科では準学士課程(電子制御工学科)で学習してこなかった他分野について学習する機会がありました。特に、他の専攻の学友と一緒に、企業での業務に関連する課題など、専門以外の分野が関わる課題に取り組めたことは良い経験になりましたね。
「演奏しやすい」を、多面的に分析する
―修士、博士課程へ進学しつつ、社会人も経験されたのはなぜですか。
専攻科で行っていた電子楽器の製作に加え、その評価にも重点をおいた研究をしたいと考え、修士への進学を選択しました。東京情報大学大学院を希望した理由は、音響を専門としている先生方にもコンタクトをとったところ、楽器の演奏やその評価・分析に一番合致しているのが、西村明先生の研究室だったのです。
専攻科までは電子楽器を製作することがメインでしたが、大学院ではそれに加えて教授の指導の下で演奏分析を行い、製作した電子楽器を演奏者の主観と客観の両方から評価できるようにしました。この演奏分析や評価は現在の研究でも重要な部分となっています。
大学院卒業後は社会人として少しずつ研究しようと就職することに決め、新横浜にあるセントラルエンジニアリング株式会社でハードウェアと電気回路関係のエンジニアとして勤務しました。
しかし、修士での研究や学会発表を経験して、自身の電子楽器の研究をより発展させて続けていきたいとの思いから、やはり博士課程への進学と研究者を希望するようになったんです。そういった理由もあり、会社を退職して大学院の博士課程を受験しました。
博士課程はコロナ禍という不測の事態の中でしたが、これはこれで貴重な経験だったと思います。製作した電子楽器を被験者に演奏してもらうことがあるのですが、対面が困難な時期でも実施可能な実験計画を立てる必要がありました。研究としては痛手でしたが、今後似たようなリスクに直面したときに役立つモデルケースになったと考えています。
また、博士課程の3年間では、より多くの幅広い専門分野の先生方や学生さんから意見をもらえる機会が多くありました。他の視点から研究を見直すことができる機会があったことも良かった点でしたね。
―これまでの電子楽器の研究内容について教えてください。
高専時代は、マイコンやセンサを用いて、全く新しい電子楽器を製作することを目指していました。子供でも興味を持って演奏してもらうことを念頭に置いて、手の平サイズの球の表面に触ることでドレミを演奏する電子楽器を製作していましたね。
専攻科では、従来の楽器の演奏の難点を克服することを目指した新しい電子楽器の製作を目指しました。ただ、ハンドベルの難点を克服した「ドレミを操作できる電子ハンドベル」を製作したところ、演奏した学生の報告から電子ハンドベル自体の演奏が難しいことや、それに対して多くの練習をする必要があるなど課題が残ったんです。
そこで、修士課程では、電子ハンドベルでの課題を受け、より演奏しやすい、新しい電子楽器の製作に取り組みました。電子楽器の演奏分析と評価を目的とした演奏実験を行い、新しい電子楽器をつくるだけではなく、「どんな楽器が演奏しやすいのか」「どんな評価項目があるとよいか」の検討も目的でしたね。
例えば、被験者に製作した電子楽器を演奏してもらって、「演奏音の録音」と「演奏のしやすさや楽しさといった主観的評価」を行いました。
そして、「演奏音の録音」を分析することで、各電子楽器の演奏のしやすさと正確さを定量的に分析しましたね。さらに、その結果を電子楽器同士で比べることで、どのような特徴をもつ電子楽器が演奏しやすいのか検討しました。一方、「演奏のしやすさや楽しさといった主観的評価」でも、結果を因子分析して、なるべく少ない評価項目で演奏しやすさを適切に評価できるよう、検討を行っていたんです。
博士課程ではそれに加えて、製作した電子楽器と、比較対象の鍵盤楽器の演奏練習を3週間行いました。3週間の変化から新しい電子楽器の上達度合の評価も行うことで、どんな特徴を持つ電子楽器であると上達が容易であるかを検討したのです。
さらに、大学生に新しい電子楽器や楽器演奏、演奏練習に対する意識調査を行い、私が目指している新しい電子楽器にニーズがあるのかも調査しました。
誰もが気軽に演奏できるように
―今後の電子楽器の可能性、将来性についてお聞かせください。
将来の目標としては、研究を通して楽器演奏に対するハードルの高さを克服し、誰でも気軽に音楽や楽器に触れることができるようにしたいですね。電子楽器は音楽演奏だけではなく、福祉やリハビリなど他分野での活躍を目指されています。そのような新しい電子楽器の普及や利用の拡大の一助になればいいですね。
例えば、お年寄りや健常者でない方たちでも演奏を楽しむための手段の1つとして使えないかという意見があります。ただ、管弦楽やバンド、学校の音楽の授業などで演奏されている楽器は昔からだいたい決まっていて、そこに自分が示したような新しい楽器が参入するっていうのは、現状かなり難しいのです。
今はあくまで楽器演奏をきちんとできるものを念頭に置いていますが、将来的にそういった新しい楽器の利用方法・活用法・可能性もあるので、そのあたりも詰めていければいいのかなと思います。そこに向けて、いろいろ研究を続けて行きたいです。
―これから高専進学を希望する人へ、メッセージをお願いします。
私はモノづくりが好きで高専へ進んだのですが、実際に自分の手でつくりたいものをつくれる技術を身に付けられたことは1番良かったなと思います。進学を希望する皆さんには、そういった新しい学びのチャンスを逃さないように、積極的に自分から動いて、学生として有意義な時間を過ごしてほしいです。
そうすることで、社会で即戦力になってくれたらありがたいですね。私自身、装置や測定器もすぐに使えるような状態でしたから、高専での学びによって、情報・知識のレベルは深くなるのではないでしょうか。そこが、高専生の魅力です。
高専を目指す中学生の皆さんはしっかり調べていると思いますが、私のようにモノづくりを目指しているというのであれば、入って損はないと思います。ただ、勉強の速さとか、早い段階からレポートがどっさり出てきます(笑) 「頑張るぞ!」っていう目標・目的意識を持って取り組む気持ちが大事です。
熱意を持って、大変なことを乗り越えた先に、一生財産になるくらいの知識・技術・能力が身に付くと思います。なんとか乗り越えてください!
小出 英範氏
Hidenori Koide
- 東京情報大学 非常勤講師
2014年3月 木更津工業高等専門学校 電子制御工学科 卒業
2016年3月 同 専攻科 制御・情報システム工学専攻 修了
2018年3月 東京情報大学大学院 総合情報学研究科 総合情報学専攻(修士) 修了
2018年4月 セントラルエンジニアリング株式会社 技術部(2019年3月まで)
2022年3月 東京情報大学大学院 総合情報学研究科 総合情報学専攻(博士) 修了
2022年4月 東京情報大学 特別研究員(2022年8月まで)
2022年9月より現職
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