高専時代に専門分野の面白さに気づき、以来研究一筋で過ごされてきた長岡技術科学大学の横倉勇希先生。学生時代からの研究が徐々に形となり、地域社会への貢献を目指すようになった先生の研究のこれまでと、今後の目標について伺いました。
今も昔も航空機が好き。ロボコンや鳥人間コンテストに尽力
―高専へ入学したきっかけについて教えてください。
育英高専(現:サレジオ高専)を知ったのは、当時通っていた塾の先生に薦めてもらった事がきっかけでした。幼少期に住んでいた埼玉県をはじめ、関東圏などではあまり高専の知名度が高くなかったため、話を聞くまでは高専の存在も知らなかったですね。
当時も今も私は航空機が好きで、実家の近くにある自衛隊の基地内で年に1度開催されるイベントにもよく足を運んでいました。航空機が好きなあまり、中学卒業後は航空自衛隊の学校へ入学しようと思っていたほどです。
しかし、入学するにはなかなか難しい点もあり、結果としてその夢はかないませんでした。ですが、育英高専では知りたい知識や身につけたい技術を学ぶことができたので、自分にはこの道が合っていたのかなと思います。
―高専時代の思い出はありますか?
私立の高専とはいえ、システムとしては国公立の高専と全く同じでした。ですので、授業は一般教科と専門教科がありましたね。私は、専門教科の方が勉強をしていて楽しく、頭に入りやすかったです。
また、電子工学科だったため、回路に関する実験がたくさんありました。ある日、実験中に配線が燃えてしまったのですが、先生が全く動じない姿を見て、さすが高専だなと思ったことがあります(笑) 個性的な先生や学生に囲まれて、普通じゃ物足りないからと思い入学した自分にとっては楽しい環境でした。
―ロボコンや鳥人間コンテストにも参加されていたのですね。
どちらも低学年の頃から取り組んでいました。ロボコンに関しては、細かくて泥臭い作業が多く、徹夜で作業していたこともあります。先生もそれを見守ってくださっていて、夜中まで活動していた際、差し入れで牛丼をいただいたこともありました。
鳥人間コンテストは、幼い頃から航空機が好きだった自分にとってはとても楽しかったです。ただ、ゼロの状態から学生だけでつくり上げるのは難しく、地域の企業の方を講師に招き、設計方法などを指導してもらっていました。
パイロットとして搭乗することは希望ではありましたが、色々と事情があって、結局乗ることはできなかったです。大変なことの方が多かったですが、自分たちでつくり上げたものなので、完成したときは達成感を感じました。
パワエレを踏まえたロボット研究へ
―高専生の頃から研究熱心だったようですね。
普段の授業でもマイクロコントローラを使って回路をつくり上げるなど、実験が楽しいと感じていたので、研究にも熱が入りました。高専時代の私が興味を持ったのはパワーエレクトロニクスに関する研究です。
具体的に言うと、コンセントに電子機器を接続した際に電流が逆流してしまう現象を防止するのがテーマでして、電気系統用の「単相アクティブフィルタ」という機器を用いた手法を研究していました。
当時はまだ自分でテーマを決めるほどの知識はなかったので、先生に一緒に考えてもらっていましたね。ですが、活動自体は学生主体で自由にやらせてもらい、のびのびと研究することができました。
しかし、研究は熱心に取り組んだものの、最終的に実験装置を動かすことはできませんでした。電気の分野は、コンピュータ上のシミュレーションでは上手くいっても、現実の世界では思うようにいかないことが多いのです。物理を扱う分野ならではの難しさを感じていました。
―長岡技術科学大学へ進学されたのは、どのようなきっかけですか?
専門分野の勉強が大好きだったので、さらに専門性を極められると思い、進学しました。長岡技術科学大学を選んだのは、高専からの入学がしやすかったからです。高専からやってくる学生が多く、自分に適していると感じました。
入学してみると、専門教科はもちろんですが、一般教科の面白さも感じるようになったのが印象的です。高専生のころは関心が持てなかった文系の科目も積極的に学ぶことができてよかったと思います。
また、中学生のころからずっと苦手な分野だった英語も、大学時代や大学院時代は英語論文の読み書きや国際会議での英語プレゼンなどがあったので、半ば強制的に勉強することになり、自然と英語力が向上しました。
専門教科に関しては、高専から大学へは編入ということもあって、学部生時代は2年間しかなく、研究にあまり時間を割くことができなかったです。そこで、修士へ進んでから就職しようと考えていたのですが、修士課程での研究がとても楽しく、就職から進学へと方向転換しました。
―当時の研究について教えてください。
大学からは少しテーマが変わり、ロボットに目を向けた研究を行っていました。高専のころと方向性は少し変わりましたが、ロボットを動かすためには大きな電圧を使用するため、パワエレの技術も必要となります。ですので、パワエレとロボットは必ずしもかけ離れた存在ではないのです。
当時は、バイラテラル制御という遠隔操作技術についての研究を進めていました。2つのロボットを用いて、ロボット間で触感を再現したり、人間が与えた力加減を保存して再現したりする手法についてです。
編入当時から研究は本気でやりたいと考えていたため、自分でそれぞれの研究室をインターネットで検索していたほどでした。ですので、いざ活動が始まると、とても忙しかったです。徹夜で作業して、段ボールを敷いて床で寝ることなんかもありましたね。
地域社会での課題解決へ向けて——技術を研究室に留めない
―現在はどのようなことに取り組まれているのですか?
産業用ロボットで技術職を模擬するというのがテーマです。大学時代に行っていた遠隔技術の研究は、遠隔医療や伝統技術の現場などで活用が期待されるのですが、特に後者に目を向けて、実用化に向けて取り組んでいます。
金物で有名な新潟県の燕三条市では、職人の技術が必要な一方で、職人の高齢化や減少により、技術の伝承が課題となっているんです。そこで、職人の技術をロボットで代替することができないかと考えました。
具体的には、スプーンやフォークなどの角を磨く作業に、ロボット技術を導入できないか研究しています。学生時代の研究をどんどん応用させ、ある程度現実的な段階までは進んでいるのですが、多品種少量の現場での応用の仕組みをつくれるかがこれからの課題ですね。
―地域企業との共同研究も積極的に行っているのですね。
意外に思われるかもしれないですが、現在工場内で使われているロボットは、ものを運んでどこかへ届けるなど、単純な作業が多いです。職人技を模倣して稼働するような細かな作業を行えるほどの技術はまだ実用化されていません。
先ほど例として挙げたのはスプーンやフォークでしたが、「磨く」という作業で考えると、まだまだ活用できると思うのです。そこで、地域の企業や研究室の学生と一緒に実用化に向けた研究を日々行っています。
実は、世の中で行われている研究の多くは、なかなか実社会にまで及ぶことができていません。今後は研究室内での技術で止まるのではなく、共同研究をおこなっている地域企業をはじめ、実社会で活用される社会実装を目標に研究を進めていきたいです。
研究は学生のころから変わらず好きで続けていることなので、指導者となった今でも研究に対する姿勢は変わりません。自分のやりたいこと、やりたい研究をひたむきに続ける中で、社会に貢献できればと思っています。
―最後に、学生の皆さんへメッセージをお願いします。
皆さんに伝えたいのは「努力は夢中に勝てない」ということですね。嫌いなことや苦手なことは、やっていても辛いですし、成長することは難しいと思います。ましてや、夢中になって取り組んでいる人に勝つことはできません。
夢中になれることを見つけるのも難しいと思いますが、それだけは諦めずに頑張ってください。これは、学生の皆さんだけの努力だけではなく、保護者の方や周りの方の支えも必要になるかもしれません。
さまざまなことに挑戦できる環境で経験を積みながら、自分が夢中になれる道を探してほしいです。
横倉 勇希氏
Yuki Yokokura
- 長岡技術科学大学 技学研究院 電気電子情報系 准教授
2005年3月 育英工業高等専門学校(現:サレジオ工業高等専門学校) 電子工学科 卒業
2007年3月 長岡技術科学大学 工学部 電気電子情報工学課程 卒業
2009年3月 長岡技術科学大学大学院 工学研究科 電気電子情報工学専攻 修士課程 修了
2011年3月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 総合デザイン工学専攻 後期博士課程 修了
2009年4月~2011年3月 慶應義塾大学 グローバルCOE研究員(兼務)
2010年4月~2011年8月 日本学術振興会 特別研究員(DC2およびPD)(兼務)
2011年4月~2011年8月 慶應義塾大学 理工学部 訪問研究員(兼務)
2012年4月 長岡技術科学大学 電気系 助教
2020年9月より現職
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