和歌山高専をご卒業後、いったん企業へ就職され、その後、技術職員として高専にもどられた豊田高専の中尾 卓嗣先生。高専在学中にお世話になった技術職員への憧れから、転職を決意されたという先生に、企業で役立った高専での実習やロボコン指導などについてお話を伺いました。
初めての実習で、高専を選んだことを後悔!?
-和歌山高専に進学を決めたきっかけは?
父が理化学分野の分析装置等を扱う営業職で、高専とも関わりがあったことから、高専を勧められました。また、一つ上の兄が和歌山高専だったこともあり、兄が楽しそうで羨ましかったんです(笑)。理数系は苦手だったのですが、ロボットアニメが好きだったこともあり、機械工学科に進学しました。
-和歌山高専での生活はいかがでしたか?
実習が面白くもあり、怖くもありました。今でも忘れられないのが、一年生の最初に「鍛造」という、高温の鉄を叩いて伸ばす実習があったのですが、エアーハンマーが動く迫力や、打撃に伴う地面の振動に圧倒され「大変なところにきてしまった」と衝撃を受けました。
「機械工学科を選んだことは失敗だったかな」とも思ったんですが、実習はとにかく楽しくて、質問も良くしていたので、実習関連の成績はクラスの上の方でしたね。
部活では「少林寺拳法部」に所属しました。高専だけの大会はないのですが、高校生の大会や、地域の大会などにはよく参加していました。黒帯の昇段試験では、試験前に集中合宿を行い、黒帯をいただくことができました。
また、長期休みでは「青春18きっぷ」で四国や九州を一人で旅したことが思い出に残っていますね。ユースホステルに泊まりながら、目的地を決めずにぶらぶらしていました。ルートが決まらないときは、同じユースホステルに泊まっていた旅行者にいろんな情報を教えてもらいましたね。今ではできない旅行だったと思います。
ロボコン初出場で、ベスト8進出
-中尾先生はロボコンにも出場されたんですね。
5年生で参加した第三回大会だけ、東京に全国の高専が集まるという貴重な大会だったんです。ロボコン自体には前々から興味があったので参加したのですが、自分たちでは何もできなくて、技術職員の濱口龍弘先生に手取り足取り教えていただきました。
濱口先生は「基本に忠実」を大切にする先生でした。学生の時は「そんなに遠回りしなくても」と思ったことはあったのですが、技術職員として同じ立場に立つと、本当に大事だと感じますね。他の先生には敷居が高くて相談しにくいことも、濱口先生には何でも相談できました。
その時つくったロボットが、「和歌山ええとこ連れもていこら号(和歌山の良いところに一緒に行こう号)」で、初出場ながらベスト8までいったんです!「リングの中にバスケットボールをたくさん入れたチームの勝ち」というルールだったのですが、「バスケットボールを車輪代わりにする」という友達のアイデアのおかげで好成績を残せました。
ただ一生懸命アイデアを考えても、「上には上がいる」ということ感じた悔しいロボコンでしたね。「自分の考えは至らぬところが多い」と突き付けられた大会でした。卒論は「ロボコンでの各高専のロボットの特徴」を分析してまとめました。
トラブルがあっても、その場で対応できる技術者は強い
-その後、村田機械で10年以上働かれているのですね。
村田機械では、高専での実習経験がかなり役に立ちました。お客様が購入された機械を現地で据付して、納品までを担当する仕事だったのですが、据付時に上手く機械が作動しないことがあったんです。
その時に工作機械をお借りして、廃材から対策部品をつくって対応したりもしていたので、やはり高専出身じゃないと難しかっただろうと思います。「トラブルがあってもその場でなんとかできる技術者は強い」と学びましたね。
また、海外出張も多かったのですが、英語は全然ダメで(笑)。同じ技術に関わっている人同士なら、情熱で伝えてあげればつたない英語でも伝わるということも経験しました。
「私しかいない!」と沖縄高専の公募に応募
-その後、沖縄高専に着任されていらっしゃいますが、きっかけは何だったんですか?
仕事はすごく楽しかったんですが、出張が多かったので、子どもとの時間が取れなくて。新しい道を考えている時に、「技術職員」がぱっと頭に浮かんだんです。
その後、沖縄高専で技術職員の募集があることを知り、「工作機械メーカーで、10年以上職務経験がある人」という募集要項を見て、「私しかいない!」と一人で盛り上がっちゃって(笑)。会社にも家族にも内緒で沖縄に行き、無事ご縁をいただきました。会社と家族には「これを逃すとチャンスはもうない!」と情熱を伝え、説得しました。
廃材を活用した「ブリコラージュ」で、挑戦しやすい環境を提供
-高専の技術職員はいかがですか?
やはり「濱口先生と同じフィールドにいる」ということは嬉しかったですね。実習の中で安全を確保しながら、学生に分かりやすく伝えるということは難しさもあります。最近の学生は失敗を嫌がって一歩を踏み出さないことが増えているなと感じます。
失敗を恐れず、その場でトラブル対応ができる技術者を育てるにはどうすれば良いのか悩んでいた時、「手元にある、ありあわせの材料を用いて即興的に課題を解決する」ことが「ブリコラージュ」と呼ばれていることを知りました。
別件で、普段から使えそうな材料や機械部品が廃棄されていることに関しても疑問を感じていたので、普段から使えそうな廃材や廃棄品を確保しておき、学生達に「ブリコラージュ」の考え方を伝えたうえで廃材を提供できれば、失敗しても責められず、やり直しがきき、挑戦しやすい環境が整えられると考え、廃材を活用し「ブリコラージュ」の効果を実感できる実習教育に取り組むようになりました。
ケガをする失敗はいけないとは思いますが、「つくったものが思い通りにいかない」という失敗ならやり直せばいいだけなので、「不安に思わずにどんどんつくりなさい」と実習時やロボコンでの支援時に伝えています。
技術者はもちろんつくることが大切ですが、順序立てて人に説明する力も必要だと思っています。村田機械の時は、客先に一人で行くので、「失敗したので帰ります」と言えない状況だったんです。とはいえ機械の前で難しい顔をしていても、お客様は不安になるし「担当を変えてくれ」ということにもなりかねません。
私はその時にお客様にしっかりと進捗説明をするよう努めていたので、お客様から信頼され、光栄なことに「もう一度同じ機械を買うけど、中尾さんじゃないとイヤ」と言ってくださることもあったんです。
その経験から、学生にも製作の前にしっかりと話し合いをしてもらいます。「つくっているうちに最初とは違うものが出来上がる」ということは多々ありますが、「目標をお互い確認し、ブレずに達成する」という合意形成はすごく大切だと思うからです。
学生が主体的に進められるように支援し、ロボコン全国優勝
-中尾先生は現在、豊田高専にいらっしゃるんですね。
そうなんです。学生が迷わず実習できるようにするために、いろいろと工夫している最中です。例えば「ネジをぐっと締めて」と言われても、どこまで締めればいいか分かりませんよね。「これ以上動かないようになるまで」など、できるだけ具体的に言うようには心掛けています。本当は、数値化していきたい部分ではあります。
実習では危険を伴う作業もありますが、「危険だからやらせない」は違うと思っています。指導者がいて、ある程度守られた環境の中で、「下手したら危ない」という状況に身を置くことも人生の中では必要だと思っています。あえて「危険なことをやってみた動画」を撮り、それを学生に見せることで、防災教育含め危険さは伝えていますね。
-現在はロボコン指導もされていらっしゃるんですね。
沖縄高専の時もロボコン指導はしていましたが、複数の教職員が良かれと思って色々アドバイスをしてしまい、結果がふるわなかった大会の後、学生から「誰の意見を聞けばいいか分からなくなり困った、自分達が考えた方針で進めたかった、今後どう進めればいいのか困っている」と相談されたことがありました。
そこで学生達に任せ、学生達が主体的に進められるように支援方法を変更したところ、学生達が自ら努力し、全国大会で優勝できるまで成長したんです。
その経験がきっかけとなり、豊田高専にきてからも、そのやり方は変えていません。学生のやりたいことを一切曲げたりはしないですし、経験値が足りない部分はフォローしますが、基本は学生に任せ、トライ&エラーを繰り返してもらっています。
文系・理系でジャンル分けせずに、高専を選択肢に
-最後に高専生にメッセージをお願いします。
やはり高専に入って一番良かったと思うことは、受験のことを考えずに有意義な時間を過ごせたことです。ぜひ高専に入って、貴重な時間を思うとおりに過ごしてもらいたいと思いますね。
高専では数学などの計算が必要になる場面も多く、理数系の学問も重要ですが、「文系だから高専はやめておこう」という線引きはしなくていいと思います。私はもともと文系でしたが、説明能力や読解力では文系科目が役立ってくれました。文系・理系とジャンル分けせずに、高専を選択肢に入れてほしいですね。
中尾 卓嗣氏
Takuji Nakao
- 豊田工業高等専門学校 技術部 第1技術グループ 第1技術グループ長 技術専門職員
1991年 和歌山工業高等専門学校 機械工学科 卒業
1991年~2004年 村田機械株式会社 工作機械事業部 勤務
2004年~2009年 沖縄工業高等専門学校 技術職員
2008年3月 放送大学 教養学部 教養学科 卒業
2009年より現職
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