富山高専を卒業し、現在は「株式会社さとゆめ」にて長野県小海町の地域活性化プロジェクトに携わっている山田 薫さん。「人々や地球の健康の一助になること」をキャリアの軸にしているそうです。そんな山田さんに高専時代の思い出や、仕事への想いを伺いました。
カナダ留学で出会った思い出のロマンス
―山田さんが富山高専に進学されたきっかけを教えてください。
中学2年生の時、学校説明会で高専を知りました。それまでは、普通の高校に行って、大学に入って、自分の興味のあることを勉強するのだろうと思っていたのですが、高専の1年⽣の時点から専⾨分野に触れられる点に魅⼒に感じました。
富山高専は実家から離れたところにあったので、入学したあとの寮生活も楽しみでした。親元を離れてみたい気持ちはありましたね。
―富山高専に進学されてみて、いかがでしたか。
乗船実習が印象に残っています。船の上で1泊2⽇過ごす課外授業なのですが、スマホの電波が届かない環境の中、海の上で自活する訓練をしました。それまでは、船員は船を運転することが仕事だと思っていたのですが、料理や怪我の対応などたくさんの仕事があることに驚かされました。私は炊事班としてカレーをつくりましたが、ベテランの船員の方が隠し味にコーヒーを入れていたことが思い出です。
あとは、カッターレース⼤会も思い出に残っています。よい結果は残せませんでしたが、単純にみんなで一緒に盛り上がるのが楽しかったです。救急⽤のボートに乗りながら、風を受けている時間がとても気持ちよかったです。
-寮や部活動での思い出を教えてください。
3年生の後期まで寮生活を送っていました。寮では一日三食、それぞれ違う友達と一緒に食べることができて、その時間がとても好きでしたね。お風呂も友達と入るので、そこで打ち解けることもありました。特にテスト期間中になると、夜食にデザートが1品増えるのが恒例で、そのたびに「あ、テスト期間が始まったな」と感じていました。
部活は男子バスケットボール部のマネージャーと茶道部に所属していました。バスケ部では、試合に負けると部員よりも悔し涙を流してしまうことが多く、マネージャーでありながら誰よりも勝敗に熱くなっていました(笑)
マネージャーとしての主な役割は、飲み物の準備や練習メニューの記録、時間の管理などでした。また、私は身長が172㎝と高めなので、練習では敵チーム役としてコートに立つこともありました。この経験から学んだのは、「自分よりも部員やチームを守る」という姿勢の大切さです。チームのサポートを通じて、他人を支えることの意義を実感しました。
-山田さんは留学もされたんですね。
はい。2年生の夏休みに1ヶ月半オーストラリアに行き、4年生の前期には4ヶ月半カナダに留学しました。
オーストラリアではクイーンズランド州で語学研修を受けたのですが、ホームステイでの生活がとても印象的でした。特に驚いたのは、お風呂の時間が決められていたことです。オーストラリアでは水が貴重なため、シャワーの時間が3分から5分と制限されています。日本でも少し練習してから行ったのですが、初めは大変でしたね。また、初めてミートパイを食べたり、よくバーベキューに誘われたりしたこともいい思い出です。
カナダ留学では、ヴィクトリアの美しい港が特に印象に残っています。また、毎週水曜日には「チキンウイングの日」があり、手羽先が半額で食べられるのが楽しみでした。
さらに、カナダでの留学中には意外な出来事もありました。韓国人の方とお付き合いが始まったんです(笑) 同じ留学生の少し年上の方で、自分で頑張って働いてお金を貯めて留学に来た方でした。カナダに来ている留学生には、こうした自分の意思で海外に挑戦している方が多かったです。
彼は同じクラスではなかったのですが、積極的に遊びに誘ってくれて、最初は怖くてお断りしていました。しかし、何度も思いを伝えてくれて、「こんなに思ってくれる人はいないかも」と感じてお付き合いを始めました。今はお別れしていますが、たまに連絡を取ることがあります。特に、日本に帰る時に長文のお手紙をもらったのは、とてもいい思い出です。
満足度の高いゲストハウスの条件とは何か?
-卒業研究はどのようなことをされたのですか。
本科および専攻科での研究内容は、共にゲストハウスに焦点を当て、空き家問題緩和に向けた研究をしました。もともとゲストハウスに滞在することが好きだったため、それが研究のきっかけになりました。
本科時代は、石川県のゲストハウスを対象に、その地域がどのような政策をとり、それがどの程度効果を上げているかを調査しました。現地取材を通じて、解決策を探る形でまとめたのですが、正直なところ、当時はあまり要領を得ておらず、あまりいい内容ではありませんでした。
しかし、専攻科に進学し、宮重先生のゼミで同じテーマを掘り下げることで、だんだんと研究の要領を得ることができました。ここでは、「どうすれば満足度の高いゲストハウスになるのか」を理論的なアプローチによって研究しました。
ゲストハウスの満足度を三角形の構造で考えると、まず底辺を支えるのが基本的な要素、つまり清潔さや設備の維持などです。これらが欠けると不満足の原因になります。一方で、三角形の頂点に位置するのは、例えばスタッフの優しさや町の紹介といったプラスアルファの要素です。これらがあると満足度はさらに上がりますが、欠けていても大きな不満にはつながりません。
私の研究では、満足度が高いゲストハウスは、まず基本的な要素をしっかりと満たし、その上でトップ部分にあたるサービスも充実していることが明らかになりました。
本科の頃は研究が難しく、理解するのに苦労していたのですが、専攻科に進学してからはブレイクスルーが起きて、研究がとてもおもしろく感じるようになりました。ゼミでのディスカッションやケーススタディを通して研究のヒントを掴む感覚や、他学科の学生にアンケート分析を協力してもらい、自分一人では到達できないレベルまで考察を深めることができたことは、大きな自信につながりました。
高専での学びが事業の立ち上げで生きた
―最初は製薬会社で働かれたんですね。
専攻科を卒業した後は、「健康寿命を延ばす」という目標に共感し、富山県の製薬会社で6年ほど働きました。そこでは企画・開発に携わっており、製薬だけではなく化粧品もつくっていたので、化粧品の企画・開発や工場の立ち上げにも携わりました。
模索しながらの日々でしたが、その中で社長賞を2回いただきました。1度目は「新しい営業先の開拓」、2度目は「医薬品の業務の習得と、お酒や精油の蒸留部門を両方できる」といった内容でした。自分がやりたくてやっていたことでしたので、苦労は感じませんでしたし、むしろ自分なりの活動を評価いただけてありがたかったです。
また、業務にかかわる売り上げの分析や、ExcelのVBA機能を用いた在庫管理システムの作成、文献や薬の有効成分を読むための外国語など、高専で学んだことが幅広く役立ちました。
その後、同じく「健康」という軸で転職活動を行い、「『小海SX Field』をつくっていこう」という目標に共感した株式会社さとゆめに転職しました。現在は小海町で行われている駅や周辺施設の活性化プロジェクト、脱炭素への取り組み、これからできるホテルの立ち上げに携わっています。
立ち上げでは、ホテルのコンセプトの組み立て、ホテルの備品やアメニティ選び、お客様の送迎車や保険の選定を行っています。前職でも化粧品の立ち上げに携わっていたので、不確定な要素が多い中、目標を見つけて落とし込んでいく経験が生きていると感じます。
―今後の目標を教えてください。
私は人生を通じて、魔女のような存在になりたいと思っています。その昔、魔女は薬草などによる自然療法、ヒーリング、悩み相談などを行っていたとされています。自分自身を含め、周りの人の肉体的、身体的および社会的な健康状態を、マイナスからゼロ、ゼロからプラスへと手助けする存在になりたいです。
先日、東京から友人が遊びに来てくれたので、一緒にぼーっと湖を眺める時間をつくったり、この土地の美味しいものを一緒に食べたり、焚き火をしたりしました。そのとき、友達から「また頑張れる。本当に来てよかった」と言ってもらったんです。仕事での小海町の地域活性化もそうですし、身近なところから人々を元気にしていくことが自分の理想の生き方だと感じました。
もっと欲張ると、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』が大好きなのですが、少しでもそんな存在に近づいていくのが目標です。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
進路や学校生活に対して悩んでいる方もいると思いますが、何においても「最後は自分で決める」ことが大切だと思います。
私は高専卒業後に、後輩が休学して狩猟を勉強しに行っているのを見て、「私も休学して、別の分野を学びに行く選択肢があったかもしれない」と感じたことがあります。世の中のすべてを学校で学べるわけではありませんし、机に向かうだけが勉強ではないと思います。
高専生の皆さんは、周りの情報に振り回されず、自分自身で取捨選択できる力を持っているはずです。学校内外を問わず、さまざまなことに興味を持ち、自分の意思で果敢に挑戦してください。自分で考え、行動する力が、これからの人生でとても大切になってくると思います。
山田 薫氏
Kaoru Yamada
- 株式会社さとゆめ 経営企画室
2016年3月 富山高等専門学校 国際ビジネス学科 卒業
2018年3月 富山高等専門学校 専攻科 国際ビジネス学専攻 修了
2018年4月 製薬会社 勤務
2024年7月より現職
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