高専教員教員

ドローンを使った調査で地形を分析。災害予測につながる研究を母校の後輩たちと

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ドローンを使った調査で地形を分析。災害予測につながる研究を母校の後輩たちとのサムネイル画像

福井工業高等専門学校の土木工学科から豊橋技科大学建設工学課程へ進学し、母校の福井高専に教員として赴任された辻野和彦先生。専門とする測量学やドローンを使った現地調査の様子、顧問を務める野球部の活動についてインタビューしました。

オープンキャンパスをきっかけに

―高専に進学したきっかけを教えてください。

野球のグラウンドで優勝トロフィーと賞状を手に、皆で集合写真
本科4年次の北陸地区高専大会優勝時の集合写真(賞状を持っているのが辻野先生)

福井で育ち、進路の選択肢のひとつとして「高専」という学校があることは、父から聞いていました。中学3年生の頃、福井高専のオープンキャンパスに参加して、コンクリートに力を加えて潰す実験で爆発するような割れ方をしたのを見て、「土木っておもしろそう!」と思ったのを覚えています。

工業高校への進学も視野に入れていましたが、オープンキャンパスが面白かったこともあり、高専への進学を選びました。

野球部に入っていたので、放課後は部活に明け暮れました。小・中学と続けていて、ポジションはキャッチャー。入部当時は3年生が6人、2年生が3人という状況で、1年生で春の大会からレギュラーに入ることができました。3年生の時には県大会でベスト8。現在は、母校で野球部の顧問をしており、赴任以来、後輩たちを見守っています。

野球大会の会場片隅で、学生たちとミーティングしている様子
現在は顧問として後輩たちをサポート(2016年選手権大会終了後のミーティング)

高専では、土木に関する知識や技術を学びました。建築に関しての知識や技術も学びたいと考えたため、豊橋技術科学大学に進学しました。

また、辻子先生(卒業研究の指導教員で、現・環境都市工学科教授)が福井高専・豊橋技科大OBで、豊橋技科大の良いところを教えてくださったことも大きかったですね。研究に関すること以外では「高専出身の仲間が多いから、きっとすぐに仲良い友達ができるよ」と聞き、まさにその通りでした。

UAV(ドローン)を駆使した地形調査

―豊橋技科大での研究内容を教えてください。

土や砂、木材がむき出しの斜面と、水面、重機のあるなかで、黄色の蛍光パーカーを来た先生が
UAVを操作し空撮を行っている様子(福井市蔵作)2021年5月

地盤工学を専門とする河邑研究室に所属し、「リモートセンシングデータ」と呼ばれる衛星画像を用いて、地震や豪雨で広域に発生した斜面崩壊を検出する研究に取り組みました。卒業研究では、1995年に発生した阪神・淡路大震災の六甲山系の斜面崩壊を衛星画像から見つける研究を行いました。

また、撮影した画像をもとに、地理情報システムでさまざまな分析も行います。崩れ始めた場所の地形や地質、植生を分析することで、危険度が高い場所を予測したり、土砂災害が起こりやすい場所を絞り込んだりできる。そうすれば、地震や雨で発生した土砂災害を見つけたり、または未然に防いだりすることに役立ちます。

―その後、どのように研究を進めていかれたのでしょうか。

2009年のスマトラ島沖地震の現地調査でインドネシアの災害調査に出向いた際、UAV(ドローン)の技術を知りました。衛星画像を活用する時、通常はデータが観測されてから画像データを処理できるようになるまで、かなりの時間がかかります。一方、UAV(ドローン)は狭い範囲に限定されますが、自分の撮影したいタイミングで調査できるため、10年前に自前のUAV(ドローン)を購入しました。

緑色の橋梁に向かって、6つのプロペラを回して飛ぶ機器
最初に購入したUAV(株式会社ジーウイング社製GrassHopper)。上向き用カメラジンバルを搭載し、橋梁点検に利用

行きたい場所にすぐ行けて、撮影してすぐに地形を復元できるので便利です。今はいろんな製品が普及したこともあり数十万円でも手に入りますが、購入当時はクルマが買えるほど高額で、買うには少し思い切りが必要でしたね(笑)。

―福井高専に教員として戻って来られるまでの、経緯を教えてください。

平野に住宅街が広がり、緑に囲まれて白い校舎が連なる福井高専の空撮
UAVで空撮した福井高専の全景

身近な先輩たちが東京で活躍する姿を見ていたので、就職にも興味があり、東京の企業にインターンシップへ行きました。飛行機から写真を撮影して地図を作る会社で、自分の研究内容にも近い実務を経験することができました。インターンシップをして良かったのは、「企業が取り組んでいる仕事は、社会に必要とされている」と身をもって実感できたこと。貴重な経験でした。

結果としては、福井高専在学時にお世話になった渡辺先生(現・福井高専名誉教授)から声を掛けていただき、福井高専に赴任することとなりました。

ロッジ・キャンプ場のような緑あふれる場所で、学生たち40名ほどと集合写真
担任をしたクラスの集合写真(遠足時)

現在は、測量学や構造力学の授業を担当しています。測量学の授業では、角度や距離、高さを測る際の道具の使い方や計算方法を学び、実際に測ってみる演習も実施します。測量士や測量士補といった国家資格の取得にも必要な科目なので、試験の演習問題を解いて理解度の向上を図っています。

構造力学の授業は、物理に近いイメージですね。例えば、クルマが通ると橋にどんな力がどれくらい、どのようにかかるのかを計算します。90分授業のうち、60分は講義・30分は演習が理想だと考えています。時々、卓上実験などで実際に現象を見せるのは、イメージする力を養ってもらいたいと考えているからです。

授業・研究・野球で充実の日々

―先生の研究について教えてください。

土砂があらわになった斜面を3Dで表現
空撮画像から生成した土砂災害の3Dモデル。2021年5月に発生した福井市蔵作の大規模斜面崩壊。崩壊幅は約120m、高低差は約100m

スマトラでの経験をきっかけに、UAV(ドローン)を用いた現地調査支援についての研究を進めています。斜面崩壊の形状把握に加えて、水稲の成長モニタリング、河床形状の把握、河川の植生調査、モルタル吹付法面のひび割れ調査、えちぜん鉄道の枕木調査、森林の材積推定などさまざまな調査があります。

研究室は現在5年生が5人、専攻科は1・2年生が1人ずつ。研究活動では、企業の困りごとを聞いて取り組むことが多いですね。学生と一緒に社会ニーズを組み込んだテーマを考えて研究を進めています。

現地調査に動くこともあり、その際は学生たちも一緒に現場に足を運びます。また、得られた結果を用いて画像処理を行い、まとめを進めます。例えば、雨が降って河川の氾濫があった場合、自分で県に申請するか依頼を受けて調査に出向きます。調査の多くは産学官の連携で、県や地方自治体、建設コンサルタント、大学や高専などから専門家が集まります。

1日で複数箇所をまわることもあれば、1カ所でじっくり考察を重ねたり、複数回撮影したりすることもあります。時間があれば空撮まで実施して地形を3次元モデルで復元し、調査の結果を報告会で発表する。これが一連の流れです。

―野球部の顧問としては、日々どのように指導されているのでしょうか。

野球部の学生たちが、バッティング練習用のネットを自作している様子
単管パイプでティーネットづくり【福井高専キャンパスプロジェクト】

チームは部員が主体です。キャプテンを中心に、どんなチームになりたいかを話し合い、弱い部分を補う練習内容まで決める。そのスタイルは私が学生だった頃から変わりません。なので、私は見守りながら必要に応じて手助けをするくらいですね。みんな自主性をもって練習に励んでいます。

この前は、スイングのヘッドスピードを測る小型の機械を購入して、私もみんなと一緒にスピードを測って遊びました。私は100km/時くらい。レギュラーメンバーにはもっと速く振れる学生もいます。理系の学生が多いからか、数字で可視化して物理的に考えるほうが実感しやすい学生が多いように感じるので、指導時にも意識しています。

昔はバイクに乗っていたこともありましたが、今は子どもが大きくなったこともあり、研究と野球が趣味のようになっていますね。土日もそのどちらかに動くことがほとんどなので、高専時代と似た生活かもしれません(笑)。

野球グラウンドの真ん中で、優勝のトロフィーと賞状3つをそれぞれ手に持ち、集合写真
2021年4月 越前市長杯優勝時の写真

辻野 和彦
Kazuhiko Tsujino

  • 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 教授

辻野 和彦氏の写真

1995年3月 福井工業高等専門学校 土木工学科 卒業
1997年3月 豊橋技術科学大学 工学部 建設工学課程 卒業
1999年3月 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 建設工学専攻 修了
1999年4月 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 助手
2005年4月 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 講師
2006年3月 豊橋技術科学大学 博士号取得(工学) 
2009年4月 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 准教授
2020年4月 福井工業高等専門学校 環境都市工学科 教授

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芹川先生
国内外の液状化現象を調査して分かった違い。たくさんの経験をさせてくれた高専が好き
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