高知高専 電気情報工学科の元教授(名誉教授)の今井一雅先生を父に持ち、幼い頃から父親の研究する姿を見てこられた新居浜高専 電気情報工学科の今井雅文先生。親子2代に渡り同じ木星電波の研究を行う先生にお話を伺いました。
研究者である父の背中を見て育ち、自身も同じ研究の道へ
―先生は、高知高専卒業生だそうですが、高専に進学されたきっかけは?
父が高知高専の教員をしていたこともあり、高専に進学することしか考えていませんでした。もともと小さいころからものづくりが好きで、電子回路関係に興味があったということもあります。
高知高専の本科5年では、卒業研究で研究室に配属される際も父の研究室を選びました。現在でも父と同じ研究テーマで木星電波の研究を進めています。この研究は家業みたいなものですね(笑)。
父と一緒に学会発表や研究で海外に行くときなんかは、親子で木星電波の研究をしているので、初対面の方とは「木星は家族ビジネスです」と冗談交じりに話していますよ。
高専の本科を出たあとは専攻科に進み、専攻科1年が終わってから1年間休学し、その期間にフランスとアメリカに半年ずつ留学をしました。フランスには研究留学、アメリカには語学留学という形で行きました。
父の研究室では、地上で受信された木星から来る電波の研究をテーマとして取り組んでいたのですが、1997年に打ち上げられたNASAの土星探査機「カッシーニ」が木星を通過したときに観測した、木星からの自然電波放射データを解析する機会があったのです。
フランスのパリ天文台では、そのデータを解析するプロジェクトが動いており、担当の研究者とコンタクトを取り、留学期間中に一緒に研究に参加させていただきました。とても良い経験になりました。
―新居浜高専に赴任された経緯を教えてください。
私自身が高専出身で高専の良さをよく知っていますし、以前から高専の人材教育には興味がありました。また父を通して、「高専スペース連携」をはじめとした宇宙航空分野における人材育成の輪が広がっているということを耳にしていたので、高専生たちと一緒に研究を進めたいという気持ちがあり、教員公募に応募しました。
高専の教育システムとは、実践的な教育や研究を早くから体験することができ、かつ実際に手を動かしていろいろ考えることができるというのが魅力であり、強みだと思います。そういう良いところを私自身が高専生のときから感じていたので、高専教員になる道を選びました。
高専の宇宙開発技術を注ぎ込んだ衛星とは
―「高専スペース連携」とその取り組みについて教えてください。
「月刊高専」に以前、明石高専の梶村好宏先生の記事(高専が開発する人工衛星「KOSEN-1」など、 宇宙開発に携わる人材育成に熱意を燃やす – 月刊高専 (gekkan-kosen.com))が公開されていましたが、私もその梶村先生と一緒で、高専で宇宙科学関係の研究をしている教員グループ「高専スペース連携」があり、そのグループのメンバーの先生方と一緒に「KOSEN-1」「KOSEN-2」などの超小型人工衛星の開発プロジェクトに携わっています。
「KOSEN-1」は私の父が発起人となっていますが、「KOSEN-2」では米子高専の徳光政弘先生が代表者となり、6高専(米子高専・群馬高専・高知高専・徳山高専・新居浜高専・岐阜高専)共同で開発を進めています。
今年の2021年10月打ち上げ予定となっている「KOSEN-1」の正式名称は、「木星電波観測技術実証衛星」ということで、木星から来る電波を衛星で観測し、地上の大型電波望遠鏡と連携して木星電波の共同観測を行います。
10cm×10cm×20㎝ほどの小さなCubeSat(超小型人工衛星)に、片端3.3mずつの6.6mの電波を観測するアンテナを格納し、宇宙空間で広げるというCubeSatでは世界初の試みです。そのアンテナ展開機構については群馬高専が担当してくれており、私の研究室では電波受信関係のソフトウェアの開発を行っています。
また「KOSEN-2」では、「KOSEN-1」と同じサイズのキューブサットを使用し、今度は通信インフラのない海洋上で海底地殻変動観測データの収集をして地上におろすということをミッションのひとつにして開発をしています。
実は海や山の中など、辺鄙なところに行けば行くほど、通信的な環境は整っていませんので、データをリアルタイムに取って観測することが難しいです。そういうところをカバーする先進的な技術実証を目的としているのが、「KOSEN-2」のミッションです。
「KOSEN-2」では、海底地殻変動観測データが入った電波を送る際のデータ処理の部分や、衛星の心臓部となる「Raspberry Pi」というマイコンで1つしか使えないUSBポートを、複数使えるようなスイッチ回路部分の開発を担当しています。この「KOSEN-2」は来年の2022年度打ち上げ予定です。
私が学生だった頃は、学生が作った衛星が宇宙に打ち上げられるなど、考えられませんでした。そういう意味では、「KOSEN-1」や「KOSEN-2」の開発に参画している高専生にとっては、とても良い経験になっているのではないかと思います。
遠いと思われていた宇宙という存在がとても身近なものになり、今後の宇宙産業の広がりも加速させていくのではと期待しております。
―高専教員として今年2年目とのことですが、今後どのようなことに取り組んでいきたいですか。
宇宙開発の分野においては、アメリカのNASAが有名で、研究が進んでいる印象ですが、日本も負けてはいません。とくに「はやぶさ」や「はやぶさ2」の成果にもあるように、サンプルリターンと呼ばれる技術においては、日本のお家芸といっても良いくらいの高い技術力を持っています。
そこには日本だけではなく、アメリカやドイツ・イタリアなど各国の国際協力関係というものが必要です。実際、「はやぶさ2」のミッションの中に用意された「ローバー」という小型ロボットは、日本で開発されたもののほかにドイツで開発されたものもありました。
私自身もアメリカのアイオワ大学で博士研究員として、NASAの木星探査機「ジュノー」で得られたデータの解析を国際共同チームで研究を進めていました。こうした国際色豊かな宇宙分野に進む学生、興味を持ってくれる人材の育成に力を注いでいきたいと思っています。
一方で、私の専門は目に見えない事象を扱っていることが多く、専門外の人には少しわかりづらい部分ではあります。学生に教える際も、できるだけわかりやすく教えられるよう、専門的な用語をかみ砕き、日常に溢れていることや身近なことを例にして、授業に取り組んでいます。
私は、アナロジー(類似性)という言葉が好きですが、物理の分野でも、いろいろな法則やいろいろな現象というのは、アナロジーでつながっています。何かを伝えるときに、身近にある同じようなことを題材にして言葉を選ぶよう、心掛けていきたいと思います。
また研究の方では今後、地上の電波望遠鏡を四国山地に展開していきたいと思っています。宇宙分野のプロジェクトっていうと、どうしても衛星を飛ばすことに意識が向きがちですが、地上で電波望遠鏡をつくるのも非常に重要なプロジェクトのひとつです。
実は今度、高知県の仁淀川町の山奥に新しい電波望遠鏡を設置することが決まっています。これまでの電波望遠鏡というと、テレビのアンテナである八木アンテナに近い棒状のものでした。
ですが、いま主流なのは傘のようなアンテナで、それを複数繋げることによって、さまざまな微弱な自然電波をキャッチすることが可能となります。こうした新しい電波望遠鏡を設置し、そこでテストを行い、木星電波を定常的に観測できるようにしていけたらと思っています。
今井 雅文氏
Masafumi Imai
- 新居浜工業高等専門学校 電気情報工学科 助教
2008年 高知工業高等専門学校 電気工学科(本科) 卒業
2011年 高知工業高等専門学校 専攻科 機械・電気工学専攻 修了
2013年 京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻(修士課程) 修了、同年 京都大学大学院 理学研究科 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2016年 京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻(博士後期課程) 修了、博士号(理学)取得、同年 アイオワ大学 物理・天文学科 博士研究員(4年間)
2020年から現在 新居浜工業高等専門学校 電気情報工学科 助教
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