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「理想を現実につなぐ設計者」への道を歩む。ものがつくられていく過程に惹かれて

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米子高専の機械工学科を卒業し、専攻科を経て、現在は九州工業大学大学院で研究に励む森拓真さん。中学生のときに参加した高専のオープンキャンパスで体験したものづくりが、進路を大きく変えるきっかけとなりました。ものづくりを通して「理想を現実につなぐ」道を歩む森さんに、7年間の高専生活とその先に見据える未来について伺いました。

中学生で知った「高専」という選択と、ものづくりへの第一歩

どのように「高専」という進路を知りましたか。

中学2年の時の学校説明会で高専についての説明を受けて興味が湧いたため、米子高専のオープンキャンパスに参加しました。機械工学科のブースで、工作機械の一つである旋盤(材料を回転させて削る機械)を使い、文鎮を制作。といっても、体験したのは仕上げ工程だけでしたが、自分の手で形あるものをつくり出せることに楽しさとやりがいを覚えました。

当時は進学先を電気系か機械系で迷っていたのですが、基本的に目に見えない存在である電気よりも、手で触れられる実体のある部品や機構の方が自分にはしっくりきました。この経験が決定打となり、第一志望は機械工学科にしました。

高専入学後の授業で、印象に残っていることはありますか。

一般科目については広く浅い範囲を速いテンポで学ぶ印象があり、ついていくのが大変な場面もありました。一方で、1年生から専門的な知識に触れられた点は、事前に聞いていたとおりでした。専門と一般の学び方に、それぞれ特徴があったと感じています。

個別の授業では、設計製図が最も印象に残っています。自分で設計仕様や強度計算の結果を参照しながら、形状や寸法を決め、図面上に具現化していくプロセスに関心を抱きました。

仕様やデザインといった理想像を、設計によって製作可能な形に変え、それを製造工程へと送り出す——設計という行為は、「理想」と「現実」をつなぐ架け橋と表現できるように思います。そういった点に魅力を感じ、設計者を志すようになりました。

高専ではどのような部活動をされたのですか。

入学後はスターリングエンジン部に入部しました。スターリングエンジン(気体の加熱・冷却による体積変化を利用して出力を得る外燃機関)を使ったラジコンカーや冷凍機で性能を競う大会に向け、1~2年生のときは簡単な部品加工を担当。旋盤やフライス盤で小さな部品をつくり、先輩の設計と組み合わせて性能を引き出しました。部は私が2年生のころに活動を終えたのですが、ものづくりの連携の現場に初めて立った感覚でした。

▲スターリングエンジン部で大会に向け製作に関わった冷凍機。単三乾電池2個で駆動し、同タイプの冷凍機の性能を競うクラスでは12連覇を果たしました

4年生からは、友人に誘われてラグビー部に入部しました。勉強の忙しさがピークを越えたタイミングでもあり、運動の機会が減ってきたと感じていたことから、体力維持や好奇心もあって参加しました。プレー人数も15人と多く、ポジションごとに明確な役割があるチーム競技がラグビーです。それぞれが自分の役割をしっかり果たして連携できたときの達成感が大きく、仲間との距離の近さも含めて、とても楽しい経験でした。

▲ラグビー部在籍時、高専大会後に撮影した集合写真。ポジションはプロップを務め、スクラムの際には最前線でプレーしたとのこと

寮生会役員を務められていたそうですが、コロナ禍の運営は大変ではなかったでしょうか。

そうですね。3年生に進級したタイミングで寮生会役員として学生寮の運営に関わるようになりましたが、その頃丁度コロナウイルス感染症が流行し、学校生活も一変したため、その対応に苦心したことを覚えています。同時期に学校全体にオンライン会議ツール(Teams)が導入されたこともあり、同ツールを寮運営にも導入し、前例のないなかで交流のあり方をゼロから整えました。これまでのやり方は踏襲できないので、連絡網、ルール、当番表まで、Teamsなどのオンラインツールを使って設計し直す必要がありました。

また、飛沫防止の衝立やカーテンの設置といった感染対策により物理的な距離が増し、寮の良さである学生間の心理的な距離の近さや縦・横の繋がりが損なわれがちでした。だからこそ、雑談や非公式の接点を意識的に設計する工夫を重ねました。

その後、専攻科に進まれていますね。

研究室の早水庸隆先生から進学を勧めていただいたことが大きなきっかけです。馴染みのある環境で研究を続けられる安心感もありました。

専攻科では、より自由度の高い2年間となり、「本科の5年間がインプット中心だった分、ここからはアウトプットを重視しよう」と心に決めていました。学会発表を3回経験し、研究やコンテストへの挑戦など、自分の考えを形にする機会を意識的に増やしました。

学外挑戦として「新・設計コンテスト」に参加されていたのは、その一環ですね。

はい。米子高専では前例のない挑戦でしたが、親身に支えてくださる先生方の後押しもあり、エントリーしました。

テーマはプラスチックの射出成形を前提とした製品設計でした。射出成形は溶けた樹脂を金型に流し込み、冷えて固まってから型から取り出す製法です。3Dプリンタのように、どんな形状も実現できるというわけではなく、抜き勾配(型から抜きやすくするために設ける傾斜)やアンダーカット(型の単純な開閉だけでは実現できない形状)など、成形上の制約を強く意識する必要がありました。設計の理想形を描くだけではなく、製造方法が設計自由度の上限を規定するという現実を実感しました。

▲新・設計コンテストで設計した製品の部品構成(左)と金型(右)。この年の設計課題はマウスでした。配布される内部基板等の部品を用いて外装および金型の設計を行い、入門コースで準優勝となりました

また、身の回りに存在するプラスチック製品のほとんどは射出成型によって作られています。それらの製品を手にとってみたときに、価格や質感の差がどこで生まれているのかを、製法の観点から考えるようになりました。

7年間の学びが一本の線に繋がる

高専で取り組んだ研究について教えてください。

「波力発電用直線翼垂直軸タービン」が研究テーマでした。波力発電とは海の波からエネルギーを取り出す方法で、私は振動水柱型の波力発電装置を扱いました。この方式は、水面の上下動が上部の空気を押し引きすることで発生する往復気流を、狭いダクト内に設置したタービンに導いて回転させることで発電します。実験と数値解析(コンピュータで流体の挙動を計算)を併用して、タービンの発電性能の向上を検討しました。

▲高専在学中に取り組んだ研究で使用した実験装置。装置内部で気流を発生させ、その中でタービンを回転させることでトルクをはじめとした各種パラメータの測定を行いました

難しかったのは解析の前準備です。計算格子の粗さ、境界条件、乱流モデルなど、どれを考慮し、どれを切り捨てるかといった選択が計算結果に大きく影響を与えます。解析の結果を基に、風洞(50cm角断面)に取り付ける大型治具を自作し、実験によって性能向上の有無を検証しました。スケールの大きな装置づくりも貴重な経験でした。

―専攻科2年生のときには「理工系学生科学技術論文コンクール」にも参加されたそうですが、何を提案しましたか。

機械工学分野の人手不足について、その背景を考察しました。他分野との比較を通して、「小学生や中学生といった早期からその分野に触れる機会(見る、触れる、体験する機会)の有無」が人手不足解消の鍵になるのではないかと考えました。

例えばIT分野では、プログラミング教育が導入され、プログラミングに触れる機会が増加しているのに対して、機械系はそうではありません。早期にその分野について知ることで選択肢が可視化されると、将来像を描きやすいのではないかという仮説のもと、具体的な手立てとして中学生向けの機械設計ワークショップ(CADでモデリングし、3Dプリントで出力して評価する)を提案しました。

▲理工系学生科学技術論文コンクールの贈賞式の様子(提供:日刊工業新聞社)。写真中央は最優秀賞・文部科学大臣賞を受賞した森さん。受賞論文は公式サイトで閲覧できます

私自身もオープンキャンパスで行ったものづくりの体験で進路が固まりました。触れる経験が意思決定の質を変える。知識は後からでも学ぶことができますが、経験はその時にしか得られない。提案はその気づきの延長線上にあります。それが入賞という形で評価していただけたのは、7年間の学びが一本の線に繋がった証だと感じました。

現在の研究内容を教えてください。

大学院では形状記憶ポリマー(SMP)を応用した「感度可変の力覚センサ」の研究に取り組んでいます。SMPは特定の温度を超えると柔らかさが大きく変化し、加熱中に形を変えて冷やすとその形を保持できる素材です。この性質を使い、センサ自体の形状や剛性を切り替えて、感度や測定範囲を最適化する発想です。

力覚センサの具体的な応用先の一つに、ロボットへの利用が挙げられます。物体を掴む部分にセンサを取り付けることで、物体を掴む際に加える力を計測でき、力加減の適切な制御が可能になります。

同じ製品を大量生産するような産業用ロボットは同一部品を繰り返し扱うため、一定の感度設定で十分な場合が多いです。一方、多品種少量生産を担う産業用ロボットや、介護・福祉の現場で用いられるロボットでは、掴む対象が柔らかい食品から硬い器具まで多様です。同じ力加減では破損や事故につながるため、センシング側が状況に応じて感度やレンジを切り替えられる価値は大きいと考えています。

▲大学院での研究の様子。試作したセンサの感度を実験によって評価している場面

高専生に向けてメッセージをお願いします。

高専は自由度が高く、自分の関心に応じて取り組みを進めることができる環境です。知識を身につけることと同時に、学外発表やコンテストなど、成果として形に残す経験を意識して取り組むと良いと思います。

また、教員や技術職員の方との距離感の近さは高専の魅力の一つです。気軽に相談できる環境を活用することも、多くの学びにつながります。迷ったときには思い切って行動してみることで、経験として積み重なっていきます。

私は意識的に「後に引けない状況をつくる」ようにしています。部活に入る、コンテストにエントリーする、論文を投稿すると決める。その一歩さえ踏み出すことができれば、締切や目標、協力者といった環境が生まれ、とるべき行動も自然と定まってくると思います。

森 拓真
Takuma Mori

  • 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 生体機能応用工学専攻 修士1年

森 拓真氏の写真

2023年3月 米子工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2025年3月 米子工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻 修了
2025年4月 九州工業大学大学院 生命体工学研究科 生体機能応用工学専攻 入学

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