
2025年2月24日(月)と25日(火)に、東京の一橋講堂にて【第2回 高専起業家サミット】(主催:独立行政法人国立高等専門学校機構(以下、高専機構)、月刊高専)を開催しました。全国から計36チームの高専生が参加した本イベントについて、第1回との変更点を交えながらレポートします。
第1回からの大きな変更点
【高専起業家サミット】は、高専スタートアップ支援プロジェクトの一環として開催されている、起業を目指す高専生が一堂に会し、ビジネスプランの発表、交流を行うイベントです。高専生の起業チャレンジ機会を創出し、志を同じくする高専生同士や、そんな高専起業家を支援したい企業との交流活性化を目的として、2024年から開催されています。
【第1回 高専起業家サミット】の開催レポートはコチラ
今回は2回目となる高専起業家サミットですが、第1回から大きく変更された点として、審査部門を「ソーシャルドクター部門」と「イントラプレナー部門」の2つに分けたことが挙げられます。
「ソーシャルドクター部門」は多様な社会課題に挑み、地域コミュニティのより良い未来を築くアイデアを発掘・支援する部門です。医療・福祉・教育など領域を問わず、テクノロジーと情熱を掛け合わせて実践的な解決策を生み出し、社会全体の健やかな成長を目指します。
「ソーシャルドクター」は、高専機構の広報物等でもよく目にする言葉です。以前、月刊高専で高専機構の谷口理事長に取材をした際、以下のようにおっしゃっていました。
(高専生には)社会の課題を診察して、薬を処方する人になってほしいんです。(中略)社会の課題を解決するためには、何事にも「無理だ、できない」と思わず、どうすればできるのかを考えながら「挑戦」することが大事です。そもそも、高専の基本的な精神は「挑戦」であり、チャレンジすること、それが高専の1番良いところだと思っています。
また、全国に58校ある高専だからこそ、「地域コミュニティのより良い未来を築く」ことも役割として担っています。このように、ソーシャルドクター部門は「高専および高専生が本来持つ良いところに注目した部門」といえます。
一方、「イントラプレナー部門」は既存組織の枠組みを越えて新たな事業や価値を創出する人材を発掘・支援する部門です。社内や学校など既存のコミュニティ内から生まれる革新的なアイデアを実現し、組織と社会に変化をもたらすことを目指します。
イントラプレナーは、企業の“中”で新たなビジネスを立ち上げ、そのリーダーとして経営面含め能力を発揮する人材のことを指す言葉です。近年、「企業風土の改善」や「持続的な成長」を目的にイントラプレナーを求める企業が増えており、その育成に力を入れ始めています。
高専生の高度な実践力・現場力が企業側から評価されていることもあり、高専機構の広報誌(2024年度版)によると国立高専生の就職率は例年ほぼ100%です。しかし、「内部からイノベーションを起こす力」もまた、企業側から求められる能力になりつつあります。イントラプレナー部門は「企業に就職する高専生だからこその部門」といえます。
ソーシャルドクター部門/イントラプレナー部門の2部門が設けられた第2回 高専起業家サミット。それでは、その模様について見ていきましょう。
ビジネスプラン発表の様子は?
第2回 高専起業家サミットは2日に分かれており、1日目の2月24日(月)では開会式と交流会、25日(火)ではビジネスプラン発表(ピッチ・ポスター)と表彰、閉会式が実施されました。
開会式では高専機構の谷口理事長からの挨拶がありました。そこでは、ソーシャルドクターについてのお話だけでなく、「自分たちのチームだけでなく、仲間を見つけて、仲間の力を借りることで、新しいアイデアを形づくること」の重要性についてもお話しされていました。

ここでいう「仲間」は、自分たちのチーム以外の高専生だけでなく、企業の方、他校の教員方など、多岐にわたります。自分たちだけで新しいアイデアを形づくることは、開発面だけでなく、知財の面、資金の面、経営の面などで難しいといえます。そこを助けてくれる将来の仲間を見つけることを、交流会の目的のひとつとして実施しました。

交流会では一言PRタイムの場が設けられ、学生チーム以外にも、協賛企業や審査員、メンターなどの方々がお話しされ、熱気ある雰囲気が醸成されていました。

そして翌日の25日(火)、「ソーシャルドクター部門」と「イントラプレナー部門」の2部門に分かれ、ビジネスプラン発表(ピッチ、ポスター)が行われました。
ポスター発表会場では、2部門すべての発表チームと、招待参加のベンチャー企業や大学・団体等がポスターを掲示しており、他チームや企業、高専教員、観覧の方々とビジネスアイデアについての質疑応答や意見交換などが行われていました。

ピッチではソーシャルドクター部門/イントラプレナー部門で会場を分け、各チームがビジネスプランを3分間発表し、その後、審査員による質疑応答が6分間行われました。

試作品(プロトタイプ)の基礎データの内容、事業の将来性、競合製品との比較など、ときには厳しい質問も投げかけられていました。そういった質問に答えることができるかどうかも、審査ポイントとして掲げています。

ビジネスプランを通して見える、高専生の力
第2回高専起業家サミット、最後には表彰が行われました。
ソーシャルドクター部門で最優秀賞を受賞したのは、沖縄高専のチーム「Bellearc」による「サステナブルビューティー:未来をつなぐ、海と子供たちにやさしいコスメ」でした。これは、海洋プラスチックごみの問題と、化粧品に使用されている天然マイカが児童労働搾取によってつくられている問題を同時に解決するものです。海洋プラスチックごみを用いたコスメケースの中に、天然マイカではなく合成マイカを使用したアイシャドウが入っている製品の事業化を目指すビジネスアイデアでした。

審査員のからのコメントは以下の通りです。
<村上智則氏(公益財団法人日本財団 公益事業部 国内事業開発チーム 准チームリーダー)>
最優秀賞おめでとうございます。海洋プラスチックごみという海洋環境に関する問題と、化粧品原材料に内包された児童労働搾取に関する問題——このワールドワイドな社会問題2つを掛け合わせるというアプローチに関心を抱きました。世界の問題に対するロールモデルになりうる起業プランだと思いますので、ぜひ頑張って実装していただきたいです。
イントラプレナー部門で最優秀賞を受賞したのは、仙台高専(広瀬キャンパス)のチーム「杜の都 Oral Wellness」による「新時代の口腔ケア “Properio AI”」です。これは、介護施設で課題に挙がっている「歯磨き」を改善するためのツールです。歯ブラシにアタッチメントのセンサーを付けるだけで、低コストで歯磨きを客観的に評価することができ、介護業界だけでなく、子どもの歯磨き教育や、ペット業界など、将来性も見込めるビジネスアイデアでした。

審査員からのコメントは以下の通りです。
<若原昭浩氏(国立大学法人豊橋技術科学大学 学長)>※審査委員長
最優秀賞おめでとうございます。プレゼンテーションも良かったのですが、1番良かったのは着眼点です。みなさんが使っている歯ブラシにアタッチメントを付けて、しかも歯医者さんが用いている指標に準拠するという、「世の中で評価されている手法に則り、それをローコストで提供する点」で、普及する可能性が高いと思いました。アタッチメントを付けるという手段も、高専生らしいですね。私もぜひ買いたいと思っていますので、ぜひ実装に向けて頑張ってください。
<道古薫氏(株式会社FUNDINNO パートナー)>
最優秀賞おめでとうございます。お子さまからお年寄りの方まで、みなさんが利用できるサービスになると思います。非常にスケール性を感じました。私もぜひ使いたいと思っておりますので、事業化を目指して頑張ってください。
以下に最優秀賞チームを含めた、全受賞チームをご紹介します。オーディエンス賞は、協賛企業・観覧者の投票によって選ばれたポスター発表に贈られる賞です。
部門 | 受賞チーム |
---|---|
ソーシャルドクター部門 最優秀賞 | 沖縄高専:Bellearc サステナブルビューティー:未来をつなぐ、海と子供たちにやさしいコスメ |
ソーシャルドクター部門 優秀賞 | 一関高専:innodroid CoDog:一緒にという意味のCoと犬型ロボットのDogを組み合わせた製品名。 |
イントラプレナー部門 最優秀賞 | 仙台高専(広瀬キャンパス):杜の都 Oral Wellness 新時代の口腔ケア “Properio AI” |
イントラプレナー部門 優秀賞 | 沖縄高専:ゆがふぁーむ(from ミヤギ農家) 持続可能な生態系サービスを提供する『Smart AgreenTech』 |
Honda IGNITION賞 (提供:本田技研工業株式会社様) | 沖縄高専:ゆがふぁーむ(from ミヤギ農家) 持続可能な生態系サービスを提供する『Smart AgreenTech』 ※イントラプレナー部門での参加 |
オーディエンス賞 | 神戸市立高専:Affinity Nexa プロリン -ホテル・ブライダル業界のマッチングサポートと業務効率化- ※イントラプレナー部門での参加 |

最後には、審査委員長の若原昭浩氏からの講評がありました。
みなさんのアイデアは非常に発想が豊かで、事業計画もよく練られていたと思います。近い将来に製品を見ることができるのではないかと、充分に実感しました。
残念ながら受賞に至らなかったチームも、受賞チームとは本当に僅差でした。その僅差を生み出したのは「プロトタイプをしっかりつくり、その基礎データをとること」だと思います。コンセプトだけでなく、そのコンセプトを達成するアイデアに説得力を持たせることが重要です。とは言っても、素晴らしいコンセプトを持つアイデアが多く、1歩2歩さらに詰めることで、光るものになると思いました。
実は、私は42年前に高専を卒業しています。私が学生のときは、今回の高専起業家サミットのような「ビジネスプランを発表する場」が誕生するとは夢にも思っていませんでした。今の高専生は非常に社会実装力が高い人材として育っていると、高専卒業生としての率直な感想を抱いています。これを機会にさらに技術力を高めつつ、社会の問題を深く掘り下げ、国際社会の問題解決に資する人材として活躍することを祈念して、本日の講評とさせていただきます。本日はおめでとうございました。
高専生だからこそ可能な「起業プラン」を発表する機会として開催した第2回 高専起業家サミット。「日本の経済成長を支える科学・技術のさらなる進歩に対応できる技術者養成」という産業界からの要請に応え、1962年に初の高専が設立されましたが、時代が流れる中で高専の役割は、軸は変わらずも少しずつ変化しています。その変化の一端が見られたイベントとなりました。
最後に、高専スタートアップ支援プロジェクトでは、CAMPFIREにて全国の高専生・高専関係者による起業・商品開発などの挑戦をクラウドファンディングで支援しています。第2回 高専起業家サミットに出場されたチームのクラウドファンディングもございますので、ぜひコチラをご覧ください。
○イベント情報
【第2回 高専起業家サミット】
日時:2025年2月24日(月)、25日(火)
場所:東京・一橋講堂
協賛企業(五十音順・敬称略):
<プラチナ>
本田技研工業株式会社
<ゴールド>
NTTコム エンジニアリング株式会社、株式会社ヌーラボ
<シルバー>
株式会社アクセスネット、京王建設株式会社、ソニーPCL株式会社、TDCソフト株式会社、株式会社ハウテレビジョン、株式会社三菱UFJ銀行、ミネベアミツミ株式会社
<ブロンズ>
旭化成株式会社
協力団体・企業:株式会社CAMPFIRE、株式会社FUNDINNO、本田技研工業株式会社、みちのくアカデミア発スタートアップ共創プラットフォーム(主幹機関校:東北大学)、山形市
主催:独立行政法人国立高等専門学校機構、月刊高専(メディア総研株式会社 運営)
HP:https://startup.gekkan-kosen.com/
○高専スタートアップ支援プロジェクト クラウドファンディング特設ページ
https://camp-fire.jp/curations/kosen
※CAMPFIREのサイトに遷移します
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