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【第1回 高専起業家サミット】が開催! 計50チームが出場した、「あくまで通過点」のイベントを振り返る

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2024年3月11日(月)、東京の一橋講堂にて【第1回 高専起業家サミット】を開催しました。第1回にもかかわらず、全国から50チームが参加した本イベント。その濃密な内容についてレポートします。

高専起業家サミットについて

【第1回 高専起業家サミット】は、高専スタートアップ支援プロジェクトの一環として開催した、起業を目指す高専生が一堂に会し、ビジネスプランの発表、交流を行うイベントです。高専生の起業チャレンジ機会を創出し、志を同じくする高専生同士や、そんな高専起業家を支援したい企業との交流活性化を目的として開催しました。

本イベントでは、北海道から沖縄まで日本全国から計50チームが出場してビジネスプラン発表(ピッチ)を実施したほか、ポスター発表や、株式会社CAMPFIRE 代表取締役の家入一真さんと、同 ビジネスディベロップメント室長の田中駆さん(トークセッションではモデレーターをご担当)によるトークセッションも実施。約7時間のイベントになりました。

会場の様子
▲当日は多くの方にご参加いただきました

ピッチの持ち時間は1チーム当たり4分間。その短い時間の中で、ビジネスプランの概要や背景、収益モデル、開発計画などを要約して説明することは難しいことだと考えられますが、ほとんどのチームが時間をオーバーすることなく、ビジネスプランを闊達に発表していたのが印象的です。

壇上で発表する学生
▲ピッチ発表中の学生の様子

ビジネスプランも、地元の特産品に着目したものや、高専専用SNS、障がいのある方向けの製品、農業支援、習字アプリなどなど、多岐にわたっており、裏を返せば、日本にはありとあらゆる社会課題が潜んでいることが垣間見えました。

また、ポスター発表にも大変多くの学生や教職員、協賛企業の方々などが集まり、活発な意見交換が行われていました。

ポスター発表を見る皆さん
▲ポスター発表の会場の様子。こちらにも多くの方がいらっしゃいました

「お金」や「成功」だけでは語れない、起業のエコシステム

トークセッションは、開会式の前に行われました。今回登壇された家入一真さんは株式会社CAMPFIREの代表取締役である一方、これまでいくつもの会社を立ち上げた連続起業家であり、投資家としての一面も持っている方です。

壇上でお話をされる家入さん
▲トークセッションにご登壇いただいた家入さん

今回のトークセッションにおいての軸は、「起業して良かったこと」と「起業によるリスクの正体」でした。家入さんは中学2年生の頃から家に引きこもるようになったものの、家庭の事情からなんとか働かないといけないとなった際、当時黎明期だったインターネットに着目します。

インターネットの本質を「家にいながら個人で自己表現できること」だと考えた家入さんは、paperboy&co. Inc(現:GMOペパボ株式会社)を21歳で立ち上げ、個人がHTMLでホームページをつくる際に必要なサーバーをレンタルできる「ロリポップ!」を提供。その後東京に進出し、多くの起業家と切磋琢磨されたそうです。

▲トークセッション中の様子(右:家入さん、左:田中さん)

そして、29歳となった2008年、JASDAQ市場において最年少で上場を果たします。このように起業家として大きな成功を収めましたが、そんな家入さんが思う「起業して良かったこと」は一体何だったのでしょうか。

家入さん:引きこもりだった僕にとって、起業は「残された最後の手段」と言えます。試行錯誤しながらレンタルサーバーのサービスを立ち上げると、本当に運よくユーザーがどんどん増えていき、自分だけでは運営できなくなったので、仲間がどんどん増えていきました。僕は「自分の居場所ができた」と思えたんです。僕にとって起業は、「自分を肯定してくれた選択肢」でした。

また、今回は多くの高専生が参加しているということもあり、「起業によるリスク」はやはり避けられない話題となりました。学生を指導されている教職員の方にとっても興味深い話題だったかと思いますが、家入さんは以下のようにお話しされていました。

家入さん:業界によってリスクは様々ですが、全体的に言うと「起業=怖い」というイメージは、日本だと特に強いと思います。しかし、リスクをただ漠然と捉えるのではなく、「必要な費用はいくらか」「それをどう集めるか」「集める手段にリスクはあるか」など、ちゃんと分解して考えることが大事です。そうすることで、思っていたリスクが、実はそこまでリスクではなかったと判明する場合があると思います。

天井のシミが顔に見えたり、柳の木が幽霊に見えたりすることもあるので、漠然と怖いと思うのではなく、「怖いと思うものは何なのか」を自分なりに整理していくことはすごく重要なことなのです。

家入さんのお話を聞く学生の皆さん
▲トークセッションでの家入さんのお話に耳を傾ける学生のみなさん

そして、家入さんは「ちゃんと伝えていかなきゃいけないこと」として、次のように続けました。

家入さん:自分自身の経験や、他の起業家さんと接して感じるところではありますが、メンタルのリスクはすごく大きいなと思います。メンタルを壊してしまう起業家が、やはり一定数いらっしゃるんです。

起業すると資金繰りなどで頭を悩ます場面は多々ありますが、単一の悩みでしたら乗り越えられるはずです。しかし、そこにプライベートの悩みが合わさり、事業のバイオリズムの谷とプライベートのバイオリズムの谷が一緒になった瞬間、人は心が折れると思います。自分の心が負の方向に向いているなと思ったら、早い段階でケアしてあげることが大事です。

そして、そういった心のケアを投資家やVC、周りの起業家、メンターなどといった方々ができるような仕組みをつくることで、本当の意味でスタートアップ(起業)界のエコシステムができると考えている家入さん。カウンセリングももっとカジュアルな手段になるべきだとお話しされていました。決して起業は「お金」や「成功」だけで語られるべきものではないのです。

最優秀賞、優秀賞、企業賞、そして受賞していないチームも……

すべてのピッチが終わり、最後に最優秀賞と優秀賞の発表が行われました。今回の審査の基準は「新規性・独自性」、「市場性、将来性」、「実現可能性」、「熱意」、「論理性」の5つに大きく分かれています。また、プラチナ協賛企業による企業賞の発表もありました。

最優秀賞に輝いたのは、Yサイン(石川高専)による「Vibrasymphony {バイブラシンフォニー}」。石川県という、大きな音楽ライブが決して多く開催されているわけではない地域をきっかけに、視覚と聴覚、そして臨場感をもたらす振動(触覚)をプラスしたVRによってリアルな音楽体験を提供するビジネスプランです。

賞状を受け取る学生の皆さん
▲(独)国立高等専門学校機構の谷口理事長から賞状を受け取るYサイン(石川高専)のみなさん

詳細な内容は知的財産権に関わるので記載できませんが、少し具体的に記載しますと、胸部と足の2箇所に振動するデバイスを装着し、音楽に応じて適切に振動させるシステムになっています。20代から60代の計62名に体験してもらったところ、全員が振動に満足していると回答。昨今のAR・VRのヘッドセットの合計出荷台数、メタバース市場を踏まえると、かなりの市場価値が見込まれます。

審査員長である三井住友信託銀行の池村隆司さん(イノベーション企業推進部 理事、イノベーション企業推進部長)からのコメントは、以下の通りです。

池村さん:おめでとうございます。かなり大接戦でしたが、最優秀賞とさせていただきました。テクノロジーを活用している点と、明日から事業ができると思えるビジネスモデルだった点から、表彰をさせていただきました。ぜひ、高専の星になれるように頑張ってください。

そして、優秀賞として2チームが表彰されました。本来は1チームのみでしたが、池村さんのコメントの通り大接戦だったため、2チームが受賞となっています。 優秀賞の1チーム目は、SENKAY(都城高専)による「農業の選別作業をCHANGE! 選別機「せんかちゃん」の商品化」でした。都城高専のある宮崎県が全国2位の生産量であるピーマンの重さや糖度などを測定して瞬時に選別でき、小型でもある「せんかちゃん」を導入することで、中小規模の農家では現在も手作業で行われている選別を低コストで半自動化させるビジネスプランです。

審査員である熊本大学の入江英也さん(熊本創生推進機構イノベーション推進部門 特任教授)からのコメントは、以下の通りです。

入江さんと学生の皆さん
▲優秀賞の受賞理由をコメントされている入江さん(左)と、SENKAY(都城高専)のみなさん

入江さん:受賞した大きな理由は、都城にある社会課題を実際にしっかりと見て、考え、そしてハードウェアをしっかりつくったところが大きいと私は思っています。ぜひこれからも「せんかちゃん」をブラッシュアップして、どんどん普及させて、ピーマン農家さんやそのほかの農家さんが持つ社会課題を解決していってほしいです。おめでとうございました。


優秀賞のもう1チームは、サーキットデザインBoys(有明高専)による「KOSEN サーキットデザイン教育インストラクター 養成ビジネス」でした。サーキットデザインとは、回路設計を親しみやすく感じてもらうための造語。半導体や集積回路の設計士を育成するための教材開発などがビジネス内容となります。

審査員であるEast Venturesの金子剛士さん(パートナー)からのコメントは、以下の通りです。

金子さんと学生の皆さん
▲優秀賞の受賞理由をコメントされている金子さん(左)と、サーキットデザインBoys(有明高専)のみなさん

金子さん:私の尊敬する起業家の一人に、電子デバイスやスマートフォンなどをつくっている中国の会社「Xiaomi(シャオミ)」の代表をされていた雷軍(レイ・ジュン)さんがいらっしゃるのですが、彼が残した名言の一つに「風が吹けば豚でも飛べる」があります。

これは、「それぐらい追い風の吹いている領域で仕事をしていると報われるよ」という意味を例えた言葉です。今の半導体業界にはかつてないほどの追い風が吹いていますが、設計士の方々はまだまだ不足している現状がありますので、ぜひ実現に向けて頑張っていただければと思います。おめでとうございました。

審査員長、審査員からのコメントの通り、本当に起業を目指す場合は、資金調達も含めた今後の展開が重要です。トークセッションで家入さんが話されたメンタルケアも欠かせません。今回の高専起業家サミットが、あくまでその通過点になればと思います。

ここで、審査員長の池村さんによる講評を一部抜粋いたします。

壇上でお話をされる池村さん
▲講評をお話しされている池村さん

池村さん:ある起業家の方が審査員をされた際にお話しをしたことを強く覚えています。その方はこういいました。

「今日、私は審査員です。ただ自分はピッチコンテストに山ほどでましたが、一度たりとも賞を受賞することができませんでした。でも上場し会社は大きくなりました。心配するな」

もちろん、受賞をされた皆さんは是非自信を持ってビジネスプランを進めていってください。そして惜しくも受賞されなかった皆さん、「心配するな、チャレンジを続けてください!」
期待しています。

飲食をしながらお話をされる皆さん
▲高専起業家サミットの閉会式が終わった後には、交流会も実施しました

最後に、高専スタートアップ支援プロジェクトでは、CAMPFIREにて全国の高専生・高専関係者による起業・商品開発などの挑戦をクラウドファンディングで支援しています。今回の高専起業家サミットに出場されたチームのクラウドファンディングもございますので、ぜひコチラをご覧ください。

○イベント情報
【第1回 高専起業家サミット】
日時:2024年3月11日(月)12:30~19:15
場所:東京・一橋講堂
協賛:
<プラチナ>
株式会社3D Printing Corporation、日本たばこ産業株式会社、本田技研工業株式会社、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社明電エンジニアリング、株式会社レアゾン・ホールディングス
<ゴールド>
三菱電機株式会社 電子通信システム製作所
<シルバー>
アイリスオーヤマ株式会社、株式会社アクセスネット、SMC株式会社、株式会社東急コミュニティー、株式会社日立産業制御ソリューションズ
<ブロンズ>
常陸放送設備株式会社

協力団体・企業:AKATSUKIプロジェクト事務局、株式会社CAMPFIRE、三井住友信託銀行株式会社

主催:独立行政法人国立高等専門学校機構、月刊高専

HP:https://startup.gekkan-kosen.com/

○高専スタートアップ支援プロジェクト クラウドファンディング特設ページ
https://camp-fire.jp/curations/kosen
※CAMPFIREのサイトに遷移します

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