木更津高専の電子制御工学科出身で、2023年10月から秋田高専で教鞭を取られている小林勇斗先生。モノづくりへ興味をもったきっかけや、高専時代にあった人生のターニングポイント、現在の研究内容について詳しくお聞きしました。
ドイツ留学で気づいた、自分の意見を持って発信することの重要性
―モノづくりや高専に興味をもったきっかけについて教えてください。
モノづくりは幼少期の頃から好きで、地元にある発明クラブに通い、はんだ付けで回路をつくったり、アルミを曲げて遊んだりしていました。小学生の頃は、自作のぺーパークラフトにハマっている時期もありましたね。「何かを自分の手でつくることって楽しいな」と思っていました。
高専を進学先として意識したのは中学1年生の頃です。当時放映されていたロボットアニメが好きだったこともありましたが、東日本大震災をきっかけに災害ロボットへの注目が集まっていた時期でもあり、社会でも活躍するロボットの技術者になりたいなと漠然と思っていました。そして、木更津高専の文化祭の進路相談ブースで、「ロボットがやりたいなら電子制御だよ」と先生に言われ、電子制御学科に進むことを決めたんです。
―高専での生活はいかがでしたか?
勉強は頑張っていましたね。成績が良いほうが後々、就職や進学などで自由度の高い選択ができるだろうなと思い、日々の勉強に励んでいました。本当はロボコン部に入る予定でしたが、ロボコン部の見学の道中で、中学から続けていたテニス部の見学に行き、そのままテニス部へ入部しました。
4年次の頃は、インターンシップの一貫として、長岡技術科学大学(長岡技大)が主催するオープンハウス(体験学習)に参加したことがあります。オープンハウスは全国の高専生を対象に開催されており、大学での研究を体験できるものです。そこで、生体信号によるデバイス操作に興味を持ちました。4年生・5年生の特別研究・卒業研究では、筋電・眼電を扱う研究を行い、基板加工機を使ってデバイスをつくるなど、楽しく取り組んでましたね。
―高専時代に印象に残っている出来事について教えてください。
4年生のときのドイツ留学です。自分の中での価値観が変わったタイミングでした。帰国後は親から「積極的になったね」と言われました。
ドイツ留学のきっかけは、当時は第二外国語が必修だった木更津高専の最初の授業で先生から、「ドイツ語を頑張るとタダでドイツ留学ができるよ!」と言われ、ドイツ語を選択したことです(※)。
※2023年度の木更津高専のシラバスによると、3年次はドイツ語が必修科目、4年次以降はドイツ語と中国語が選択科目になっている。
好きなアニメやゲームの舞台としてよくドイツが描かれていたり、とにかくドイツ語の単語がかっこいいと思ったりと、ドイツには興味がありました。授業時間外にドイツ語の先生が補講のような形でドイツ語の勉強会を開いてくださっていたこともあり、3年生の秋ごろから本格的にドイツ語の勉強を始めましたね。
ドイツ留学の期間は夏休みの3週間ほど。様々な国から同世代の学生が集まり、ドイツ語で交流する内容でした。
同世代との交流で衝撃を受けたことがあります。インドネシアから参加した学生になぜドイツ語を勉強しているのか尋ねると、彼は「自分の国には仕事がないから、外国語を習得しないと生きていけないからだよ」と答えたんです。
当時の私は、今が楽しければいいやという観点でしか物事を判断していなかったので、自分の置かれている環境がどれだけ安定しているのかを実感し、将来や世界で起きている問題について考えないといけないなと痛感しました。
また、自分の意見を遠慮せずに伝えることの重要性を知りました。価値観や背景が異なる人と交流するなかで、言わなくても通じるかなという考えが通用しないことを知りましたね。かなり濃密な時間でしたし、学生時代に体験できて良かったです。
ロボットへの好奇心を忘れず、研究や部活に没頭
―高専卒業後の進路はどのように決めたのでしょうか?
5年生での卒業研究や長岡技大でのインターンシップの経験から、より専門的なことを学びたいと思ったからです。留学での経験から海外にも興味をもっていました。長岡技大では6か月の海外インターンシップに参加できるプログラムがあることも知っていました。
―長岡技大へ進学してみて、いかがでしたか?
高専でロボットに触れることがなかった反動からか、技科大ではロボコンサークルに入部し、ロボットをつくる技術をイチから学びました。
研究室では、「産業ロボットの制御」をテーマにしている大石研究室(現:横倉研究室)に所属。やっとロボットの研究に携わることができました(笑) 同期に負けまいと机を並べ、朝まで作業をしていたのを覚えています。
インターンシップでは大手電機メーカーに行きました。枠の関係で海外インターンシップには参加できませんでしたが、そのインターンシップで現在の研究テーマであるモータドライブに出会い、魅力に気づいたんです。
今まではロボットアームにしか目が行っていなかったのですが、ロボットアームを動かすためにモータがあり、モータ単体でも複雑な機構と理論があります。その複雑さを勉強したことで、モータについて興味を抱きました。インターンシップ終了後、指導教員と相談し、モータドライブでドクター(博士の学位)を取得することを決めました。
電動化社会実現への寄与を目指す
―秋田高専の教員になられるまでの経緯を教えてください。
当時は企業への就職を考えていましたが、博士課程の生活のなかで、後輩指導や輪講(※)によるディスカッションを通じて、教えることの面白さや他の研究を聞くことの楽しさを知り、高専教員を目指したんです。
※1つの専門書を、少人数のグループ内で1人ずつ順番に講師を務め、それ以外の人が質問や感想などを入れながら読み進めていくこと。
また、私は研究と同じくらい開発にも興味を抱いていることを、ロボコン時代の活動を通じて思っていました。研究は「今までにないものを考える仕事」であり、開発は「今ある技術を融合させ、役立つモノをつくる仕事」です。研究も開発もできて、なおかつ教育も面白いとなると、高専はうってつけの場所だと思いました。
―現在の研究について教えてください。
制御工学に基づき「どうやってモノを動かすか」を考える、モーションコントロール全般が研究分野です。制御はプログラムにより実装されるので、機械や回路ナシで動作改善が可能となり、材料や保守の低コスト化に繋がります。
私はその中でもモータドライブシステムやロボットを対象としていて、モータドライブでは、「電磁ノイズの低減」と「小型化」に関する研究をしています。モータを動かすためにはインバータという電力変換装置の制御が必要です。この制御はあまり注目されていませんが、インバータとモータをまとめて考えることでシステムの性能改善を目指しています。
ロボットでは、二慣性共振系の高応答化に取り組んでいますが、将来的にロボットアーム制御に発展させたいと考えています。二慣性共振系は二つの慣性をばねで連結した、アームの一関節を模擬したシステム(系)です。このばね要素を考えることで、アーム先端の作業物を素早く移動させることができます。
最近は電動化が主流であり、EVや協働ロボットなど、日常生活でもモータが多く使われています。自分の研究成果を用いて効率性や俊敏性などの性能を上げることで、電動化社会へ寄与したいと考えています。
―最後に、高専生を目指す中学生や、高専生へのメッセージをお願いします。
高専はとびっきり楽しいところですよ! ぜひおすすめします。モノづくりの学校であると思うかもしれないですが、大学進学や海外経験など、望めばチャレンジできる環境がいくらでもあります。
高専生に対しては、高専への進学理由を忘れないでほしいです。高専生はなんらかのモチベーションがあって入学していると思います。赤点の基準が高く、専門教科が難しかったりとモチベーションを失いがちだからこそ、原点に立ち返ることをおすすめしたいです。高専では座学だけでは身につけられないスキルを学べる環境があります。とにかく手を動かして、実践的な力を手に入れてくださいね。
小林 勇斗氏
Yuto Kobayashi
- 秋田工業高等専門学校 創造システム工学科 電気・電子・情報系 助教
長岡技術科学大学 5年一貫制博士課程 技術科学イノベーション専攻 第4学年 在籍
2018年3月 木更津工業高等専門学校 電気制御工学科 卒業
2020年3月 長岡技術科学大学 電気電子情報工学課程 卒業
2020年4月 長岡技術科学大学 5年一貫制博士課程 技術科学イノベーション専攻 入学
2023年10月より現職
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