東京大学大学院を修了後、高専初の「寄附講座」がきっかけで、阿南高専に着任された小西智也先生。常に「コラボレーション」を大切にされ、研究を続けられています。学生時代の思い出や、現在の取り組み、そして顧問の剣道部についてお話を伺いました。
炭鉱跡で行っていた「無重力環境」での研究とは
-小西先生は、東大に進学されているんですね。
大学、大学院と恩師である牧島亮男教授の研究室に所属しました。牧島先生は「実験は、ほんの一部しか成果にならない。日頃の研究や努力の積み上げの上に成果があるんだよ」と伝えてくださいました。一歩一歩着実に登っていくことの大切さは、牧島先生に教わりましたね。
そこでは「無重力環境でガラスをつくる」という研究をしました。日本で宇宙環境や無重力に関する研究が盛んに行われた時代でしたが、頻繁に宇宙には行けないので、北海道や岐阜にある炭鉱跡にできた実験施設で研究を行っていました。
-炭鉱と無重力環境に、いったい何の関係があるのでしょうか。
炭鉱には地面に向かって縦穴が2㎞ほど空いているんです。その穴に、人間の身長ほどの大きさのカプセルを落として実験します。カプセルには実験装置が入っており、カプセルの中でガラスを溶かして反応させて固めるんです。
私たちの実験では数十ミクロンほどの小さな真球のガラスをつくる必要があるんですが、重力があるとおまんじゅうみたいに潰れてしまって、真球にならないんです。無重力であればつくれるので、カプセルを落としている数秒でガラスを溶かして真球をつくるんです。
やはりその数秒がカギになりますので、時間内に全部処理が終わるようプログラムを組まなければいけないことは大変でしたね。1回カプセルを落とすのにかなり高額な費用がかかっていましたから、事前の調整には時間をかけました。それでも落としてみたら全然データが得られなかったという失敗もたくさんありました(笑)
でも誰もやっていない研究でしたので、楽しかったですよ! できたガラスの真球は、中に光が閉じ込められるので、レーザー発振に使えたり、光通信にも使えます。研究が新たなものづくりにつながることもやりがいでした。
趣味がきっかけでインストラクターの資格を取得
-その頃、新たな趣味もできたそうですね。
研究室のメンバーでスキーをしていたんです。やっているうちにハマってしまって、なんでも極めたいと思う性格も後押しし、スキースクールで高橋先生のもとインストラクターを目指しました(笑)
インストラクションのひとつとして、「修学旅行生を指導する」というものがあって。3日間という短い期間で、ゲレンデに立つのさえままならなかった生徒が、ぐんぐん滑れるようになったんです。生徒は目に見えて成長するので、若い世代に教えるということに興味を持ったのは、この時期からでした。
博士の称号は、車で例えると「免許」のイメージ
-その後、「産業技術総合研究所」で働かれているんですね。
その北海道センターに「微小重力」を専門とする部署があって、そこに配属されました。実験対象は「磁石」になったのですが、今度はカプセルを落とす時間が1.5秒ぐらいで。ガラスの研究の4倍難しいんですよ(笑) なかなかうまくいかず、同僚と夜遅くまで装置の改良に明け暮れました。
やはり博士の称号をもらうということは、車で例えると免許をいただくイメージなんです。博士課程までは教習所で博士の卵として一生懸命研究を進めますが、博士をもらってからは自分の責任で運転して研究をする。その違いを大きく感じました。
その後、ガラスの研究に戻りたいと思い、「物質・材料研究機構」に移りました。そこの井上悟先生にも大学時代から研究でお世話になっていたんですが、そのご縁でお声がけいただきました。
井上先生は、「限られた環境と予算の中で最大限の成果を上げるのがプロの研究者だ」と常におっしゃっており、「実験装置が無ければ自分でつくる」ということを徹底されていた先生でした。
最初は慣れていないので、よく実験装置を壊してしまっていたのですが、慣れてくると壊さなくなったんです。すると「最近装置が壊れていないけど、小西はちゃんと研究しているのか」と井上先生に言われて(笑) それほど失敗は多かったのですが、失敗した原因を探るとやはり新しい知見やデータを得られたので、失敗することの大切さもこの時学びましたね。
全国高専で初めて「寄附講座」を担当
-小西先生が、阿南高専に着任されたきっかけを教えてください。
東京理科大学にいるときに、阿南高専が寄附講座を担当する教員を募集していることを耳にしました。寄附講座とは、企業から高専へのご寄附で講座が設立されるという制度です。全国の高専で初めての寄附講座で、LEDで有名な「日亜化学工業」様が阿南高専に寄附してくださいました。
着任から10年は寄附講座で半導体の量子ドットに関する研究を行いました。それ以降は阿南高専の教員として授業、校務分掌、部活の顧問としての業務も増え、学生と関わる機会が格段に増えました。
-阿南高専での取り組みを教えてください。
現在は蛍光体などの機能性セラミックスの研究を進めております。「噴霧乾燥」という技術を使って、「機能性のあるセラミックスをつくるという研究」を、高知工科大学や東京理科大学、東京医科歯科大学とコラボレーションしているんです。
例えば、「赤外線を当てると可視光線を発光する」という特殊な蛍光体があるのですが、これを紙幣の印刷に使えば、偽造防止に使うことができます。
また機能性のあるポリマーを蛍光体に被覆させることで、より沈殿しにくくなるような蛍光体がつくれますし、がん細胞だけにくっつくような蛍光体をつくれば、お医者さんが診断しやすくなりますよね。最新技術がいろいろと応用されている分野ですので、研究を進めています。
「コラボレーションする力」を大切にしていきたい
-学生と接するうえで大切にしていることを教えてください。
これからの世の中は「コラボレーションする力」が技術者に求められると思います。ですので、なるべく学生と意見交換したりディスカッションしたりする機会を設けるようにしています。人と人の関わり合いで成長もしますし、コラボレーションすることで今までになかった価値が生み出されます。私自身も研究や講座でも常にコラボレーションを大切にしていますし、学生にもその技術を今のうちから身に付けてほしいんです。
例えば、卒研の報告会はあえて他のコースの研究室と合同でやっているんです。専門外の方の話も聞くことで、「何か自分の研究に役立てられないかな」とか「逆に自分の研究が役に立たないかな」と考えるきっかけにもなると思っています。指示通りに手足を動かしているだけだと成長はないと思うので、発想力を育てるような工夫はしています。
これからは「AIの時代だ」と言われていますが、やはりゼロから何かを生み出したり、協働して物事を解決したりする能力はまだ人間にしかできないと私は思います。そこをしっかりやっていれば、「将来どんな社会になろうとも、技術者として生きていけるよ」と学生には伝えていますね。
剣道部顧問を担当し、学生と同じメニューで稽古
-先生は部活動の指導にも力を入れているんですね。
現在は剣道部の顧問をしております。実は中高と剣道部所属だったのですが、それ以降ずっと剣道をしていなかったんですよ。初段のままだったので、「二段取っておけばよかった」とコーチの鈴木先生にぽろっと話したところ、次の日から私の分の防具もご準備いただいていて(笑) そこから、ご指導いただくようになり、学生と同じメニューで私も稽古をしています。
現在改めて学生さんと一緒に稽古をすると、自分の学生時代とは違った捉え方ができています。稽古ができる場があるということはすごく幸せなことですし、学生も私と一緒に頑張ってくれていますので、すごく嬉しいですね。ありがたいことに最近三段をいただくことができたんですよ!
-最後に、高専を目指す中学生にメッセージをお願いします。
「お勉強」は大変な側面も確かにありますが、新しいことを発見したり、不思議なものに触れたり、今までに自分が出来なかったことが出来るようになったりといった、喜びの側面もあると思うんです。そういった勉強の楽しさを見つけてもらえれば嬉しいです。
高専にはそれができる「おもちゃ」がたくさんありますし、それを触りながら、知りながら勉強できることが楽しさにつながると思います。ぜひその楽しさを高専で見つけてみてください。
小西 智也氏
Tomoya Konishi
- 阿南工業高等専門学校 創造技術工学科 化学コース 教授
1991年3月 久留米大学附設高等学校 卒業
1995年3月 東京大学 工学部 マテリアル工学科 卒業
1997年3月 東京大学大学院 工学系研究科材料学専攻 博士前期課程 修了
2000年3月 東京大学大学院 工学系研究科材料学専攻 博士課程 修了
2000年~2002年 産業技術総合研究所 NEDOフェロー
2002年~2005年 物質・材料研究機構 特別研究員
2005年~2007年 東京理科大学 ポストドクトラル研究員
2007年4月 阿南工業高等専門学校 地域連携・テクノセンター 特別研究准教授(寄附講座)
2017年4月 同 創造技術工学科 化学コース 准教授
2021年1月より現職
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