進学者のキャリア大学等研究員

失敗は成功のレシピ! 今こそ、鋳造技術の活躍が期待される時代になる

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高専から大学へ進学し、高専教員のキャリアを積んで室蘭工業大学の教授になられた清水一道先生。大学進学で広がった鋳造技術研究への興味を遡りながら、現在まで熱い思いを寄せ続けるその理由を伺いました。

大学進学は貴重なステップ

―高専に進学されたきっかけを教えてください。

高専生時代のお写真。
▲高専生時代の清水先生

実家が鮮魚店を営んでいたので、昔からよく商売の手伝いをしていて計算が得意だったんです。高校進学の際には理系に進むことを考え、中学の担任の先生に教えてもらった地元の大分高専へ進学しました。

高専の卒業研究では、機械工学科で「鉄鋼材料の疲労」に関する研究をしました。実を言うと、当時は研究室の配属がジャンケンで決まる時代で、最も興味のない分野に配属されてしまったのです(笑) まさか大学で材料の研究の面白さを知ってドクターまで修得することになるとは、この時は思いもしませんでした。

―大学進学後の研究に対する心境をお聞かせください。

体育館で、簡易の椅子に座って、ピースサインの、大学生時代の清水先生
▲北海道大学ではバレー部に所属

北海道大学で出会ったのが、今の研究につながる「鋳造」です。ここでも鋳造材料の疲労挙動に関する研究に従事するのですが、最初は「なんだ、この古い技術は」と思っていて、嫌で嫌で仕方がありませんでした。その結果、卒業後には就職の道を選ぶことになります。

新日本製鐵株式会社に就職したのは、高炉や転炉と言われる大型設備の設計をしたいと考えていたからです。実際に設計の夢を叶えることはできたものの、設計の難しさを思い知らされました。設計図が完成しても試運転でうまくいかないことがほとんど。1年間現場に張り付きで毎日チェックをして、粘り強く挑んだ経験が今に生きていると感じます。

―進学と就職どちらもご経験された清水先生ですが、それぞれの良さはどんなところだとお考えですか。

おそろいの作業着を着て、研究室の学生たちと記念撮影
▲清水先生の研究室

まず、高専生にはぜひ進学をおすすめしたいと思っています。理由は、時間的な余裕がある中で研究生活ができること。そして、キャンパスで異なる分野の人たちと出会うことで、コミュニケーション能力を鍛えられるからです。

高専は専門性の高い学校である反面、どうしても同じ分野の人とばかり関わってしまいがちです。環境を変えて、対応力を養いながらグローバルに視野を広げるという意味でも、進学は大いに役立つでしょう。

沢山の資料に囲まれた中でピース。
清水先生の会社員時代。
▲会社員時代の清水先生

また、高専の研究では少し時間が足りないように感じています。自分で問題を発見して解決する本質的な研究には、大学や大学院への進学が最適です。一方、就職は、専門性にプラスアルファが求められるエンジニアの仕事です。ここで十分な力を発揮することを考えても、個人的に大学進学は貴重なステップだと感じています。

「好き」を継続することの大切さ

―現在の研究について教えてください。

現在は、大学からの研究を派生させ、金属の摩耗についての研究をしています。簡単に言うと、摩耗が進みにくい材料の開発です。液状に溶かした金属に、とある元素を入れることによって、耐熱・耐摩耗の合金「超硬合金」をつくっています。最近では、ロケットの打ち上げに使われる耐熱800〜1200度の部品をつくりました。

企業との関りも。
▲ロケット打ち上げサービスを提供する「インターステラテクノロジズ株式会社」の稲川社長と

金属の液体は型に入れることでさまざまな形になり、これを「変体(トランスフォーメーション)」と言います。この形を変える時に起こるいろいろな現象が面白いんです。そして、いい組織ができた時、これを偶然の産物にせず、何度やっても同じようにいいものが生成できるようにすることが私の研究です。

もちろん失敗もたくさんあります。でも、失敗は「これはダメ」というレシピであって、一つの研究成果です。最後まで続けていくことでしか、成功につながる道はありません。

―先生が40年以上研究を続けてこられた原動力は何でしょうか。

ご家族での記念写真。
▲清水先生のご家族

やはり、家族の支えがありました。大学院へ通わず、論文で学位を取ろうとしたのでドクターを取るまでに14年かかったんです。諦めなかったのは、応援してくれていた家族がいたから。特に妻は戦友のような存在でした。一緒に乗り越えてくれたことを、今でも本当に感謝しています。

正解は人ぞれぞれですが、自分が一生懸命になれるものの存在はとても重要です。みなさんにも、ぜひ自分の好きなことを見つけてほしいですね。

―先生は研究以外にも、ユニークな取り組みに多く関わられていますね。

「鋳造」と言うと、奈良の大仏や銅鐸に使われる古臭いイメージがどうしても根強いのですが、実はそんなことありません。例えば、廃船を解体し再利用する「シップリサイクル」やカーボンニュートラルへの取り組みにも鋳造技術の活躍が期待されています。

シップリサイクル現場と海を背景に。
▲シップリサイクルの現場

こうした鋳造のおもしろさを知って欲しくて、私は北海道名物・ジンギスカンの鍋を鋳造でつくったり、YouTuberのはじめしゃちょーさんやGENKI LABOさんとコラボ動画をつくったりしています。

学生とともに、巨大なジンギスカン鍋を製造。
▲鋳造でつくったジンギスカン鍋
▲【超大型企画】3億円豪邸に600kg金属溶かしてはじめしゃちょーの像プレゼントした!

研究やものづくりの面白さを伝えたい

―現在の研究と今後の目標について教えてください。

教育面では、高校生や大学生に研究のおもしろさを伝えることに力を入れていきたいですね。そして小中高生には、出前授業を通じてものづくりの楽しさを伝えることが今の私の使命だと感じています。そのためにも、「こんな最先端の研究をしているんだ」と伝えられるように、研究を同時進行で進めていく所存です。

おそろいのジャージを着た高校生に向けて、スライドを使って授業をする清水先生
▲大樹高校での出前授業の様子

先日、実業家の堀江貴文(ホリエモン)さんと対談した際にもお話ししたのですが、鋳造技術でロケットを軽量化させ、コストを下げることができれば、今よりももっと多くの衛星を打ち上げられる未来が実現するんです。難しいことは承知の上で、ロマンのある話ですよね。5年後に実機を打ち上げ、いつかは宇宙に行ける未来を夢に見ながらこれからも研究に励んでいきます。

―最後に、受験生にメッセージをお願いします。

正装して、政府が会見する演台で、総理の真似をする清水先生
▲2007年には、ものづくり日本大賞「優秀賞」を受賞

チャンスがあったら必ず乗っかってみましょう。きっと尻込みします。失敗もします。でもいいじゃないですか。困ったら原点に戻って、将来、なりたい自分を思い描く。夢に向かって突き進んでくださいね。

清水 一道
Kazumichi Shimizu

  • 室蘭工業大学 もの創造系領域 機械航空創造系学科 機械システム工学コース 教授

清水 一道氏の写真

1983年 大分工業高等専門学校 機械工学科 卒業
1986年 北海道大学 工学部 機械工学科 卒業
2001年 北海道大学 博士(工学)
1986年 新日本製鐵株式会社 勤務
1988年 大分工業高等専門学校 機械工学科 助手
1992年 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 講師
1998年 大分工業高等専門学校 制御情報工学科 助教授
2003年 大分工業高等専門学校 機械工学科 助教授
2004年 室蘭工業大学 材料物性工学科 助教授
2008年 室蘭工業大学 ものづくり基盤センター・材料物性工学科 准教授
2009年 同大学院 工学研究科 もの創造系領域 材料工学ユニット・ものづくり基盤センター 兼務
2011年 もの創造系領域 材料工学ユニット 教授・ものづくり基盤センター長 兼務
2013年 理事補(副学長補佐、連携担当)
2014年 もの創造系領域 機械航空創造系学科 教授
2015年 地域共同研究開発センター長 兼務

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