幼い頃から電気系の分野に興味があり、石川高専に進まれた、津山高専教授の桶(おけ)真一郎先生。大学時代に出会った太陽光発電の研究を今でも続けられています。「一方通行の授業」にならないよう工夫をされている桶先生に、教育方針や学生時代の話をお伺いしました。
電子工作が好きで、すぐに専門的な勉強をしたかった
―石川高専に進まれたきっかけを教えてください。
小学生の頃から電子工作が好きで、電気系の勉強をしたいと思っていました。普通高校に行って大学に進学するという道もありましたが、中学卒業後はすぐに専門的な勉強がしたかったので、石川高専を選びました。
実は高専に進むまでは、あまり家で勉強をしていなかったんです。でも、高専に入って初めてのテストでとんでもない点数を取ってしまって…(笑)。「このままではダメだ」と思って、高専に入ってからはしっかりと勉強をするようになりましたね。
直接質問に行ったことで、苦手科目が得意科目に
―石川高専で印象に残っている授業はありますか。
4年生のときの「電気磁気学」という授業ですね。電気系の学生にとっては必須の基礎的な授業でしたが、最初は全く内容がわからなくて、テストでも良い点数がなかなか取れませんでした。
でも、分からないことをそのままにはしておきたくなくて、授業を担当していた深見哲男先生に質問に行ったんです。そこで深見先生がポイントを丁寧に教えてくださったおかげで、苦手だったはずの電気磁気学が得意科目になったんです。一見、難しいと思える内容でも、ポイントを押さえれば、ちゃんと理解ができるということも学びました。
現在、津山高専でも電気磁気学の授業を担当しているのですが、深見先生の授業で取ったノートを元に自分の授業を組み立てました。
―高専の卒業研究の内容を教えてください。
櫻野仁志先生の研究室で、雷の研究をしました。櫻野先生は雷の研究者として有名な先生で、そんな偉大な先生と一緒に研究ができたのは良かったですね。石川高専は日本海側にあり、冬に雷がよく発生するんです。だから、雷を観測する研究には良い環境でした。
ほかにも、企業との共同研究で避雷針の実験もしていました。避雷針は、周りに雷を落とさないために、必要な装置です。避雷針の試作品を使って雷放電のしやすさなどを調べていました。
「太陽光発電」に出会った大学時代
―大学では、どのような研究をされたんですか。
太陽光発電の利用に関する研究をしました。翌日の太陽エネルギーがどれくらいの量になるかの予測をしていましたが、当時はこの研究が実際に応用される日が来るというイメージは正直ありませんでした(笑)。今では太陽光発電が普及しているので、電力会社にとっても太陽エネルギーの予測が大切になっているんですよ。
もし、想定よりも太陽エネルギーの量が足りなければ、火力発電でカバーすることが多いです。でも、火力発電は稼働するまでに時間がかかるので、翌日の運転計画は前日のうちに立てておかなければなりません。そこで役立つのが、「太陽エネルギーの予測」です。これは今でも継続している研究の1つで、安定して電力を供給するためには欠かせないものです。
太陽光発電が好きになり、豊橋技科大で教員に
―修士課程終了後、豊橋技科大で教員になられたんですね。
修士課程が終了した後も、研究を続けたいという気持ちがあったんですよ。そんなときに榊原先生に誘っていただき、研究室で学生のサポートをする職員になりました。学生への講義を担当していたわけではなかったので、自分が「教員」である自覚はあまりありませんでしたね。
教員になってからも太陽光発電の研究は続けていて、太陽エネルギーを有効活用するための研究を行っていました。この頃には、太陽光発電が好きになっていました。太陽エネルギーは環境問題やエネルギー問題にも対応できますし、誰でも無料で利用できるエネルギーです。こんなに良いエネルギーは他にないので、もっと太陽エネルギーを活用してもらうために、研究を進めていたことを覚えています。
-その後、津山高専に着任されたきっかけを教えてください。
豊橋技科大で教員をしていた頃から、高専とのつながりが深かったんですよね。私が高専生だったことや、面倒を見ていた学生も高専出身だったこと、そして共同研究をするのも高専の先生が多かったんです。
豊橋技科大の先輩や同僚にも高専の先生になった人がいて、高専の話を聞く機会もありました。最初は、「自分が学んだ場所」という認識があった高専ですが、話を聞いていく中で高専が「働く場所」という認識に変わったんです。
博士号を取得したあとしばらくして,たまたま津山高専の環境・エネルギー系教員の公募が出ていたので、専門分野だったこともあり、「ここだ!」と思って応募しました。津山高専に着任してからも、交流があった高専の先生とも引き続き連絡を取り合っています。
「教えない」授業で学生の主体性を育てる
―授業をする上で、大切にされていることはありますか。
津山高専に着任した当初は、「学生に難しいことを理解させる」ことが大切だと思っていました。でも先生方に話を聞いたり、研修を受けたりする中で、「学生が自ら学ぶ環境を作る」ことが、私たち教員の役目だと気付いたんです。そこに気付いてから、いろいろな先生と情報交換をして、より良い授業をするために改善を加えていくようになりました。
私は「反転授業」を取り入れています。反転授業とは、家で事前に動画を見てもらって、学校では課題や演習をしてもらうという授業のやり方です。従来のやり方だと、家に帰ってから1人で、課題や演習をすることが普通だと思います。しかし、それだと分からない部分があったときに解決できないことが多いです。
学校で皆が集まっている場所であれば、互いに教え合いながら課題や演習を進めることができます。人に説明をすることで理解が深まって、学生の学力向上にもつながります。
私はあえて授業中はできるだけ話をしないようにしていて、学生同士のコミュニケーションが活発になるように仕向けています。もちろん、学生から質問を受ければ教えますが、自分が主体となって授業をすることは少ないですね。私が「教えない」授業をすることで、学生の主体性が伸びていけばと思います。
大好きな太陽光発電の良さを伝えていきたい
―桶先生の今後の展望を教えてください。
私は大学時代から引き続き、今でも太陽光発電の研究をしています。現在は太陽光発電の安全性の向上、「集光式太陽光発電システム」の開発、そして太陽光発電電力の予測に関する研究に取り組んでいます。
太陽光発電は他の発電方法と比べると安全なイメージがあるかもしれませんが、発電するということは、発火の恐れがあるということです。もし、危険な状態にある太陽光発電の装置を放置していると、火災の原因になるかもしれません。そのような事故を防ぐために,太陽光発電システムの故障を早期発見する技術を開発しています。
集光式太陽光発電システムは,レンズで太陽光を集めて発電します。津山高専には,全国の高専でもここにしかない大型の太陽追尾装置を使ってその実証実験を進めています。
太陽光発電に対して、あまり良いイメージを持っていない人もいるのが現実です。山に太陽電池がついているところもあり、それに対して迷惑だと思っている人もいると思います。私は、太陽光発電が大好きです。だから、太陽光発電で嫌な思いをする人を1人も出したくありません。
太陽光発電ほど素晴らしいエネルギーは、他にはないと思います。安全で快適に太陽光発電を利用してもらうために、今後も研究を続けていきます。
桶 真一郎氏
Shinichiro Oke
- 津山工業高等専門学校 総合理工学科 電気電子システム系 教授
1999年 石川工業高等専門学校 電気工学科 卒業
2001年 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学課程 卒業
2003年 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 修士課程 電気・電子工学専攻 修了
2003年 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学系 教務職員
2007年 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学系 助教
2009年 津山工業高等専門学校 電子制御工学科 講師
2014年 津山工業高等専門学校 電子制御工学科 准教授
2016年 津山工業高等専門学校 総合理工学科 電気・電子システム系 准教授
2021年より現職
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