中学まではどちらかというと文系だったという仙台高専の園田潤先生。大分高専から豊橋技術科学大学・東北大学に進み、現在は地中レーダを使った自然災害科学・環境科学の研究をされています。東日本大震災の復興につながる研究を進められている先生に、高専時代のお話や研究についてお伺いしました。
将来のことを考え、進学も就職も選べる高専に進学
―大分高専に進まれたきっかけを、教えてください。
中学生の頃は、「進学校から大学に進んだ方が良いんじゃないか」と先生には言われていました。でも、高専に行って技術を身につけた方がいいかなと思ったんですよ。高専は就職率も高かったので、「進学と就職を選べる」ということが私にとっては魅力でしたね。
私自身、理系の科目が特別好きだったり、ものづくりに興味があったりしたわけではないんです(笑)。本を読むことが好きだったので、どちらかといえば文系でしたね。だから、「自分がやりたいことをするために」高専に進んだというわけではなくて、「将来のことを考えて」高専に進みました。
「文系に転向しようか」と悩んだ時期もあった
―高専で印象に残っている授業はありますか。
渡邊信雄(のぶお)先生の「通信工学」という授業ですね。試験の答案を返されるときに、「園田が1番しっかり書けていた」と皆の前で褒められたんです。渡邊先生は厳しい先生だったので、褒められたときは嬉しかったですし、自分の自信にもつながりました。
でも、高専の3年生のタイミングで「このままで良いのか」と迷った時期があったんです。普通校に通っている友達が大学受験をしているタイミングだったこともあり、「このまま理系の道に進んでいいのか」と悩みました。もともと文系だったので、今から大学受験をして文系に転向しようかと思ったんですよね。
それを高専の先生に相談したら、「文理両方の要素を持っている高専生は少ないよ」と言われたんです。その言葉を聞いて、私みたいな「高専生らしくない高専生」も良いのではないかと感じましたね。
音声をリアルタイムに認識させることに成功
―高専の卒業研究の内容を、教えてください。
音声を自動認識する研究をしました。当時はコンピュータの性能があまり良くなかったので、音声を解析するのに時間がかかっていたんです。そこで、専用のハードウェアを使って、処理時間を短くする研究をしていました。
卒業研究で、初めて1つのテーマで長期間、研究をしたんです。難しさもありましたが、それ以上に楽しさがあって、卒業式が終わった後も学校に行って、研究を続けていましたね。結果的に、コンピュータだと数分かかっていた処理がハードウェアを使うことでリアルタイムに処理できるようなところまで進めることができました。
―大学では、どのような研究をされたんですか。
高専時代の音声認識の研究を続けたくて、卒業研究でも参考にしていた本を書かれた先生がいらっしゃった豊橋技術科学大学を選びました。でも、研究室配属で、音声認識を研究している研究室に入れなくて(笑)。どの研究室に入ろうか迷ったときに、高専で渡邊先生に答案を褒められたことを思い出したんです。それで、「電磁波工学」をやっている宮崎保光(やすみつ)先生の研究室に入りました。
宮崎先生の研究室では、「遺跡探査のレーダを開発する」研究を行いました。レーダを使って地中に埋まっている遺跡を探すには、どれくらいの周波数のレーダを発射すれば良いかや、実際の地中の状態を模擬した土壌でどのような信号が得られるかなどを、コンピュータを使ってシミュレーションしていました。
地上と地中にあるものでは物質ごとに電波の伝わり方が違うので、内部で伝わり方に差がある箇所をレーダで見つけられるような仕組みを研究していたんです。金属探知機だと、金属にしか反応しません。
でも、レーダを使えば金属以外のものにも反応するので、材質に関わらず発見することができるんですよね。ただ当時は基礎研究の段階だったので、現場で実際にレーダを使うことはありませんでした。
先生に向いていると言われたのが、教員を目指すきっかけ
―大学ご卒業後は、仙台高専で教員をされるようになったんですね。
実は、大学時代は教員になるつもりはありませんでした(笑)。進路に迷ったときに、たまたま大学のカウンセラーの先生に相談したら、「先生に向いている」と言われたのがきっかけなんです。「悩んできたからこそ、学生と一緒に悩みながらアドバイスができるんじゃないか」って。
そのタイミングで、仙台高専の公募が出ていることを宮崎先生から紹介していただいて、「できるかどうかわからないけど受けてみます」と言って、仙台高専を受けたんです。そこで無事にご縁をいただくことができ、仙台高専の教員になりました。
-仙台高専で教員をしながら、東北大学に通われたんですね。
宮崎先生の研究室にいたとき、東北大学の佐藤源之(もとゆき)先生と一緒に地中レーダを研究していたんです。佐藤先生に「仙台に来るなら、一緒に研究をしないか」と誘っていただいたので、社会人博士に進むことを決めました。
東北大学では、地中レーダに限らず、電磁波シミュレーションの高速化や高精度化の研究をしていました。博士課程修了後も、その研究を続けていたのですが、2011年に東日本大震災を経験したことで、自分の研究に対する思いが変わったんですよ。
東日本大震災で、研究に対する思いが変わった
―東日本大震災を経験して、研究にはどのような変化がありましたか。
東日本大震災を経験して、自分の無力さを実感したんです。「震災の復興に、自分の研究は何も役に立たないのではないか」と思ってしまって。それまでは研究室でコンピュータシミュレーションばかりしていて、直接的に復興に携わることができていませんでした。それではダメだと思い、震災後は現場に出ることが多くなりましたね。
現在は「震災の行方不明者の捜索に地中レーダを使う」という研究を進めています。従来は、自衛隊や警察が地面に棒を刺しながら人力で行方不明者を捜索していたので、時間がかかるんですよ。
そこで、レーダと人工知能AIやロボットを一体化させて、効率良く行方不明者の捜索ができるよう研究を進めている段階です。そして、この技術を使って、行方不明者だけでなく、堤防や道路の点検や、砂浜に埋まっている海ごみの発掘にもつなげていきたいと思っています。
―高専の教員の道を選ばれて、いかがでしたか。
「人に教えること」の難しさを感じましたね。人に教えるためには、自分が1番わかってないといけないので、分かりやすく教えられるように必死になって勉強しました。そして、学生には自分の後ろ姿を見せることも大切にしています。
教員をしていると、授業の準備や学校の仕事に追われて研究に時間が割けなくなるケースもあります。でも自分が研究を進めていないのに、学生に「研究を進めなさい」なんて言えないので、積極的に学会で発表したり、さまざまな実験をしたりして、自分の姿を学生に見せるようにしています。
昨日より今日、今日より明日。人は必ず成長する。
―現役の高専生にメッセージをお願いします。
学生の中には「自分には何もできない」と思っている人もいるかもしれません。特に高専は専門的な内容が多いので、最初は分からないことも多いと思うんですよ。
でも、やり続けていれば、必ずできるようになります。授業の課題を1つやるだけでも、何か理解できることがあるはずです。その積み重ねが、将来の自分をつくるんですよ。「昨日より今日、今日より明日」という気持ちを持って、途中で諦めたり、投げ出したりせずに頑張ってもらいたいですね。
そして、1つのことに固執するのではなく、広い視野を持って取り組んでほしいと思います。1つにこだわっていると、それができなかったときに落ち込んでしまいますよね。そうではなく、自分の力が発揮できるところで発揮すれば良いんですよ。力が発揮できる場所がわからないという人は、ぜひ僕たち教員と一緒に見つけていきましょう!
園田 潤氏
Jun Sonoda
- 仙台高等専門学校 総合工学科 教授
1991年 大分工業高等専門学校 電気工学科 卒業
1993年 豊橋技術科学大学 情報工学科 卒業
1995年 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 情報工学専攻 修了
1997年 仙台電波工業高等専門学校 情報通信工学科 助手
2000年 豊橋技術科学大学 技術開発センター 助手
2002年 仙台電波工業高等専門学校 電子工学科 助手
2005年 東北大学大学院 環境科学研究科 環境科学専攻 修了
2010年 仙台高等専門学校 知能エレクトロニクス学科 准教授
2014年より現職
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