
数学の授業で、学生が楽しく学べるアクティブラーニングを導入している秋田工業高等専門学校の森本真理准教授。地域活性化に向けた研究会を発足させるなど、課外活動にも積極的に取り組まれています。先生が考える、学生の成長につながる教育方法とは?
主体的な学びを促進する授業スタイル
―先生が実践しているアクティブラーニングとは、どのようなものですか?

簡単に言うと、「先生が前に立って黒板に書きながら説明をする」という授業をやめてしまいました。数学の授業といえば、先生が新しい知識や公式を説明して、それをもとに演習を行い、数人の学生が黒板で発表するというスタイルが一般的ですよね。はじめのうちは、私もそのような授業スタイルでした。ですが、私が説明しているときは学生が聞くだけになっている。それも下手したら、聞いてすらもらえていないんじゃないかと思ったんです(笑)。
そんなとき、あるセミナーで産業能率大学 小林昭文教授による物理の模擬授業を受講しました。そのときの、頭をフル回転させるようなアクティブラーニングが本当に楽しくて。数学でもこのような授業があったら面白いのではないかと考えたんです。
それから程なく、小林先生の教えをもとに授業スタイルを変更しました。具体的には、学生にノートの代わりとなるプリントを配布します。するとプロジェクターを見ながら穴埋めができるので、説明時間が大幅に短縮され、学生が考える時間を長く確保できるんです。私が説明する時間は授業冒頭の20分程度です。
それから、1グループ6人程度に分かれて問題演習を実施。私は答えを言わないので、学生同士が協力して積極的に学習しています。学生同士で教え合う姿勢が特に強いクラスでは、教員がいなくても勉強できるのではないかと感じるほどです(笑)。
また、このようなグループワーク型の授業の効果測定を実施しています。これまでは、主にアンケートや試験の結果で効果を計測していましたが、「どのタイミングで意欲的になり、その集中がいつ途切れるのか」というところまではわかりませんでした。
そこで、「JINS MEME」というメガネ型ウェアラブル端末を使って、瞬きや頭の傾きなどのデータを読み取り、授業での集中力を計測する方法を取り入れました。ただ、私は数学の教員ですし、技術的な知識はほとんどないんですよね。ですので、専門の先生にお願いをして、共同で研究を行っています。今後は、汗で緊張度を計測するといった生体計測の技術も用いながら、研究を継続していく予定です。
―授業を受けた学生さんの反応はどうですか?

最初にこのスタイルで授業をしたとき、「先生はほとんど教えません。みんなで頑張って勉強してください」と言って授業を始めたんです。そしたら「先生手抜き?」と言われまして(笑)。「私は休日返上でプリントを準備したのに…」と少しショックだったことを、今でもよく覚えています。
ところが、授業が終わった後に「先生、今日の授業楽しかったからまたやって!」と言われたんです。準備がかなり大変ではありますが、「そんなに喜んでもらえるなら頑張ろう」と思えましたね。
今まではつまらなそうに授業に参加していた学生が、積極的に友達に教えている場面も多く見られました。一人一人が先生になれる良い機会だと、改めて感じましたね。それでも、あまりに分からなすぎると、学生は何もしなくなってしまいます。ですので、「少し分からない程度に」を心掛けながら、準備をしています。
「世界一長いきりたんぽ」で地域活性化
ここからは、森本先生と一緒に「きりたんぽ」ギネス記録に挑戦された、秋田高専5年創造システム工学科機械系 半田一平さんにも加わっていただきます。
―米子高専と共同で、ギネス記録に挑戦されたそうですね。

森本先生:「世界一長いちくわ」でギネス記録を達成していた米子高専から、今度は「きりたんぽ」で挑戦したいという話が、なぜか数学教員である私のところに舞い込んできまして(笑)。驚きつつも、「楽しそうだからぜひやりたい!」と思い、一緒に挑戦することになったんです。
それから、私が授業を担当しているクラスで参加者を呼びかけたところ、興味を持った学生たちが集まってくれました。当時2年生だった半田くんは、1年生の時に数学を担当していた縁で、よく研究室に質問に来てくれていて。そのときに声を掛けたら、参加してくれることになりました。

半田さん:森本先生からお話を聞いたとき、私は部活動に所属していなかったので、「学生時代の思い出に残るような経験をしたい」という思いで参加を決めました。まさか、高専に入って「きりたんぽ」をつくるとは、夢にも思ってもいませんでしたね(笑)。最終的に、秋田高専からは私を含め10名の学生が参加することになりました。
―実際に参加してみて、大変だったことはありますか?

半田さん:「きりたんぽ」は、炊いたお米をペースト状につぶして棒に巻き付け、それを焼き上げてつくります。ただ、私たちがつくったのは5メートル以上の「きりたんぽ」なので、勢いよくお米を付けるだけでは表面に割れ目ができ、崩れてしまうんです。そのため、お米を付ける部分と付けない部分を等間隔に分け、慎重かつ迅速に作業する必要がありました。1カ月以上前から、本物のお米を使って練習を始めましたね。
森本先生:さすがに学校で焼く作業まではできないので、最後は全部おにぎりにしてみんなで食べたのも良い思い出ですね(笑)。当日は、秋田県大館市にある「きりたんぽ」づくり体験が出来る体験交流型直売所「陽気な母さんの店」にご協力いただき、記録に挑戦しました。やはり、地元の方の支えなしには成功できませんでしたね。本番は11月11日「きりたんぽの日」だったこともあり、メディアにもたくさん取り上げていただきました。
半田さん:当時は、米子高専の学生がすごくメディア対応に慣れていたことに驚きました(笑)。イベントの後には、秋田県庁に行って県知事に成果を報告したこともいい経験になりました。そのときは、学生同士で「鳥取と秋田の似ているところ」を話して盛り上がったことを覚えています。高専間での交流を深める良い機会にもなりました。

学生を全力でサポート!一緒に楽しむことが大事
―「きりたんぽ」づくりの経験を生かして、取り組んでいることはありますか?
実は、「きりたんぽ」づくりの活動後に、「せっかく学生が集まったのだから、同好会という形で残してほしい!」と学生にお願いしまして、新しく「地域連携活性化研究会」をつくっていただきました。現在では、約10名の学生が活動しています。

大きな活動目標としては、「地域のために何ができるのか」を学生に考えてもらうことです。たとえば、“地域おこし協力隊”の方と連携した取り組みでは、地元の農家さんのところへ学生がお手伝いに行きます。そこで実際に体を動かし、自分の目で見た課題を明らかにする。そして、その課題を解決するため、学生が持つ技術を最大限に活用したら何ができるのかを、学生自身に考えてもらっています。
高専は、5年間という長い時間を使えるからこそ、学生がやりたいと思ったことを全力で応援でき、それを一緒に楽しめる学校です。そういった活動を積極的にサポートして、学生がさらに生き生きするような学校にしたい。その結果、秋田の活性化にもつながっていけばいいなと思っています。
森本 真理氏
Mari Morimoto
- 秋田工業高等専門学校 一般教科自然科学系 准教授

大阪市立大学 理学部 数学科 卒業
大阪市立大学院 理学研究科 後期博士課程 数学専攻 修了
秋田工業高等専門学校 講師
秋田工業高等専門学校 准教授
国立高等専門学校機構 本部事務局 教育参事補(2019.4-2021.3)
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