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高専生に必要な国語力とは何か? 独自の取り組みで理工系の女子学生育成&国語力を強化!

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小山高専の柴田美由紀先生は、日本の近代文学を専門にしてきた国語のプロフェッショナルです。高専教育への熱い思いを胸に、現在は副校長や総務主事も務めています。教職員や地域とともに取り組んできた独自のプロジェクトについて、お話を伺いました。

天文学と文学がつながった瞬間

—幼少期はどのように過ごされましたか。また、文学に親しまれたきっかけを教えてください。

生まれ故郷である福井県の越前大野は、夜になるとあたりは真っ暗で、自動販売機のあかりが眩しく見えるほど街灯の少ない、自然豊かな場所でした。そんな環境のおかげで、子どもの頃は星空を眺めるのが好きでした。中学校の理科の教員をしていた父の影響もあったと思います。一つひとつの星が点として集まり、それが夜空の「星座」をつくりあげている。星を見ているだけでワクワクしました。文学より先に、天文学に興味を持ったんです。

▲越前大野の夕景

中学生になると、背伸びをして大人向けの科学シリーズの新書「ブルーバックス」を手に取って読むこともありました。ケプラーの法則など、宇宙の複雑な仕組みが数式で整然と整理されることに、言いようのない感動を抱いたのを覚えています。

それまでも本は身近な存在でしたが、現在につながる文学の出会いは高校に入ってからです。通学バスの待ち時間20~30分のうちに書店に立ち寄り、本棚を順番に見て回るのが日課でした。そこで表紙に惹かれてたまたま手に取ったのが、泉鏡花による戯曲『天守物語』です。読んでみると、その言葉の響きの美しさに一瞬で魅了されました。一歳下の妹と一緒に朗読して楽しんでいました。

▲泉鏡花と出会った一冊。「天守物語」など、鏡花の戯曲数編が収められています

この作品は、姫路城の天守に住む精霊たちの物語です。天守から地上を見下ろす視点が、宇宙から地球を眺めるようなスケール感とどこかつながっているように感じました。私が好きだった「宇宙の広がり」と「文学の世界」が、そのとき自分の中で一つの線になったのかもしれません。その後、筑波大学に進学し、恩師との出会いを経て、日本の近代文学の道へと進みました。

—高専の教員となったきっかけは何だったのでしょうか。

大学4年生のときは、就職という選択肢は全く考えず、迷わず大学院へ進みました。その大学院生時代に縁あって小山高専で国語の非常勤講師をすることになったのが、高専との最初の出会いです。私自身は普通高校出身でしたし、当時は「理系の優秀な人たちが行く学校」という程度の知識しかありませんでした。

しかし、実際に教壇に立ってみると、大学受験の枠に縛られない、とても自由で本質的な学びの環境がありました。学生たちは素直で知的な刺激に対する反応が良く、ポテンシャルが非常に高い。そんな学生たちと向き合ううちに、「高専という場所なら、受験勉強という枠にとらわれる必要はない。試験のためではない、本質的な国語教育ができるかもしれない」と強く感じるようになりました。

26歳で着任した当初は、学生と年齢が近かったこともあり、学級運営や授業の進め方で壁にぶつかったこともありました。でも、同期の先生方と励まし合い、先輩方に温かく育てていただいたおかげで、今日まで歩んでくることができました。現在は、かつての私のように悩む若い先生たちの背中を、優しく押してあげられる存在でありたいと思っています。

▲高専教員になられた頃の柴田先生

地域や学校と連携した取り組み

—先生が主導された「女子理工系進路推進事業」とは、どのような取り組みですか。

10代の女子中高生やその保護者の方々に、理系の学びや職業の楽しさ・魅力を伝えるための活動です。きっかけは、女子学生を増やすため、「JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)のプログラムに応募しよう」との声が校内で上がったことでした。

具体的な活動は大きく二つあります。一つは現役で活躍する女性エンジニアの姿を紹介する冊子「ミネルバ」の制作です。取材対象となる方は親しみを込めて「ミネルバさん」と呼び、女子学生たちの身近なロールモデルになってもらえたら、と考えたのでした。

▲「ミネルバ」Vol.1~Vol.7

もう一つは、中学校や商業施設を訪れて実験やキャリアレクチャーを行う「サイエンスキャラバン」です。2020年・21年度のJST「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」採択事業として実施をスタートし、プログラム終了後の2022年には、それまでの取り組みが評価されて、「第5回日産財団リカジョ育成賞」でグランプリを受賞するに至りました。また、入学者のうち女子が3割を超えるようになりました。

▲第1回サイエンスキャラバン@まちかどのオープニングの様子

それ以降は新たな発展形を求めて、ダイバーシティ型STEAM人材育成プロジェクトを立ち上げ、女子理工系進路推進の取り組みと「STEAM教育」を融合させた事業展開にシフトしました。「知的好奇心と創造的感性を持つ理工系人材を早期に発掘し、取り込み育てること」を目指して、さまざまな取り組みを行っています。対象も男子や小学生にまで拡大。取り組みを継続するうちに手ごたえを感じはじめ、活動範囲は幼稚園にまで広がっていきました。

最初は予算がつかず、また商業施設で声を掛けても中学生にスルーされるなど、失敗と試行錯誤の連続でしたね。でも、その「現場での学び」を生かして、少し大人っぽい雰囲気の予約制プログラムに変えるなど工夫を重ねた結果、多くの方に喜んでいただける形へと成長しました。

―さらに先生はコミュニケーション教育として「Sメソッド」にも尽力されています。こちらについても、詳しくお聞かせください。

高専生の多くは「自分は国語が苦手」という意識を持っています。しかし一方で、理工系の学生が社会で活躍するためには、「物事を筋道立ててわかりやすく、そして物怖じせずに伝える力」が必要とされています。苦手意識を持つ高専生が多いなか、何とか授業を活性化したいと平成初期にディベートを取り入れたことを手始めに、高専生のための国語の模索が始まりました。

Sメソッドと準拠教材「Sメソッドによる伝え合う力のトレーニング」は、私が学生たちとの試行錯誤の中でつくり上げてきた独自の教育体系です。最初は学生時代の記憶を頼りに始めたディベートからスタートしましたが、その後、スピーチやプレゼンテーションなど、さまざまなジャンルを教材化していき、現在はディベートやディスカッションなどの5項目を体系的(Systematic)かつ3レベル構成で段階的(Step by Step)にトレーニングしていく仕様にしています。

▲ディベート授業の様子

ありがたいことに、学生たちは「先生、また変な教材を持ってきたね」と言いながらも、面白がって付き合ってくれました。彼らの反応に教えられながら、何十年もかけて教材をブラッシュアップしてきたのです。この他にも、図書情報センター等と国語との共催による読書体験発表会や、英語・国語のコラボによるオリジナル科目「コミュニケーションリテラシー」など、教科の枠を超えた取り組みを続けています。

こうして皆で取り組んできたことの成果が最近、目に見えるようになってきました。全国規模の読書体験記コンクールで入賞したり、おすすめの本について5分で自由にプレゼンする「ビブリオバトル」の全国大会の決勝戦まで進んだりする学生も出ています。学生たちが自分の殻を破って自信を持って発信する姿を見るのは、本当に誇らしいものです。

仲間と育んできた教育への思い

―地域社会や多くの先生方を巻き込んだ数々のプロジェクト。継続の秘訣はどこにあるのでしょうか。

何より、地域全体で子どもたちを育てようという「共感」があるからだと思います。STEAMプロジェクトでは学校の中だけで完結するのではなく、中学校や小学校、教育委員会、さらには地域の企業とも積極的に繋がってきました。

これらの事業には現在、中心となる10名ほどの教職員のほか、何十名もの教職員が関わってくださっています。皆さんが多忙な中で協力してくださるのは、「高専をより良くしたい」「地域に貢献したい」という共通のモチベーションがあるからだと思います。

高専が地域の教育ネットワークのハブとなり、理工系進路に対する明るい雰囲気を醸成していく。その波が少しずつ広がっているのを実感しています。一人ではできないことも、同じ思いを持つ仲間や地域の方々と手を取り合えば大きな力になる。そのことを、このプロジェクトを通じて私自身も改めて教えてもらいました。

▲マレーシア海外研修旅行にて、引率の先生方と。左端は元小山高専生の黒川先生です


―最後に、現在・未来の高専生たちにメッセージをお願いします。

生真面目で自分自身に厳しいタイプ、表現力豊かなマイペースタイプと、高専生の皆さんの個性はさまざまですが、賢く優しい高専生が多いと感じています。社会には高専生の皆さんの仕事を待っている人たちが大勢います。そんな立場にいる高専生は本当に幸運だと思います。どうか誰かのために頑張れる人になってください。

高専を目指す中学生の皆さんには、自分の「好き」や「楽しい」を1つでも多く見つけてほしいと思います。その「好き」や「楽しい」が誰かの幸せにつながったら嬉しいですね。好奇心をもって毎日の生活を観察し、何か工夫ができないか、その工夫を実現するにはどうしたらいいか、あれこれ考えてみることを習慣にしてみてください。

▲学生たちと一緒に文芸部を始めた柴田先生。発足メンバーの学生のみなさんと

国語や文章の面で言えば、最近は生成AIのことが話題に上ります。AIは便利なツールとして大いに活用すれば良いと思います。しかし、大切なのは「自分が何を感じたか」という芯の部分です。

AIがつくった言葉に振り回されるのではなく、自分の心で感じたことを、自分の言葉で表現する。そのプロセスこそが、自分自身を理解し、自分の人生を自分のものにするために必要なのです。言葉を磨くことは、未来を拓くための最強の武器を手にすることでもあります。

今後は、STEAM教育とアントレプレナーシップ教育、グローバル教育をゆるやかに連結させることで、学生たちがより広い視野で世界と対話できる環境を整えていきたいと考えています。高専生という素晴らしいポテンシャルを持つ皆さんが、言葉の力を味方につけて世界をより良く変えていく。そんな未来を私は夢見て、皆さんの挑戦をこれからもずっと応援します。

柴田 美由紀
Miyuki Shibata

  • 小山工業高等専門学校 一般科 教授、副校長・総務主事

柴田 美由紀氏の写真

1984年3月 福井県立大野高等学校 卒業
1988年3月 筑波大学 第二学群 比較文化学類 卒業
1991年3月 筑波大学大学院 博士課程 文芸・言語研究科 各国文学(日本文学)専攻 中途退学(修士博士一貫過程)
1991年4月 小山工業高等専門学校 一般科 専任講師
1994年9月~1995年3月 文部省(現:文部科学省) 内地研究員(東京大学 教養学部)
2004年4月 同 准教授
2009年9月~2011年3月 作新学院大学 人間文化学部 非常勤講師
2014年4月より現職

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