アジアを代表するPR企業の株式会社ベクトルの執行役員兼CTOであり、株式会社オフショアカンパニーの代表取締役を務める野呂健太さんは、鈴鹿高専の卒業生です。これまでのキャリアの中で私たちの生活を変える数々のプロジェクトをリードしてきた野呂さんに、高専時代を振り返っていただきました。
自主性や推進力の根幹をつくった高専時代
―高専に入学したきっかけを教えてください。
幼いころからラジコン作りや模型制作が大好きで、理科の成績も良かったことから、「ものづくり」や「技術」に自然と関心を持っていました。そんななか、地元・三重県では鈴鹿高専が非常に優秀な学校として知られていたこと、そして身近な先輩も進学を目指していたことが後押しとなり、私も高専進学を選びました。
倍率は当時約5倍という難関だったのですが、今思えば、その狭き門にチャレンジしたくなったという側面もあった気がします。厳しい目標があると挑みたくなるタイプなのかもしれません。
進学して特に良かったと感じているのは、自由闊達な校風と、学生の自主性を重んじる環境です。鈴鹿高専では3年生から私服で登校できるようになり、4年生以上になると車やバイクでの通学も解禁されます。15歳から20歳までを高専で過ごすことになるので、4年生以上は普通の高校生よりずいぶんと大人だな、と入学時は感じていました。
そんなふうに、一般的な高校に比べて拘束が少なく、自分で考えて行動できる文化があったため、主体的に物事を進めるスタイルの自分に非常によく合っていました。この環境のおかげで、技術だけでなく自分で判断して前に進む力が鍛えられたと感じています。

―高専での思い出は何ですか。
楽しい思い出ももちろんたくさんありますが、いちばんに頭に浮かぶのは定期試験前の雰囲気です。赤点を2回取ると留年が確定するので、絶対に赤点を取ることは避けなければいけません。まさに、3カ月に1回のサバイバルです。
そのプレッシャーから、普段は仲良く和気あいあいとしていたクラス内にも、テスト前には緊張感が張り詰めていました。その時の重圧を身体が覚えているのか、社会人になっても夢で見ることがあるほどです(笑)
他方で、高専ではテニス部に所属していて、団体戦で全国2位に入賞したことも良い思い出です。部長を務め、5学年あるので女子も含めて70人ほどをまとめる役割でもあり、充実した毎日を送ることができました。
高専以外では、16歳の夏休みにバイクで北海道を1周しました。2週間1人で、しかも野宿をしながらです。テレビで北海道の風景を見かけて「ここに行きたい!」と思い立ち、すぐにフェリーを予約。バッグや寝袋など必要なものを調べながらそろえていき、予算やプランなども一人で決めました。当時はスマホもなかったので、分厚い道路地図帳を持って旅に出ましたね。
16歳と言えば、多感で元気な、冒険したい年代でもあります。初めてエンジン付きの移動手段を手に入れ、「どこまで行けるか」とワクワクしながらの出発です。夏と言っても夜はかなり冷え込みましたが、幸いトラブルはなく、壮大な自然をしっかり満喫して帰りました。走行距離は約2,000km。大変でしたが、知床半島の雄大な景色は今でも目に焼き付いています。
―研究内容について教えてください。
食品製造の過程でできる「おから」を利用して、発泡スチロール状の新素材を生成する研究に取り組みました。廃棄物の再活用で環境負荷を低減させることを目的としたテーマで、材料科学や環境技術のおもしろさを実感した原点となりました。
技術で変わる「未来」を思う面白さ
―その後の進路について教えてください。
高専卒業後は豊橋技術科学大学に進学しました。高専の研究のなかで、社会の課題解決やその手段について考えるプロセス自体が非常に楽しく、もうちょっとその経験をしたいと思ったのが進学の理由です。「これが実現できる社会ってすごくない?」と、アイデアと技術で変わった未来を想像するのがすごく好きだったんです。
大学ではプラズマ工学について研究しました。電気工学の領域に挑戦したかったこと、プラズマ研究の第一人者である水野彰先生がいらっしゃったこと、そして、研究室で扱っていたテーマが魅力的だったことが選択の理由です。
プラズマの面白さは、反応性に富んだ状態であり、いろんな化学反応が起こる点だと思います。また、私たちの生活に身近な存在でもあり、私自身もプラズマを用いた空気浄化技術を大手メーカーと共同研究したり、プラズマの力を活用した除菌技術の研究をしたりと、実社会に直結する研究ができることも魅力でした。
研究室では、一人ひとりの発想や探求が研究の方向性に反映される自由さがあり、創意工夫をする力が鍛えられたと感じています。研究の一環で、当時15万円ほどする高価なスチームオーブンレンジを丸ごと分解して研究装置としてつくり替えた経験もあります。おかげで、常識にとらわれない考え方と、「必要なら自分でつくる」精神が身に付いたと感じています。
―現在の職に至った経緯を教えてください。
キャリアの原点は、リーマンショック後の就職氷河期に、第一志望であったNTTドコモへ自由応募で内定した経験にあります。大学院時代に徹底して自己分析と面接対策を行った結果、「野呂の面接100問答」と呼ばれるほど大量の思考記録を積み重ねたことが、大きな自信と成長につながりました。
NTTドコモを志望した理由は、携帯電話などの通信技術に未来を感じたからです。人間が肌身離さず持つ携帯電話が進化すれば、私たちの生活に大きなインパクトを与えられるのではと考えていました。
ここで学んだことを1つ挙げるとしたら「社内折衝力」です。300人規模の一大プロジェクトだった「dポイント」の立ち上げ事務局のメンバーだったので、社内のさまざまな立場の方々と話すなかで、物事を俯瞰的に考える習慣が身に付きました。

また、在籍中の後半には損保ジャパンに出向し、保険金請求のLINE化プロジェクトなど、まだ世の中でDXが推進される以前から、企業活動のデジタル化を実現する大規模プロジェクトのリーダーを務めました。保険金請求が最短30分で完了する仕組みを構築したり、事故査定のAI化を可能にしたり、社会的インパクトの大きい取り組みを経験しました。
そのプロジェクトを通じて、DX支援をより専門的に担う組織の必要性を強く感じるようになりました。そうしたタイミングで、広告代理店のオプトよりDX支援に特化した新会社設立の構想について声をかけてもらい、「オプトデジタル」の立ち上げに参画しました。クライアント企業に対するDX支援を事業として確立するとともに、それを担う組織体制を構築していくため、同社の設立と同時に代表取締役CEOに就任しました。
その後、広告領域で多くのデジタルサービスを立ち上げた経験から、広告が「伝えたいことを届ける手法」であるのに対し、PRは「文脈や共感を通じて社会の認識を動かす力を持つ」ことに魅力を感じるようになりました。「次はPR業界そのものを革新することに自分の力を生かしたい」と考えるようになり、国内およびアジアでNo.1のPR会社であるベクトルグループへジョイン。現在はグループCTOとしてAI戦略を担い、あわせてベクトルのグループ会社であるオフショアカンパニーの代表取締役としてAI事業全般を推進しています。
高専生はもっといろんなステージで活躍できる
―オフショアカンパニーでは、どのような事業を展開されているのでしょうか。
私たちは、AIの可能性を誰もが実感できる形で社会に届けたいと考えています。AI を活用したSaaSや企業向けシステムの開発、ショート動画PR支援などの事業を通して、日常の課題解決や業務変革に結びつけています。代表的なサービスとしては、日本初のAIタレント動画生成サービス「AvaMo」や、ベクトルグループのPR・マーケティング領域とのシナジーを活かしたショート動画生成AI技術、AI切り抜き、AI縦型変換などの動画AIソリューションを展開しています。
自社内にエンジニア集団を持っているので、アイデアがあればいつでも開発に動けるのが最大の強みです。過去の経験から開発の予算や規模、かかる日数などもだいたい予測できるので、その機動力が成長につながっています。

―働きがいを感じるのはどんな時ですか。
今は変化が激しい時代ですが、見方を変えれば、どこにでもイノベーションのチャンスが眠っています。一見すると分からないエアポケットのようなものを見つけ、考えながらその勝機を見出す作業がすごく楽しいんです。そのために、常にアンテナは張り巡らせています。日常でも、さまざまなサービスの裏側にあるシステムの仕組みを想像しながら過ごしています。
―高専に進学して良かったと思うことは何ですか。
自主性を重んじる高専では、物事を自分が責任を持って判断し、自分事として捉えて過ごすことが求められます。留年するかどうか、そして5年間をどのように過ごすかも、基本的には自分次第です。その環境に身を置くことで、自分で考え、選択し、結果を受け止める力が自然と養われ、社会に出る前からそれが習慣として身についていきます。早い段階で大人に近い意識を持って日々を過ごすことが、自身の成長につながっていると感じています。
また、高専では2、3年次に受験がないため、受験勉強に追われることなく、貴重な10代の多感な時代を自分のやりたいことに注ぐことができます。体力もあり、頭の回転も早いこの大切な時期に、5年間を高専で過ごすことには、大きな意義があると思います。
―最後に、高専生や高専を目指す方にメッセージをお願いします。
高専出身者はメーカーなど製造業の道へ進む方が多いと思いますが、社会に出ると、さまざまな職種があります。高専で培った基礎的な技術力や論理的思考力があれば、ビジネスサイドの経営企画や新規事業、マーケティングといった分野でも十分に活躍の余地があります。キャリアを早い段階で一つに固定せず、状況や関心に応じて柔軟に選択していくことが重要だと思います。どの職種であっても、仕事の進め方やビジネスの根幹は共通しています。高専で「自分で考え、やりたいことを形にする」経験を積んでいれば、その基盤はどの分野でも通用します。
また、「喋れる理系」のような技術的な素養に加えて、折衝力やコミュニケーション力を併せ持つ理系人材は、非常に希少価値が高い存在です。理系職であっても、実務では関係者との調整や説明、提案の場面が数多くあり、論理を言葉で伝えられる力は大きな強みになります。
時代の変化が激しい今、重要なのは「何ができるか」だけでなく、状況に応じてどのように動けるかです。フットワークの軽さ、立ち上がりの早さ、論理的に物事を整理する力は、高専で身につけやすい資質でもあると思います。ぜひ、自身の強みを需要と供給の視点で捉え直し、自己の価値を再評価しながら、自分の進む道を選んでいってほしいと思います。どの業界でも輝けると信じて、自分の道を進んでください。
野呂 健太氏
Kenta Noro
- 株式会社ベクトル 執行役員兼グループCTO
株式会社オフショアカンパニー 代表取締役

2007年3月 国立鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒業
2009年3月 国立豊橋技術科学大学 工学部課程 卒業
2011年3月 国立豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 エコロジー工学専攻 博士前期課程 修了
2011年4月 株式会社NTTドコモ 入社
2017年7月 株式会社SOMPOホールディングス(デジタル戦略部門) 出向
2020年4月 株式会社オプトデジタル 代表取締役CEO
2024年2月 株式会社ベクトル 執行役員兼グループCTO(現職)、株式会社オフショアカンパニー 代表取締役(現職)
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