
大学時代に「ロボット」に魅了され、今なお学生とともに研究を続けている神戸市立工業高等専門学校機械工学科の清水俊彦先生。人間のメカニズムを解明しながら、ロボットと向き合う清水先生の研究分野や教育にかける思いについて迫ります。
石黒ゼミが教えてくれたロボットの魅力
―先生がロボット研究に足を踏み入れたきっかけを教えてください。

幼い頃からものづくりが好きで、大阪大学の工学部に進学しました。所属ゼミは、マツコ・デラックスのアンドロイド「マツコロイド」を開発・監修し、ロボット工学の権威として知られる石黒浩教授の研究室。ここに入れば、ロボットをつくれると聞いて飛びつきました。
入るとすぐ、「3日後までにこのロボットを作れ!」と課題を出されました。研究室に泊まり込んで徹夜で作業したあの時間はすごく楽しかったですね。完成後に食べに行った、すき焼きの卵で食あたりをしてしまったのも、今となってはいい思い出です(笑)。石黒先生は、学生の創作意欲を尊重して自由につくらせてくれて、研究が学術的にどう楽しいのかを僕たちに考えさせてくれる先生でした。
―具体的にはどのような研究をされていたのでしょう?

(※まもなく記事掲載予定)が先輩だった
大学時代は「ヒューマノイド(人型ロボット)」を使い、どう動かしたら人間社会のなかでロボットが生きていけるかの研究をしていました。特に注力していたのは、ロボットを動かす「運動学習」の分野です。
同じ石黒ゼミには、高専出身の友人や先輩たちが多くいました。頭の回転がとても早くて、物理も数学もプログラミングもできる。ものづくりの才能に長けている人ばかりでした。当時の自分は、まだ電気回路のことさえ知らなくて、「高専生ってすげぇな」と驚かされましたね。
ともに考え、ともに作りだす
―研究の道一本ではなく、高専の先生を目指された背景について教えてください。

石黒ゼミで後輩の指導をする立場になる頃には、高専のおもしろさに気づきはじめていました。当然ロボットづくりにも携わりたいと思っていたので、「神戸 高専」で探したところ、この学校がヒットしたんです。「高専ロボコンをサポートしてくれるロボットの先生を募集」と書いてあって、僕にとっては、渡りに船の状況でした。

2014年に神戸高専へ入職してからは、ロボットハンドの「把持(はじ)」の研究を続けています。従来、金属製のハンドで研究され尽くされてきたこの分野に、ゴムや樹脂など人間の皮膚に近いやわらかい物質を用いたハンドを使ってみたらどうなるかという新たな試みです。2019年にはドラえもんの手を参考に『何でも掴めるロボットハンド』を開発しました。現在は把持力をそのままに、「触覚」の機能を追加したロボットハンドの実現を目指しています。
―学生を指導するうえで大切にしていることはありますか?

彼らが、自分たちで考える環境をつくるよう意識しています。学生を見ていると、やっぱり自分が興味のある課題に対して楽しく打ち込んでいるときが、一番成長しているんです。
数年前に、「大阪で開催される自律移動ロボットのコンテスト『中之島ロボットチャレンジ』に参加したい」と提案してきた学生がいました。わずか3週間足らずで初号機のロボットを完成させ、一つ目のハードルを成功すると、「次はこの技術を試したい」と提案してくる。これを繰り返すうちに、技術や研究者としての素地が彼自身のものになっていくのを感じましたね。
高専の環境をバネに、未来を後押し
―清水先生が考える、高専の魅力とは?

学生と近い距離感で研究できることに魅力を感じています。コロナ禍で研究室に学生が来なかった昨年は、客の来ないサーカスのピエロになったような気分で(笑)、すごく寂しい思いをしました。
もうひとつの魅力は、先輩に頼れる環境があることです。僕自身が学生の頃もそうだったのですが、たった数年しか変わらない先輩ができていることならば、自分もできそうな気がするものです。高専ロボコンは、まさにその環境。神戸高専では仕様書や大会に出たロボットを毎年丁寧に残し、代々の技術を先輩が後輩に伝承することが慣例になってきています。僕自身も彼らに学ぶことが多い毎日ですね。
―最後に、先生が携わっていらっしゃる「成長産業技術者育成プログラム」について教えてください。

2017年度から、神戸高専における新たな教育プログラム「成長産業技術者育成プログラム」を開設しています。これは次世代の基幹産業として今後の成長が見込まれる「航空宇宙」「医療福祉」「ロボット分野」の担い手育成を目的に、神戸市が取り組んでいます。

僕は、ロボット分野の担当教員となり、ロボット工学をもっと専門的に学びたいという学生に追加授業をしています。地元企業とも連携した実践的な学習で、未来の研究者やエンジニアたちを育成しているところです。すでに第一期生の学生は、ロボットシステムインテグレーター(SI)として就職を果たしました。これからもロボットの研究に励む学生たちをサポートしていきたいと思っています。

清水 俊彦氏
Toshihiko Shimizu
- 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 准教授

2007年 大阪大学 工学部 応用理工学科 卒業
2009年 大阪大学大学院 工学研究科 知能・機能創成工学専攻 修了
2013年 大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成工学専攻 修了
2014年 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 助教。2017年4月より現職
神戸市立工業高等専門学校の記事



アクセス数ランキング
- 「失敗から学ぶ姿勢」が未来を切り拓く! 環境資源の再利用を目指して、学生と共に研究を進める
- 都城工業高等専門学校 物質工学科 准教授
藤森 崇夫 氏
- クリエイターの創作活動を技術で支える! ピクシブCTOが考えるよいエンジニアの在り方
- ピクシブ株式会社 CTO
道井 俊介 氏
- 思い通りに進まなかった時系列予測モデルを用いた研究。大切なのは「手札」を増やすこと!
- 立命館大学大学院 理工学研究科 電子システム専攻 博士前期課程 2年
小川 将広 氏
- 高専から日銀へ、異色のキャリアの軌跡。数字だけでは見えない、経済の本質をたどる
- 日本銀行 調査統計局 物価統計課 企画役補佐
大橋 一平 氏
- 離島航路の未来を考える! 大島商船高専の教員や公務員での経験を生かし、現場に寄り添う研究者に
- 九州産業大学 地域共創学部 地域づくり学科 准教授
行平 真也 氏
- 失敗は成功のレシピ! 今こそ、鋳造技術の活躍が期待される時代になる
- 室蘭工業大学 もの創造系領域 機械航空創造系学科 機械システム工学コース 教授
清水 一道 氏
- 「自分はどうありたいか」で考えれば将来は無限大。高専を卒業し、今はスポーツビジネスの現場へ
- アイリスオーヤマ株式会社 会長室
株式会社ベガルタ仙台 ファシリティマネジメント部(業務委託)
武市 賢人 氏
- 高専生には勉強の楽しさを、社会には高専のポテンシャルを伝えたい! 「高専テクノゼミ」を通じた社会への挑戦
- OLIENT TECH株式会社 高専テクノゼミ 代表
東京大学 工学部 都市工学科 3年
藤本 鼓太郎 氏
- 高専は「知のワンダーランド」だ! 官僚としての経験を生かした高専教育と、福島への地域貢献
- 福島工業高等専門学校 校長
田口 重憲 氏