
神戸高専の研究成果や人的資源を活用して設立されたベンチャー企業を「神戸高専発ベンチャー」として認定・支援する制度が2023年にスタートしました。その第1号である「Universal Hands株式会社」の代表・藤本敏彰さんにお話を伺いました。
ロボコンに魅せられて高専へ
―2023年に設立したUniversal Hands株式会社について教えてください。
主に万能ロボットハンド技術(万能真空吸着グリッパ)の開発や実証に取り組んでいます。2023年12月には国土交通省「中小企業イノベーション創出推進事業」による補助対象事業「国際競争力強化に資する交通基盤づくりに向けた技術の開発・実証」分野の公募で採択され、遠隔操作型無人潜水機の開発を手掛けました。
港湾の岸壁の鋼管は海水で錆が生じてしまい、放置すると崩落につながります。現在は資格を持つ潜水士が検査をしているのですが、これでは効率が悪いのです。そこで、水中だけでなく壁面を移動できるロボットをつくれば、効率的で的確な検査が可能になるのではと考えました。
現在も新たなグリッパや移動機構を開発し、特許を出願して実用化を目指しています。
―昔からロボットの開発に興味があったのでしょうか。
実家が釣り針を生産していて、家のすぐ隣に工場がありました。小さい頃からよく出入りしていたので、歯車やモーターが動く光景とともに育ったようなもの。必然的に「ものづくり」に興味がわくようになり、幼少期から工場で出た端材を使って何かしらつくっていた記憶があります。
中学でも得意な科目は技術。先生や同級生から「すごい!」と褒められることが何よりもうれしかったのをよく覚えています。今思うと「つくる」という行為が好きというよりは、つくったものを手にした相手の反応を見るのが好きだったのでしょう。将来は大工や職人になりたいと漠然と考えていました。
こんな子どもでしたから、高専に行くと決めたときには、両親は「やっぱりな」と思ったようです。
―高専に行こうと思ったきっかけを教えてください。
中2の頃、テレビで『NHKロボコン』を目にしたことです。それまでも見たことはあったのですが、ちょうど進路を考えていた時期でもあったので、「進学するなら高専だ」と直感しました。学校で堂々とロボットがつくれるなんて最高じゃないか、と思いましたね。
私が住んでいた兵庫県加東市は神戸高専からは遠く、母校から高専に進む人は5年に1人いるかいないか。仲が良い同級生はみんな普通高校を選んだので、いわば私だけ別の道を歩む形です。でも、そのことに対する不安はまったくありませんでした。とにかく早くロボコンに参加してみたくてワクワクしていたのです。
“レスコン部”との出会いが人生を動かした
―高専に入学して、いかがでしたか。
結果的に、私は「ロボコン部」ではなく、救命救助活動をテーマとした「レスキューロボットコンテスト」のために活動する、通称「レスコン部」に入部しました。入学早々に勧誘していただいた先輩が非常に職人気質で、「この先輩と一緒にロボットをつくりたい」と思ったからです。
思い通りにいかないこともありましたが、改善を重ねて仕上がっていく様子は何よりの喜びでしたし、同じくものづくりが好きな学生同士で議論ができるのも本当に有意義な時間でした。だから、辛い思い出や大変だったことを聞かれても、楽しかった記憶しか出てこないんです(笑) レスコンには1年から4年まで出場し、4年次には最も優れたロボットに与えられる「ベストロボット賞」も受賞しました。

―「ベストロボット賞」を受賞したのはどんなロボットですか。
ベルトコンベアを薄くしたようなものを、倒れている人と床の間に差し込み、そのままコンベアに人を乗せて運ぶロボットです。薄いので人に負荷をかけずに救助が可能な点が特徴です。2年の頃に出場した大会で、運営の方が「災害時は瓦礫をとりのぞきながら人を運ぶのが難しい」とおっしゃっていた言葉がきっかけで、このアイデアをひらめきました。コンベアのようなものなら、瓦礫ごと人を運べて時間短縮になるのではと思ったのです。
そこから試作を重ねて、ようやく形になった大会で賞をいただいたことは大きな自信にもつながりました。レスコン部に入るきっかけになった先輩からも「よく思いついたな」と驚かれて、小さくガッツポーズしましたね。
―高専卒業後は専攻科、大学院へと進学されています。研究を続けたい気持ちが強かったのでしょうか。
そうですね。高専で過ごした5年間の中で「自分はロボットをつくることが本当に大好きなんだ」と実感しました。さらに、専攻科に進学した年に恩師である清水俊彦先生が赴任されたことが私にとって好機となりました。清水先生はロボットにまつわるさまざまな研究分野に造詣が深く、先生に指導していただいたおかげで今の私があると思っています。
専攻科修了後もまだまだ研究を続けたいと思い、東北大学大学院に進みました。院で所属したのは新しい機械や機構を考案し、開発する研究室です。私は、まだ誰も知らない新しいものを開発することが好きだったので、やりがいに満ちていました。

―その後は一般企業に就職されています。決め手は何でしたか。
博士課程まで進むつもりでいたのですが、先生の方針と自分の考え方が合わないと感じることが増え、就職の道を選びました。実は、院進学してからもたびたび高専には足を運んでいたので、就職先の相談も高専の先生方にのっていただいたのです。そのくらい、自分の中には高専が根付いていたのだと思います。
そして、紹介を受け、工作機械の専門商社「宮脇機械プラント」に就職しました。自分が関わったロボットが実際に現場で活躍している様子を見るのはこの上ない喜びでした。今までたくさんロボットをつくってきましたが、実のところ、つくったものを実装する経験はあまりなかったのです。「こんなふうに実生活で役立っているんだ」と、やりがいを感じる日々でした。

就職して2年経った頃でしょうか。清水先生から「研究室を手伝わないか」と声をかけていただきました。仕事が楽しくなっていた時期だったのでとても悩みましたが、最終的には神戸高専にもどり、非常勤講師として働くことを決断。就職してからも相変わらず研究室に足を運んでいて、自分がいた頃よりも研究室の設備が充実しているのを知っていたんですよね。「今の環境で研究を続けるのも楽しそうだ」と思ったのも理由のひとつです。

その後、ありがたいことに清水先生からベンチャー認定制度の声をかけていただき、現在に至ります。
ロボットは発展途上だからこそ楽しい
―これからつくってみたいロボットはありますか。
私は、誰かのニーズありきでロボットをつくっているので「自分の好奇心を満たすためにこんなロボットをつくりたい」という思いは、今のところありません。自分のロボットによって困っている人の悩みを解決することが、研究・開発をする上で最大のモチベーションです。
―先生をそこまで虜にするロボットの魅力とは何でしょうか。
発展途上なところでしょうか。ロボットは「これがベストな形です」というものがなく、研究次第でどこまででも改良できます。なんて開拓のしがいがある分野なのだろうと思います。

―高専生へメッセージをお願いします。
私は、高専に行っていなければ今の人生は歩んでいなかったと思います。やはり、考えたものをすぐに形にできる能力や行動力は、高専で培ったものであり、こうしたスキルは自分の財産です。高専のように自分の好きなものづくりができる環境は限られているので、ぜひ現役の高専生には今いる環境を全力で活用してほしいと思います。
また、もしもロボットの世界に進みたいと考えている学生がいたら、あらゆる分野の勉強をおろそかにしないよう心がけましょう。理数系だけを学んでいれば良いというわけでは決してないので、幅広く何にでも挑戦してください。
藤本 敏彰氏
Toshiaki Fujimoto
- Universal Hands株式会社 代表取締役

2014年3月 神戸市立工業高等専門学校 機械工学科 卒業
2017年3月 神戸市立工業高等専門学校 専攻科 機械システム工学専攻 修了
2019年3月 東北大学大学院 応用情報科学専攻 博士前期課程 修了
2019年4月 宮脇機械プラント株式会社
2022年2月 神戸市立工業高等専門学校 非常勤講師、研究補助業務開始(個人事業)
2023年9月 Universal Hands株式会社 設立、以降現職
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