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「研究が楽しい」「みんなで一緒にスタートが切れる」——高専生が進学先に奈良先端科学技術大学院大学を選んだ理由をご紹介

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学部を置かない国立の「大学院大学」として、最先端の科学技術研究を推進している奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)。今回は同大学院に在学している高専出身の3名に取材させていただき、その魅力に迫りました。記事の最後にはこの3名に直接お話を聞ける「高専生のためのONLINE座談会」(2024年7月8日開催予定 ※終了しました)の詳細もありますので、併せてチェックしてみてください!

さまざまなバックグラウンドから高専に進学

―皆様が高専に入学したきっかけを教えてください。

浦上さん:ちょうど僕が高校生に入学するときに、周りがスマホを持ち始めたんです。調べていくと、スマホは電波を使って情報を得ているということが分かりました。香川県には旧詫間電波高専があったので、そこなら電波について勉強できると思い、香川高専に入学しました。

浦上さん
▲浦上さん

星川さん:2つ上の兄が鶴岡高専に通っていたので、それで興味を持ちました。就職がとても強いと聞きましたね。僕自身、小学校のときから理科や数学が好きで、文系科目が苦手だったので、筆記試験に社会科目がないことを知り、即決したというのが本音です(笑)

星川さん
▲星川さん

山川さん:小6の時、たまたまドライブしたときに沖縄高専の前を通ったんですよ。建物のカッコよさに惹かれましたね(笑) その後、高専の話を聞いて興味を持ち、生物学をやってみたいと思ったので、沖縄高専に入学しました。

山川さん
▲山川さん

―高専時代の印象深い思い出を教えてください。

浦上さん:僕は学生会に所属していて、書記を経験し、学校のイベント補佐や書類作成などを行っていました。総合文化祭で四国の高専が集まった時に、ホテルでワイワイ盛り上がったのが思い出に残っています。

星川さん:僕は小学4年生からずっとバレーボールをしていて、高専でも5年間続けました。ポジションはリベロでしたので、高専大会ではスパイクの先読みをして、ボールが落ちるところで僕がレシーブを構えていましたね。相手チームからみて「なんでそこにいるんだ!?」という感じを出せたのが快感でした。

山川さん:お二人ともキラキラしていて羨ましい(笑) 僕は寮生活での助け合いが印象に残っています。特にテストの時は助けられましたね。寮では友達とよくゲームをやっていて、ニンテンドーDSなどの懐かしいゲームをして盛り上がりました。

浦上さん:でも、共学が羨ましくなる瞬間もありましたね。電車に乗っている時、共学の人たちがすごくキラキラして見えました(笑)

一同:ああー! 分かるー!

星川さん:「俺らの青春どこ行った……」ってなる瞬間はありましたね(笑)

浦上さん、星川さん、山川さんの座談会の様子。
 

―高専時代の研究について教えてください。

星川さん:「全固体電池に使われる材料の開発」というテーマで研究を行いました。研究室の装置が古くて、壊れても業者が呼べない状況だったんですが、おかげで装置の原理も深く学べたので、苦労はしましたがプラスでもありました。

山川さん:僕は沖縄の植物について研究していて、細胞に与える影響を研究しましたね。特に酸化ストレスに対する影響を大まかに見ていました。僕の研究室には、自分に近い研究をやっている先輩がいなくて、イチから自分でなんとか頑張りました。

浦上さん:高専ではマイクロ波に関する研究をしていました。ケーブルとアンテナがあったときに、インピーダンスを合わせるために、マッチング回路を挿入するんですよ。そのマッチング回路に関する研究をやっていました。特性とシミュレーションを一致させるところに苦労しましたね。

―その後、皆様は進学先に専攻科を選ばれているんですね!

山川さん:高専の研究が1年ちょっとしかできなかったので、もう少し続けたくて。そのまま2年間同じ研究をやりたかったので、専攻科に進学しました。

浦上さん:僕はもともと大学編入を目指していたんですけど、自分がやりたい電波の研究室が大学にあまりなかったんです。香川高専の場合、旧電波高専だけあって測定機器などがかなり充実していたので、大学に編入せずに高専で学び続ける方を選びました。

星川さん:高専に入ったときからずっと専攻科までは行くつもりでした。専攻科なら入学までの手続きが簡単ですし、大学入学前の課題もなかったので。メリットは大きかったですね。

―専攻科での研究を教えてください。

星川さん:高専での研究を引き続き行っていました。固形電池に使える新材料を見つけたんですけど、データが足りなかったので、ジャーナル投稿はせずに後輩に引き継ぎました。あと実は、卒論完成間近のタイミングで計算間違いに気づくというアクシデントがあったんです。実用化レベルの値が出ていたんですが、ちゃんと計算してみたら全然そんなことなくて(笑) そこが苦労しましたね。

山川さん:僕も高専の研究の続きをしたのですが、自分の中で使える技術を増やすことができました。高専では「この植物はこういう効果がある」という結果だったんですけど、専攻科では「この植物の、この分子がここに効いている」というところまで発展させることができましたね。

浦上さん:僕は本科5年の時の指導教員の先生が異動になったため、専攻科1年から研究テーマが変わって、本来電波が届かないところに電波を届けるために反射板に関する研究をしていました。

具体的には、5Gの電波の直進性による通信品質の劣化を改善するために、ビルの屋上に設置した反射板の反射面上の位相を調整することで、反射方向の制御を実現しました。少しでも反射面で電波の位相がズレると、思ったような結果が得られないので、反射板とアンテナを水平にするのが大変でしたね。

「大学院大学」だからこその魅力

―進学先に奈良先端科学技術大学院大学を選ばれた決め手を教えてください。

山川さん:僕の先輩が奈良先端大に入って、すごく研究熱心になったんですよ。「とても楽しくやっている」という話を聞いて、進学先に選びましたね。僕は今、修士2年生なのですが、研究がおもしろいので、ドクターまで進む予定です。

研究室での山川さん。研究机の前に座ってこちらを向いている。
▲研究室での山川さん

星川さん:僕の高専時代の教授が奈良先端大のご出身で、「寮に住めるし、経済的にも優しい」という話は聞いていました。なおかつ、今所属している研究室は高専で学んだ知識を生かせるような研究テーマがたくさんあったので、それも決め手になりましたね。

浦上さん:僕は大学説明会で奈良先端大の説明を聞いて「大学院だけの大学があるんだ」と知りました。ほかの大学は学部生がそのままエスカレーター式で上がってきて、人間関係が出来上がっている状態の中に入っていかなければならないので、「みんな一緒にスタートが切れる」というところが魅力で選びましたね。

星川さん:奈良先端大はそこが本当にいいですよね。不安がないというか。

山川さん:みんな同じ状況なので、人間関係が構築しやすいですもんね。

―現在はどのような研究を行っているのですか。

浦上さん:今はいくつか研究をしているのですが、メインは深層学習AIを使ったビームフォーミング(※)の最適化に取り組んでいます。私たちのユーザー端末のデータレートが最大になるようシャノンの公式で求めていくのですが、それをAIで解きつつ、別件で、反射板の研究も高専の先生とコンタクトを取りながら同時並行で進めています。高専を卒業してから3年経つんですが、未だに面倒を見ていただいていて、本当にありがたいですね。

※電波や音波、超音波などを特定の方向に向けて送信、または特定の方向から受信する技術のこと。5G通信や無線LAN、音声アシスタントなど、幅広い分野で活用が進んでいる。

研究中の浦上さん。難しい数式が書かれたホワイトボードと一緒に。
▲研究中の浦上さん

星川さん:僕は3次元集積化というテーマで、3次元集積に使われる半導体材料の開発をしています。XY軸をどんどん小さくして、原子の大きさレベルに小さくしたものを、今度は縦方向に積んでしまおうというのが、僕の研究テーマの概要です。

大規模集積回路(LSI)やメモリデバイスといった、現在のデジタル機器では欠かせない半導体素子は、3次元に材料を集積することで、性能をどんどん高めることができます。縦に積むのが一番ネックで、今はまだ知見がなくていろいろと不明瞭なので、そこを明らかにしていきたいですね。

研究中の星川さん。白衣を着て大きなマシンに向かって研究中。
▲研究中の星川さん

山川さん:今は、細胞膜の形状を変化させるタンパク質の研究をしています。細胞が小さい泡「細胞外小胞」を形成して、それを他の細胞に渡すことで、細胞間のコミュニケーションを図っているんですけど、その形成方法や内容物の研究です。結構データにばらつきが多いので、綺麗なデータをつくるところに苦労していますね。

この細胞外小胞はがんと関係があることが知られていまして、僕の研究によって、その関係性を明らかにしたいと考えています。

研究中の山川さん。ナノ粒子解析システム(nanosight)を使って細胞外小胞の粒子径と分布を測定している様子。
▲研究中の山川さん。ナノ粒子解析システム(nanosight)を使って細胞外小胞の粒子径と分布を測定している様子

奈良先端科学技術大学院大学の魅力を教えてください。

浦上さん:1人1つずつパソコンが与えられていて、研究がとてもしやすい環境ですので、家でするより作業がはかどります。また、研究室のメンバーでバーベキューをすることもありますし、歓迎会もよくやっています。

山川さん:あと、中央広場の池の周りには桜が咲いているので、そこに集まって飲み会もしますね。

星川さん:奈良先端大は留学生が多くて、僕の研究室も半分以上が留学生なんですよ。普段、日本以外の文化に触れることは少ないですが、日本に居ながら国際交流ができますね。しかも、その国の中でトップレベルの人たちが来ているので、話していてすごく勉強になります。

山川さん:僕の研究室は、自分の研究分野外から来ている人が多いので、分からないことがあってもすくに詳しい人に聞けるし、学びやすいです。

星川さん:研究室にもよりますが、高専出身者も多いんですよ。僕の研究室は毎年1~2人は高専出身者が入ってきていますね(※)。

「データで見るNAIST ~Overview & Features~(令和6年5月1日版)」によると、令和6年度(2024年度)の博士前期(修士)課程の入学者の内、高専等を卒業した人の割合は14.4%となっている。ちなみに、大学卒は76.1%、社会人は5.2%、留学生は4.3%。また、博士後期(博士)課程の令和6年度入学者だと、留学生の割合は30.3%に大きく上がる。

浦上さんの研究スペース。パソコンやモニターなどの設備環境が整っている。
▲浦上さんの研究スペース

―皆様の今後の目標を教えてください。

浦上さん:大学院を修了してからは教員を目指しています。できれば高専に関わりたくて、自分の経験や得た知識を今後の学生に繋いでいきたいですね。今は研究成果を出すために、日々努力しています。

星川さん:僕は企業に就職して、国際的に活躍できる人になりたいですね。僕の分野は韓国や欧米諸国がトップを走っているので、肩を並べられるぐらいレベルの高い研究者になりたいです。今は研究成果を出すことと、言語力を伸ばすことを必死に頑張っています。

山川さん:まず自分の今持っているテーマをひと区切りさせて、将来は企業に就職したいです。細胞外小胞で何かしら技術を残せたらいいなとは思っています。そのために今は毎日空き時間に論文をコツコツ読んでいます。

―浦上さん、代表として現役の高専生にメッセージをお願いします。

浦上さん:大学院進学を検討している高専生は、今のうちにたくさん学会に参加して、研究成果をあげておくと良いと思います。高専生は本科5年から研究活動をスタートできるので、4年制大学の人と比べると圧倒的に研究成果を上げやすいです。

高専時代の研究成果は、大学院試験で有利になるのはもちろん、入学後の研究もスムーズに進めることができますし、奨学金の獲得やその後の就職活動にも役立ちます。試験や授業の課題などで忙しいとは思いますが、これは本当に高専生の特権ですので、ぜひ皆さんには、研究活動できるこの3年間を有意義に過ごして欲しいです。

また、奈良先端大は「みんなでスタートが切れる」ところがすごくいい環境だと思います。ほかの大学の場合だと、知らない環境にポンと放り込まれる感じがすると思うので、専攻科を卒業して大学院を選ぶ際に、奈良先端大を選択肢の一つに入れていただければうれしいです。

浦上さん、山川さん、星川さんの座談会の様子。
▲浦上さん(左)、山川さん(中央)、星川さん、貴重なお話をありがとうございました!

○イベント情報 ※終了しました
奈良先端科学技術大学院大学が7月8日(月)に「高専生のためのONLINE座談会」を開催します。記事に登場した3名から直接お話を聞ける機会ですので、ぜひお気軽にご参加ください!
【高専生のためのONLINE座談会】※事前予約不要
日時:2024年7月8日(月)13:30~
場所:Webexによるオンライン開催
費用:無料
学生発表者:情報科学領域/浦上大世 D2(香川高専)、バイオサイエンス領域/山川怜太 M2(沖縄高専)、物質創成科学領域/星川輝 D1(鶴岡高専) ほか
詳細はこちら

浦上 大世
Taisei Urakami

  • 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域 博士後期課程2年

浦上 大世氏の写真

2020年 香川高等専門学校 通信ネットワーク工学科 卒業
2022年 香川高等専門学校 専攻科 電子情報通信工学専攻 修了
2023年 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域 博士前期課程 修了

星川 輝
Hikaru Hoshikawa

  • 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成領域 博士後期課程1年

星川 輝氏の写真

2020年 鶴岡工業高等専門学校 創造工学科 電気電子コース 卒業
2022年 鶴岡工業高等専門学校 専攻科 生産システム工学専攻 電気電子・情報コース 修了
2024年 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成領域 博士前期課程 修了

山川 怜太
Renta Yamakawa

  • 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 博士前期課程2年

山川 怜太氏の写真

2020年 沖縄工業高等専門学校 生物資源工学科 卒業
2022年 沖縄工業高等専門学校 専攻科 生物資源工学コース 卒業

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